古代虎は揃い踏み、咆哮を上げながら各々メガザウラーへと立ち向かう。
しかし飽くまで悠然と、メガザウラーは歩を進めるのみだった。
レイズタイガーのエクスプロードバイトですら、メガザウラーの総体の一部分を熔融できるだけに留まる。
まっすぐ、まっすぐ、段々と歩を進めていく。
それどころではない。増殖したメガザウラーの金属細胞が踏みしめた大地に染み出し変性し、周囲の環境は金属一色にかわっていく。
改めて、冗談ではないとゼーガは感じた。
メガザウラーは今この瞬間も金属細胞を増殖させ続けている。
すなわち進化だ。
「驚くのはこれからだが、刺激が強かったかね。ああそうとも、メガザウラーの金属細胞の増殖速度は常軌を逸する。故にこうして、周囲の環境を金属化させる」
「……冗談じゃない。こんなのが惑星Ziに野放しにされたら終わりだ」
「終わり? 否、メガザウラーは方舟なのだよ。ゼネバスの民たちを導き、そして約束の地を得るための。それがメガザウラーの使命でもあるのだから」
「何が方舟だ、こんなもの泥船の間違いだろうが……!!」
根こそぎ周囲の大地を金属細胞に同化させながら、脚でブラストルタイガーを蹴り上げ、電磁爪でワイツタイガーを打ち払う。
古代虎三機でさえ、今このメガザウラーの進軍を辛うじて遅らせる事しかできていない。
メガザウラーの口腔が煌めくと、地上絵でも描くかのように超大口径荷電粒子砲が放たれれば地形は熔融と共に変形していく。
「一度目はガイロス帝国に屈し、そして二度目はヘリック共和国に屈したゼネバス帝国だ。いいとも、それは認めよう。だが敗北はもう訪れない。三度目に屈するのは君たちだ――メガザウラーの咆哮が、ゼネバスをよみがえらせるのだから」
「ネオゼネバス帝国はどうなる? そこに住む人間はどうでもいいのか?」
「私が再興する真のゼネバスが、責任をもってネオゼネバス帝国を管理しよう。これでも、プロイツェン陛下の御存命の頃から従っていた身でね。ヴォルフ陛下には真に心苦しいが、しかしこの惑星に二つもゼネバスは必要ないということさ」
狂っている、などと言う気も起きなかった。
この男の目的は、ゼネバスという国の再興だ。それはプロイツェンもヴォルフも同じだった。
だが血筋を抜きにしてもヴォルフとレムでは明確に異なるものがある。
ヴォルフ・ムーロアについて語るとき、フェイの顔には畏崇を含んだ敬意があった。
決して、ヴォルフ・ムーロアはゼネバスという国家を打ち立てる事を目的としたわけではないのだと。
「ヒューイック・レム、お前のゴールは国を作る事か。言っておくがあるべきゼネバスの姿を取り戻すとか、そんな言葉の綾を聞いてるんじゃない」
「ならば、その通りと答えるしかあるまい」
「なら――」
想像していた通りではあった。
等身大その人のヴォルフ・ムーロアというものをヘリック人であるゼーガは決して理解できているわけではなかった。
だがそれでもゼネバス出身者がヴォルフを語るとき、そこには冷徹果断な君主象は存在しなかったのだ。
『なら――ならばこそ。ヒューイック・レム。貴方はプロイツェン陛下にはなれない、そしてヴォルフ陛下の器には、遠く及ばない』
ひゅん、と音を立てながらワイツタイガーの操縦モニターに通信が入る。
通信先はフェイだった。
久しぶりに見たその顔に、この状況でさえ少しだけ笑みがこぼれた。
「博士。……なんだよその顔は。俺は生きてる。ワイツも生きてる。全部博士のおかげさ」
『こんな時によせ、ゼーガ。……君が私をどう思っているかなど知らないし興味はないが、自分が設計したゾイドとゾイドに乗せたパイロットを心配にならないほど私は倫理観を損なった覚えはない――少なくとも、今君たちがそこで戦っているメガザウラーを設計した連中に比べれば』
弛緩しかけた空気を仕切り直すように、フェイはそう言った。
ゼーガもまた、フェイの言葉の意味は朧気ながら分かっていた。
メガザウラーは間違いなく現時点の惑星Ziにおいて最強のゾイドであり、生命体だ。だが、その生命力の原資とは体内に渦巻く常識を超えたエネルギーだ。
今もなお、絶え間なくその合成拒絶エネルギーがメガザウラーの体内を循環し続けて、金属細胞は破壊と再生と変異を繰り返し続けている。
その尽絶な苦しみが、メガザウラーの叫喚となっているのだ。
『アレもまた、戦争の被害者だ。君にとて聞こえるはずだ。メガザウラーの叫喚が、怒りが。アレは複数のゾイドコアを躯体に組み込まれ、その合成拒絶エネルギーを動力としている。……ZiユニゾンともB-CASとも、原理は真逆で悍ましいというほかはないだろう。忌々しい事に、完成度もまたこの上ない』
「……酷いもんだな。こんなもんなのか、ゼネバス再興の夢を押し付けられた方舟ってのは」
『……ヴォルフ陛下は、私とて何もかもを知っているわけではない。しかし、それでもあの方にとってゼネバスを再興する事は平和な世を築くための過程であり、決してそれそのものはゴールではなかったと私は思っている』
「それが、ヒューイック・レムとの違いって奴か。……フェイ博士の言葉を、今は信じておきたい」
『在りし日のゼネバスを夢見た彼の妄執は、ついにその実現を目前にしている、今がまさにその瞬間だ。だが、彼の夢はそこでどうしようもなく終わっている。彼が求めているのはゼネバスというラベリングであり、平和ではない』
少しだけ、かつての同胞へ残念そうにフェイは言葉を送った。
そうしている間にも、どんどん古代虎ゾイドの消耗は激しくなっていく。
『……はじめは、高潔な理想だったのだろう。テラガイストを率いたガルド・クーガルも昔はそうであったと私は信じたい。だがレムCEOの見たいものはゼネバスというラベリングで、聞きたいものはゼネバスという言葉の響きだ。強く、そして誰にも屈していない自分の中にあるゼネバス象を彼は追い求め続けている』
「そう、か」
『へリック人の君に、ゼネバス人の始末を頼むのも矛盾した話だとは私は承知の上だ。だがどうかその上で、頼む。彼の夢に終わらせてくれ』
今この場にある戦力でそれが可能か、等と言う話ははなから既に彼らにはなかった。なぜなら三者三様に古代虎ゾイドを駆る者達は元Ziファイターなのだから。
『……そして叶う事ならば、あのデスザウラーも救ってやってくれ。アレは今も苦しみながら、己自身と戦っているんだ。例え、デスザウラーにとっての救いが死と同義であったとしても』