ゾイド 白の名を背負う者   作:ゆぐのーしす

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光芒刹那

 ワイツウルフ、凱龍輝、共に今テスト前の整備を受けている。

 装甲への新品の換装、コンバットデータの改修などといった作業をしている人員の中には他ならぬフェイもいた。

 

 研究者然とした白衣を纏わず、タンクトップ一枚になりながら補修設備を動かしレンチを握り整備を行っている。

 その様はいつ見ても慣れないものだと俺は思う。

 

 整備兵に混じりながら適切に指示を出して作業を進めていく彼女は、そういう姿勢においても同じ部署の人間に慕われる人物でもあった。

 歯に衣着せぬ物言いで冷徹な人物かと思えば、決してそう言う事はない。彼女は誰であっても意見を軽んじはしない。理論理屈に対する真摯さ、それが彼女の本質の一端だ。

 末端の整備兵の意見であっても、それは例外はない。

 

 

 そう言えば、とふと思う。

 彼女もネオゼネバス帝国時代、ロードゲイルのテストパイロットを務めていたとは聞いたことがあったものの、実際の腕前は知らなかった。

 

 

 

 広く開けた、ゾイテック所有の敷地。

 

 そこにゼーガの搭乗するワイツウルフ――そして、フェイの搭乗する白塗りの改良型凱龍輝が一対一で臨んでいた。

 

「……フェイ博士。まさか今回のテストがあんたとはな」

「退屈はさせないと約束しよう。私と、この凱龍輝・烈風で」

 フェイの搭乗する白い凱龍輝は単なる凱龍輝ではない。バックパックには二本一対のブレードを持つエクスブレイカー様式の武装が二つ搭載され、かつ大型ブースタも据え付けられていた。

 絶つ、というよりは恐らく重機のように挟んで潰す用途なのだろうとゼーガは分析する。

 ブレードそのものにも装甲が施されており、堅牢な構造となっている。

 

『フェイ博士、ゼーガさん、準備はいいですか?』

 無線で計測係の指示が飛んでくる。

 ワイツウルフ、凱龍輝にはさまざまな計器が搭載され、リアルタイムそのデータを管制室に送信する作りとなっている。

 

「こちらゼーガ・フロイト。準備は完了している」

「同じく、フルーゼ・フェイ。準備は完了した」

 是と返される返答と共に、実践テストが始まった。

 先手を取ったのは、フェイの凱龍輝だった。後ろに跳躍しながらエクスブレイカー型の武装のブレードに電流を走らせてリニアビームを射出する

 

「見た感じ、武装のブレードそのものを鋭利な刃物としてだけではなく偏向器・加速器として用いるバスタークローと同様の万能複合兵装か」

「その通りだ、名を多目的統合兵装・バリアブルクローという。今はギガタイプやフューラータイプに限られるが他のT-REX型のゾイドにも将来的には標準的に搭載可能となる予定だ」

 正確にワイツウルフへと照準を撃ち抜くがそれよりも早くワイツウルフは駆けていく。

 それはワイツウルフの本能だけではなく、優れたゼーガの先読みの結果でもあった。

 

「……私の予想していたレスポンスよりもわずかに早い。驚いた、トラ型ゾイドとは四足歩行であること以外勝手もまるきり異なるだろうに、ここまで順応しているとは」

「無茶言ってくれるなフェイ、これでもかなり四苦八苦してるんだよ……!」

 続いて、ワイツウルフのエレクトロンハイパーキャノンが放たれる。

 同系統の電磁兵装と比べても格段に出力が高く、試験成績においてはアイアンコングを一撃で装甲を貫徹し戦闘不能に追い込んだとされる。だがしかし――

 

「レイエナジーアキュムレイター、起動!」

 凱龍輝の集光パネルが輝き、瞬く間にハイパーキャノンの一撃を無効化し吸収する。

 ……これこそ凱龍輝が輝く凱旋の龍たる所以だ。

 集光パネルによるビーム兵器の無力化及びそのそのエネルギーの自己還元という特性が、セイスモサウルスを打ち破ったものでもあるのだから。

 

 次いで一対のバリアブルクローが前方に構えられ、返す一撃でブレードを加速器として閃光が走った。

 初手の一撃など及びもつかない集光パネルによるエネルギーが上乗せされた一撃が大地を奔るとぶすぶすと焼け爛れながら壁材が熔融していた。

 

 スラスターを展開しながら今度は真正面から凱龍輝が突っ込んでいく。

 バリアブルクローを構えながら、ワイツウルフへと突っ込み正面からバリアブルクローとストライクザンクローが正面からぶつかり合う。

 

「――パワーならば、凱龍輝が上だ。例え世代の差があろうと完全野生体のパワーを舐めないことだ」

「あんた、本当にデスクワーカーかよ……」

 ほんの一瞬、敢えて凱龍輝の二本のスラスターの出力の内一方を落とし、バリアブルクローに対し前足で鍔ぜりあうワイツウルフの姿勢を崩すと、次いで至近距離から凱龍輝は脚部で重い蹴りを放つ。

 

 この一瞬の技巧にゼーガはフェイに対するパイロットとしての力量の認識を改めなければならなかった。

 スラスターの制御一つとっても、セミオートでのコントロールではなくマニュアルによる出力の手入力によるものであり、それは即ち彼女が半自動操縦、操縦補助装置のみに頼っていない事の証左でもあった。

 

「……凱龍輝は性能こそは現代でも今君に証明している通り通用する。がしかし、他方で当時としてはコンセプトがあまりにも先鋭的だ。その最たる例が分離合体機構B-CASだろう」

「それが凱龍輝の強さの由来でもあり欠点でもある。変幻自在が過ぎるせいで、普通に扱えば普通のエース級機体にしかならず性能を十全に生かせないんだ。……けど、アンタは違うみたいだ、フェイ」

「凱龍輝を乗りこなすのは至難にして苦難だろう。支援ブロックスの性質上その手数は極めて多種多様であるが、それ故に乗り手に最適解の提示を要求し続けるゾイドでもある。」

 次いで今度は凱龍輝は装甲の一部をパージし、支援ブロックス・飛燕を滑空させる。

 空を一閃する鋭い飛翔を紙一重でかわし、マシンガンの雨をかいくぐりながら装甲をパージした事で集光パネルの守護を失った部位をハイパーキャノンで狙撃する。

 

 しかし今度は更に装甲がパージされ、月甲がその一撃を遮蔽する。

 衛星のように凱龍輝の周囲を旋回しながら月甲と飛燕は自身をパーツ単位で分解し再度凱龍輝と統合を果たして元通りになる。

 

「あんたは誰か師匠でもいたのか?」

「十代そこらの夏に、デルダロス少佐に手ほどきをされた。……私が君に負けるという事はデルダロス少佐の顔に泥を塗るという事にもなる。それは好かない」

「ネオゼネバスのエース中のエースじゃないか。羨ましいにもほどがあるぞフェイ先生」

 

 この一連の戦いの中にいくつの技巧が仕込まれていたかなど、素人目でさえ分かるだろう。

 その当事者であるフェイとゼーガは半歩先の未来の戦場を戦っていたのだから。

 

「……凱龍輝の思想は先鋭的で整備性が劣悪なのは事実だが、他方でB-CASの理論はZiユニゾンの先駆けとも言っていい。集光パネルもさることながら、設計段階から複数の機体で一つの機体として定義するシステムはあの当時としては挑戦的に過ぎる。しかし現代でも通用している」

「お宅の母国のエナジーライガーも同じくらい時代を先取りしてただろうに。むしろエナジーライガー乗ったあんたを見て見たいぐらいだ」

「アレはヴォルフ陛下が御搭乗された機体だ。私ごときが駆るにはあまりにも畏れが過ぎる」

 

 ゼーガはフェイの腕前――というよりも頭脳を認めていた。

 分離機構を用いた波状攻撃は凱龍輝の武器ではあるが、それを完全な形で生かし切るのは一重に頭がよくなければならないからでもある。

 思考や計算を操縦に変換させるのが得意なタイプのZiファイターは非常に稀であり、フェイの技量はそのタイプの強さであると即座にゼーガは分析した。

 この手のZiファイターは主に合体・分離を主とするブロックスタイプの機体を得意とするが、フェイもまたその例だった。

 同時にワイツウルフの戦闘力もフェイの想定を大きく超えていた。

 

 本質的に、凱龍輝はB-CASの基本思想故にZiユニゾン機に準する戦闘力を持つ。

 だが、その凱龍輝と拮抗し得るだけの性能を既にワイツウルフは示しているのだ。

 

「……、強いなフェイ先生。Ziファイターに転向しても十分通じそうだ。Bランクで収まる器じゃない」

「モデルを単純化するのは議論を乱暴にする故にあまり好まないが、機体性能と操縦者の技量の積をZiファイターの強さと呼ぶのなら私は機体性能に助けられて君に拮抗しているだけだ」

 そう、涼しい顔で言ってのけるが事実としてこの凱龍輝の強さは本物だった。

 また始まる分離攻撃――だが、飛燕と月甲だけではない。

 

 バリアブルクローを鋏とし、増設スラスターを脚とし尾部の集光パネルを装甲にしたザリガニ型の支援ブロックスも攻撃に加わっていた。

 

 その名前を紫電という。

 

「目を凝らせ、君は何手先が見えている。――パイロットが最強である必要はない、これが私の戦い方だ」

 マグネッサーシステムによって航行する支援ブロックス三機が間断なくワイツウルフを攻撃する。

 高度に統合されて連携に苦戦を余儀なくされる

 

 だが、ゼーガとて凡人ではない。

 駆け出すワイツウルフが月甲を足場にして宙を飛び紫電を眼界に捕らえその電磁爪を振るう――そう見せかけ、隙を縫おうとした飛燕へ即座にエレクトロンキャノンの砲座を反転させて砲撃を放つ。

 

 一閃する輝線が飛燕を撃墜し、宙を翔けながら噴射したスラスターの推力を載せたクローの一撃で月甲を蹴散らす。

 ゼーガとて、伊達に修羅場をくぐってはいない元Ziファイターだ。そのような連携はそれこそ何度も見てきたモノでもあった。

 

 今度はその足場を突き崩すように、バリアブルクローで地面を突き破りながら紫電が現れる。

 それを見抜き瞬時に機体の姿勢を反転させ、爪に全力を込めて地面に叩きつけると、沈黙を遂げるが同時に放たれたビームガンがワイツウルフのバックパックを損傷させて射撃武装とブースタが使用不能に追い込まれる。

 

 両者ともに白兵戦に挑まざるを得なくなる状況だった。

 

 ワイツウルフが、凱龍輝が雄たけびを上げながら爪を構える。

 同時に至って理性的、或いは知性的な操縦であったそれまでのフェイとは打って変わって、スタイルが変容した。

 

 爪を使っての応戦、或いは、噛みつき、それらを駆使しながらT-REXタイプの野生体特有のパワフルさを生かしてワイツウルフと至近距離でのインファイトを仕掛けていく。

 

「……てっきり、射撃やB-CASに頼った戦い方が主だと思っていたが」

「野生体タイプのゾイドの基本はその生命力を生かした戦いだ。レイ・グレッグの教訓を共和国民の君が知らないわけではないはずだが」

「例としてはヴォルフ陛下の方がもっともらしいだろう。同じフューラータイプなんだから」

 

 強く大地を踏みしめる脚部が、白兵戦での体幹の強さを支えている。これは野生体を基盤としている生命力故でもあった。

 

 だが、心なしかワイツウルフもまた嬉しそうに鋼の喉を鳴らしながら戦いに興じる。

 その様に、ゼーガはワイツウルフの本質を見た気がした。

 

 一進一退の攻防が続き、それは制限時間いっぱいまで決着がつかなかった。

 

 




●凱龍輝・烈風
パイロット:フルーゼ・フェイ
最高速度:315km/h
主装備:
集光パネル改式(レイエナジーアキュムレイター)
集光荷電粒子砲改式
多目的統合兵装バリアブルクロー
ストライクレーザークロー
ウィングスラスター

戦後時代のスペック相応にまで近代化改修を受けた凱龍輝。
飛燕・月甲に加え支援ブロックス紫電を組み込んだB-CASシステムが特徴。
バーサークフューラーのバスタークロ―から着想を得た多目的統合兵装バリアブルクローもまた大きな注目点だと言える。
ブレードを加速器としたAZビームガン、絶つよりも潰すことを主目的としたクロー部、用途の切り替えによるEシールド展開など、極めて多様な用途に用いることができる武装であり、かつ扱いがバスタークローよりも簡素化されている。
着想としてはジェノブレイカーやシュトゥルムフューラーから影響を受けている。
通常の凱龍輝はその開発兵器からも受けたビーム兵器の自己還元という形で対ビーム兵器性能を生かしているのに対し、本機は対ビーム兵器性能を格闘戦によるインファイトに持ち込む形で生かすというのが設計思想である。
総じて、遠近共に基本的に隙はなく、共和国版魔装竜というべき性能に仕上がっている。

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