ゾイド 白の名を背負う者   作:ゆぐのーしす

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赤き龍と白き虎

 

 フェイが講師としてブルーシティ大学へ派遣されてはや半月を越えるが、その間キャシー達は新型のブロックスの研究開発を行う事と成っていた。

 

 機体名はレオデストロイヤー。

 レオブレイズ、レオストライカーの流れを汲む、陸戦型ブロックスの最新鋭機。

 へリック共和国への提供も将来的には視野に入れるラインナップであるとのことでそれなりに重要度は高いプロジェクトだった。

 

 テストパイロットはやはりゼーガであり、テストルームでの性能テストでゼーガは慣らしから本格的な機動までこなしゾイドのコンディションの逐一を管制室のキャシーへと伝える。

 

「キャシーさん。また少し関節の動きが硬い、操縦桿に対するレスポンスを緩和してもいいと思う」

「はい、……これでどうですか? 幾分か操縦性の過度な応答が取れたはずです」

「ああ、よくなった。大分自然体に近いが今度は足のグリップが弱い、わずかだけどスリップしてる」

 ゼーガの言葉を頼りにリアルタイムでパラメータを遠隔から調整しながらプログラムを仕上げていくという芸当は管制室で隣で見ていたベリルや他の整備兵たちも舌を巻くほどだった。

 

 絶え間なくキーボードを打つ音が響き、モニターにはレオデストロイヤーの挙動を映し出している。

 リアルタイムでのパラメータ調整はキャシーだからこそできる芸当であるとも言え、実地でのゾイドのパラメータ調整についてはほぼフェイはキャシーに一任していたほどでもある。

 

「パラメータIDの五〇〇〇番台を全部一旦リセットして……係数を……、これはいかがですか?」

「不安定な足場での走破性が少しまだ悪い。ただ正規軍ならともかく売り物としてなら十分通じるレベルだよ」

 そんなコメントを残しながらスタート地点へとまた帰還してゼーガはコクピットから降りてくる。

 ヘルメットはわきに抱えながらスポーツドリンクを飲んで、駆け寄ってくるキャシーや他の整備兵たちと意見交換をする。

 

「ゼーガさん、お疲れ様です。レオデストロイヤーはいかがでしたか?」

「通勤用のゾイドにしたいぐらいには乗り心地がいい。ブレイズやストライカーと比べてもなんら見劣りはない、お上もご満足いただけるだろうさ」

「……あはは、さすがに通勤用にするなら自腹になりますよ」

 それまで、こうしたゾイドについての意見交換はフェイとはよく意見を交えていたが、キャシーとはあまり多くはなかった。

 だがキャシーはキャシーでフェイとはまた違った意味での天才であるとゼーガは理解させられる。

 フェイと比べてキャシーは「動きが硬い」であるとか「伸びが足りない」などといったパイロットの曖昧なニュアンスを明文化し、その解決策をパラメータや設計に反映させる事において抜きんでていた。

 無論ゾイドの基礎理論については言わずもがなであるものの、整備員の感覚的なコメントを聞いてそのゾイドの不調や原因を見抜く、という才格は間違いなく天性だ。

 こうした現場の声を定量化された数値へと"翻訳"するのはある種ゾイドのメカニックとして最も求められる資質であると言えた。

 

「フェイ教授はキャシーさんへの課題にはちょうどいいとは言ったが、教授に全く負けてないじゃないか」

「いえ、私などまだまだ。まだフェイ教授には意見を頂くことはありますが至らぬことばかりです」

 そういいながら通信用のケーブルを繋ぎゼーガや他のスタッフと喋りながらキャシーはパラメータの調整を続けていく。

 こうした超人的な資質を持つ技術者というのは大陸を見回せば絶対数としてはそう少ないわけではない。

 だが、そのような人物であっても環境如何では陽の目を見ないこともある。むしろそのケースの方が多いと言える。

 こうした事情を理解しているからこそキャシーはフェイの推薦に心から感謝をしている。

 

「なんだ二人とも、教授の事が心配か?」

「そりゃ心配だろ、一グループのリーダーが大学講師に飛ばされたんだぞ」

「私なら研究室抜け出して教授の講義聞きに行きたいと思うぐらいです」

 ベリルの言葉にゼーガとキャシーは二者二様にそう答える。

 ややキャシーの返答はズレてる節はあったが。

 

「一応、フェイ教授が大学講師やる羽目になってるのはワイツタイガーの開発計画が露呈してしまった事も兼ねてるんだとさ。一応ワイツタイガーという名前自体は流出はしちゃいないらしいが」

「そのワイツタイガー、そう言えばかなり難儀してるらしいな。他のテストパイロットは」

「……あー、そういやそんな話あったなベリル」

 こめかみをかりかりとすこしだけ人差し指でかきながらゼーガはため息をつく。

 ワイツタイガーは案件共々社長預かりとはなったものの――その経過が芳しくなかった。

 

 その話は往々にして社内に広まっていた。

 

 

 優れたパイロットはゾイドを選ばないが、ゾイドはパイロットを選ぶ。

 多くのゾイドがそれを証明していることであり、その実例が目の前で繰り広げられていた。

 

「お、わああああ!?」

 ワイツタイガーのコクピットで、あるテストパイロットはそんな叫び声を上げながら

 がちゃがちゃと必死に操縦桿を動かした。

 

 ワイツタイガーのプロジェクトは社長預かりとなり一時凍結となったものの、ワイツタイガーを遊ばせておくという選択肢はゾイテックにはなかった。

 その運びで白き伝説と謳われたゾイドに相応しい者は誰か――社内からゼーガ以外の選抜された他のテストパイロットが乗ることとなった時の話だ。

 一人目は喜び勇み防護スーツも無しに乗り込み、コクピットから解放された頃には床に黄色い吐瀉物を散らしていた。その様を見た者は、彼が昼食に何を食べたかがよく分かる有様だったと述べている。

 二人目は防護スーツを着て搭乗したはいいが、精神力がまるで持たずワイツタイガーに終始振り回された。仕舞いにはフェイ達の研究チームが意図的にアルゴリズムを改ざんした、バックドアを仕込んだ等と言われはしたがワイツタイガーの基幹プログラムには一切としてそのようなものはなかった。

 三人目は操縦を受け付けないのはまだしも、試験用環境である超巨大屋内試験施設の天蓋をぶち破ってしまった。補修費用はそれなりに高くつくらしい。

 

 ワイツタイガーを乗りこなせるパイロットとは超一流の証明でもある。

 つまるところ、フェイを大学講師にしている間にゼーガ以上に相応しいパイロットさえ見つけてしまえば、後はパイロットを介しフェイのチーム外からワイツタイガーに対しある程度の権限を得る事が出来る。それがワイツタイガーを我が物としたい他の研究チームたちの思惑でもあった。

 

 無論、そもそもとしてゼーガを別の研究チームへ転籍させてしまえばいいというのが当初の目論見ではあったし妥当だったが、これに関してはゼーガが真っ向から固辞した。

 

『ワイツタイガーを君は二度と乗れなくなるかもしれないがそれでもいいのか。何より君はゼネバス人のリーダーに顎で扱われているんだぞ』

 と問われれば、

 

「それを決めるのはテストパイロットやお偉方じゃなく、ワイツタイガーだ。そしてアンタたちみたいなのがへリック人の大人だと思うと、俺はへリック人の大人である自分の出自を恥じ入りたくなるぐらいだ。」

「なんであんたたちの言う"ゼネバス人"の下につくことが無条件で"へリック人にとって不快で不名誉な出来事"だと勝手に決めつけてるんだ」

 と返した。

 ワイツタイガーが望むのなら自分がパイロットでなくてもいい、という"ゾイド乗り"としての彼の模範解答は当初半ば鼻で笑われたし、フェイへの義理立てをも笑われたことに対して彼は心中が決して穏やかではなかった。

 付け加えてゼーガは苛立ちを隠す様子もなく彼らに「二度とこの話をしないと宣誓しろ」と言い放ち、そして彼らは笑ってそれを承諾した。

 しかし今になってゼーガのその言葉に、転籍を迫った者達はかつてないほどおおいに苛立たせていた。

 

 現実として、ワイツタイガーは他の並み居るテストパイロットたちを選ばなかったのだ。

 彼らとて決してゼーガに劣るような人物ではない。元軍属の人間もいれば、傭兵上がりの者もいる。

 元Ziファイターもいる。

 

 だが、その上でワイツタイガーは彼らを選ばなかったのだ。

 事実上、補助スーツ込みであるとはいえ今ワイツタイガーを乗りこなせるのはゼーガという有様だったのだ。

 

 ワイツタイガーに選ばれたことがまぐれではないと証明して見せろと言われれば、特注の補助スーツを着ながらだがワイツタイガーをある程度自在に操縦してみせた。

 依然、ワイツタイガーの意思が勝る有様ではあるものの、それでも彼らとは雲泥の差であることなど言うまでもない。

 

 社内政治の様相は未だ行方が知れない。

 

 そうして、そのような話をしばしばキャシーやゼーガ越しに耳に挟むことがフェイはあった。

 現状に安堵はできなかった。

 

 ワイツタイガーを取り上げられる事について懸想を抱いているわけではなかった。

 元より自分たちの仕事はワイツタイガーを完成させるまでの事でありその最終検査工程は皮肉にもあの襲撃事件を以って完了されたのだから。

 

「……やれやれ、君らしい。ゼーガ。優れたパイロットはゾイドを選ばないが、時としてゾイドはパイロットを選ぶという。その上で、ゾイドの意思に従う事もまたパイロットの一つの在り方なのだろう」

「そのゼーガさんという方、そんなに凄い人なんですか?」

「彼に限らず、テストパイロットというものは一癖も二癖もあるものだ。特筆すべきことはない」

 傍らのグレイに、フェイはそう会話しつつ書類を整理する。

 彼女の周囲には私物と言うものは至って少ない。彼女の在り方を投影するような殺風景さのある居室であり、訪問者もそう多くはない。

 彼女はその風貌と態度から周囲からある種の畏怖を少なからず買ってしまっている側面もあるだろう。

 

「学生たち、彼らは自由だな。ゼネバス人が、ガイロス人が、と出身に言及する人間がそう多くはないことに驚いている」

「若い子たちは文字や記録では知っていても戦争のリアルを知ることはないでしょう。国家の危機が自分の危機に直結するという経験がない限り、人はそう簡単に他民族や他国を嫌う事はありません。民族間の敵対心を植え付けるのは親の世代や分断を煽る政治家のような、典型的な"大人"達に外なりませんし人は生来、誰かを好んで憎むようには出来ていないものです」

「十年、戦後から十年だ。もう、この大地は十分に血を吸っている」

「とはいえど実際のところは私はヘリック共和国も、ガイロス帝国も、あまり個人の感情としては好きではありません。……かつて、アーカディア王国にファントム騎士団と共に攻め入ったのは彼らですから」

 グレイはそのように伏し目がちに述べる。

 フェイの知識も今日の歴史で知る限りの話でしかないが、ファントム騎士団がリークした情報によってヘリック・ガイロス両国はアーカディア王国に攻め入ったという。まちがいなく、グレイも戦中を知る者だった。

 

「……先生にとってあまり愉快な話ではないことは分かっていますが、それでも言わせてください。そうした意味で、私はネオゼネバス帝国やその前身のゼネバス帝国を佳く思いますし、少なくともヘリック共和国やガイロス帝国よりは親近感を持てます。アーカディア王国への侵攻に加担しなかったのですから」

「歴史の皮肉だ。ガイロス帝国のアーカディア王国侵攻はゼネバス帝国を滅ぼした後の話だからな。戦後、両国からの公式と賠償を受けてそれをアトレー王子は容れたが、それでも当時を恨むアーカディア人は決して少なくはないと聞く」

「国が国の行いを許したから、人が国の行いを許したことになるのかという事はまた別問題です」

 意外な話ではあると思った。グレイの語り口はいつも穏やかだが、へリック共和国とガイロス帝国の話を持ち出した今だけは、少しだけ怒気が込められた気がしたからだった。

 ヘリック・ガイロス両国に攻められた、という点に関してはゼネバス・ネオゼネバスとアーカディア王国は共通点だった。

 それから語気の険を解いて彼女は笑う。

 

「缶コーヒー、冷めますよ。先生の語り口はカップ麺が伸びてしまうぐらい長い事で有名なんですから」

「話が長いとはよく言われる。しかし徒に要点だけをかいつまむことも意図を歪める原因となる」

「ですね。私は、話が長いことを含めて先生の話は好きですよ?」

「ありがとう、ゾイテック以外では喋る相手がそう多くないのでな」

 

 

「……さて、そろそろゾイテックの連中は気づいたころか」

「どれだけ阿呆であろうと気付くだろう。世論は反ゼネバスに偏りつつあるが、その内実を知るのは連中だけだ」

 Zi-ARMS、その総帥レムはZi-ARMS本社の社長室で傭兵――サーペントとそのように語らった。

 

「何にせよ、俺に随分と面倒な試みをしてくれるな。わざわざエナジーチャージャー搭載機を事実上の投棄という形で放り出させるなど。もっとも、世間はそのせいでネオゼネバス帝国と新生テラガイストの関与を疑い始めている。お前の目論見通りだろう」

「君にはつまらない仕事を押し付けたな。手加減した上で負け戦を演じてエナジーチャージャーを置いて行ってもらうという試みは」

「手加減をしたつもりはない。負け戦を演じたつもりもな。ワイツタイガーのパイロットは強かった。あのパイロットについてはお前から受け取ったデータ以上の事は知らん。性能ありきではあろうがしかし、それでもまさかフューラーが負けるとはな」

「君をして、それほどと言わせるのか。かつてネオゼネバス帝国の傭兵集団の筆頭を勤め上げた君がか。……ふむ、厄介だな。事前のデータからではパイロットの真の力量までは見極められなかったか」

 目を細めてレムは息をつく。

 レムとサーペントはかつてネオゼネバス帝国に所属していたころからのある種の盟友関係でもあった。 

 傭兵としての利害の一致の結果ではあり、ある計画のために彼らは手を組んだ。

 

「……ゼネバス再興、そのために私は今まで全霊を賭してきた。今の服従を受け容れているネオゼネバス帝国を、私はゼネバスとは認めない」

「プロイツェンの真似事か? いやあるいは。お前はプロイツェンになりたいのか?」

「耳が痛い。つい、数年前に似たような事を言われたことがある」

「ゼネバス帝国がどうだの、偽帝ヴォルフがどうだのというスローガンは実のところ俺はあまり興味はない――真なるゼネバスの再興とやらも。だがお前の報酬には応える、その額面をお前の俺への正統な評価と受け取るのみだ」

 サーペントは至って無味乾燥に、そう言う。

 報酬を提示されたからこそ、その報酬分の働きをするのが傭兵の義理だと。

 

「仕事は断る権利はあるし、無論断ることが君の不利益にはならないよう配慮してるつもりだが」

「戦争が終わってからは傭兵業も干上がった。同業者は店じまいに追われる始末だ。金払いのいいところにつくのは当たり前の話だろう」

「ゾイドバトルは? 君の腕であれば小銭稼ぎと言わず、それこそかのアルコバレーノのように山のようにバトルマネーを築けるのでは?」

「好かん。戦争の道具を娯楽の用途にして矮小化するあのような嗜好は俺は嫌いだ」

 ゾイドバトルは所詮お遊び、等と言おうとしたところで、サーペントは言葉を呑んだ。

 そのゾイドバトルをかつて生業としていた者に、敗北を喫したからだ。

 傭兵という、戦争に依存した業態は終戦を迎えるとともに次第にすたれていった。

 今は用心棒という業態やゾイドバトルの舞台にシフトしつつあり、それもまた時代の流れの一つなのだろうとサーペントは思う。

 他方、彼はそんな時流への迎合を選ばなかった。一定数、彼のような者もいる。

 戦争において、破壊とは忌避ではなく栄誉となる。戦いの中でこそ己の存在価値を自覚できる、そうした戦争そのものに依存する人種も決して少なくはない。

 あるいは彼もその一例だろうか。

 

「真なるゼネバスの再興、というにはあまりにも寂しいものだ。水面下で何人かネオゼネバスの有力者に接触したらしいが」

「散々だったとも。デルダロス少佐には振られたし、エリウス大尉は今はZiファイターへ転身している。特にエリウス大尉の腕前は未だに衰えていない、あのチーム・アルコバレーノとの試合は実に見ごたえがあった」

「お前の個人的評価はさほど興味はない。俺が気になるのは"社長"、次の一手だ」

「――あるとも」

 うっすらと、レムはそう笑って、突然、社長室の天井を指さす。

 

「いつだとて空から、恐怖は訪れるモノだ。そして、問いかけるだろう。――決断をせぬ以上に己を深く後悔させることはない、と」

 

 

 超上空に、突如ヘリック領空及びブルーシティはゾイドの反応を検知した。

 

 ドラゴン型ゾイドのかすかな機影はほぼ同時にゾイドバトル連盟の人工衛星も確認した。

 謎の所属不明機はまっすぐただ、ブルーシティを目指して向かっていく。

 

 ブルーシティ中にけたたましい防空サイレンの音が響く。

 

 雷鳴を響かせながら、ただその龍は地上を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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