「――ガ! ゼーガっ!!」
そんな声を聞いて、ゼーガは目を覚ます。
ばたりと飛び起きると、そこには心配そうにフェイが手を握っていた。
背を預けているのはホバーカーゴ内に備え付けられた仮眠室で、そこでフェイとキャシー、ベリルは彼を見舞っていた。
「……、博士。一つ聞きたいんだが、ワイツタイガーの試運転は終わったのか?」
「終わった。君は無事に帰ってきてくれた。……君を、ワイツタイガーがここまで連れてきたんだ」
「ワイツが、俺を?」
「ああ。……にわかに信じがたい話だが、ワイツタイガーは恐らく君に心といくつかの制御権を許したらしい」
そう、フェイに言われて、少しだけゼーガはその拳を握った。あの、コクピットの操縦桿の感触は今でもその手に残っていた。
そうして記憶を辿る。たしか、ワイツタイガーの操縦の限界に至った結果気絶したはずで。
そしてその前は――。
「フェイ、博士。あの、自称テラガイストのサーペント、ってヤツはどうした」
「……君の勝利を無駄にしてしまう回答になる事を先に謝ろう。隙を見たのだろう、アレはフューラーを置いて姿をくらました。フューラーの残骸は回収したが肝心要のパイロットについては私達のホバーカーゴが君の下へ駆けつけたころにはもう遅かった」
「……そう、か」
少しだけ、気落ちする。
それで身柄も抑えて治安局に突き出せれば文句のない成果だったのにと。
「ゼーガ、君の観察力には驚嘆するほかない。よくあのフューラーの構造上の欠点を見抜いたな」
「観察力ってほどでもないよ博士。昔セイバータイガーにイエーガーユニットを無理言って装備させたことがあってね、その時真っ先にダメになったのが脚部だった。……いろいろ試行錯誤してた頃のたまものだ」
ゼーガはワイツタイガーの実戦データを持ち帰り、その上で所属不明のパイロットを倒した。
これは間違いなく大きな功績であった。こほんとフェイは咳払いをする。
「……博士、正直あの時あんたが焦ってるのは割と驚いた。それにしたってゾイド馬鹿はないだろゾイド馬鹿は。罵倒に語彙力が割けなくなるぐらい俺を心配してくれたのか」
「君が普段私にどのような印象を持っていたのかはよくわかった。だが君の功績に免じて不問にしよう」
ワイツタイガーが操縦を拒絶した時のフェイの焦り様はそれほどに、ゼーガにとっては意外なものだったのだ。
それからため息をつきながらもタブレットを手繰り、フェイは告げる。
「とにかくゼーガ、君は今は休むといい。本来であればこの後のスケジュールもあったが取りやめる。……キャシー、至急ホバーカーゴの進路を本社に戻してくれ」
/
テラガイストを名乗るテロリスト集団の暴挙は、内外問わずかなり大きな話題として取りざたされた。
テラガイスト、と一口で言えどそれを自称するだけの組織であったのならまだよかったのだが、フェイ達のホバーカーゴに回収されたフューラーに搭載されていたエナジーチャージャーが大問題となった。
……エナジーチャージャーとはもとよりネオゼネバス帝国の開発した秘匿技術である。
従来のゾイドの常識を大きく超える出力を与える外部動力機関であるのだが、他方でこれはネオゼネバス帝国の技術部より門外不出とされいた秘匿技術であった。
何よりゾイテックも過去、エナジーチャージャーの模倣を試みたが初期型チャージャーの搭載機であるエナジーライガーのスペックにさえ到達はしなかった。
テラガイストという組織は過去にもゼネバス復興を掲げ、そして今ネオゼネバス帝国の技術を以って再度蘇ったのだ。
故にネオゼネバス帝国とテラガイストの関係性が大きく取沙汰される結果にもなった。
この解析にゼーガやフェイ達は追われることとなった。
なぜか、という事となるとまずフェイがネオゼネバス帝国出身であることが理由だった。
技術的な潮流としてはへリック出身者よりも近しい事が挙げられた――表向きには。
「……ワイツタイガーのプロジェクトを寄こせと、方々から言われてるんだろ。フェイ」
「襲撃されたのはプロジェクトリーダーである私の責任に外ならないだろう。それは言い訳はするつもりはない」
ワイツタイガーの開発計画が漏洩していたこと、襲撃を許してしまった事からフェイは非難を浴びる羽目にもなった。
特にワイツタイガーの開発計画が漏れていたことに関して、フェイはネオゼネバス出身者であったことからその漏洩元だと疑われすらした。
開発データをある程度自分の手元で自由に処理できる権限があったからでもあり、そんな粗探しによってワイツタイガーのプロジェクトは他所のグループに取り上げられる可能性も少なからず浮上してきている。
「ワイツタイガーの開発は誰が功労者だったかなんて、お上はどうでもいいんだろうさ」
「私は私の権限の及ぶ範囲で、このプロジェクトとそれに関わる者達を護るつもりだ。何より所詮今は疑惑の域を出ない」
「……だな」
そう、言いながら目の前にあるエナジーチャージャーの残骸をゼーガとフェイは見上げる。
キャシーがキーボードを叩きながら、ベリルとそのほかの整備兵たちは各種データを取っている。
「……結論から言おう。あのエナジーチャージャーは、確かにネオゼネバス帝国の技術だ。私が覚えている範囲でのエナジーライガーのチャージャーの制御プログラムに今のプログラムは酷似していた」
「……つまりネオゼネバス帝国の外郭組織ってことか、テラガイストは」
「私がネオゼネバス帝国を贔屓する形になる言い方となることを先に謝しておこう。……恐らく、ネオゼネバス帝国とは現テラガイストが関係がある、とまでは断言できない。普通、あからさまに関係性を示唆する武装――それもエナジーチャージャーを搭載した機体で襲撃するのはあまりにも組織としてのリスクが大きすぎる。これでは自分たちはネオゼネバス帝国と関係がある団体だ、と言っているようなものだろう」
……そうはいうものの、問題はそのエナジーチャージャーの出所だった。
製造元を探るのは極めて難しいだろう。
「……エナジーチャージャーの製造元は?」
「それが分かれば苦労はしない。第一容疑者は確かにネオゼネバス帝国だ。……逆に言い換えれば、ネオゼネバス帝国以外のどの組織に製造ができたかと考えるのが無理のない筋だ」
「思いつかないな。それこそネオゼネバス帝国の国有企業とかでもない限り。フェイ博士は何か心当たりでも?」
「……いや、ない」
少しだけ、言葉を濁すようにフェイは言う。
確証の無い事を言うのは、あまり好ましい行為ではないと思っていたからでもあり――同時に疑惑の相手そのものは存在しているからだった。
「ゼーガ、そういや観たか今日の新聞」
「あのリヒター元市長が獄中で自伝を綴ってるとかいう話だったか?」
「いやちげぇよ、ゾイドバトル連盟がお冠だってヤツさ」
「あー……そういやそうだったな」
ベリルの言葉にゼーガは少しだけ渋い顔をした。
ゾイドバトル連盟――それは戦後に勃興したゾイドバトルという文化において、ゾイドバトルのみならずゾイド同士の戦闘を統制・監視するためにヘリック・ガイロス・ネオゼネバスが共同で立ち上げた組織体であった。
戦後のゾイドの生態研究、或いは無秩序な戦闘行為の抑止、衛星通信の仲介といった役割を持つジャッジサテライトを運用している。
基本的にはゾイドバトル全般を取り仕切っており、概ねブルーシティで開催されるゾイドバトルはゾイドバトル連盟が主体となっている。
また、野良においてもゾイドバトルに関わる者やルールコードの申請によって個人間でのゾイドバトルに際し審判ロボット、通称ジャッジマンが地上に投下されることを以って承認される。
実際、フェイ達の開発チームはワイツタイガーの実地テストも事前にゾイドバトル連盟に当該区域について私人間での戦闘行為を一切行わないという旨の申請をしていた。
「……そりゃそうか。テロ同然の襲撃事件を起こされりゃ沽券にかかわるわけだ。ただ、こっちは被害者な上、正当防衛に関してはこれを咎めるものではない、ていう申請の項がある以上はこちらが連盟に怒られることはないだろうさ、ベリル」
ゾイドバトル連盟が設立された経緯には、それだけではない事情もある。
戦後、行き場を失ったパイロットやゾイドが闇バトルを営むことは珍しい事ではなかった。
その頃にはまだ、ゾイドバトルという文化自体も根付いて間もないころであり、闇バトルは秩序の合間をぬって賭博や治安の悪化に関与した。
そうした闇ゾイドバトルを取り締まるというのがゾイドバトル連盟の興りであり、同時にそれに反発した彼らが現在で言うバックドラフト団を作り出したのだ。
……尤も、既にバックドラフト団からは有力なパイロットは何人も離脱しており、もはや組織としての体を成していないのも事実だった。
特にその中でも、とあるフューラー乗りの離脱の影響が一番大きかったと言えるだろう。
その彼は今はバックドラフト団にとっての怨敵筋ともいえるチームブリッツに移籍してしまっているのもバックドラフト団にとっては悲しいところではあるが、同情の余地は皆無だろう。
「フェイ博士。さすがに暇だが俺はどうすればいい?」
「なら、ワイツタイガーの下へ行くといい。カードキーを寄こそう」
そう言って、カードキーをフェイはゼーガへと放り投げた。
それを受け取ると、ゼーガは少しだけぽかんとした顔をしていた。
「何を呆然としている。君はワイツタイガーに選ばれた。……ゾイドとの対話という奴に関しては私は得手ではない。それこそ君の領分だろう」