ちょこちょこアニメ要素とかも出たりはしますが、概ねの事績は公式のバトストであり、プロイツェンの人間性とかやった事はそちらに準拠しています。
ゾイテックは、戦後の今でこそ国を問わず優秀な人材が集う一大ゾイド研究機関として知られている。
憚らない言い方をすれば、その在り様はもはや小規模な国とさえ言える規模だろう。
その象徴がブルーシティだ。
ゾイドと人間の共存を主題に掲げられ高度に整備された学術研究型都市であり、ゾイドバトルのメッカとも言われている。
終戦後、名うてのパイロットたちはゾイドバトルという新たな舞台に転身する者もいれば、ゾイド企業の技術顧問やテストパイロット、インストラクターになる者もいた。
職業に貴賎はないというが、しかしその上でやはりゾイドバトルに携わる者は花形であるし、衆目を引いた。
俺――ゼーガ・フロイトは戦争というモノを経験したことはない。
俺が軍隊に入れる年齢になった頃には既に母国であるへリック共和国は戦争を終わらせていた。
戦後、使い道を失ったゾイドたちはゾイドバトルの舞台に転身する事もあったが、大体は必要なパーツだけ抜き取られてスクラップにされるか、オークションに出されるかだった。
そんな中で俺は親父に影響されてゾイドバトルの道を志すようになった。
アレと初めて出会ったのは、なんという事のない、終戦後のオークションだった。
この手のオークションに出回るゾイドは何かしら機体にガタが来ているものもあれば、その乗り手独自の改造を施されたものもあったりと玉石混交だ。
ゾイドバトルに従事する人間――一般的にはZiファイターと呼ぶ――に俺がなる時、親父が俺にゾイドを買ってくれた。
お前が乗りたいと思った機体を選べと俺は当時言われた。
その中で、俺が乗りたいと思ったのは白いセイバータイガーだった。寒冷地仕様だったらしい。
それから、俺の相棒はこの白いセイバータイガーになった。
ゾイドバトルにもチーム戦かソロか、ゾイドのサイズ別といった階級があるわけではある。
とりわけゾイドバトルで映えるのはライガーゼロやバーサークフューラーといった、ある程度大戦後期で名を馳せた往年の名機たちであり俺の選んだセイバータイガーは半ば旧式だった。
数あるゾイドの中でもライガーゼロはスラッシュウィングに並びSランクチームとして知られるチーム・ブリッツ、マッハストームの看板機体としても知られており、かつ大戦を終わらせた英雄レイ・グレッグの愛機でもあり、人気は抜群だ。
また、時々噂にはなるがこのゾイドバトルでは正体不明のジェノブレイカー乗りが気まぐれにゾイドバトルに参加しては大会を荒らす事で有名だ。
ジェノブレイカーはその操縦性の劣悪さとあまりにも高すぎる性能から、使い手と言えると使い手はいないと断言してもいい。
チーム戦では傍らに蒼いジェノザウラーを率いたジェノブレイカー乗りが現れる。
個人戦においてはエクスブレイカーを片方失った外観のジェノブレイカー乗りが現れる。
恐らくその二人は同一人物ではないだろう、というのは観客たちの共通した見解だが、その二人のジェノブレイカー乗りが何者かは未だ以って不明だという。
そんな与太話はともかく、近代化改修を施しながら俺はこの白いセイバータイガーと共に個人部門で数度の優勝を得るに至った。
オークション市場で出回るゾイドというのは多くの場合、大戦を経ている。これは単純に商品価値として見た場合は間違いなくマイナスだ。
他方で、大戦を経ているという事は正規軍の整備調整を経ている事と同義でもある。
だから操縦に対するサーボモータの応答や関節の動きには新品ゾイドのような硬さがない。
これもまたオークションでの立派な需要の一つだ。
Ziファイターの中には、一機のゾイドや特定のタイプのゾイドを愛機とする人間は少ないが存在する。
俺もまた、その例の一つだった。
旧式のゾイドと言うのは多くの場合確かに現代のゾイドバトルには需要としてマッチングしない。
だが他方、旧式であるということはそれだけ整備やカスタマイズのノウハウが蓄積されているという事でもある。
ブロックスや最新型のゾイドは確かに性能向上著しい反面、凱龍輝に代表されるように先鋭的な設計思想に由来する整備性の悪化や交換パーツの費用といった問題が出てくる。
知り合いに凱龍輝の整備を経験した事のある奴はいたが、彼はいつも憤慨しながらマニュアルを手繰って「これだから共和国の連中は」などと毒づいていたのを覚えている。
最近ではゾイドバトルでは集光パネルへの換装といったZiファイターからの要請も増えていると聞くが、ゾイテックのゾイドバトル部門の見積もりにあった集光パネル装備の費用は目が点になった記憶がある。
まさしくさすが最新技術と言わざるを得ない。
この点において、シールドライガーやセイバータイガー、レッドホーンといった現代から見れば旧式と呼ばれるゾイドたちは勝っていた。
第二に、彼らは歴戦のゾイド乗り達の経験を引き継いでいる事が挙げられる。
機獣としての本能と経験値は何物にも代えがたい資産であり、これが俺がこの白いセイバータイガーを気に入った理由だった。
明確に、旧式と呼ばれるゾイドが新型に勝る点であり、彼ら旧式ゾイドはパイロットの操縦と己の野生のすり合わせと融合が非常に上手いのだ。
トラ型ゾイドはティラノサウルス型ほどではないにしろそう簡単にパイロットを認めはしてくれない。
俺は、こいつに何度も振り下ろされそうになったが、こいつが俺を見放したことは一度もなかった。
俺が操縦を覚えていくたびに、コイツは俺を試そうとしてくる。
このぐらいできるだろう、とコイツは俺に暗に言っているかのように。
俺はこいつに多くの事を教えられ、多くの勝利を得た。
ジェノザウラーを、ライガーゼロを、或いはバーサークフューラーを。
何度も何度も近代化改修を経ながら、次々と格上のゾイドに挑み勝ち抜いていった事を俺は今でも覚えている。
だからこそ、コイツの思っていることも分かる。
「……セイバー。お前が俺をどう思ってるかは知らないけど、それでもなんとなくわかることはあるさ。お前のゾイドコア、もうそろそろ寿命なんだろ?」
ある日、セイバータイガーの佇むデッキで俺はそう言った。
低く唸り声を上げながら、セイバータイガーは俺を見た。コアの出力低下だとか、定期診断だとか、そんな事をしなくても分かる。
ガイロス帝国とへリック共和国が戦っていた時代から戦い抜いてきた歴戦の機体、そのゾイドコアだ。無理もない。
だから、俺はゾイドバトルはこれきりにした。
白いセイバータイガーを俺は戦わせなかった。せめてその最期は安らかであってほしいと思うから。
こうして、俺のZiファイターとしてのキャリアは終わった。
白いセイバータイガーを使い続けるモノ好きがいた、なんていううわさ話を残して、俺はゾイドバトルの舞台から去った。
俺にとっては、あの白いセイバータイガーで勝ち取ったトロフィーあってこそのゾイドバトルだったというのもあるのだろう。
そうして今は、ゾイテックのテストパイロットになった。
フェイの小言をラジオ代わりに聞きながら、ヴァイスタイガーを操るのはそれなりに楽しいと思う。
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「……時にゼーガ。君の率直な意見を聞きたい。君はゾイドの意志が分かるか?」
「随分珍奇な事を聞くなフェイ博士は。感情とか勘とか、そんなものを信じない性質だと思っていたけど」
「博士はやめろ。今は亡きザルカ博士を連想させられる」
フェイは唐突に、ミーティングルームでそう俺に問いをかけた。
ゾイドの意志。それはどう考えるべきかは非常に難しいものだ。
人間が定義するところにおける意志、というのは結局のところ人間にとってのそれでしかない。
電気信号のパターンをゾイドの意志、と呼んでいいのなら確かにそれは意志だろう。何より、俺も覚えはないわけではなかった。
「歴戦のゾイド乗りは同じ歴戦のゾイド乗りを知り、そしてゾイドの考えが分かるという。その勘というヤツを私は聞きたい」
「……あんまり参考にならないとは思うがそれでいいならな。というか誰の受け売りだそれは」
「強いて言うなら、ネオゼネバス帝国のデルダロス少佐だ」
歴戦のゾイド乗りはゾイドの意志が分かる、それは皆口々に言う。昔アーサー・ボーグマンの伝記で見たブレードライガーの話や、かのジ・オーガが唯一搭乗を許したある傭兵にまつわる伝説はその一端だろう。
ヴァイスタイガーの意志とは何か。
それを考えるとしたら俺は一つ、挙げられるものがある。
高速域でも高い運動性を発揮しながら、同時に操縦性にカドが無い。……それも、嘘みたいに。
はじめはフェイの新しいプログラムや設計なのかと疑ったが、閲覧を許された資料にはそのような試みはなかった。
「……ヴァイスタイガーは行儀がよすぎる。そういう風に服従アルゴリズムを組み込まれているんだろうが、それでもコイツは優等生過ぎる。だが――それ以上に」
「ほう?」
「推測になるが、コイツは恐らく本性を隠している。俺に合わせてやっている、といったところだろうさ。……何か、こいつはその優等生の薄皮の下に何かを隠している」
だが、間接のサーボが赤熱するぐらい駆けてフェイに長話を聞かされたあの時、コイツは確かに自ら望んでスピードを求めていた。
その刹那に、確かにコイツの本性が見えた気がした。
俺の言葉を聞いた時、フェイは少しだけ間の抜けた顔をしていた。
言えといったから俺は言ったのに薄情な話だ。
「……いや、済まない。やはり君がヴァイスタイガーのテストパイロットとなったことは正解だった、と思っただけのことだ」
フェイはそう言って、少しだけ笑った。
俺の言葉が、求めていたものそのものずばりだったのだと言わんばかりだ。
「君の推測は正しい。それも限りなく」
「ヴァイスタイガーのゾイドコアは特殊で希少だとは俺は聞いたことがある。恐らくはそこに起因する話なんだろうとは思うが」
与えられた資料で読んだことがある。
或る特殊なタイプのゾイドコアを使用した機体であるとも。
フェイは、資料を手で抱えて、ミーティングルームを出ていく。その刹那に、こう俺に言った。
「君に全てを明かさないのは、私の誠意であり同時に非礼だと自覚している。しかし、時が来れば「白」の総てを明かすと約束しよう」