中央大陸、ひいては惑星Ziの覇権を賭けたネオゼネバス帝国とへリック共和国の戦いは、実に壮絶を極めるものだった。
始まりはへリック・ゼネバス兄弟の対立だった。
そこからへリック共和国、ゼネバス帝国の血で血を洗う戦いが起こる。
その最中にゼネバス帝国は頼ろうとしたガイロス帝国に裏切られ、ガイロスにその国体を吸収された。
もはやそこにはゼネバス帝国の介入できる余地はなく、へリック共和国とガイロス帝国の戦いへと変容していた。
ゼネバス国民というだけで彼らゼネバス人はガイロス人からも、ガイロスという国からさえも排斥をされ続けた。
ゼネバスハンター、などという組織がかつて存在していた事は終戦を経た今でも尚ガイロス帝国はその存在を認めようとはしないだろう。
総じて、ゼネバス人の歴史は悲しみと怒りの歴史と言い変えられる――ガイロス帝国宰相ギュンター・プロイツェンが反旗を翻すまでは。
ガイロス帝国に裏切られた無念の中で客死を遂げたゼネバス帝国皇帝ゼネバス・ムーロアの息子。
それがプロイツェン――ギュンター・プロイツェン・ムーロアの真の出自だった。
ムーロアの名を秘し、蜂起のその時までガイロスの臣としてふるまうしかなかった彼の胸中は誰にも理解はできないだろう。
プロイツェンは蜂起と共にガイロスから独立しゼネバスを再建し、ネオゼネバス帝国を名乗った。
そして我が子ヴォルフ・ムーロアに全てを託し、彼はへリック共和国とガイロス共和国の総戦力を道連れにすべく共々にデスザウラーのコクピットを枕にして自爆を遂げた。
こうして、事態はヴォルフ・ムーロア率いるネオゼネバス帝国とへリック・ガイロス連合軍の全面戦争に突入した。
緒戦こそはネオゼネバス帝国が優勢を誇りはしたが、幾度かの戦いを経てネオゼネバス帝国の敗北と両国の和平を以てその戦いは幕を下ろした。
当時のネオゼネバス帝国皇帝ヴォルフの駆るエナジーライガー、共和国のレイ・グレッグ駆るライガーゼロファルコンの一騎打ちは、伝承に尾ひれがついて和平のその十年後においても語り継がれている。
ネオゼネバス帝国は戦勝者たるへリック共和国でさえ、これを解体するにはあまりにも巨大で強大に過ぎた。
故に国民感情と矛盾する事を承知の上で、へリック共和国は解体は望まなかった。
こうして、ゾイドたちは長きにわたる戦乱から解放された。
その過程で生まれたブロックスゾイドは戦後復興のための重機や輸送機代わりとしての役割を果たした。
ゾイド研究企業たるゾイテックの当初の理念はゾイド製造技術の平和利用であったとされ、この点に関してようやくゾイテックは本懐を成し遂げられたと言うべきだろう。
そして私は――フルーゼ・フェイは、ネオゼネバス帝国の技術者を母に持つゼネバス人だ。
戦争のさなかに母と共に疎開地に移った私は、当時のゾイドの事と非常に近しい日々を過ごしてきた。
父はパイロットであったらしいが、私が物心つく前に亡くなったという。
幼いころの私に友人と呼べる存在はそう多くはなかった。幼少期から母と一緒にゾイドと身近な環境で過ごしてきた。
自惚れを許してもらえるなら、私はいわゆる神童、と呼ぶべき人物であったと思う。
キメラユニットのコンバットアルゴリズム改良、無人操縦技術の開発、チェンジマイズシステムのコアゲノム整合技術に私は携わっていた。
キメラブロックスは、人間の都合による典型的な犠牲者だと言えるだろう。
人造ゾイドコアを用いて人の都合によって生まれ、そして人の都合で使い捨てられるゾイド。
……分かってはいるつもりだった。ネオゼネバス帝国は国力こそ確かに当時のへリック・ガイロス両軍を上回りはしていたが、その実パイロットの多くを欠いていた有様だった。
そうなった場合工業的に量産でき、かつ人間の操縦を必要としない戦力が要求された。
故に、東方のゾイドで研究企業であるゾイテックにネオゼネバス帝国は恫喝的にブロックスの供給を迫った。
完全人造ゾイドコアによるゾイド製造技術は、ゾイテックの専売特許とも言うべきものだった。
それだけにネオゼネバス帝国はその技術が喉から手が出るほどに欲しかったのだろう。
……私に生涯の過ちがあったとすれば、このキメラブロックスにある。
キメラブロックスは、ゾイテックのブロックス技術の解析こそ、当時十二歳だった私が携わった仕事だった。
私はこれが、戦争を終わらせるためだと聞いていた。実際それは、部分的には決して誤りではなかったろう。
それ以上に、私は私の実力を試してみたいという好奇心が勝った。
幾重にも及ぶゾイドコアのリバースエンジニアリングの末に、ブロックス中枢のコアゲノムプロテクトの解除に私は成功した。
これによって人造ゾイドコアの疑似ゲノムの融合制限を撤廃し、捕食することで他のゾイドの優れた形質・部位を取り込めるようになった。
即ち、キメラブロックスの誕生の瞬間だった。
それが成された時、誰もが私を祝福してくれた。
君がネオゼネバス帝国を救った、と。私の母も、私の頭を撫でて喜んでくれた。
時の皇帝、ヴォルフ・ムーロアからも直々に歓待されたことは私は今でも栄誉だったと思っている――例え、私の研究が後の悲劇を招くとしても。
次々と製造され出撃していくキメラブロックス達は、その多くが戦場から帰ってくることはなかった。
大量生産と大量消費。現代文明の業と言うヤツの縮図がそこにはあった。
キメラブロックスの残骸の山に、私は私の過ちを悟った。
こんなことを、私は望んでなんかいなかった。
こんなことのために――無為な鋼の屍を築くために私は研究をしたわけではなかった。
簡単に製造できる命なら、使い潰しても許されるというのか。そう叫ぼうとして――けれど当時の私は悲しいまでに賢し過ぎた。
自分のやった事がキメラブロックスの死を量産する事に繋がっている事実を誰よりも理解していたからこそ、私は何も言えなかった。
キメラブロックス達を死地へ見送る事しかできなかった。
そうして終戦を迎えた。ネオゼネバス帝国は敗北して、私の戦争も終わった。
キメラブロックス達の死は無為だったのか。結論から言えば、ネオゼネバス帝国の勝利という結果にはつながらなかったと考えるなら無為だったという他ない。
二度と、私はゾイドの命を弄びはすまい。
その鋼に宿る、電子で創られた命のために。
それが戦後、ゾイテックに技術者として引き抜かれた私が立てた誓いでもあった。