ワイツタイガーが、倉庫をぶち破り空を滑空しながら、ゼーガの身を挺するように眼前に着地する。
デススティンガーとにらみ合いながら、ワイツタイガーはゼーガにコクピットに乗れと無言で首を垂れた。
すかさず乗り込めば、ワイツタイガーは目に眼光が灯る。
「デススティンガー、か。一企業が持っていい軍事力じゃないだろ」
「それはゾイテックにも言える事だろう――!!」
サーペントの駆る改修型デススティンガーは、前腕部のエクスシザースをかざすとそこから砲門が現れる。
同時に荷電粒子砲の輝線となってまたしても基地を走る。
小規模の火力だが、それでもワイツタイガーにとっては十二分に脅威だった。
今のデススティンガーはバーサークフューラーを彷彿とさせるように、エクスシザースに内蔵された二門と尾部に内蔵された一門、合計三門の荷電粒子砲を搭載していた。
ワイツタイガーが爪を振り下ろせば、真っ向からエクスシザースで迎撃し火器で応戦する。
デススティンガーはかつてガイロス帝国で開発され、そしてネオゼネバス帝国においてはステルススティンガーやヤクトスティンガーといった優れたゾイド達の発展元になった機体でもある。
したがってその凶悪無比な性能は言うまでもない。
運動性、エネルギー供給力、装甲、どれをとっても、決して現代ゾイドに劣りはしない。
だがワイツタイガーも決して負けはしない。
エレクトロンキャノンはデススティンガーの装甲をも容易にEシールドごと撃ち抜き、決して格闘戦においてもパワー負けなどしない。
まるで慣れ親しんだかのような感覚でゼーガはワイツタイガーを操縦する――それも、体力の消耗を抑えた上で。
ひとえにそれはZiコンガントレットのおかげであるともいえるだろう。
ワイツタイガーとの意思疎通が手に取るようにわかる。その凶暴性と攻撃性を、最高の形で発揮している。
「サーペント。アンタにも聞きたかったよ、アンタも、ゼネバス帝国を復興させたいのか」
「ゼネバス帝国を復興? 俺が? まさか。俺は傭兵だ、金払いのいいところにつくのは当たり前の事だろう」
「だろうな、聞いた俺がバカだったよ」
ワイツタイガーのエレクトロンブレードがエクスシザースの片方を引き裂くが、使い物にならなくなった腕を鈍器のようにデススティンガーは叩きつけるとワイツタイガーを退ける。
畳みかけるように頭部のバルカンと腕部荷電粒子砲を放つがワイツタイガーのEシールドによって阻まれる。
「傭兵ってのはクライアントの願いをかなえてなんぼだろう。その相手がレムだっただけに過ぎない。俺は――否、俺達は戦場の中で生きてきた」
「その傭兵だって、Ziファイターに転身してる奴だっている。インストラクターだってな」
「ああ、知っている。だが、そこに命のやり取りはあるか。心が躍る刹那はあるか。――ないとも。そこには栄誉も何もない。陳腐化された果し合いとも呼べんモノに俺は価値を見出せん」
「あってたまるかよそんなもん――!!」
戦争の当事者であった世代と、戦後の世代であるゼーガとは価値観はまるきりかみ合っていなかった。
サーペントが求めるモノはある種前時代的で殺伐としたものだった。即ち、身を切り合うような、命のやり取りと同義であるゾイドの戦いを求めているのだと。
「あんたのそのコクピットにだって現在時刻は表示されてるだろうが!! 今はZACの何年で何月の何日で何時何分何秒なんだよ、戦争はもう終わったんだよ。今更あんたたちは命のやり取り感覚が忘れられなくてテロの片棒担ごうとしたってのか!!」
「そうだが。当たり前だろう、治世においては俺のような殺し屋は居場所などないし栄誉もない。積んだゾイドの死骸の数こそが俺には栄誉だった」
「……ああそうかよ。だったらもういい、そっちの思想信条に文句は言わねぇよ。別にその感性自体は戦時だったら普通だよ。けど今はちげぇだろ、昔の感性を今の感性に持ってきてZiファイターに説く事がそれほど高尚かよ」
「高尚だとは思っていない。ただ、安全に管理された死に至らない殺し合い等見ていて滑稽だと思っているだけだ。そして俺はそんな世にはなじむことはできなかった。……操縦桿を握る手が覚えているのだよ、ただゾイドを破壊する愉悦をな。それを忘れることができなかった」
荷電粒子砲が続けざまに放たれる。
ワイツタイガーは尚も咆哮を張り上げデススティンガーに立ち向かう。すれ違い様に擦過した電磁爪が頭部装甲を抉るとデススティンガーの目が露わになる。
デススティンガーもまた闘争本能の元に戦いを続けるが、それでも劣勢は覆すには至らなかった。
ワイツタイガーの機動性はデススティンガーをもってしてもとらえきれなかったのだ。
損壊著しいデススティンガーはもはや右腕部の内蔵荷電粒子砲は使い物にはならず、ゾイドコア出力も低下を遂げている。
少しだけ、この男は律儀で哀れだとゼーガは思った。
戦争の経験を忘れられず、しばしばゾイドで犯罪を起こす人間の話も聞いたことはある。
戦争にどうしようもなく依存し、毒されている。そうした意味ではサーペントという男もまた戦争の被害者ではあるのだろう。
救われない、と思った。感性はどこまでも恐らく交わることはないだろう。これから先も、ずっと。
尾部の荷電粒子砲が放たれる。
だがそれすらワイツタイガーは電磁爪に極小の力場を纏わせて真っ向から打ち合い、そして散らして荷電粒子砲の砲門そのものを破壊した。
「……そうだ、それでこそ戦いだ。……来い、"白"のパイロット!! 俺を討つがいい!!」
「嫌に決まってるだろ。あんたを死なせたら俺は治安局の独房いきだ。そんな奴はZiファイターなんかじゃない、単なる犯罪者だ。殺さない事もまた、Ziファイターの誇りで覚悟なんだよ」
ワイツタイガーの雄たけびとは対照的に、ゼーガの心は段々と静まっていく。
機能不全に陥っていくデススティンガーに最後、その電磁爪を振り下ろす。
ゾイドコアを貫くように、直上から鉄槌のように振り下ろされた。
「……じゃあな。傭兵、サーペント。そっちの事情を鑑みるつもりはないし多分できない。生きた時代も背景も、密度も違うから。――けど、もし機会があったら別の生き方でも探してみるといい」
/
Zi-ARMSの施設の第二の戦場は地獄の様相を呈していた。
ブラストルタイガーの体内を駆け巡る熱量が、ブラストルタイガーの駆け抜けた跡をどろどろに熔融させている。
全砲門をオープンにして放たれるサーミックバーストが周囲を丸ごと電子レンジのオーブンのように焼け付かせる。その只中をレイズタイガーは駆け抜けてブラストルタイガーの顔面に爪を立てる。
灼熱地獄、そう言うほかが無い。
ワイツタイガーは総合的な射撃能力と格闘能力のバランスをとり機動性を特色としている。
レイズタイガーはその対エネルギー兵器耐性ととびぬけた格闘能力を特色としている。
ブラストルタイガーは、その点に関してはこのクラスのゾイドとしては明らかに並外れた重装甲と比類ない火器群による射撃能力とその管制能力にあるだろう。
ライガーゼロパンツァーですらブラストルタイガーにすらその総合火力で迫ることはかなわないだろう。
そして他の二機よりも明らかに野生体に近い形で躯体が設計されている。そのためにより凶暴性は増している。
ブラストルタイガーのそのコアから生み出される熱量はそのままエネルギー兵器や格闘武器に纏わせることができる。
恐ろしいまでの出力は、しかし更に蒼と紅のコア同士が何らかの共鳴を遂げているのか出力が段々と規定値を超過しようとしている。
ブラストルタイガーも、レイズタイガーもそのコア制御回路はフェイの設計が元となっていることは言うまでもない。
だが、彼女の設計をもってさえ段々彼らの野生を統制しきれなくなっているのだ。
事実、ブラストルタイガーもレイズタイガーもその胸からはかすかにゾイドコア由来の光が漏れている。
数限りなく、何度も何度も体も爪もぶつけ合う。
レイズタイガーですら、ブラストルタイガーのエネルギー兵器群の出力の吸収が間に合わなくなっている。
一部、初期の凱龍輝と同じように集光回路が溶断しかかっているのだ。
互いにあとずさり、そして示し合わせたように、爪と牙を構えて彼らは炎の只中を駆け抜ける。
あと数メートルで彼らは激突する――その刹那。間を割って入るように一筋の閃光が走った。
絶叫するような、音を上げながら荷電粒子砲は大地を奔る。直前のところでそれは、レイズタイガーのレイエナジーアキュムレイターによって防がれた。
だが、明確に今の一撃はブラストルタイガーすら巻き添えにしかねないものだった。
ゆっくり、その巨大な影は迫る。
白くカラーリングされた改修型デスザウラー――メガザウラーがついにその姿を現す。
背面に搭載された、膨大なエネルギーを抑え込むための拘束装甲が怪しく輝き、メガザウラーはその眼光を灯す。
ブラストルタイガーのパイロットは澄んでのところでレイズタイガーのパイロットにかばわれた形になったのだ。
そして理解を改めた。明らかにあの一撃は自分を巻き添えにすることが目的だったのだと。。
『伝説の古代虎ゾイドのパイロットたち、わざわざここに集まってくれてご苦労だった。それでは諸君――そのゾイドコアを、私が貰い受けよう。全ては真なるゼネバスの復興のために、ね』
/
メガザウラーの叫びは、ある種悲鳴にさえも聞こえた。
それはそのはずだ。
メガザウラーは体内に複数の人造ゾイドコアを内蔵しており、その合成拒絶によって得られるエネルギーを第二の動力としているのだ。
かねてよりそれは、Ziユニゾンとは全く逆の原理として研究されていた。
Ziユニゾンはゾイドコア同士の合成と共鳴が招く現象であるとすれば、今のメガザウラーの動力の原理はその真逆で、ゾイドコアの合成拒絶に起因するエネルギー発生現象だった。
この尽絶極まる出力によってメガザウラーはついには大口径荷電粒子砲を無制限に発射できるほどにまで出力は向上した。
「ブラストルタイガーを含めた諸君。今から私――ヒューイック・レムは君たちを打倒し、そのコアを全て手に入れよう。その暁に、このメガザウラーはこの惑星で最強の存在となる。メガザウラーの下に、真なるゼネバスは復興するのだよ」
レムはそう、メガザウラーのコクピットから演説する。
ブラストルタイガーのパイロットの抗議の言葉さえ彼にはどこ吹く風という奴だ。
まるで気になど留めていない。大目的のためにはそれは仕方ないことなのだと。
一機で国家間戦争を制することができるゾイドというものは基本的に存在しない。
あのウルトラザウルス・ザ・デストロイヤーでさえ、デストロイヤー師団という単位での運用によってはじめてガイロス帝国に明確な致命打を与えることができたのだ。
まして今は世代が遥かに進んでいる。
ゾイド一機あたりの性能の向上が著しい中では例えデスザウラーやセイスモサウルスでさえも例外ではない。
だが――メガザウラーは話は別だ。ゾイドコアを自らの内に取り込む機構まで備えている。
合成拒絶エネルギーによる無尽蔵な出力供給があればこそ単騎での常軌を逸した戦闘能力――そして再生能力を有している。
レイズタイガーが食ってかかった。電磁爪が脚部の装甲をえぐり取った――だから何だ。
瞬時に金属細胞の強制活性化と共にその傷口は埋まってしまった。
ついにブラストルタイガーもレイズタイガーと協力することを選んだ。
都合数度は全身を干上がらせるであろう渾身のサーミックバーストが炸裂しゾイドの延髄が覗くほどまで焼け爛れた――だから何だ。
熔融した装甲も瞬く間に修復と増殖を遂げ――そしてメガザウラーは巨大化した。
「正真正銘の怪物かよ、ゾイドイヴの御伽噺でしか聞いたことないぞ」
「ふん、どうした親友殿。怖気づいたか」
「誰がだスクード」
ブラストルタイガーとレイズタイガーは揃い踏みするが、メガザウラーの叫喚と共に放たれる加重力ショックテイルの一撃でまともに二機ともどもに薙ぎ払われる。
そして大口径荷電粒子砲の狙いが定まる。口腔から覗く破滅の光芒が発射を待つかのように今か今かと膨れ上がる。
だが――その刹那に。
「させるかよォぉぉ!!!」
『……、君は。ぐぁ……!?』
その顔面を、飛翔しながら"白"、ワイツタイガーの電磁爪が全霊で殴りつけた。
大口径荷電粒子砲の輝線が逸れて間一髪を得る。
もだえ苦しむメガザウラーを後目に、蒼と紅――そしてついに白がこの場に会した。
「アロー、……こいつは?」
「俺のファンで、"白"の担い手さ。お前と違って人気者は辛いんでな」
「ほざいていろ、親友殿」
かつて惑星Ziに伝説と謳われた古代虎のゾイド達が。
言葉を交えずとも彼らは意識を共有していた。メガザウラーはいてはならない存在なのだと。
そしてレムは言っていた。メガザウラーが古代虎のコアを頂くのだと。
伝説に謳われる――古代虎を全て手に入れるモノは世界を支配するのだと。
彼らは言葉もなく、三者三様に軌跡を描きながら駆けていく。
惑星Ziの三伝説、それが一同に会す正真正銘、最初にして最後の機会だった。
●メガザウラー
パイロット:ヒューイック・レム
最高速度:100km/h
大口径荷電粒子砲"ゼネバス砲・真"
小口径対地レーザー機銃
TEZ20mmリニアレーザーガン
AEZ20mmデスビームガン
キラーバイトファング
加重力衝撃テイル
改修型デスザウラー。
Ziユニゾンの原理の逆解釈・逆利用の末に生まれた、合成拒絶エネルギーによって甚大な出力を得る機構を備え付けた文字通りの怪物ゾイド。
また同時に、自らゾイドコアを吸収し、それを自身の内に取り込む機構を備えている。
尽絶極まる回復能力とコア出力により、従来のゾイドを遥かに超える戦闘力を実現している。
その性質上、メガザウラーは常に自身の体を循環するエネルギーに絶え間なく苦しめられているに等しい。
計算上ゴジュラスギガ、マッドサンダーに対してさえ古代虎のコアを全て取り込んだ場合余裕をもって勝利できるとされる。
メガザウラーが古代虎のコアを全て取り込んだ時惑星Zi史上、空前絶後の怪物が生まれるだろう。