半分特別編的な感じで今回はバーサークフューラー対ジェノブレイカーの試合を書きました。
パイロットは大体察してください。
目の前に横たわる、エナジーチャージャーを前にして私は柄にもなく感慨にふけった。
「……疑惑はある。確証はない、か」
不味い、そんな予感はあった。
エナジーチャージャーというたった一つの残骸の所為で、世論は反ネオゼネバス帝国へと傾いていった。
ネオゼネバス帝国が本当にテラガイストをと繋がっているのか――私は繋がっていないと考えたい。
それはゼネバス人としての感情も混じっている。
けれど何より、戦後にまた反旗を翻す動機に乏しい。ネオゼネバス帝国とは言え全員が全員戦争の継続を望んでいるわけではない。
戦火の痛みを知る世論とヴォルフ陛下がそれを許すはずがない。国民の合意の無い戦争の継続など、出来得るはずがない。
「――世論を誘導するためだけに、置いていった……?」
考えすぎ、とは思えなかった。
世論は反ゼネバスに偏っている。
証拠もなしに陰謀論まで流れる始末だがむしろ、これを狙ってテラガイストは襲撃を仕掛けた可能性もあるとさえ思えた。
いくら真なるゼネバス復興を標榜にするにしてもヘリック軍と事を構えるのはあまりにもリスクが大きい。だが、ゾイテックであればどうか。
直接へリック軍と事を構えず、かつ襲撃の的として見た場合ある程度大ごとになり、そして何よりへリック共和国と繋がりの深い企業である事。
それを襲撃したのだから、当然世論は反ゼネバスに偏って当然だ。ゼネバス復古を願う人間からの支持も少なからず得られるだろう。
……偏ればどうなるか。ゼネバス人はまた、ガイロス・へリック両国と対立しなければならなくなる可能性すらある。
同胞であるはずのゼネバス人を反ゼネバス世論という形で窮地に追い込み、ヘリック共和国と対立せざるを得ない状況を創り上げる。
そしてゼネバス人をテラガイストの名の下に糾合するマッチポンプを組む――何を馬鹿な、等とは私は思えなかった。
……エナジーチャージャーの出所。
テラガイストがネオゼネバス帝国と関連している疑惑があることは否定できない。しかしそれは一重にエナジーチャージャーはネオゼネバス帝国しか開発できない、という前提の話だ。
だが、現実として性能の良しあしを問わなければゾイテックでも模倣品は作られたことがある。
加えて現在獄中にいるピアーズ博士は、戦後のネオゼネバス帝国のごく限られた研究資料だけを下に独力でエナジーライガーを創り上げた事があった。
……ピアーズ博士の場合はエナジーチャージャーの性能そのものは驚くべきことにオリジナルとほぼ同等を誇っていた。
他方、制御性が劣悪であったがために補助コントロールユニット兼ユニゾン用ゾイドであるレイコングとのZiユニゾンによる運用を前提としてた。
飛躍的な戦闘力向上の他にエナジーチャージャーの安定化をZiユニゾンに持たせるというこの独創性という点に関しては舌を巻かざるを得ないだろう。
Ziユニゾンの理論面に関して、文献の引用が多いことからもいまだに彼は権威でありエキスパートであるとも言っていい。
特にゾイドの学会においては私はピアーズ博士の講演に感銘を受けた一人であるだけに、私情ではあるものの彼の収監が惜しまれる。
このように、エナジーチャージャーを再現しようという試みそのものはある。
それ故にエナジーチャージャー搭載機が襲撃してきたという事実のみで、テラガイストが裏でネオゼネバス帝国と繋がっていた、と考えることは無理筋だと私は考えている。
ならば他にあり得る線は――そう考えた場合、一つの疑惑が頭の中によぎった。
「――Zi-Arms、か」
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「なぁ、ワイツ。お前の事を教えてくれないか?」
ハッチに静かに鎮座するワイツタイガーのコクピットでゼーガは操縦席の電源だけを入れている。
特にワイツタイガーは特にゼーガに懐くというわけでもなく、低い唸り声を立てるだけだ。
「フェイ博士は対話しろとは言ったモノの、どうすればいいんだか」
現状、コクピットでゾイドバトルの中継をただタブレットで眺めているだけの状況である。
これがテストパイロットの仕事なのかと言えばそれは否だ。
廊下を歩いている時にはゾイテックの他所のプロジェクトのテストパイロットからにたにたとした顔で『ワイツタイガーのテストパイロットを俺がやってやろうか』などと言われる羽目にもなった。
この襲撃事件で一時ワイツタイガーのプロジェクトは見合わせになってしまった事が要因としては大きかった。
ゾイドコアの内容については一貫して「特殊なゾイドコアを使用しているゾイド」という形でカモフラージュされ続け、運用実験の最終段階になってようやくその内容が他のテストパイロットや研究者たちにも開示されたのだ。
これは内外に対する話題性の配慮もあったが、この一件でゼーガは嫌味を何度か聞かされるハメになった。
優れたゾイドをテストすることこそがテストパイロットの感性を喜ばせる。
であるならば、その頂点に坐すとすら言ってもいい古代虎を乗り回したゼーガは間違いなく嫉妬を買う対象となるだろう。
『どうぞ、乗りこなせるなら是非やってくれ』
としかゼーガは言えなかった。最終的にワイツタイガーに認められこそはしたがそれも防護スーツを着込んで操縦したからに過ぎない。
生身の人間で操縦に耐えられるとしたら、それこそSクラスのZiファイターぐらいだろう。
そう言えば、とゼーガは思いだす。今日はSクラスのZiファイターの戦いだったなと。
ゾイドバトルの中継から伝えられるマッチアップ。
それはバーサークフューラーとジェノブレイカーだった。それが映ると、わずかにワイツタイガーの唸り声が高くなった。
それと少しだけ身震いをしている。
「……気になるのか?」
ぐるる、と、頭を縦に振って、ワイツタイガーは首肯を返した。
初めて、ゼーガの言葉にワイツタイガーは返答を返した。その事実に少しだけゼーガは驚いた。
「フェイの話で聞いたことがあったな。チーム・ブリッツ所属のバーサークフューラーは特殊なオーガノイドシステムを搭載していて、恐らくかなり昔にルーツを持つ、だったか」
昔の惑星Ziにルーツを持つ――それは自分がよく知る機体の特徴でもあった。
「もしかして、昔の惑星Ziでの顔なじみだったりするのかあのフューラー?」
それに対しては首を横に振ってワイツタイガーは否定を返した。
だが来歴の古さを考えた場合、太古に由来を持つゾイドとしてワイツタイガーが何かしらの興味――あるいは共感をあのフューラーに示しているとも思えなくはなかった。
「それと、相手のジェノブレイカーか。こりゃまた、ずいぶん珍しいな」
相手のジェノブレイカーとそのチーム名――チーム・シャドーの名を見て、ゼーガは怪訝な顔をする。
チーム・シャドーは大会の出場頻度は多くないものの、トーナメント形式での試合では優勝しなかったケースはほぼない。
唯一、準優勝に終わったのは、あるブレードライガー乗りのチームと決勝戦で当たった時だけだった。
他方で出場回数がゾイドバトル連盟の規定に達さない事からSクラスには上がれていない。主な構成パイロットは"R"を名乗る正体不明のジェノブレイカー乗りと、"L"を名乗る青いジェノザウラー乗り。
他の追随を許さない卓越した個の実力で圧倒する、今も尚謎多きチームだった。
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ゾイドバトル中継からは陽気なMCが響く。
「さぁブルーシティ在住の千二百万人のゾイドファン共、今日のマッチアップは激しく熱いぜ――」
そんな、熱を貯めるような言い方をと共に、パンと喝采と共に青チーム――チーム・ブリッツのバーサークフューラーが写される。
「青コーナー、チーム・ブリッツよりあの天才少年が駆るバーサークフューラーだ!!! そして赤コーナー……魔装竜、その赤き伝説を乗りこなす数少ないパイロット。正体不明、本名不明、不明尽くしの神出鬼没な大会荒らし――"R"の駆るジェノブレイカーだッッ!!」
その後に、赤チーム――チーム・シャドーのジェノブレイカーが出場する。
よく長々とした台詞を噛まずに言えるなとゼーガは思う。スタジアムの観客席の熱量は最高潮に達している。
無理もない。
かたやSクラスの天才少年フューラー乗り。
かたや神出鬼没の大会荒らし。
滅多に成立しないマッチアップなだけにゼーガ確かに納得するしかなかった。観客席は異様でありながら間違いなく過去最高の熱気に包まれている。
今回のバトルルールは非常に変則的で、互いに互いのチームから一機ゾイドを選んでソロと同様の形式でバトルを行うというものだった。
この形式はチームの事前調査やその場その場での対応力が求められる。
チーム・ブリッツが選んだのはジェノブレイカー。
チーム・シャドーが選んだのはバーサークフューラー。
奇しくも互いに選んだのはT-REXタイプだった。
バーサークフューラーとジェノブレイカー、双方ともにガイロス帝国においてT-REXタイプにおけるエース中のエース機だ。
間接的には因縁はあるが、長年この二機はどちらが優秀か論争がゾイドバトルファンたちの間でも絶えない間柄でもあった。
バーサークフューラーが、ジェノブレイカーが、両者ともにゲートから出場と共に脚部を踏みしめる。
「さぁ野郎ども覚悟はいいか――今日、またブルーシティのゾイドバトル史に新たな伝説が刻まれる!! レディー・ファイッ!!!」
まず先手を駆け出したのはバーサークフューラー。
工学的な見地からも明らかなとおり、ジェノブレイカーに比べバーサークフューラーはバックパックの装備の重心のバランスから機動性において勝る。
ゾイドバトル用のゾイドは多くの場合多種多様な改造を施される。
その中でこの二機は原設計から一切として装備の変更はなく、逆に異彩を放っていた。
複合兵装バスタークローが前方に突き出され高速回転しながらジェノブレイカーに襲い掛かるが、しかしフリーラウンドシールドで受ける角度を変えることでバスタークローを受け流す。
ほぼそれと同時にフューラーへ足払いをかけて体勢を崩し、エクスブレイカーを閉じて刺突を放つ。
だがフューラーもまた負けていない。
体勢を崩しかけたところで、スラスターの制御をマニュアルで行い体勢を立て直す。
杖代わりに地面に片方のバスタークローを突き刺しながら回転させ、ポールダンス染みた要領で全身をコマのように回転させながらもう片方のバスタークローを鈍器のように叩きつけて退ける。
この一瞬の攻防に、フューラー乗りのSクラスたる所以が示されていた。
ジェノブレイカーもまた、嬉しそうに雄たけびを上げながら頭部のレーザーチャージングブレードを前方に突き出す。
一進一退、ほんの一瞬の操縦ミスでそのまま勝負を持っていかれる――観客たちは息を呑んでいた。
だが、ジェノブレイカーがそこで立ち止まる。
低く唸りながら、首を低くするとその頭頂部には黒い、超小型のゾイド様の生物が立っていた――否、間違いなくそれはゾイドではあるのだが。
それはほぼ今では絶滅危惧種とも言うべき、それそのものが超小型ゾイドの形態をとるオーガノイドシステムだ。
……歴史上、ダミーではないオーガノイドシステムはX、Y、Zという三つの種類に分類される。
一般的な意味合いで使われる、かつてのデススティンガーやジェノザウラーに用いられたオーガノイドシステムはオーガノイド・タイプZだ。
タイプZの機能を限定的に再現したシステムはダミーオーガノイドといい、これは実際にゾイテックでもオプションとして市販されている安全性の高いシステムだ。
だが今このジェノブレイカー乗りが用いたソレは、ゾイドとの合体によってゾイドコアを協奏的に活性化させるオーガノイドシステムインストールデバイスだ。
それを差してオーガノイド・タイプYと呼ぶ。
原理としてはZiユニゾンやB-CASとも近しいモノがあるために研究者が注目するタイプではあるが、同時に個体数は極めて希少だ。
公式的に確認されているのはヘリック共和国の"白"、アーカディア王国の"灰"の二例のみに留まるが、いまここで"黒"が確認されることとなったことからも、これがどれだけの事態なのかは言うまでもないだろう。
"R"を名乗るパイロットはゾイドバトルにおいては少なくとも今の今まで、これを使った事がなかった。
それ故に観客ですら今眼前に起こっている現象が未知のものであり、同時に"R"は今の今まで文字通り本気を出していなかったのだと理解した。
そして、眼前のフューラーとフューラー乗りをそうせざるを得ないだけの相手だと認めたが故であることも。
幾何学的な光の軌跡を描きながら、その黒きオーガノイドはジェノブレイカーと合体を果たす。その瞬間に、ジェノブレイカーの眼光は赤から青に転じ、コア出力を跳ね上げた。
瞬間移動したかのようにスラスターの推力が上がり、フューラーの眼前に姿を現すとその爪で胸部装甲に爪跡を刻み付けた。
後ずさるフューラーを前にして、更に苛烈に容赦なくエクスブレイカーの刺突を放つ。
かわす暇のない、続けざまの刺突にバスタークローですらも迎撃が追い付かない。飽くまでもバックパックへの被弾は回避しながらもEシールドを展開するが、しようとするが、そのEシールドの内側に肉薄されると避け損なった一撃がフューラーの顔面装甲の右半分を砕き素体を覗かせた。
またしても観客が驚く。勝負が拮抗しているように見えてその実、底を見せていないのはジェノブレイカーの方だったと。
あのジェノブレイカー乗りが誰かなど、どうでもよかった。最高のゾイドバトルをする者が――Sクラスパイロットを打倒し得るゾイド乗りが今ここにいるという事実がまた観客を沸かせた。
間違いなく、それはオーガノイドと合体を果たしたジェノブレイカーの性能の差に外ならない。
普通であれば、カタログスペックとしてはフューラーは敗北必死だ――このフューラーが、ただのフューラーであれば。
かつてバックドラフト団がある海底遺跡より引き上げた一匹のティラノサウルス型野生体を下としたバーサークフューラーだ。
そのゾイドコアはこれまでのフューラーとは明らかに一線を画す。太古の惑星Ziに由来を持つ強靭極まる生命力、そして何より抜群の学習能力。
太古の惑星Ziの過酷な大気組成、生存競争を勝ち抜き続けた末にゾイドコアそのものを絶えず想像を絶する短期間でアップデートし続ける自己進化能力をその獣は獲得した。
だがゾイドコアに負担を強いるタイプZと異なり、そもそもこのフューラーの進化とは強靭極まる生命力を原資としている点において決定的に異なる。
並外れた適応能力と学習能力の由来こそが、ゾイドコア自己変革型オーガノイドシステム――オーガノイド・タイプXだ。
すなわち、観客は与り知らない事ではあるものの、このマッチアップはオーガノイド対オーガノイドの戦いであるとも言い換えられるのだ。
ジェノブレイカーの速度にバーサークフューラーは段々と適応していく。
それどころか未来予知染みた精度で攻撃を先読みし、エクスブレイカーの刺突攻撃を誤差数センチという精度でバスタークローで相殺していく。
そして撃ち合わせながら同時に、エクスブレイカーのアーム部の関節を狙いを定めバスタークローの超精密射撃が撃ち抜くとエクスブレイカーの片方をジェノブレイカーは失った。
それはフューラーの乗り手の技量も合わさり、まさしく本物の未来予測のようですらあった。
しかしそれでもジェノブレイカー乗りは一切として動揺を見せない。
使いようがないと判断した瞬間に自らの前方に盾のようにフリーラウンドシールドを構えてフューラーに突撃する。
元よりフリーラウンドシールド部は極めて堅牢であり、数発のビーム攻撃などでは到底太刀打ちできるものではない。
ウィングスラスターの速度も載せられた重鈍器としてフリーラウンドシールドを叩きつけられた。フリーラウンドシールドのアームはひしゃげ、こちらもまた使い物にならなくなった。
同時にバスタークローをクロスして真正面から受けたフューラーもバスタークローを損壊し、両者ともに奇しくも背部バックパックユニットの格闘装備を失った形となった。
だが、それでもなお二機のオーガノイド搭載機は猛る。
近接から、取っ組み合いをはじめ、次々と体勢を変えながらも互いの首筋にバイトファングの一撃を刻み込む。
それはもはや本当の野生同士の対決のようにさえも思えた。
ジェノブレイカーの頭頂部のブレードが首筋に叩き込まれる刹那にフューラーはそれを鷲掴みにへし折り、一歩も譲らない熾烈を極める試合展開だった。
そうして両者ともに装甲の4割以上を損耗し、また再び互いに直立で距離を開けながらにらみ合う。
フューラーはジェノブレイカーのオーガノイドとの合体の限界時間を察し、その上で荷電粒子砲で勝負を決めてくると読んだ上で、ジェノブレイカーはオーガノイドとの合体のタイムリミットを汲んだ上で。
脚部アンカーはその直後に両者ともに降りた。
直後に荷電粒子砲の構えを両者ともに取る。
示し合わせたかのような全く同じ行動――その直後に、会場は閃光に包まれた。
真正面からぶつけ合う、拮抗した荷電粒子砲のせめぎ合いが視界を白に塗りつぶす。
スタジアムの地面がめくれ上がりながらもしかし、先にパワーダウンしたのはフューラーだった。
その生命力を凌駕するほどにジェノブレイカーはフューラーを追い詰めた。
荷電粒子砲のせめぎ合いはついにジェノブレイカーが制し、バックパックを撃ち抜かれたことでフューラーはダウンした。
しかしそれと同時にオーガノイドの合体が解除されジェノブレイカーもその少し後に崩れ落ちる。
――勝敗の判定が下される。ゾイドバトル連盟の規定により、勝者はジェノブレイカー。
後たった一秒でもオーガノイドの合体解除が早ければ、フューラーが勝負を制していたかもしれなかった。
紙一重の、勝利だった。