A、ゾイテックのゾイド玩具部門が存在している……ことと一応しています。
人気の商品はライガーゼロだと思います。
フェイの開発チームは試験から引き上げると、ミーティングルームに一様に集まった。
ルームの大型モニタの前にはフェイが立ち、その傍らには白い二機のゾイドの模型があった。
少しだけフェイはふうと息を吐くと目を見開いた。
「私達の開発チームはヴァイスタイガー、ワイツウルフの試験を無事完了した。全ては皆のおかげだ、本当にありがとう。開発チームの長として、どうかこの場で礼を言わせてほしい」
そう、粛々とフェイは頭を下げた。
理論屋でありながら、同時に彼女はかつての戦争下において現場を知る人間でもあった。
時には軽装でレンチを握りながら場所を選ばず作業をする彼女はチームからも変わり者と見なされはしたが、時を経ればそれが自然となり、そんな彼女を周囲は受け容れていた。
理論と実践を並行しながらプロジェクトを進めていく若き俊英の姿に自然と誰もがついていくようになった。
彼女らが一丸となって白き伝説に挑んだ軌跡、その結晶の一端が今机に置かれている二体のゾイドの模型であることはもはや言うまでもないだろう。
一つはモモンガ型のBLOXであり、もう一つはワイツウルフのそれだった。
それらをフェイはかしゃかしゃと組み替えると――パーツを一つも残さず、ある一つのゾイドとなった。
その直後に彼女の背景のモニターには一機のトラ型ゾイドが表示された。
「コードネーム『白』、そのゾイドコア定格出力形態にして惑星Ziの白き伝説。それがこのワイツタイガーだ。――これよりコードネーム『白』の実験は最終段階に入る。引き続き、そしてこれまで以上に貴方達の力を貸してほしい」
ミーティングルームのメンバーは全員、特にそれについて言葉を発することはなく、静かにこくりと頷くのみだった。
彼らにとっては少なくとも、フェイの心は伝わっている。
それから、ミーティングは終わり彼らは解散する。
机の上に置かれたワイツタイガーの模型を少し、ゼーガは眺めた。これから自分が乗ることになるだろう、白き伝説の具現。その一端を。
それから、少しぼそりとフェイに言う。
「……フェイは模型が好きなのか?」
「3Dプリンター品だ。ワイツタイガーは機密に当たる以上、君には渡せないがもしほしいのならセイスモサウルスでもデスザウラーでも、好きなモノを作らせよう」
「そこは、マッドサンダーかジ・オーガがよかったなぁ」
/
ワイツウルフとの試験を終えたその日、ゾイテックから引き揚げゼーガは後にした。
ざり、ざり、とゆっくり歩を進めながら、携帯端末でゾイドバトルの中継を見る。
今日のマッチアップは空戦部門だった。
二機のストームソーダーのチームに対するはシュトルヒとディアントラーだ。
「……Ziユニゾン、か。いきなり飛ばすなぁ、シュトルヒの連中は」
端末からの映像は少し不鮮明だが、シュトルヒとディアントラーがZiユニゾンを果たしシュトルヒアントラーとなってストームソーダ―と激しい空戦を繰り広げていた。
普通に考えればユニゾン機に対して歯が立つマッチアップではないはずだが、ストームソーダー乗り達もまた決して譲っていない。
曲芸じみた鋭い機動で次々とストームソーダーの攻撃をかわしていきながら、返す刀で翼となっているブレードアンテナでストームソーダーの一機の羽根を切り裂く。
翼を一閃された一機が敢え無くリタイアを申請したが、残る一機のストームソーダーが応戦する。
上空に駆け上がったかと思えば今度は地上にほぼ垂直に落下しながらシュトルヒアントラーの追跡を巧みに振り切る。
これだけの精度で空戦ゾイドを扱いこなせる人物はそうはいない。恐らくは元軍属の人間か、或いは傭兵だろうか。
防戦一方かと言えばストームソーダー側は決してそうではない。無茶とも思えるほどの軌道の操縦はZiユニゾンの数少ない弱点である稼働時間の短さを狙うためのモノであることは明白だ。
ビームガンを時折放つも、盾のように構えられるシュトルヒアントラーのブレードアンテナから生じたEシールドが霧散させていく。
空戦においてまるでシュトルヒアントラーには攻防に隙がない。
やがて、試合は大きく動く。Ziユニゾンの稼働時間を加味し、更にシュトルヒアントラーは速度を上げて攻勢を仕掛けてきた。
流星のように閃光を宙に刻みながら猛追するシュトルヒに、あろうことか今度はストームソーダーは身を翻した。
今度は正面切っての突撃だ。速力はややシュトルヒが勝っている。正面衝突の様相を呈している。
激突まで一秒を切り、そしてその刹那にストームソーダーの展開したレーザーブレードはEシールドを引き裂いた。
息をのむ、一瞬の攻防だった。
そしてストームソーダー側は恐らくこの刹那のために全てを賭していた。
Ziユニゾンによる稼働時間の制約による短期決戦を誘い、同時に互いの相対速度を利用しEシールド毎躯体を引き裂けるだけの速力をレーザーブレードに載せての一閃。
その結果たった一瞬の攻防でシュトルヒアントラーの片翼を絶ち、同時にZiユニゾンが解除される。
だがストームソーダー側の勝利――ではない。
翼を引き裂いたストームソーダーの喉元には、シュトルヒアントラーのブレードアンテナが貫かれていた。
……力を失いながら、ストームソーダーも浮力を失いリタイアを申告する。
このマッチアップは両者相打ちのドローという結果に終わった。
心理戦において勝ったのはストームソーダー側だった。しかし技術においては両者ともに伯仲していた。
見ごたえのあるバトルだった、とゼーガは思いながら夕暮れのブルーシティを歩く。
ゾイテックから鉄道を経て途中の駅で降りると、降りた先は集団墓地だった。
……集団墓地、と言ってもそれは人間のモノではない。
大戦で亡くなったゾイド、或いは戦後に寿命を迎えたゾイドコアが眠る墓地だ。
ゾイドにも命はある、という認識が広がってきたのは戦後の事だ。
葬儀という宗教的な儀式は在り方を変えてゾイドにも適用されることとなった。シャーマニズム、獣神信仰の一形態であるともいえるだろう。
ゼーガが寄った墓には、かつて彼が共に戦った白いセイバータイガーのコアが眠っている。
「……セイバー。お前なら知ってるかもしれないな。昔、三機の伝説のゾイドがいたんだとさ。そしてそのうちの一機が何の因果か、俺が乗ることになったらしいんだ」
墓は何も言葉を返さない。
ただゼーガはポツリと言葉を繋いでいくだけだ。
「俺、乗ってみせるよ。乗りこなして見せるさ、お前から教わったモノ全部、ぶつけるんだ。……じゃあな」
そう言って墓の前で拳を突き出す。
他の誰にも意味などない。彼と亡きセイバータイガーの間にしか成立しない儀式でもあった。
「……君は」
そう、ゼーガは唐突に背中から声をかけられる。
聞き覚えのある声が、聞こえたから。
「フェイ、博士。どうしてこんなとこに?」
「……ゾイドの墓に来る理由等、そう多くはないだろう」
少しだけ、バツが悪そうにフェイは視線を背ける。
「……白いセイバータイガーの逸話なら私も聞いている。ゼーガ・フロイト。白いセイバータイガーと共にゾイドバトルのソロ部門を破竹の勢いで勝ち進んだ元Ziファイター。それが君の経歴だったな」
「大体間違いはないな」
「けれど、ある日を境に君はゾイドバトルをしなくなった。……気分のいい勘繰りではないだろうが、思うに君のセイバータイガーの寿命が近かったからだろう」
そう、フェイは言うとゼーガは困ったように笑った。
「……正解、だよ。博士。ゾイドを乗るのは好きさ。でもどうしても、ゾイドバトルをするならあいつじゃなきゃ気が乗らなくてな。……んで、博士はどうして?」
「それは――」
少しだけ、フェイは息をのんだ。
それから言葉を続ける。
「……私は、キメラブロックスの開発に大きく関係していたことは君も知っていることだろう。そして戦後キメラユニットは製造は禁止され、現存するネオゼネバス帝国の管理下にあるキメラブロックスは即時解体となった。この墓地には、その最後の一機が眠っている」
「……軽々しく聞いていい話じゃなかったな、悪かった」
「この場では隠し立てるような物でもないだろう。私は私の都合でキメラブロックスを生み出し、そして多くのキメラブロックスは戦場から帰還しなかった。生き残った機体も結局は解体だ。……キメラブロックスもまた、人の都合と戦争の犠牲者だ。私が悼むことにそれ以上の理由はない」
あるいは、それを以って研究者としての己への戒めとするためか。その心中を察することは、ゼーガは敢えてしなかった。
けれどフェイのゾイドへ向ける慈愛の精神は確かに彼も理解はしていた。
「ワイツタイガーを復元しようとしたのは、もしかしたらずっと長い事コアのままだったあいつに自由な体を与えてやりたかったからなのか?」
「想像は自由だ」
「フェイ博士が言葉が短い時は大体図星だってことぐらいは大体分かるぞ。……ワイツは確かに嬉しそうに走ってた。安心してくれよフェイ博士。多分、あんたの設計が良かったんだ」
「君の言葉が長い時は大体他者の主張の陥穽を見つけて得意げな時だ。……ゾイドの設計者としての私に対する、具体性に乏しい抽象的な評価として受け取ろう」
……ゼーガからそれきり、視線を離すフェイ。
けれどこの場にいるという事そのものが、彼らにある種の親近感を抱かせた。
少なくともゾイドを一つの命と見なしている事そのものは紛れもない事実だった。
「俺はフェイ博士は、最初は少し冷たくていけ好かない石頭だと思っていた」
「自覚はある」
「……ワイツタイガー、完成させようぜ」
「……あぁ」
互いに背中合わせになりながら、そう言ってゼーガは手を振って去っていく。
それから一人、フェイは残ってため息をつく。
けれど、そのため息には不思議と辟易の色はなかった。