fate/zero~ノーライフキング~   作:おかえり伯爵

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後日談2

「今日は本当に月が綺麗ですねぇ」

 

コバルトブルーの瞳が闇に輝く月を見つめる。

今宵は最終決戦になる。

セラスの人間離れした思考がそれを確信していた。

この戦いの果てに自分はどうするのだろう。

ドラキュリーナになったばかりの彼女にとってその問は些か難しい。

片手で抱えているハルコンネンを両手で抱きしめて視線を落とす。

 

「もう、来ちゃうんですね」

 

闇に紛れて一つの光がセラスを捕らえる。

常人では決して視認できない僅かな光。

それは僅かな音と共に滑走する。

 

「ふぅ・・・足止めできるのかな」

 

うつ伏せの体制になり抱えたハルコンネンを光に向けて構える。

イメージするのは第三の目。

吸血鬼のみが持つアーチャークラス並みの視力。

写るのは黒い男装のセイバー。

まだ距離があるためセラスには気づいていない。

 

「迷っても仕方ない・・・やりますっ!!」

 

ハルコンネンのトリガーが引かれる。

慢心などありえない。

彼女のマスターの命令通り最初から全力で相手をしなければ彼女が倒されるのだから。

一発撃ってから直ぐに次弾を装填。

その間約1秒。

改めて構えるとやはりセイバーは持ち前の直感で回避していた。

セラスは慌てること無く二発目を発射する。

しかし、その弾もアスファルトを抉るだけで命中はしない。

セイバーは狙撃場所を特定したようで視線をセラスの方角に向けている。

直接がダメならとセラスはセイバーの走行ルートを予測して、三発目を装填する。

狙うはバイクの前輪の手前。

放たれた弾丸はアスファルトを抉る。

これにはセイバーも驚きバイクの前輪を穴にとられる。

当然猛スピードで走るバイクは慣性のまま後輪から縦回転を始める。

だがセイバーはこの程度では転ばない。

重心を上手く調整し後輪で着地したのだ。

そして前輪も大地に着けると再び走りだす。

 

「うわぁ・・・ありえないでしょ」

 

セラスから渇いた声が洩れる。

心なしか顔も引きつっている。

残弾は残り五発。

無駄撃ちは出来ない。

弾薬をもっと貰っておくべきだったと嘆きつつ状態を起こしてハルコンネンを肩に担ぐ。

 

「何やら物音がすると思えばコウモリであったとはな。我の周りを飛び回るのを許可した覚えはないぞ」

 

セラスは受け身を考えず横へ飛ぶ。

金属がコンクリートを貫く音と煙が充満する。

眼前には黄金の鎧のサーヴァントーーアーチャーが腕を組んで存在していた。

額を伝う汗を腕で拭いハルコンネンを構える。

 

「ほう、コウモリの分際で我の裁きを逃れるとはな。ならば我を興じさせてみよ。もしかすると我の寵愛に値するかもしれんぞ?」

 

アーチャーは機嫌良さそうに背後の空間を歪ませる。

飛び出す無数の武具。

一つ一つが必殺の宝具。

 

「む、無理ィィィイイイ!!」

 

「何処へ行く雑種!!」

 

セラスは一瞬の間もなく背を向ける。

飛来する宝具を躱し弾を装填。

振り返り後ろに飛びながら引き金を引く。

弾は剣に阻まれ勢いを無くしたがアーチャーの視界からは逃れた。

舌打ちしたアーチャーが踵を返して霊体化したのを見てふぅっと息を吐く。

 

「あぁ・・・死ぬかと思ったぁ。すいませんマスター。セイバーは止められませんでした」

 

時間稼ぎのつもりがとんだ災難だ。

アーカードに怒られるのを想像してブルっと身を震わせたセラスは急いで決戦場へと走りだした。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「アイリス、フィール」

 

コンサートホールに到着したセイバーが眼にしたのは黄金の杯。

すなわち聖杯があった。

あれが守ろうとしたものだと誰が思おうか。

誰を犠牲にしても絶対に過去をやり直すと決めた決意が揺らぐのをグッと堪える。

これさえあれば願いが叶うと、そう信じて。

 

「遅いぞセイバー。コウモリなどと戯れるにしてもこの我を待たせるとは不心得も甚だしい」

 

「アーチャー・・・」

 

コンサートホールのステージは穴が開いておりその手前でアーチャーは不敵に嘲笑う。

薄暗い場所にも関わらずアーチャーの輝きは曇ることはない。

むしろ一層艶やかさを内包しているようだ。

 

「ふふ、何という顔をしている。まるで飢えた痩せ狗のようではないか?」

 

「そこを・・・どけ。聖杯は・・・私の、ものだ!!」

 

この戦いを征すれば聖杯がーーあの日の願いが成就される。

ブリテンの悲劇。

自分ではない王にふさわしい者が剣を取りあの悲劇を繰り返さない為に。

普段冷静なセイバーの顔はアーチャーが言う痩せ狗に似ていた。

 

「ーーっ!!」

 

迫る武具を躱し席の背もたれに足を乗せてそのままアーチャーへと飛びかかる。

風王結界に隠された剣がアーチャーを襲う。

しかしアーチャーは悠然と腰に手をあて立っている。

取ったと思われたそれはアーチャーが王の財宝から飛び出した剣によって阻まれた。

そしてアーチャーは空間から鍵を取り出す。

ーー曰く世界を切り裂き天地を切り開いた創造と破壊の剣。

それが今抜かれた。

 

「そ、それは!?」

 

セイバーの眼が見開かれる。

剣とは思えぬ円環の剣。

回転を繰り返すそれはドリルのようにも見えた。

 

「このまま射ち合っても良いがもしもが有ると面倒だ」

 

アーチャーは前面を埋め尽くす大量の武具を展開しセイバーを会場から吹き飛ばす。

その際セイバーの左足に剣が突き刺さる。

足が止まったセイバーを蹴り飛ばし外へと出る。

しかしセイバーはアーチャーから視線を外さない。

向き合う二人。

少しの沈黙の中先に動いたのはアーチャー。

手に持った剣が高速回転を始める。

吹き出る力の奔流。

セイバーの聖剣を超える宝具の開放が今為されようとしていた。

 

「目覚めよエア、お前に相応しき舞台だ。・・・セイバーよせめて相殺くらいはして見せよ」

 

「くっ、良いでしょう!!我が願いはそのような物に負ける道理はない!!」

 

風が弾け顕になる黄金の剣。

比類なき伝説の剣に光が収束する。

約束された勝利の剣。

伝説に語り継がれる最強の聖剣が光を放つーー。

 

「エクスッ!!」

 

「エヌマっ!!」

 

「カリバァアアアアア!!!」「エリッシュッ!!!」

 

2つの絶対的力はお互いを認めず拮抗する。

だが徐々に均衡は崩される。

飲み込まれていく光。

セイバーの表情が苦悶に変わる。

 

「アアアアァァァァァァァアアアア!!!!」

 

「ふっ」

 

セイバーの叫びは虚しく闇に消えていく。

そしてセイバーは世界最古の前に敗れる。

 

「か・・・くっ、か・・かはっ!!」

 

込み上げる血の塊。

吐き出しても次から次へと込み上げる。

霞む眼はまだだと訴えるが体は動かない。

後ろでまとめた髪も解けている。

 

「ふ、フフハハハハハハッ!!これが人類の願い?最強の聖剣だと?笑わせてくれるではないかセイバー!!だが、妄執に落ち地に這って尚お前という女は美しい。剣を捨て我が妻となれ!!奇跡を叶える聖杯などとそんな胡乱な物に執着する理由が何処にある?下らぬ理想も誓いとやらも全て捨てよ。これより先は我のみを求め我のみの色に染まるが良い。さすれば万象の王の元にこの世の快と悦の全てを賜そう」

 

嘲笑うアーチャー。

セイバーはフラつきながらも立ち上がりアーチャーを睨む。

 

「貴様は・・・そんな戯言の為に、私の聖杯を奪うのかっ!!」

 

飛来する剣。

それを弾くが勢いを殺しきれず倒れる。

 

「お前の意志など聴いておらぬ。これは我が下した決定だ。さぁ、返答を聴こうではないか」

 

「こ、とわる・・・断じーー」

 

今度は斧がセイバーの足に食い込む。

現界に近いセイバーは痛みに藻掻く。

 

「恥じらうあまり言葉に詰まるか・・・。良いぞ、何度言い違えようとも許す。我に尽くす喜びを知るにはまず痛みをもって学ぶべきだからな・・・ふっ」

 

ボロボロのセイバーを更に痛めつけんと展開される王の財宝。

セイバーは息を飲む。

 

「どうした?答えぬならば答えさせるしかないな」

 

槍を手で引き抜きセイバー目掛けて投擲される。

動けないセイバーは歯を噛みしめる。

だが予想された痛みはやってこず、槍はあらぬ方向へと飛ばされる。

聞こえた銃声音。

そこにはサファイアブルーの瞳の吸血鬼が荒い息で銃を構えていた。

銃口から硝煙が出ていることから槍を弾いたのが彼女だと理解できた。

アーチャーの愉悦の表情が怒りの表情へと変わった。

 

「コウモリよ・・・よほど死にたいらしいな」

 

「い、いやぁできれば死にたくないなぁって思ったりして」

 

「な、何故貴様が私を助ける?」

 

セイバーの問にうーんと首を傾げて、思いついたとセラスは言う。

 

「私って婦警だったんですよ。だから弱ってる女性を見捨てることなんて出来ないんです」

 

ビシッと敬礼するセラス。

その顔に嘘は見られない。

唖然とするセイバー。

逆にアーチャーは不愉快そうに鼻を鳴らす。

 

「あれは我の物だ。我が所持品をどう扱おうと兎や角言われる筋合いはない。王に対して大言を吐いたのだ。もはや見逃しはせんっ!!」

 

セラスは死を回避しつつセイバーを抱き上げて草陰の安全な場所に移す。

アーチャーの元へと戻ろうとするセラス。

咄嗟にセイバーは服を掴んだ。

 

「え、えーと?」

 

「・・・私も多少動ける程度には回復しました。不本意ですが今だけ共闘を申し込みます」

 

「は、はいっ!!頑張りましょうね!!」

 

セイバーの手を取って起き上がらせる。

そして左右に分かれた。

二人のいた場所に爆音とクレーターが出来る。

 

「おのれっ!!」

 

「ハァァアアアアア!!!」

 

「セイバーかっ!!」

 

剣を躱し距離を取るアーチャーの背中から銃声音。

アーチャーの右腕に命中した一発の弾丸はそのままアーチャーの腕をもぎ取る。

手に持っていたエアが地面に落ちる。

 

「グウウウウゥゥ!!」

 

「逃がしません!!」

 

セイバーの追撃を武具の放出で逃れ左腕に剣を持つ。

その間に装填したセラスがアーチャーに照準を合わせる。

 

「次弾敵右腕!!」

 

「ヤー!!」

 

「クッ!!」

 

飛び上がり弾を回避。

狙撃場所に目掛けて武器を降らせる。

点ではなく面の攻撃。

セラスは為す術もない。

幸い両足と腹と右腕だけで済んだが長くはもたない。

 

「はぁはぁはぁ」

 

「とく逝ね」

 

「これで最後です」

 

ハルコンネンの弾丸は惜しくも的を外れセラスに魔の手が差し掛かる。

爆発と共に土煙が上がる。

やがて煙が晴れたがそこには誰もいない。

アーチャーの顔に余裕が戻る。

 

「さて、多少面倒はあったが元に戻ったなセイバー。だが我の手を煩わせたのだ。相応の教育が必要のようだ」

 

「巫山戯たことを。これで最後です、アーチャー」

 

聖剣が再び光を集める。

もはやセイバーに残された魔力は少ない。

この一撃で決まらなければすなわち敗北。

これは不味いと焦るアーチャー。

しかし助けは以外なところから現れた。

ボサボサの黒髪、黒いコート。

感情を感じさせない濁った瞳。

セイバーのマスター衛宮切嗣が現れたのだ。

セイバーも気がついたようで一瞬だけ視線がそちらに向く。

その隙にアーチャーはエアを拾い真名を開放する。

 

「なんてタイミングに・・・!!」

 

焦るセイバーを見ようともせず衛宮切嗣は自身の腕に刻まれた令呪に語りかける。

 

「そ、そうか!!切嗣、令呪で敵をーーアーチャーを倒せと命令してください!!」

 

「衛宮切嗣の名のもとに令呪を持って命ずる」

 

勝った。

セイバーは勝利を確信した。

お互いに睨み合う中切嗣はゆっくりと言った。

 

「セイバーよ。宝具にて聖杯を・・・破壊せよ」

 

「なっ!!」

 

「ば、馬鹿な何のつもりだ雑種!!」

 

抗うセイバー。

車線上にいるアーチャーは驚きを隠せない。

そして二人のサーヴァントはこの男の言葉を信じられずにいた。

聖杯を手にする絶好のチャンスを捨てるというのだ。

正気の沙汰ではない。

だが衛宮切嗣は止まらない。

 

「第三の令呪をもって重ねて命ずる」

 

「何故だ切嗣!!よりにもよって貴方が何故!!」

 

震える腕。

セイバーの意志とは関係なく聖剣はその力を開放しようとしている。

 

「おのれぇ!!我が婚儀を邪魔立てするか、雑種!!」

 

「セイバー、聖杯を破壊しろ」

 

「やめろぉぉぉぉおお!!!!」

 

「エヌマ・エリッシュ!!」

 

振り下ろされる聖剣。

押されてはいるが拮抗する乖離剣。

だが令呪のバックアップもありエクスカリバーの威力は通常のそれを遥かに上回る。

押されていくアーチャーは背後に武具を展開する。

徐々にではあるが相殺していく。

 

「このような結末を認めろとでも言うのか!!」

 

「あはは・・・残念ですけどこれで終わらせます、我が主桜の為に」

 

「き、貴様ァァァアアアアア!!」

 

弾丸はアーチャーの頭に吸い込まれるように命中してアーチャーの頭を吹き飛ばした。

必然的にエアの力は失われエクスカリバーがセラスを飲み込む。

 

こうして聖杯戦争は幕を閉じたーー。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

リクエスト その後の遠坂家

 

 

遠坂凛。

彼女には目標がある。

それは父のような優雅で気品のある魔術師になることだ。

だがそれを脅かす事態が起きているのも事実だ。

そう思って窓の外を見るとやはりいつものように彼女がそこにいた。

凛と同じ髪の色だが顔立ちは柔らかな少女。

かつて遠坂であった少女が無表情に門の前に立っている。

 

「あの子、また来てる」

 

間桐の当主が亡くなったとは聞いたが毎日見に来るのは一体何故だろうか。

凛は最初帰ってきたのだと歓喜したものだが桜は無表情で違うと明言している。

そして更におかしいのが母の葵だ。

桜の顔を見るだけで発作を起こして発狂する。

明らかに異常であるため足の怪我と何か関係があるのかと思い、桜に問い詰めたが私がその怪我を負わせたわけじゃないとこれまた否定した。

葵も発狂の原因を自覚しているが頑として話そうとはしない。

何かに怯えているようだが桜を怯えるというのも分からない。

常識的に考えて小学生に怯える大人などいないからだ。

確かに桜も魔術師の家系なのだから唯の小学生ではない。

しかし仮にも母親なのだ。

ここまでひどい事をするとは思えない。

謎は深まる一方で、凛は毎日を悶々と過ごしている。

この謎が分からなければ優雅にもなれそうにない。

溜息を吐く凛を見つけた葵は車いすに乗って凛に手を振る。

 

「あら、凛どうしたの・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

「ええ、ちょ、ちょっと落ち着いてーー」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!許してお願い!!もう二度としないから!!お願い!!お願いよぉぉォォおお!!!」

 

母の発狂。

まだ幼い凛にはキツイ。

世話役として派遣された人が慌てて駆け寄ってきた。

視線を門へと向けてまたかと溜息を吐く。

葵の車いすを押して部屋に戻っていった。

凛はそれを見送ってまた視線を門へと向ける。

ちょうど桜も凛を見ていたので視線が合う。

見つめ合うこと30秒。

桜は凍えるような笑みを浮かべて帰っていった。

凛は背筋に薄ら寒いものを感じて母の元へと歩いて行ったのだったーー。

 

FIN




これにて完全に終了です。
今後の活動は未定です。
このような稚拙な文に最後までお付き合い頂きまして本当にありがとうございました。
それではまたどこかで!!


桜だいすきだー!!

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