この作品を見てる人がどれぐらいいるかは分かりませんが、見るとちょこっと楽しめたりするかもしれません。
「ZiユニゾンとB-CASの違いとは何か、か。悪くない質問だ」
デカルトドラゴンの襲来より時は少し遡る。
フェイは講義が行っていた真っ最中の話であり、Ziユニゾンやチェンジマイズといった事についての講義を行っていた時に出た質問だった。
「へリック共和国ではライガーゼロフェニックスを単体としても制限時間なく運用しているが他方、チームマッハストームのRD選手のかつてのライガーゼロフェニックスはなぜ制限時間があるのか、という話でもある」
「はい、先生。コアの共振による乗算での出力向上はB-CASもZiユニゾンも同じはずなのですが、どうして後者には合体の制限時間というものがあるのですか?」
「まず、B-CASとZiユニゾンとでは根本的にゾイドコアのオペレーションシステムに差異がある。B-CASは運用段階から決められたゾイドとの合体を想定し、そのためにゾイドコアやコアゲノムを調整されている。そのため合体時のゾイドコアの負担は相当に抑えられている。チェンジマイズはこれは単純にゾイドの生体パーツの一部を別のゾイドに武器として装備する、という形態でありB-CASやZiユニゾンとはまた異なる」
フェイはそう、スクリーンに共和国軍機のライガーゼロフェニックスとかつてチームマッハストームで運用されていたライガーゼロファルコンを映し出す。
さらにそこから方程式をかつかつとホワイトボードに書き出していく。
書かれている方程式の意味は、ユニゾンする双方のゾイドコアのゲノム整合率によって導き出されるユニゾン限界時間の理論値だった。
「しかし他方、B-CASというものは規格に合致するゾイド同士での互換性に特化し運用性を上げている。Ziユニゾンはその点、一切調整を行われていないむき出しのゾイドコア同士の共鳴現象だ。合体によって得られる出力の上昇幅はB-CASのそれを凌ぐが、その代償として合体したゾイドのコア間での競合・衝突現象が起きる。これがZiユニゾンが時間制限を持つ理由だ」
「たしか、かつてピアーズ博士は理論上はどのゾイドでも何かしらのユニゾンはできるという話をしていましたよね。つまりは、あらゆるゾイドとユニゾン出来る利点がZiユニゾンにはある、と?」
「明察の通りだ、理論上はそう言うことになる。天然か人工かの違いとも言い換えられるだろう。しかし他方で同じゾイドでもZiユニゾンの組み合わせ――あるいはそもそもZiユニゾンができるのかという事はゾイドコアによって異なってくる。チーム・ブリッツのビット・クラウド選手のライガーゼロは現存するあらゆるゾイドとのZiユニゾンを拒んだらしい。未だに奥深い世界だと言えるだろう」
学生たちは皆、フェイの長話には少しだけ苦笑いしながらちゃんとノートを取っている。
フェイの講義は実のところ、そこまで堅苦しい雰囲気ではないことはおぼろげながら学生たちは理解し始めていた。
大体の質問には真面目に答えるし、年代としては普通の教授陣と比べて圧倒的に学生に近いということもある。
しばしば、学生のゼミに参加することもあれば、個人的な相談にも応える。
「セイスモサウルスとウルトラザウルスはどちらが好きですか?」
などと、個人的な嗜好について聞かれれば、
「ウルトラザウルスの管制指揮能力は現在の水準でも通じるモノだ。同時に複数機の管制補助ゾイドとの併用を前提としたセイスモサウルスの運用システムはウルトラザウルスやデストロイヤー兵団の運用システムに少なからず影響を受けている。これはへリック共和国の一種の技術的芸術と言えるだろう。随って、私はこの場合ウルトラザウルスと答えたい」
とそのように大真面目に息継ぎなしで答えるし、隣で助手兼秘書をしているグレイも若干苦笑いしていたりもする。
「先生はキメラブロックスの開発に携わっていたそうですが、キメラブロックスは通常のブロックスとチェンジマイズした場合何が起こりますか?」
と問われれば、
「これについてはかつてネオゼネバス帝国でも研究が行われた。通常のブロックスがキメラブロックスに影響されてコアのゲノム情報に不可逆性の変異を齎された。結果として、そのようにして"汚染"されたゾイドコアは自己ゲノム編集パラメータを書き換えられ、キメラコア同様に無制限に自己ゲノム書き換えを可能となる――つまり、キメラコア化することとなった。このオーガノイドと同等の自己増殖の危険性も戦後、キメラブロックスが条約により即時解体・研究封印となった要因の一つだ。……これは私の研究者としての倫理の未熟と傲慢がために起こったと考えてもらって構わない。言い訳の仕様はない」
と平静こそ装いはするが心底から落ち込んだような表情をしながらそう答えて生徒は不味い事を聞いたという顔になってしまった。
決して鉄面皮というわけではない、彼女の態度に次第に任期つきである事を惜しむ学生もちらほらとみられるようになった。
そんな講義の最中、突然学内にサイレンが響く。
それも普段では聞く機会はほぼない、防空サイレン――ブルーシティ上空にゾイドが現れたという事実だ。
緊急速報を受信し鳴動する端末には、未確認のゾイドがへリック共和国の領空を侵犯しまっすぐブルーシティへと向かっているという情報が入っている。
それと共に講義に訪れていた学生は騒然となり学内があわただしくなる。
当たり前だ。今はもう戦後だ、防空サイレン等鳴り響くはずがない。あわただしく、学内からは人流が波打って渋滞となる。
最初は学生のだれもが最初サイレンの意味そのものを理解できていないほどに、もう戦争は今の時代には無縁となっていた。
だが、意味を理解した途端に彼らは騒然とした。
「――皆、決して焦らないように。避難誘導に従い大学敷地内のシェルターに避難するんだ」
フェイはあわただしくなる学生たちを制するようにそう伝え、それから避難を開始する。
誰が領空を侵犯したのか。それは定かではない。
どこの所属機が領空を侵犯したのか。それも定かではない。
今分かることは避難行動をとるべきであるという事だけだ。学内放送で避難指示が出ると皆一斉に教室を出ていく。
そうして自分たち以外に教室に誰もいなくなったことを見届けるとフェイはグレイを見やりながら言う。
「グレイ、学生たちの引率は君に頼む。私はいかなければならない場所がある」
「……ゾイテック、ですか?」
「……あぁ」
そうとだけ、フェイはグレイに言って聞かせると、フェイは仕方ないですねと困ったように笑いながら引き受ける。
ゾイテックに戻って何をするのかはグレイには計り知れないが、それでもその命令は彼女は受け取った。
「承りました、先生。しかし先生の通勤用ゾイドでは遅いでしょう。特にウネンラギアではなおさらに」
「……?」
そう、言うとグレイは何かの鍵を投げて渡した。
それはグレイ自身が普段通勤用に使うゾイドの起動のためのキーだった。
「使ってください。私の通勤用のシンカーがこの実験棟の屋上にあります」
「恩に着よう、グレイ」
/
ブルーシティの晴天に雷鳴が響く。
蒼穹の遠く彼方に、赤い龍は咆哮する。
航行速度は依然変わらずヘリック共和国の防空網さえ突っ切り、まっすぐブルーシティ――その中枢たる、ゾイテックの研究施設へと飛翔する。
へリック共和国の防空体制をもすり抜け、その過程でストームソーダーを翼で切り刻んで捨てた。
ゾイテックは騒然となった。
明確に、そのゾイドはゾイテックへと舵を向けていた。
何人か、空戦専門のゾイテックのテストパイロットたちが出撃したがまるで相手にならなかった。
ゾイテックのハッチから改修型のライガーゼロフェニックスが出撃する。
旋回性能も速力も、決して負けていない。
「――往くぞ、
改修型ライガーゼロフェニックス――改めゼロフェニックス
名をイサオ・トウドウという。
風変りな陣羽織風のパイロットスーツがトレードマークであり、また彼の父はかつてレイ・グレッグと共に閃光師団――そして懲罰部隊を経て生き残った歴戦の古強者であるという。
赤と黄にカラーリングされた
紫電を纏いながら刃と化した翼をゼロフェニックスへと肉薄させるが、真正面から寸分違えば撃墜されていたであろう精度で、レーザークローをかち合わせて凌ぐ。
その技量に、デカルトドラゴンのパイロットは静かに息を呑む。
「ゾイド乗りであれば名乗るべき名もあろう、だがそれだけの腕を持つ者を我は知らぬ」
「……今から撃墜される相手が覚えていても無駄な話よ。ゼロフェニックスのパイロット。」
「果たして撃墜されるのは――力量を試しているのがどちらなのか、見誤らぬことだ。若き者」
背面飛行、からの急降下で体勢を反転させれば、プラズマディスチャージャーの電撃を舞うように交わす。
かと思えば鉛直に急上昇し、デカルトドラゴンの上を取り射撃を放つ。
ドッグファイト、格闘、射撃――ゾイドの総合格闘技の様相すら呈しながら彼らは戦う。
ゾイテック本社のはるか地上で二機は対峙しにらみ合う。
だが、他方でイサオは性能差もよく理解していた。
マグネッサーフライトシステムに供給できるコア出力がデカルトドラゴンは段違いだ。
惑星Ziの重力に逆らって超高高度を航行してここまで襲来したのだ、コア出力の配分効率が桁違いなのだ。
電源や熱源が己の能力を超える設備を動かすことが不可能であるようにゾイドの航行、エネルギー兵器に回せるコア出力はその配分を考えなければならない
当然それは多くのZiファイターにとっては必修科目同然の操縦技術であり、したがってゾイドへのエネルギー配分を考えた場合デカルトドラゴンは間違いなく規格外のスペックを有していた――その航行能力に割ける限りのエネルギーを割いて尚、火器に十分な出力を配分できるほどに。
ゼロフェニックスがそのコア出力の七割近くを今航行能力に回しているにもかかわらず、デカルトドラゴンは何ら苦もなくそのスペックに対応し、更には重火器を取り扱う余裕すら見せている。
性能差の隔絶をイサオはよく理解してながら、同時にデカルトドラゴンへの反撃の機を鋭く窺っている。
そのイサオの技量をデカルトドラゴンのパイロットも理解していた。
「改修型ゼロフェニックス、か。舐められたものね、ゼロファルコンであればまだ勝機はあったと思うのだけど」
改修型ゼロフェニックス――ゾイテックが所有する試験機の一機であり、ZiユニゾンではなくB-CASによる合体を主体としていながら今の世代の水準まで性能を引き上げたゾイドでもある。
前脚部に備え付けられた大型のザンスマッシャークロー、翼部から展開できるレーザーチャージングブレードはゼロフェニックスからの大きな変更点であるともいえるだろう。
ゼロファルコンとゼロフェニックスの双方の運用性を高度に融合した空陸両用ゾイド、それがライガーゼロフェニックス零凰だった。
「ダイビング、レーザークロー!!」
アイアンコングクラスでさえ一撃で沈めかねないザンスマッシャークローが、デカルトドラゴンの電磁爪が交錯する。
それでもなお互いに相打ち気味に弾き合っただけに過ぎず、致命打を与えるには至らなかった。
相当に速度を載せた一撃であるにもかかわらず、ザンスマッシャークローは軋び、デカルトドラゴンの電磁爪は一切無傷だ。
ジェット機とレシプロ機が綱引き勝負をするようなものだ。まるで勝負になっていない。
性能差に由来する劣勢には誰が見ても明らかだった。
デカルトドラゴンのEシールドにはエネルギー兵器が通用しない。
頼みの綱であったチャージングミサイルを放っても尚、それすらもEシールドで真っ向から撃ち破られた。
ゴジュラスギガのゾイド核砲の一門に相当するはずのそれすら、易々耐えきられた。
絶望――そう言うほかなかった。
だが、その爆炎を
爆炎を纏いながら飛び込むゼロフェニックスはまさしく
その代償として、右前脚のザンスマッシャークローは足首ごと持っていかれた。
「……チャージングミサイルさえも囮に――!! ちっ、エレクトリックディスチャジャー!!」
左脚のザンスマッシャークローが続け様に一閃するが、エレクトリックディスチャージャーの光芒に焼き尽くされる。
零凰の片翼ごとエレクトリックディスチャージャーが焼き尽くせば、その推力を失い崩れ落ちていく。
イサオの腕でさえ一手差し切るには及ばなかった。
力量に不足はなかった。彼に敗因があったとすればそれは残酷なまでにシンプルで、単純な機体性能によるものだったろう。
マグネッサーシステムによる航行能力を失い崩れ落ちていく零凰にデカルトドラゴンのパイロットは心胆をようやく落ち着けることができた。
間違いなく、このゼロフェニックスのパイロットは強かった。だが、結果は結果だ。
そしてデカルトドラゴンのパイロット――彼女の本当の標的はゼロフェニックスではない。
「――で、あろう。手筈通りよ"白虎"のパイロットよ。そちらの準備までの時間は稼いだとも、……行って参れ」
『恩に着るよ、サムライ・イサオ。あとで何か奢らせてくれ』
「応とも、高くつくぞ」
突如地上から一筋の白い閃光が天を裂く。
縦横に空を舞い、その背でゼロフェニックスを抱かえながらそのゾイドはデカルトドラゴンを睨む。
――惑星Ziの白き伝説。
ワイツタイガーの調整と起動、そして発進が終わるまでの時間を、ゼロフェニックスは稼いだ。
稼ぎ、そして今この場に繋げたのだ。
ワイツタイガーが、その怒れる眼にデカルトドラゴンを映していた。
●ライガーゼロフェニックス・零凰
パイロット:イサオ・トウドウ
最高速度:400km/h
主装備:
改良型ザンスマッシャークロー
ハイチャージングミサイル
小型2連ビーム砲
AZ208mm2連装ショックカノン
翼部搭載型レーザーフィンブレード
共和国軍機としてのライガーゼロフェニックスをベースとしての改修型ゾイド。
ライガーゼロファルコンの装備を一部転用しながら、ファルコンとフェニックスの双方の運用性を落とし込んだ機体。
格闘戦はゼロファルコンから継承されたザンスマッシャークローとレーザーブレードを主眼とし、過度な格闘装備は持たせず運動性を重視している。
戦後相当の技術力による改修でコア出力はオリジナルの開発当時より相当に向上している。
勿論、分離合体機構も確保はされており、零凰から離脱することによってフェニックス改式・鳳となる。
ネーミングセンスについてはこれは搭乗者の影響が大きい。
●イサオ・トウドウ
へリック共和国の中でも東方に近い地域の出身。
閃光師団を経て懲罰部隊を生き抜いてきた父を持ち、レイ・グレッグを尊敬する。
サムライかぶれな言動に見合わず、ゾイド操縦シミュレーターを用いたゾイド操縦の世界大会(この世界ではそのゲームの事を「ゾイドバーサス」と呼ぶ)においては本選進出の常連組という筋金入りのゲーマーであり、本人もゾイテックに所属する前は元Ziファイターだった。
奇抜な出で立ちの専用のパイロットスーツは彼の嗜好に合わせたものである。
ゼーガとは面識そのものはあるが、ライオン型と虎型のゾイドはどちらが強いかという議題において半ば口論となり、シミュレーターで決着をつけようという話になった際に最終的に34対35で僅差で勝ち越した。この小競り合いは現状も継続中である。