一足早いですが拙作をここまで見て頂いて本当にありがとうございました。
それはもはや、地獄の様相を呈していた。
荷電粒子砲をぶちまけながら焼け野原に変えていく。
エクスプロードバイトが脚部の装甲を炸裂させようと、ブラストルタイガーの躯体が融解寸前になるまでにサーミックバーストを放とうと、メガザウラーには一切きかない。
ワイツタイガーの電磁爪、電磁刃がデスザウラーの腕を溶断しようと、金属細胞の増殖で瞬時にその損壊を埋める。
都合、通常のデスザウラーであれば本来は十度はゾイドコアが完全停止に至っていてもおかしくはないはずの総エネルギーだ。
メガザウラーの尋常ならざる生産エネルギーだけではなく、複数のゾイドコアを搭載している事にも起因する。
デスザウラー本体のゾイドコアを核として、十を超えるサブゾイドコアを内蔵しているコアシステムによる常識を超えた不死性だ。
クァッドライガーのマルチコアシステム。
キメラユニット技術の進化による複数のゾイドコアの強制統合。
――Ziユニゾンの逆利用による、ゾイドコアの合成拒絶エネルギー生成機関。
「メガザウラーには複数のゾイドコアが埋め込まれていてね。セイスモサウルス、エナジーライガー、マッドサンダー、ウルトラザウルス、ゴジュラスギガ、デススティンガー、バーサークフューラー、ライガーゼロ――。それらすべてがメガザウラーの裡にある。そしてこれから君たちの古代虎もその一つになるのだがね」
『……なんてことを』
ゼーガのモニター越しにフェイは恐ろしいと感じた。
あんなコアシステムを採用して、合成拒絶エネルギーの生成を制御できるゾイドなど、それこそデスザウラークラスにしか務まらない。
だが極論、これはデスザウラーが担っているのはエネルギー生成機関の制御と統制だけだ。
そこにデスザウラーの本能などというものは微塵も介在しない。
『ゼーガ。メガザウラーは制御機関が背面に備え付けられてはいるが、それは破壊しても瞬時に復元されるだろう。……率直に言おう、打つ手があるとすれば条約を外視してのZOS、または重力操縦兵器の動員でさえアレに通じるかさえ怪しいだろう』
「いいや、もう一つあるさ」
『……私は数字の話をしている』
「知ってる」
恐ろしいまでのエネルギーがメガザウラーの内部で渦巻いている。
それはメガザウラーの装甲の隙間からも漏れている有様から見るまでもない。
「……メガザウラー。いや、デスザウラー。お前はそんなモノでいいのか。誰かの夢を押し付けられて、意味の分からない装置を埋め込まれて」
『何を言っているのかね、ゼーガ・フロイト。いつから君はゾイド人の真似事ができるようになった?』
「出来るわけがないだろう」
そう、出来るわけなどない。
レイズタイガーの集光回路は既に四割が機能を停止し、ブラストルタイガーは己の熱量で装甲がそのものが熔融し――そしてワイツタイガーはハイパーエレクトロンキャノンは破壊され、電磁刃も毀れている。
だが、それでもなお彼らは猛る。
既に出力抑制など効いていない。定格の六割を超える出力が、彼らのゾイドコアを比喩ではなく目に見える形で輝かせていた。
まるでその気概を代弁するように。
蒼、紅、白――かつて惑星Ziに謳われた伝説たち。
その最初にして最後であろう戦いだ。
三機がそろい踏みした事による影響だろうか、躯体という壁を越えてZiユニゾンと限りなく近い原理で異常ともいえる共振現象を起こしているのだ。
『ゼーガ。……ワイツタイガーのコア制御アルゴリズムは既に効いていない。……定格の八割、いや、もう九割を超える。君の言っていた勝算はこれだというのか』
「いいや、それが総てじゃない。俺だって算数はできる。それだけじゃまだ、足りないんだ」
『何がだ、……これ以上、勝てる要因として計上できるものはない』
「ある。あんただって、言っていただろう。デスザウラーだって、被害者だって」
異常共振しているゾイドコアの輝きを纏う彼らは流れ星のようだった。
だがそれでさえメガザウラーはただ叫び声を上げながら。一蹴するのみだ。
『古代虎ゾイドとその担い手たちよ。君たちの力量は実に素晴らしかった。ゾイド達が認めただけの事はあるとでも言っておこうか。だが、それでさえこの有様であれば終わりだろう。……さらばだ、真なるゼネバスの夜明けを君たちに見せることはできないことが、残念な限りだ』
メガザウラーはまだ、鋼の喉を鳴らす。
煌めく荷電粒子の輝き。
その喉に向かって、ゼーガとワイツタイガーは真っ向から飛び込んだ。
「"お前"は、それでいいのかって聞いてるんだデスザウラー!!!」
/
「破滅の魔竜、かつて共和国を恐怖に陥れた悪夢――!! お前の伝説は眉唾と尾ひれも含めてへリック人なら誰だって知っている!!!」
一直線に飛翔するワイツタイガーの電磁爪がメガザウラーのへと迫る。
「――俺は、お前の本能に聞いてるんだよ。お前の本能は装置扱いにされて満足なのかって聞いてんだよ、デスザウラー!!!」
一閃。
その一撃と共に、メガザウラーの顔面装甲は損壊し、荷電粒子の斜線は天へと向かった。
大口径荷電粒子砲は、一直線にただ天を裂く。
そしてそれと同時に、異変は現れる。
メガザウラーの全身に、電流が走る。
依然強くなるばかりのその輝きだがレムは異変を感じ取る。
メガザウラーのコクピットに写される各種パラメータは深刻な数値低下を招いていたのだ。
その原因もまた、明らかだった。
『馬鹿な。コア合成拒絶エネルギーの発生機関が機能不全? あり得ない、あり得ないはずだ。設計にミスはない』
デスザウラーの躯体に埋め込まれた、デスザウラー以外のコアは驚くべきこと焼き尽くされた。
……それも、デスザウラーの意思によって。
デスザウラーはその尽絶な苦痛を味わっていたはずなのに、最後の最後でその本能を取り戻した。
全身を循環するエネルギーをねじ伏せて己の意志力で統制し、その熱量の全てで持って自分以外のゾイドコアを焼き尽くすことに成功したのだ。
『メガザウラー、なぜだ。お前は破滅を招く最強の魔獣。お前こそはゼネバスを導く方舟だ。方舟に、なるはずだったのだ!!!』
「それは、お前の願いだ。デスザウラーの本能じゃない」
『ふざけるな、メガザウラー。なぜだ、なぜコマンドを受け付けない、なぜ……、なぜ……!!』
「デスザウラーは、お前にはもう従わないと言っているんだ」
メガザウラーは、その出力の源を失った。
その脅威は、もうない。
『私が、ガルド・クーガルの二の舞だと? あってはならないのだよ、なぜ従わん、メガザウラー。お前とて、ヘリックとガイロスはにくい相手ではないのか!?』
レムの焦燥など一切としてもうデスザウラーは聞き入れなかった。
煮え滾るような全身の躯体の熱は、最初からなかったかのように。
だがレイズタイガーも、ブラストルタイガーも、限界を超えてその場にうずくまるのみだ。
装甲が熔融している。
荒れ果てた大地の上で、今確かに立っているのはワイツタイガーとメガザウラー――否、デスザウラーだけだ。
「来いよ、デスザウラー。サシでやろうぜ」
『――!!!』
ゼーガの声に呼応するように、デスザウラーの叫び声が響く。
デスザウラーの、本能からの叫び声だ。
損壊が激しい以上、もうデスザウラーは助かりはしないだろう。
本能を取り戻したデスザウラーに、最後の引導を渡す事――最高の試合をすること。
それがデスザウラーへの何よりの弔いになるのだと、ゼーガは信じる。
コアの出力は既に定格の十割を超えた。理論値を大きく逸脱している。
ワイツタイガーが電磁爪を振るえば、応戦するようにデスザウラーもその爪を振るう。
互いに全身を伝わる衝撃にゼーガは久しく忘れていたゾイドバトルの実感を思い出す。
「いいぜ、かかって来いよ。こんなもんじゃないだろ!!!」
『――!!!!』
デスザウラーはもう、荷電粒子砲の砲門は焼け付いている。
だが躯体は健在だ。
加重力テイルを振るえばワイツタイガーは後ずさるが、それでも飽くまでも前をむいている。
牙をむき出しにして、装甲を噛みちぎればデスザウラーは苦悶の声を上げる。
だが、それでも確かに大地を踏みしめている。
焼け果てて命尽きた大地で、ただ彼らは己のプライドをかけて戦う。
かたやかつての惑星Ziの白き伝説。
かたやかつてヘリックを恐慌に陥れた破滅の魔竜。
ただ誰にも知られることなく繰り広げられる戦いだ。
ワイツタイガーの感情がZiガントレットの精神リンク機能によって伝わってくる。
――ケリをつけてやる。
――どっちの伝説が強いか勝負してやる。
そんな嬉しそうな声が伝わってくる。
ゼーガは少しだけ、不謹慎にもこの戦いがもっと続けばいいのにと思ってしまった。
フェイには怒られるだろうなと。
楽しかった。久しく忘れていた、本能をむき出しにしたゾイド同士の戦いだ。
そして、決着の時は訪れる。
デスザウラーの胸を、ワイツタイガーの電磁爪が一閃する。
その胸に、確かな空洞を撃ち抜いて。
ゼーガはデスザウラーは、少しだけ満足気だったように思えた。
胸を撃ち抜かれ、天を仰ぐデスザウラー。
焼け付いたはずの荷電粒子砲の砲門が煌めき、最後に惑星Ziに礼砲のように轟いた。それは、魔獣としての、最強のゾイドとしての意地だったのかもしれない。
そこに、かつてへリック共和国を恐慌に陥れたまがまがしさはなかった。どこまでもその輝きは天へと伸びた――勝者を称えるように。
そしてワイツタイガーは、ブラストルタイガーは、レイズタイガーは、各々が光を帯びながら雄たけびを上げる。
臨界に達したゾイドコアは、彼らの躯体を飛び出した。
「ワイツ、タイガー?」
『――、』
ゼーガのZiコンガントレットは、少しだけワイツタイガーの意思を伝える。
――お前は担い手としては、未熟だった。
――だが、悪くはなかった。
――もし次があれば、また遭おう。
「お前、そんなこと思ってたのか」
少しだけ、ゼーガは顔を伏せる。
ワイツタイガーとは本当に短い間の付き合いだった。
さしたる思い出もあるわけではない。けど忘れられない劣悪な乗り心地だったと思う。
悪くはなかった、それは恐らく最大の賛辞だろう。
それからまた、空に昇っていくワイツタイガーのコアに向かって拳を無言で突き出した。
何か、約束するように。
そして紅と蒼と白の輝きが渦を巻くように天に昇り、そしてやがて光に包まれて消え去った。
ただ、惑星Ziの青空に伝説だけを残して。