YMO ー黄色い変身ヒロインの秘密を僕だけが知ってしまってー   作:豚煮真珠

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僕たちビョーゲンズ? 最後の水曜日

 三月になり、一年生も最後の月を迎えた。

 冬を越したとは言え、まだまだ寒い季節。今日は水曜日で部活が休みであり、僕はクラスメートにして友人の師泰(もろやす)(すすむ)と共に下校していた。

 二人を紹介すると、師泰は()(とう)師泰(もろやす)と言い、小学校からの付き合いだ。丞は(たか)()()(すすむ)と言い、中学校に入って出会った友人である。

 

 今日は六日であり、四日後の日曜日は十日。決戦の日が近付いている。

 双子の襲撃以降は、望搗という人に付く敵が彼女たちコスモスや僕を襲うことはなかった。したがって平穏な日々が続いている。だが、もう一度述べるが日曜は決戦だ。コスモス六人対八人、今までにない規模の()(れつ)な戦いになるのだろう。嵐の前の静けさと言うべきか、そんな予感が僕を不安にさせている。

 それにしても、陽さんは決戦を朝の七時に指定した。少しでも人がいない時間帯を指定するのは分かるが、場所は山梨の奥深くだ。どう行けばいいのだろう。

 僕は、お呼びではないのだろうか。何の能もない僕が戦いを見届けようなどと、自分でも思い上がっていると思うし、いたところで何の役にも立てないのだが。

 

「コシロー。お前って、庚渡と一緒に坎原とも遊んでるよな?」

 

 隣を歩く師泰が、僕に妙なことを尋ねた。

 僕が素直に答える。確かに彼女と一緒に坎原さんとも何度か遊んでいるが、何を気にしているのだろう。

 

「うん。それがどうしたの?」

「はあ。お前って、もしかしてモテてるのか?」

「は? モテてる?」

「だって、あの坎原だぜ? 告白してくる男をことごとくフッてる。仲良くなろうとしても、つれない態度で返される男しかいない中、お前だけが坎原と遊んでるんだぜ?」

「そ、そうかもしれないけど、別に坎原さんはフツーの友達だよ?」

「お前以外の男にとっちゃ、その友達ってのがとてつもなくハードル高いんだよ」

 

 師泰が僕を白い目で見ながら息を吐き、これに僕はやっかみを師泰から感じた。

 師泰は、僕が彼女と坎原さんという二人の女の子と遊んでいることから、僕がモテているなどと勘違いしている。確かに坎原さんは素直に評すればこれ以上とない美少女だ。まるで漫画の世界の女の子のように華があり、先月も坎原さんに告白し、フラれてしまった男を見ている。そんな男からの人気が著しく高い子と遊んでいるなんて、やっかまれても仕方がないのかもしれない。

 だが、僕は彼女一筋だ。僕の目に彼女以外の子は映らない。彼女思いな坎原さんは、僕が彼女と二人きりで遊びたいときでも付いてくるので、邪魔と感じてしまったことが何度かある。僕が一度入院してしまった原因を今でもたまに気に掛けてくれたりと、とても良い子ではあるのだが。

 ただ、坎原さんを「フツーの友達」と言ってしまった僕だが、これは違う気がする。坎原さんには何度か危ないところを助けてもらったりしており、何というか、友達というよりは彼女を懸けての戦友と言うべきか、妙な縁でつながっている、と自分では思っている。

 

「庚渡に坎原。オレのコシローが、いつの間にかモテ期に入っちまってよ」

「やめてよ。庚渡さんと仲良いんだからしょうがないじゃん。そういう師泰はどうなんだよ?」

「は? 俺? やめろやめろ、俺には、んな女いねーって」

 

 慌てて否定した師泰だが、他組に好きな女子がいる。

 モテ期とか言われてもよく分からないが、他人からはそう見えるのだろうか。そんな僕と師泰の前を歩く丞が、

 

「おい、鈴鬼、茶籐」

 

 振り返らずに僕たち二人を呼んだ。

 

「なに?」

「なんだよススム?」

「ちょっと歩くんだけどよ、付き合ってくれね?」

 

 付き合え、という丞の顔を(のぞ)くと、どこか上の空だった。

 今だけじゃない、今週に入ってから丞はどこか上の空である。そんな丞に首をかしげる僕をよそに、

 

「どこへだよ?」

 

 師泰が尋ねると、

 

「それは、行ってからのお楽しみよ」

 

 実にもったいぶった回答を丞がした。

 行き先を告げない丞を先頭とした僕と師泰が、この町の駅の方へと歩く。

 

「なんだ、〝すこまん〟屋じゃねえか」

 

 到着した先で師泰がぼやいた。丞に連れて行かれた場所は、駅前のまんじゅう屋だった。

 名は「すこぶるうまいまんじゅう」。略して「すこまん」。まんじゅうににっこりした顔とその額に「す」という字を刻んだ、この地方で売り出されている名物和菓子であり、SNSで有名なインフルエンサー「ちゅるちゅるりんりん」に紹介されている。

 丞はまんじゅう屋に何の用なのだろうか。丞がすこまんを好きな話など今まで聞いたことないのだが。

 

「今日は、……クッ、いないか」

 

 店を覗いた丞が落胆し、これに僕が尋ねる。

 

「いないって?」

「この前さ、この店の前を通ったら、パツキンのドえらい美女が、すこまんの売り子しててよ~」

 

 パツキンとは金髪のことで、丞は金髪の美女がすこまん屋で働いているところを見たらしく、それでもう一度見に訪れたようだった。

 丞が両の頬にそれぞれ手をあて、うっとりとした顔で回想する。

 

「あれはまさに女神、いや、地球(ガイア)の意志……。あの人を見てからさ、俺、頭からあの人が離れねえんだ」

 

 金髪。この町には大学がある。外国からの留学生だろうか。

 しかし、店に金髪の美女などいない。店の中には店主であろうおじさんだけしかいない。

 

「丞。今日はいないみたいだし、諦めて帰ろうよ」

「そうだな。ああ、会いたかった……」

 

 肩を落とす丞を慰めながら僕たちは店から立ち去った。

 店を離れる僕たちだが、丞は未練がましく振り返って見つめている。――が、学校帰りにわざわざ駅前まで来た執念が実ったか、丞の(おも)いは通じてしまう。

 

「いたあっ!」

 

 すっとんきょうな声を上げた丞に僕と師泰が振り返ると、すこまん屋の店頭に金髪の女性が確かに立っていた。

 僕たちが戻って店にこそこそと近付く。すると、丞が頭から離れないというのも(うなず)けてしまう。女性の白い肌は透き通るほどに()(れい)で、少し垂れ気味の切れ長い目が柔和な印象を見る者に与える。そのほか鼻、耳、眉、唇、それら面長な顔に据わるパーツは完璧なまでに整っている。

 金髪をかき上げて後ろでお団子状にまとめる女性は、美しさと優しさを兼ね備えたまさに女神と言うべき人だった。そんな女性に店主のおじさんが話しかける。

 

「大丈夫かい? アースミンちゃん」

「オー、ネブソックでちょっとケダリー。けど、ワタシがんばりマース」

「そうか。無理しないでいいからね、辛かったら奥で休むんだよ?」

「サンキューマスター。……バット、シンドイーネ」

 

 目頭を押さえる金髪の女性を、僕たち三人は物陰に身を隠しながら覗いていた。

 食い入るように女性を見つめる丞に、師泰がヒソヒソと尋ねる。

 

(おいススム、声かけねえのか?)

(バカ、そんなことできるわけねえだろ! 俺らみたいなガキ、相手にしてくれるワケねえだろが!)

(じゃあなんで来たんだよ)

(見たかったからに決まってるだろが!)

(すこまんくらい買って来いよー、ハラ減ったし)

(金がねえよ! ああやべえ、見ているだけで癒される。ヒーリングッバァイ……)

 

 目をキラキラとさせて昇天しそうな顔を浮かべている丞だが、丞自身が分かっているとおり、あの美人は声をかけたところで僕らみたいなガキ相手にするわけがない、と感じてしまった。

 そして、僕たちは帰路に着き、僕が師泰と丞と別れた後、一本の桜の()を目にした。

 今はまだ花を咲かせていない、寒々とした桜の樹。今は三月で、あと一月経てば四月になり、二年に進級する。

 思い返せば色々とあった。日直の仕事を彼女に押し付けられた残暑の日から、今日この日まで。今年は彼女と一緒に満開の桜を観たい、と願った。

 

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