YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー 作:豚煮真珠
新たな光の戦士の登場に、彼女と坎原さん、陽さんと美月さんが目を見張っていた。
皆と同じく僕も目を見張らせている。光の戦士を目の当たりにするのは、この震堂という人で七人目だ。
「キューシルバ、エルメス?」
戦士の名前について美月さんが尋ねた。
確かに聞き慣れない。彼女は「トゥインクル」と「スター」、坎原さんは「リングレット」と「アーク」と、戦士の名前は単語と単語をつなぎ合わせているが、キューシルバなんて単語は聞いたことがない。
七人目にして聞き慣れない単語の戦士、震堂という人が笑って答える。
「そうなんよ、水星モデルのキューシルバエルメスって言うだがね。どーだけ? お高そうな名前やろー?」
「確かに私たち中学生には手が出なさそうな名前ね。それはともかくエルメスって言うのは神話のヘルメスで、水星と関連あるけど、キューシルバって?」
尋ねる美月さんに陽さんが横から
「えっ、エルメスって水星と関係あるの?」
「ヘルメスはローマの方じゃメルクリウスって言われてて、それを英語で読むとマーキュリーになるのよ」
「へー」
「お高い方とは関係あるのか知らないけど、そんな名前を付けるくらいだから関係あるんじゃないのかしら?」
美月さんの解説に、関心を示す陽さんの傍ら、彼女も初耳のようで驚いていた。
僕も初耳だ。水星を英語でマーキュリーと読むことは知っていたが。しかし、オタクな坎原さんは、知っていて「当然」と言いたげなドヤ顔を浮かべている。相変わらず彼女にしがみつき、腰が引けた状態だが。
震堂という人が妖精を目で指し、
「クイックシルバーの略らしいねー。呼ぶときに小さな〝ツ〟があると呼びづらいからって、このウサぴょんが」
聞き慣れない単語について自分から説明した。
妖精の呼び名は、人によってそれぞれのようである。そんなことを思った僕に、
「キミが、
震堂という人が振り向いて訊く。
「うわさ?」
「うん。ウサぴょんから聞いとるよ。ここらにゃーイレギュラーで、リープゾーンの中を動ける男の子がおるって」
「え。そんなこと、聞いてるんですか?」
「聞いとるだがね。他にも聞いとるが、ま、おもろいこともあるもんだにゃー。とりあえずよろしゅーな」
朗らかな笑顔を浮かべた震堂という人に僕は安心した。
僕は、山梨の集まりでは疎外感を感じた。それに対して震堂という人は、僕を仲間外れにせず挨拶してくれた。
いま震堂という人が「リープゾーン」と言ったが、コスモスの子は時間を止めて戦っている。「ユニヴァーデンスクロック」と言ったか、そんな名の小さな時計に似た時を止める装置をコスモスの子は所持しており、彼女を始めとする子たちはそれを作動して人知れず戦っていて、その時が止まった空間がリープゾーンと呼ばれている。
「それじゃーみんなも変身して、キラやば☆姿をウチに見せてちょー」
戦士姿の震堂という人が皆に変身を促した。
だが、フロアの外から靴音が聞こえ、これに皆が振り向く。
程なくして、頭にヘアバンドを巻き、
「〝アルベルト〟!」
女の子が駆け出し、ふよふよと浮かぶ妖精を抱き締めた。
「アルベルト、会いたかったです」
「〝グレナデン〟。迷わず来れたベエ?」
「はい。すっごく遠かったですけど、アルベルトのおかげで迷わず来れました」
妖精を
癖のある長い黒髪を垂らすヘアバンドの女の子は、前髪も目が隠れる程に垂らしていて、瞳が見えない雰囲気は少々暗い印象を受ける。
そして、僕が目を疑ったのが、女の子が背負うリュックサックから垂れる小さな「妖精」だ。妖精のぬいぐるみがキーホルダーのように
「グレナデン、みんなに自己紹介するベエ」
「はい」
女の子が妖精を抱えたまま自己紹介する。
「私、
震堂という人は年上だが、その前に高校生の戦士と会っているため、それほど驚かなかった。
だが、今度は年下。しかも小学生の登場だ。同じ
「べーちゃん、その子も?」
陽さんが妖精に訊く。小学生に抵抗を感じることは同感だが、ここに来た以上はそういうことなのだろう。
「うむだベエ。グレナデンは小学生ながらも、コスモスとしての資質は目を見張るものがあるベエ」
「うむむ」
「並のブラックホール団など軽く蹴散らすベエ。戦力になること間違いなしだベエ」
「ぐ、ぐむー。まあ、あと二ヶ月たてば中学生になるし、するとあたしと美月が初めて会ったときの紬実佳ちゃんと変わらなくなるからなぁ……」
腕を組んで納得しようとしている陽さんを
「百聞は一見に
「はい、わかりました」
変身を促すと、女の子が妖精を放した後に懐から鏡を取り出した。
「シンダーエラ! ターンイントイマジネイティブ!」
鏡が放つ光が、女の子の頭上にフラフープのような円を描く。
円には解読不能な幾何学模様が映されており、さながら魔法陣だ。この円が間もなくして幕を下ろすように白い光を放って女の子を覆い隠す。
そして、光がカーテンのように開かれ、そこから現れた女の子は、小悪魔のような黒いドレスをまとい、大きなつばの付いた三角形の帽子をかぶっていた。脚は黒とオレンジの
「あるがままの
変身した女の子の姿は、まるで魔女のようだった。
女の子は先まで前髪で隠れていた瞳を
「わぁ。かわいさ満開。ステキすぎる~」
年下の女の子が可愛らしい魔女っ
依然として彼女にしがみつく坎原さんは、
「まあ、中々なんじゃない? このグランプリンセスなあたしには敵わないけどー」
無駄に張り合っている。その一方で年上の三人は、
「ちょーウサぴょん! このきゃわたんなカッコー反則やろ! ウチにゃあできんて!」
「キューシルバはまだいけるよ。あたしらじゃ」
「あの格好、私達がやったら怪しい魔女になってしまうわね……」
しかし、女の子自身は可愛いと思っていないようで、浮かぶ妖精の手を取って反論する。
「皆さん、何を言ってるんですか。私なんかより、アルベルトの方が何千倍も可愛いです」
「いやあ、照れるベエ」
「アルベルト、ゴミが付いてますよ。ちょいちょい、ちょいちょい。……はい、キレイになりました。カワイーですー」
女の子が妖精に付くゴミを除いたあと、抱き締めて頬ずりした。
女の子は妖精の正体を知らないのだろう。そして、よくも可愛がれるものである。僕は妖精を一度も可愛いなどと思ったことがなく、照れる妖精にはイラッとしてしまう。
美月さんが女の子を見ながら妖精に問う。
「べーちゃん。グレナデンってザクロって意味だけど、それがどう冥王星と関係あるの?」
「冥府の神プルートにさらわれた女神プロセルピナは、その冥府でザクロを口にしたベエ」
「じゃあ、ウィッチは? 確かに魔女っぽい格好だけど」
「なんとなくだベエ。深く考えてはダメだベエ」
女の子の腕から離れた妖精が、コスモス六人を見渡して告げる。
「全員そろったベエ。この六人で、エクリプスと名乗る男の陣営と戦ってもらうベエ」
「えっ。忠四郎、ちょっと待ってくれよ」
僕が妖精の言に不安を覚える。
「スズキ、なんだベエ?」
「敵は八人だ。せめて同じ人数の応援を呼べないのか?」
「無茶を言うなベエ。地理的にも忙しさ的にも呼べるのはキューシルバとグレナデンが精一杯だベエ」
「でも、それで勝ち目はあるのか?」
「秘策があるから心配するなベエ。それよりもスズキ」
「なんだよ?」
「これからコスモスにしか聞かせられない作戦会議をするベエ。オマエは帰れベエ」
「えっ」
妖精が僕に退去を命令した。
僕が彼女に振り向く。だが、坎原さんが厳しい
僕に「去れ」と促した坎原さん。今は彼女にしがみついてなければ腰も引けていない。どうしてこんなときに限って格好つけてんだ、と内心で悪態をつきながら周りを見回すと、陽さんも美月さんも震堂という人も厳しい顔を浮かべている。
僕は、ここにいられない。それが分かった僕は、皆と妖精がいるこのフロアから退去した。