YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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ガルガル! ささくれ立つ心

 僕は、コスモスではない。戦う彼女たちを見守るだけの無力な一般人だ。妖精の言う事はもっともだけど、納得できるわけがなかった。

 そもそも今日ぼくは、妖精に彼女と坎原さんを送るよう言われて水族館まで来た。つまり、妖精が僕を隣町の水族館に呼んだのである。その僕を呼んでおいて、コスモスじゃないから「帰れ」なんてどういうことなのだ。

 この前、僕が一人のときに妖精が初めて姿を現した。あれで僕は妖精に認められた気がした、コスモスじゃないけれど準ずる一員として。あれは僕の独りよがりな勘違いだったのか。

 

(バスもしばらく来ない。……クソッ)

 

 とぼとぼと最寄りのバス停に着くが、バスは出発してしまったばかりで、次発のバスは約三十分後だった。

 帰るためには、バスに乗って駅に行かなければならないが、ここから駅まで歩いても三十分くらいだろう。待っていてもイライラしそうなので僕は気を紛らわせるべく歩くことにした。

 独り駅へ歩き始めた僕。しかし、イライラする。歩いていても気が紛れることなんてなく、腹立たしい気持ちばかりが込み上げる。――クソッ、妖精に追い出され、坎原さん達にも爪弾きにされて。僕は結局仲間外れだ。

 

(こっちを通った方が早いかな)

 

 歩き始めてから十五分ほど経った所で、車がすれ違うのに難しそうな一車線の狭い道に差し掛かった。

 道の両脇には昭和の頃に建てられたような古い建物が並んでいる。この道を避けることもできるが、突き進んだ方が駅へは早い。僕が狭い道を進み、それから左に曲がって路地に入ったときだった。

 

「おい、どこへ行く」

 

 後ろから剣呑(けんのん)な声が聞こえたため、僕が思わず振り向いた。

 僕が目を疑う。なぜこの男がここにいる。

 

「まさかこんな所で会うとはな」

「おまえは」

 

 息を()む僕。山梨で会った敵の一員、()(ばやし)浪速(なにわ)という男が僕を呼んでいた。

 男は眉根を()り上げている。僕に対する敵意がひしひしと伝わり、それに僕が一歩下がる。

 

「おまえだと? 言葉遣いに気を付けろよこのガキ、俺は年上だぜ?」

「…………」

「俺がなんでここにいるってツラしてんな? 唯紗奈(いさな)さんと(なえ)からハナシは聞いてんだよ。この前のコスモスの女、俺らのこと変な宗教みたいだ、ってバカにしたらしいじゃねえか」

「…………」

「優しくしてやればつけ上がりやがって。だからよ、この前のコスモス二人を探しに来たんだよ。そしたらお前と、こんな所で出くわすなんてな」

 

 目の前の枯林という男は、彼女と坎原さんを探しにここまで出向き、先に僕を見つけてしまったらしい。

 踏んだり蹴ったりだ。男は山梨では僕を無視していた。妖精が僕に見せた映像の件もあり、今もっとも会いたくない男である。

 嫌な汗を垂らして下がる僕に、男が害意を(あら)わに進みながら告げる。

 

「ちょうどいい、手間が省けたぜ。コスモス二人の居場所、お前を搾り上げて聞いてやる」

「…………」

「大体よ、気に入らねえんだよお前。ヘイズでもコスモスでもねえ無能がよ。望搗さんに意見するなんて、何の力もない金魚のフンのくせに出しゃばってんじゃねえぞ」

「……クッ」

「へッ、逃がすかよ!」

 

 捕まったら何されるか分からない。僕は逃げ出した。

 僕が路地をしゃにむに突っ走る。右に入る道があったために折れ曲がると、大きな車一台がすっぽり入る建物への入口と、その入口を仕切るアルミサッシの引き戸を見つけた。

 引き戸は開かれており、下半分が銀色で身を隠すことが可能だった。それで中を確認するが、中に人はいない。もちろん人の家なので侵入してはいけないが、四の五の言っていられる状況ではない。家の人がもし現れたら全力で謝ろう、と思いながら転がるように入り込む。

 中の隅には大きな棚と雑多な機械が置かれていた。かつては店か町工場だったのだろう。僕が急いで引き戸を閉めて身を隠す。

 

「なにっ!? いねえ、どこ行った!?」

 

 引き戸の向こうから男の怒声と走り去る足音が聞こえた。

 命が懸かったかくれんぼ。僕が引き戸を慎重に開けて辺りを見回すと、男の姿は見当たらなかった。

 僕が男の向かった方とは逆に走り始める。だが、――足を止められる。僕の目の前に一人の女が、上から急にストンと現れたのだ。

 

「浪速、ダッサ。出し抜かれてるじゃない」

 

 立ちふさがる女が僕を見ながら嘲った。

 山梨で会った枯林という男には双子の姉がおり、その姉の(よし)()という女が現れた。僕を上から見ていたのか。

 僕が身を翻そうとするが、

 

「逃さないわ」

「がはっ!」

 

 接近した女が僕の首を捕まえ、そのまま僕を押して壁に(たた)きつけた。

 のど輪の格好で捕まった僕。せき込んでいる僕に女が問う。

 

「ねえ。この前のコスモス二人の居場所はどこ? 教えなさい」

「い、言うもんか……」

「言わないって、何を誤解しているの? 君に拒否権などないの。この拳が君のおなか殴ったら、キミ、どうなるか分かってる?」

「…………」

「分かってるよね? 内臓は破裂してもう生きてられないわよ。さあ、そうなりたくなかったら言いなさい」

 

 女が闇の力を宿す左拳を握り締め、僕を脅迫した。

 言われなくても分かっている。僕は一度闇の力を持つ男に蹴られ、入院した経験がある。

 だが、僕は教えなかった。かばいたい気持ちと言うよりはやけっぱちだ。妖精や坎原さんに仲間外れにされた疎外感が僕をやけにさせている。――やるならやれ、どうせ僕はコスモスの力になれないただの一般人だ。

 

「……ふう。思ったより強情ね。まあいいわ、別に君なんかから聞かなくても探すつもりだったし」

「なら、放せよ……」

「うふふっ、何度も言わせないで、君に権利なんかないの。ちょうどいいわ、聞かせたくなったから私の本心を教えてあげる。望搗さんや浪速はコスモスと手を結びたがってるけど、私は違うの。私はコスモスなんかいらない。この国を支配するのは私達ヘイズだけでいい」

「…………」

「ブルーマリンとハウメアは、隙を見て殺してやるわ。そして、あの方に大きな願いを(かな)えてもらうの。……うふふっ、君はこの前の二人を釣る餌として使ってあげる」

 

 ぶつぶつと本音をさらけ出す女の一方で、僕が気付いた。

 いつの間にか音がしていない。時が止まっている。

 

「鈴鬼くん!」

 

 ふわりとした黄色いドレスをまとう彼女がスタッと下り立った。

 変身した彼女。相も変わらず()(れい)で愛らしく、そんな天の使いのごとき彼女に僕が目を奪われてしまう。

 彼女の登場に女が目を丸くしており、そんな女に目を鋭くする彼女の右手が白く輝いている。

 

「鈴鬼くんに何してるの! 〝トゥインクルぽんぽこパーンチ〟!」

 

 彼女が輝く拳で女を殴りつけた。

 ものすごい威力だ。女が数メートル先へ何も抵抗できずに吹っ飛び、体が壁に強く激突する。

 解放されて尻もちをついた僕に、彼女が手を差し伸べる。

 

「だいじょうぶ鈴鬼くん? さっきはごめんなさい」

 

 眉尻を下げて謝った彼女に、

 

「ぐっ、現れたわねコスモス!」

 

 立ち上がった女が襲い掛かった。

 しかし、土星のような環をたすき掛けする紫のドレスをまとった戦士が、彼女と女の間に颯爽(さっそう)と下り立つ。

 環をたすき掛けする戦士坎原さんが、右手をかざして素早く円を描き、

 

「させないよ! 〝リフレクティブサークル〟!」

 

 形成したガラスのような盾が女を弾き飛ばした。

 再び転んだ女。坎原さんが僕に振り向き、

 

「さっきはごめんね鈴鬼くん。べーちゃんにあーしろって言われててさ」

 

 謝ると、妖精が僕のそばに姿を現した。

 

「スズキ、すまなかったベエ」

「すまなかった? どういうこと?」

「この女がトゥインクルとリングレットを付け狙っていたから、狙いを()らして油断させるために、スズキを一人にしておとりとして使わせてもらったベエ」

 

 先の水族館からの退去命令は芝居だったようで、僕が息を()いた。

 だが、一言いわせてもらいたい。正直ものすごく怖かった。

 

「生きた心地しなかったんだけど」

「埋め合わせはしてやるベエ」

 

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