地上にゼロフェニックスを下ろした後、轟雷のような咆哮を上げてワイツタイガーがデカルトドラゴンを睨み相対する。
マグネッサーフライトシステムによる航行でデカルトドラゴンを追いすがるワイツタイガー。
ハイパーエレクトロンキャノンが一閃するとEシールドを紙切れのように引き裂く。
「……デカルトドラゴンさえ凌駕する、これだけの破壊力。さすがは白い伝説といったところかしら」
デカルトドラゴンを追いすがるワイツタイガーが、飛翔翼を兼ねたエレクトロンブレードによってレールガン弾頭を引き裂く。
今、デカルトドラゴンを討つためにワイツタイガーとゼーガは心を一つとしていた。
コアの定格出力の三割でさえデカルトドラゴンの性能値に肉薄する。
エレクトロンキャノンの一閃がデカルトドラゴンのEシールドを引き裂く。
Eシールドの力場形成のために回したコア出力はデカルトドラゴンの四割近い。それでもなお、易々と紙切れのように引き裂いて見せる。
今度は一転して、デカルトドラゴンが挑戦者の立場となった。
ワイツタイガーのそのコアの白い輝きが、胸から漏れながら更に速度を上げて飛翔する。
迎撃用のレーザー機銃をかいくぐり、エレクトロンディスチャージャーを一撃にハイパーエレクトロンキャノンを撃ち込んで威力を相殺する。
常識を超えた出力、破壊力――そしてそれはワイツタイガーの全てではない。
「もっと、もっとだワイツタイガー……!!」
更に加速していくワイツタイガーの速度に、辛うじて振り落とされないようについていきながら、直上に急上昇していくデカルトドラゴンを追いかける。
だが相手もさるもので偏差射撃をかいくぐりながら空中戦を演じていく。
元々、ワイツタイガーの空戦能力は「陸戦型ゾイドとしては」のくくりでは高いだけであって、設計上、本職の空戦ゾイドと比べての航行能力は乏しい。
一度高度を上げられてしまえば、手だしができなくなることが分かっていたからこそゼーガも同じく食らいつく。
空力の制御系を最大限に稼働させながら、相対距離を縮めていく。
機影が弧を描くように交錯し何度も何度も火花を散らす。
爪が打ち合わされるたびに凄まじい衝撃をデカルトドラゴンは受け止め、電磁刃の翼が交錯すればすさまじい放電音を巻き起こしながら鍔ぜり合う。
一歩もワイツタイガーは譲らない。何たる破壊力、生命力だろうか。
ワイツタイガーの攻勢を正面から受けきるにはデカルトドラゴンでさえも躯体が軋む。
攻撃を受け流しながらも今度はデカルトドラゴンが反撃の機を窺う立場になった。
尚もワイツタイガーは航行速度を引き上げる。成層圏に達したら今度こそ手出しができなくなるのだから。
「無意味に逃げるだけだと思ったかしら――!!」
「そんなもの、知ってんだよ!!」
進路を急反転させてデカルトドラゴンは正面からワイツタイガーと格闘戦に臨んだ。
だが、ゼーガはそれを読んでいた。全霊かけた体のぶつけ合い。
いささかに分が悪かった。ワイツタイガーは真っ向からデカルトドラゴンの電磁翼を引き裂き、返す航路でデカルトドラゴンのバックパックユニットに牙を突き立てる。
『っ、システムがダウン……! 推力が保てない……!!』
「ワイツ、そのままだ! そのまま突き破れええぇぇぇ――!!」
牙を突き立てるワイツタイガーだったが、その牙が最後まで届くことはなかった。
突如として、ワイツタイガーの胸部が白い輝きを放つと同時に警告のメッセージでコクピットのモニターが埋め尽くされる。
コア出力が危険な水準まで到達した事を知らせるアラートと共にワイツタイガーが呻きだす。
「――、抑えてくれ、このままだと……!!」
赤い警告のインジケータがモニター中に表示されてワイツタイガーのパワーがダウンしていく。
コア出力を躯体が抑え込めなくなっているのだ。
その不調を目敏く感じ取り、機首を再度翻しワイツタイガーを振り払うと、デカルトドラゴンの胸部に紫電が走る。
雷鳴と共に一筋の閃光と稲光が空を裂く。
地面を目掛けて堕ちていくワイツタイガーに照準が向けられていることは言うまでもない。
エレクトリックディスチャージャーの一撃は例えワイツタイガーでもまともに命中すれば無事ではすむまい。
コアの共振と共に跳ね上がる出力の下に、デカルトドラゴンの雷鳴の一撃が奔る――その刹那だった。
『……今、ここでやめろというの? 目的は果たされた、ゾイテック社長の身柄は確保した――? ……分かった、兄さん』
不意に、その出力は抑えられてデカルトドラゴンの追撃は止んだ。
地面にたたきつけられるワイツタイガーは尚も呻き苦しむように胸から白い輝きを漏らしながら身もだえしていた。
四五、五〇とコア出力が刻々と上昇している事など言うまでもない。ゼーガは何時まで経っても訪れない追撃に怪訝に思ったが、その次の瞬間には突然通信が入った。
『ゼーガ! 今君は無事か!?』
「思ったより無事じゃない……、あと一歩だった。すまない」
『いい、君が無事なら今はそれでいいんだ。……今、話を聞いていられる状態か?』
「敵のゾイドが突然行動をやめた。理由は分からない」
『……それは本当か。だとしたら不味い。……君に今から大事な事を伝えよう、驚いてもいいが、ちゃんと聞いてくれ』
通信の相手はフェイだった。普段からは想像のつかない取り乱しようだったが、その理由は一概にこの襲撃だけではなかった。
フューラーの襲撃の際でさえここまで彼女は取り乱しはしなかったのだから。
その理由も、間もなく明らかとなった。
『つい先ほど、テラガイストから声明があった。……ゾイテック社長が、テラガイストに誘拐された。そして、彼らは社長の身柄の安全と引き換えにワイツタイガーとそのパイロットの引き渡しを要求しているんだ』
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デカルトドラゴンの襲撃、その最中に事件は起こった。
ブルーシティ中の放送媒体がジャックされ、殺風景な部屋の中椅子に座らされたゾイテック社長と、そのこめかみに銃を当てる数人の覆面の男たちが映っていた。
犯行声明、どころではない。
大事件だ。
『ブルーシティの賢明なる諸君、我らはゼネバス解放戦線――新生テラガイストだ』
そう、男の一人は言う。
『さて、ここで問おう。今日、へリック共和国がネオゼネバス帝国を討ったのは何故か。……それは間違いなくこのゾイド研究企業ゾイテックによるものが大きいだろう。そして今やゾイテックは事実上の軍隊すら有している。ゾイテックの野望は収まるところを知らず――そしてついには禁忌たる惑星Ziの白き伝説をその手に掴んだ』
そう言うとともに、映像が差し替えられて今度はワイツタイガーとデカルトドラゴンの戦闘の一部始終が映し出される。
高揚と狂気を孕ませながら尚もその男は言う。
「我等の母なるゼネバスの大地を、今やゾイテックはへリック共和国と共に再び脅かそうとしている。その尖兵として伝説のゾイドを復元し、ワイツタイガーを創り上げた。へリック共和国のさらなる軍拡、その謀略の一端を彼らは担っている。到底許されるべきものではない、――故にゾイテックには代償を払ってもらわねばならない」
ゾイテックの社長――白髭を生やした初老の男のこめかみに銃を当て、彼らは引き金をゆっくり引く。
「敢えて言おう。これは脅迫ではなく、そして交渉でもない。……ワイツタイガーとそのパイロットを、我等テラガイストが貰い受けよう。それを邪魔しないのならば、この男の命は保証しよう。しかし邪魔するようならば――」
言って、男は社長の額から銃口をずらし、地面を目掛けて銃を撃った。
耳を裂くような轟音が響き、それからまた続ける。
「――この男の命は、それまでだ。賢明な判断を期待している」
そして、ほぼ同時にワイツタイガーを目掛けてデカルトドラゴンは電磁アンカーを射出する。
ゾイド捕獲用に用いられるそれだ。
くまなくワイツタイガーの四肢に纏わりつくと、電撃と共にワイツタイガーは更にもだえ苦しむ。
地面に引きずられながら、徐々にワイツタイガーの体は地上を離れていく。
「クソッ、ふざけるな……!! どこに連れていく気だクソッタレ……!!」
『答える義理はないわ』
ただ、デカルトドラゴンのパイロットはそう言うのみだった。
『ゼーガ、せめて君だけでも緊急射出を――』
「そうしたいのは山々だけどダメだ博士、システムが完全にダウンしてる……!! 」
ゼーガの操縦すら、今のワイツタイガーは応じるだけの余力がなかった。
ワイツタイガーを遥か上空に連れ去っていくデカルトドラゴンを、誰も追撃することができなかった。
ゾイテック社長を盾に取られている以上は、絶対に。
『ゼーガ!! だめだ、それだけは! 君だけは絶対に――!!!』
通信も、ジャミングと共に打ち切られた。
空の中でただ、ワイツタイガーとゼーガは孤立し、連れ去られていく。遠く、遠く。どこまでも。
何も、出来ることもなく。