かなり終盤は駆け足気味になっているのとゾイドバーサスⅢを履修済みが前提の話の構築になっていて申し訳ありませんでした。
ここまで拙作を見てくださった方々に感謝いたします
事件から一夜が明けた。
メガザウラーは破壊され、躯体だけを残し古代虎はそのゾイドコアの消息を絶った。
……メガザウラーのコクピットにいた、ヒューイック・レムの手には拳銃が握られていた。
額からは一筋、血を流して彼は冷たくなった体を背に預けているのみだった。
メガザウラーのコクピットには彼のものと思しき、遺言のテキストファイルが遺されていた。
すべては、ゼネバスのために。
ただその一文だけだった。
ファイルの作成日時は、メガザウラーの起動より以前だったという。
ブラストルタイガー、レイズタイガー――そしてワイツタイガー。
そのパイロットたちも後に救出された。
デカルトドラゴン、ブラストルタイガーのパイロットについては、Zi-ARMSの関与によって過去ゾイドバトルの舞台から姿を消さざるを得なくなったことが治安局の取り調べで明らかになった。
Zi-ARMSとテラガイストの関与の発覚。
ゾイテックとへリック共和国の反目。
それらが表出した形になった。
ゾイテックはへリック共和国に何の伺いを立てる事さえなくレイズタイガーを出撃させて救出作戦を強行した。
一歩誤れば政治的に最悪な事態に発展していた。
ゾイテック社長は救出され、衰弱著しかったものの緊急入院の後に無事急場は脱したという。
ネオゼネバス帝国はこの件に関し、一切の関与がないわけではなかった。
ネオゼネバス内のレム派の人間の通謀によって、Zi-ARMS側へと齎された「紅」のコアによる罪状は明らかとなった。
だが、この事態の後処理はネオゼネバス帝国が一枚上手だった――皇帝、ヴォルフ・ムーロア本人からの直接の謝罪という一手だ。
ネオゼネバス帝国の総意に基づく行為ではない、その上で貴国への脅威に加担する形になってしまった事をここに謝罪する――そう粛々と頭を下げるヴォルフの姿がへリック共和国の茶の間で放送されたのだから。
同時にゾイテックの内情は混沌を極めてた。
これは単純なヒューイック・レムの仕掛けた戦争、という真実ではなかったのだ。
真実はもっと複雑を極める。
現ゾイテックの社長の椅子。その争奪戦の一端がここにあった。
一つに国にすら例えられるようになった、ゾイテック。その総力を掌中に収める権利こそがゾイテック社長の椅子にはあるのだ。
社長室に備え付けられているその椅子はさぞや値のはるものに違いないだろう。
だが、その椅子の上で動く金の規模は、その何万倍にも相当する。
であれば次に浮かぶ発想は言うまでもない。
――ゾイテック社長を亡き者にしよう、その思惑の下にゾイテック上層部はZi-ARMSと通謀したのだ。
そのような謀略が、今はへリック共和国の管理下に置かれたZi-ARMS本社の機密書類には存在した。
「嘆かわしいものだ。戦争は憎悪を生み、その憎悪は損得も打算も、あらゆるものを巻き込んでいく」
「……知ってるぞこの新聞に写ってる治安局に逮捕されたおっさん。フェイ教授のコンペに事あるごとに口出ししてきた役員だ」
ゾイテックのフェイの研究室でフェイは新聞を読みながらそう、嘆息した。
テストパイロットであるゼーガも何とかあの戦いによる消耗から復帰を果たして此処に戻ってきた。
「へリック人のお偉方は彼らは確かに、ゼネバスという国を、フェイ教授を疎んじてはいただろう。だがその裏でゼネバスと共謀していたんだから、呆れていいのか悪いやら、だ」
「ゾイテックの存亡とへリック共和国の存亡は同義ではなかった。それに尽きるだろう。ある意味では起こるべくして起こったともいえる。彼らはゾイテックの社内政治において先んじることができれば、ゼネバス人への敵対心など吹き飛ぶ。そのためには平然と昨日の敵と謀り、今日の同胞を陥れる。明日の己を肥えさせるためだけに」
「……」
「だが、それも一掃されるだろう。社長の人事改革は既に着手が始まっているという。お題目は第二のヒューイック・レムとその信奉者を生み出さないため、らしい」
少しだけ、瞼を閉じてフェイは新聞を手元におく。
事態がここまで至った理由は一つだけではない。何か一つに原因を求めることはできないだろう。
事態の根幹にあった構図の中に、間違いなくゼネバスという国家が存在したのだから。
「デスザウラーは最後に機獣としての本能を取り戻した。何が原因かは分からない。しかし、言えるところがあるとすれば、最後まであのデスザウラーは戦っていた。推察にはなるが、伝説のゾイド達の奮戦ぶりに突き動かされるものや共鳴するものがあったのだろう」
「……博士が珍しいな。そんなことを言うなんて」
「真のゾイド乗りはゾイドの心が分かるという。君はデスザウラーの本能に賭けたのだろう。……己の衝動による破壊こそがあのゾイドの本分であって、発電所の制御パーツになることはもっともその本能に反するる。……デスザウラータイプが持つ破壊衝動を肯定的に捉えるのはあまり好きではないが、君は確かにその点に関してゾイドの心が分かるらしい」
フェイはそう言って、珍しくゼーガに賛辞を送った。
そこに少しだけ、ゼーガは面食らった顔をする。
フェイの机においた新聞からは、ゾイドコアの行方が知れない事が紙面の片隅に書いてあった
「ワイツタイガーは、消えていった。回収した躯体からは、ゾイドコアは消失していた。それどころかゾイドバトル連盟のジャッジサテライトからさえも行方の追跡はできなかったそうだ」
「……そうか。行っちまったか、ワイツタイガーは」
「私の、情熱の結晶と言っても良かったかもしれない。私は地球移民の四世にあたるが地球において肉体とはしばしば魂の牢獄である、と形容されたという。……ワイツタイガーは、私に設計された躯体を与えられて喜んでいたと思うかゼーガ」
「喜んでいたんじゃないかな。少なくとも、ワイツタイガーにとっては不自由しない体だったはずさ。賭けてもいい」
「なら、嬉しい。……また彼らは遠い未来にいつの日か、目覚めるだろう。然るべき者達によって。……私達は、もうその時生きてはいないのが寂しいことだがな」
伝説はもういないのだ。
ワイツタイガーはもういなくなってしまった。一瞬のように過ぎ去った出来事だった。
「最後に、レムは自殺したらしい。……俺には正直分からなかったよ。なんであそこまで、ゼネバスを蘇らせたかったんだ。そんなに今のゼネバスを受け容れられなかったのか」
「さてな。使命に殉ずることが幸せだったのか、或いはそれ以外の生き方を選べなかったのか。今になっては分かるものではないがな」
視線をふせぎみにフェイはそうつぶやくだけだった。
ゼネバスの同胞として、レムの最期に何か感じ入るものがあったのかもしれない。
/
或る日のゾイドバトルの中継だった。
ゾイドバトルソロ部門、そのある一戦だった。
その日、スタジアムは緊迫に包まれていた。
フィールドに佇んでいる二機のゾイドのうち一機は――紅に塗装されたレイズタイガーだった。
レイズタイガーのコアは永遠に失われた――それは確かな事実だ。
故に今そこにあるのはコアを別のモノで代用したレプリカだ。だが驚くべきことはそこではない。
かつて、"不慮の事故"によって解散したチーム・スラッシュウィングのロゴがそのレイズタイガーには刻まれていたのだ。
それが意味するところとは即ち、アローのZiファイター復帰でもあった。
「面白い星のめぐりあわせもあったもんだ。前払い報酬だったはずのレイズタイガーはどっかいっちまったし代わりにとレプリカを寄越されたわけだが……そちらさんも色々事情はあるらしい」
ゾイドの出場ゲートがあくともう一機、トラ型ゾイドが現れる。
それは、ワイツタイガー・イミテイト。
かつてのワイツタイガーの合体システム検証のための試作品であり――その搭乗者はゼーガだった。
ゼーガもまた、ゾイテックお抱えという形ではあるがテストパイロットとの兼業としてZiファイターへ復帰を果たしていた。
このワイツタイガーの"影武者"は、例えオリジナルに劣ろうともそれでも現行ゾイドの中では申し分のない性能を持っていただけにゾイテックはそれを宣伝するための看板として再利用することにしたのだ。
「紅の疾風、アロー。元気か、あの時はサインをもらいそびれちまってな」
「何。問題ないさ。俺から一本取ったら考えてやってもいい」
低く、互いにレイズタイガーとワイツタイガー・イミテイトは腰を落として互いの所作を窺いながら睨む。
試合開始の合図が響く。
観客たちは目を見開く。
かつて、惑星Ziには白と呼ばれた伝説があったという。
ゼーガが再びZiファイターに復帰する決意をしたのは伝説を伝説にしないためだった。
伝説だけではない。かつて確かに"白"はここにいたのだから。
例えコアを失っても、その伝説は"白紙"には決してならないし、させない。
「――だから、お前の存在は絶対に俺は"白紙"になんかしない。そうだろ、セイバー。そうだろ、ワイツ!!!」