YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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宣戦布告 答えはベルリンと10

「芳子! このクソがあっ!」

 

 戻ってきた枯林という男が、倒れた姉の姿に怒声を上げた。

 駆ける男が敵意をむき出しにし、彼女と坎原さんに襲い掛かる。だが、今この場にいるコスモスは彼女と坎原さんだけじゃない。

 個性豊かなコスモスの戦士たち。各自特異な能力を駆使して敵と戦う。彼女なら敵の心身を焦がすまばゆいビームを放ち、坎原さんなら攻防一体のガラスのような物質を作り出す。陽さんなら驚異的なフィジカルで敵を圧倒し、美月さんなら両手に着ける銀の籠手で敵を制圧する。

 しかし、初めて見る力は速すぎて、僕は初め何が起きたのか分からなかった。新たに現れた二人の戦士、その秘めたる力を僕はこれから見る。

 

「〝マッハダイビング〟!」

「ぐほぉっ!」

 

 うめいた男。気が付くと、男が吹っ飛ばされていた。

 そして、赤い衣装をまとう戦士が男のいた場所におり、腕を斜めに交差した格好で構えている。突然のことであったために何が起きたのか分からなかったが、腕を構える戦士と仰向けに倒れた男の状況を(かんが)みると、戦士が目にも()まらぬ速さで男に突撃したのだろうか。

 赤い戦士が構えた腕を解いて真っ()ぐ立つ。無数の大きな羽根を付けた後ろ姿は、僕が水族館で見た新しい戦士だ。

 

「神速の戦士、キューシルバエルメス参上だがね」

 

 愛知からはるばる現れた震堂という人が皆に力を示した。

 

「おみゃーさんがヘイズの男かね? 女の子を付け狙うなんてあかんことするたわけは、このキューシルバエルメスがやっつけてやるけ」

「グッ、コスモスが他にもいたのか」

 

 褒めるべきではないのだが、さすがは闇の力を抱えし者と言うべきか。男が強烈な一撃を受けたにも関わらず立ち上がった。

 震堂という人を(にら)む男。だが、その男の真上に、魔女のような格好をした女の子が浮かんでいる。

 女の子は(ほうき)を構えていた。そして、

 

「皆さん離れてください! 今からこの男に攻撃します!」

 

 攻撃をコスモスの面々に合図する。

 

「凍っちゃえ! 〝ナイトブリザード〟!」

「うおおおっ!?」

 

 女の子が手にする箒を振り払うと、箒から猛烈な風雪が吹き荒れた。

 吹き付ける猛吹雪。まるでそこだけ世界が変わったように白く、これに動転する男が雪に覆われる。

 間もなくして吹雪が()み、男が(かぶ)さる雪を払って姿を現すが、

 

「うっ、動けねえ、だと……」

 

 膝から下が氷に覆われており、身動きを取れずにいる。

 

「浪速」

 

 倒れていた女が、双子の弟を助けに立ち上がる。しかし、

 

「そこまでよ」

 

 女の首元に銀の籠手が横から突き付けられる。銀色の着物をまとう戦士、変身した美月さんが女を止めた。

 炎に似た紋様が体に描かれた黒ビキニ姿の戦士、変身した陽さんも現れ、コスモス六人が双子を取り囲む。

 形勢は圧倒的に有利だ。震堂という人が双子に言い渡す。

 

「飛んで火にいる夏の虫とはこのことやねー」

()(めん)楚歌(そか)とも言うかな」

「えっ、ちょっとサンシャイン」

「なにムーンライト。ハトが豆鉄砲食ったような顔して」

「〝あたしがびりっけつなおかげで誰かがワースト2に昇格したし、人の幸せはあたしの幸せ、これぞ幸せハピネス〟って前に言って先生に怒られてたあなたが、そんな難しい言葉知っているなんて。1+2+3+4も答えられないのに」

「だー、ここでそれ言うなムーンライト。そう、あたしゃ体育以外は全てだめー、分からないところが分からない~」

「サンシャイン、ドイツの首都は?」

「えっ。えーと、あ、確かハンバーガーっぽかった名前だからハンブルグだ!」

「ぶー」

「あーはっはっは、重症やなーサンシャイン。お姉さん高校受験終わったばかりだからバッチリだにゃあ」

「なによキューシルバ、満足そうな顔して。じゃ、満足って英語で答えられる?」

「そんなん楽勝だがね。メキシコから移住してきたサティスさんが〝ハクション!〟ってクシャミをして満足したからサティスファクションやろー?」

「むう」

「合ってるわね」

「お姉さんをなめたらあかんでーサンシャインにムーンライト。サティスさん、お大事に~」

「じゃ、ドイツの首都は?」

「フランクフルト!」

「……この人、聞いたこともない高校の受験をしたのかしら」

 

 敵が目の前にいるというのに笑えないコントを始めた年上三人に、坎原さんは笑っていた。

 彼女は、と言うと、1+2+3+4を指で数えている。歴史に加えて数学も苦手なのは知っているが、まさか、答えられないのだろうか。

 己枦という魔女の格好をした小学生の子が、

 

「あの人たち、何やってるんですか?」

 

 (あき)れた顔で指して僕に()く。全くもって同感だ。

 

「とまあ、こんな話はおいといて、あんたたちどうする? あたしらは六人、それでも戦うの?」

 

 陽さんが双子に訊いた。

 さすがに勝ち目がないのは分かっているだろう。だが、双子は悔しさからか負けを認めずに黙っている。

 誰も何も発しない緊張感がこの場に漂う。程なくして、

 

「ま、今日は帰りな。見逃してやるよ」

 

 陽さんが双子に告げた。

 そして陽さんが、双子に人差し指をびしっと指して宣言する。

 

「その代わりさ、こんな付け狙うような()(きょう)な真似しないで戦おうよ」

「…………」

「あんたたちをまとめるエクリプスって人に伝えといて。三月十日の日曜、朝七時。こっちからトゥインクルとリングレットを呼んだ公園に出向くから、そこで決着を付けよう」

「…………」

「いつ如何(いか)なるときでも強く、優しく、美しく。そして正々堂々と。それが選ばれし戦士だと思いまーす」

 

 こうして陽さんが決戦の日を指定し、双子を逃した。

 飛び去った双子を見届けたコスモス六人が変身を解き、陽さんが妖精に訊く。

 

「べーちゃん、これでいい?」

「上出来だベエ。これでこちらが不意に襲われることはなくなったはずだベエ」

「約束、守るかな」

「エクリプスという男は誠実な男だベエ。まず守るだろうし、ソレに言われたら相手も動けないはずだベエ。もし破るようならボクが知らせてやるから、そのときは袋(だた)きにするがいいベエ」

 

 満足した様子で皆に説明した妖精。陽さんの日時と場所の指定に誰も異を唱えないところを見ると、水族館で打ち合わせをしたのだろう。

 妖精が姿を消し、坎原さんが時を止める装置のボタンを押す。すると、自動車の走る音が聞こえ、通りの向こう側からお婆さんが現れる。時が動き始めた。

 陽さんがお腹に手をあてて皆に提案する。

 

「ハンバーガーとか言ってたらお腹すいてきちゃったよー。震堂さん、紫暗ちゃん、今から美月ん()いって一緒にごはん食べない?」

「おっ、ええんかにゃー? ウチめっちゃ食べるで」

「ええよええよ。ねっ、美月?」

「ええ。いっぱい食べてくれるなら大歓迎だわ」

 

 陽さんの誘いに震堂という人は乗り気な一方、己枦という子は少し困っていた。

 雰囲気に(たが)わぬ内向的な子なのだろう。そんな己枦という子を彼女が誘う。

 

「紫暗ちゃん、行こ? きっと楽しいよ? 美月さんの作るごはんすっごくワンダフルだし」

「……そこまで、言うなら、行きます」

 

 控えめな了承を取り付けた彼女が僕に振り向く。

 

「ごめんね鈴鬼くん。さすがに美月さんの家に呼ぶ訳にはいかないし」

「いや、それは僕も遠慮するよ」

「せっかく水族館まで送ってもらったのに。ごめんなさい」

「いいよいいよ。女の子同士楽しんできてね」

「うん」

 

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