ゾイド 白の名を背負う者   作:ゆぐのーしす

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蛇、というとスネーク、バイパーといろいろ言い方は有ります。
フュリアスエナジーのパイロットの名前の由来はそういうところからきてます。


力と速さと技

 

「――早、すぎだろ……っ!!」

 時速五五〇で突撃するフュリアスエナジーをワイツタイガーは済んでのところでかわし切る。

 

 フェイ達によってつくり込まれた駆動系が奏功していたともいえるだろう。

 静止状態から一気に弾くように動く瞬発力に関しては、ワイツタイガーは決してフュリアスに譲りはしなかった。

 

 鋭いターンを返しながら再び機首をこちらに向けて二連装エナジーキャノンとガトリングを放つ。

 エナジーライガーにも採用されているタイプの武装ではあり、エナジーチャージャーの出力供給を受けたそれらは決して射撃型ゾイドに後れを取らない威力だった。

 

 ワイツタイガーの進路を先読みしての偏差射撃、牽制のガトリング。

 

 加えてバックパックに内蔵されているマイクロミサイルだ。

 射撃を得意とするパイロットのように分析はしつつも、一方で出合い頭でのあの突撃からも恐らく格闘も人並み以上にこなせるのだろうと警戒する。

 

 ワイツタイガーを相手に食らいついている、と言うべきなのか。

 あるいはワイツタイガーがエナジーチャージャー搭載機に食らいついている、と言うべきなのか。

 フュリアスが挑戦者であると例えるのなら、人間の技術力が古の伝説に仮初とは言え拮抗しているという証明にもなるのだろうがゼーガにとっては災難でしかなかった。

 

「……なるほど、強い。白き伝説を駆るだけの事はある。性能に頼りきりではない。我がテラガイストに欲しい人材でもある、ゼネバス再興のためにな」

「ゼネバスはもうあるだろ。ネオゼネバス帝国じゃ不満か?」

「ネオゼネバス? はっ、笑わせてくれる。ヘリックとガイロスに屈し、民族の生き恥を晒したあの偽帝ヴォルフの国がか?」

「……なるほど、テラガイスト、ねぇ」

 そこに在ったのは、ただただ嘲笑だけだ。

 ゾイドバトルのような爽快さなどとは対極の、乾ききった感情。

 やがて、フュリアスは足を止める。脚部のアンカーを下ろし、鋼の喉を唸らせるとエナジーチャージャーが同時に輝いた。

 

 ……荷電粒子砲の発射体勢だ。

 フューラータイプの最も標準的な装備の一つだ。

 喉奥から輝きと共に直後、荷電粒子砲が光芒を描いて空を引き裂いた。

 

 エナジーチャージャーが生産するエネルギーを線形加速器の主動力とした一撃は、単位照射面積当たりのエネルギーだけに限って言えばデススティンガー級にすら肉薄しかねなかった。

 

 幾重にも連なる岩盤を閃光が貫き、大地を抉り抜いていく。

 ぶすぶすと灼けつく地面に、ワイツタイガーの姿は微塵もなかった。

 

 

「――ストライク、エレクトロンクロー!!!」

 

 安堵――その刹那に、砂塵を引き裂くながらワイツタイガーが飛翔し、ヘビークロ―をフュリアスの顔面に見舞った。

 電流を迸らせながら重く、鋭く穿たれるその一撃にフュリアスの顔面装甲は一部を損傷する。

 

 

「Ziファイター。所詮遊戯の分際で――!!」

「お遊戯で悪かったな、これでも生憎と腕に三年分の覚えはあるんだよ!」

 返しざまに放たれるフュリアスのテイルが振るわれ、距離を離して仕切り直される。

 旗色の悪さは若干ゼーガも理解していた。

 

 速力、その一点においては確かにフュリアスは上回っていた。

 

 

「博士、エナジーチャージャーに弱点はあるか? 稼働時間とか、不安定さとか、そういうのはつきものだろう」

『……物理的な損壊、それを除けば君の目の前に立つそのフューラータイプにはないだろう。こちらで解析する限り、恐らくアレは最大出力を落とした代わりに安定性と稼働時間を大きく上げている改良型だ。したがって消耗を狙う戦術は利口ではない』

「なるほど、速度か。……なら」

 言って、ゼーガは今度は更に荒野の奥地に、フュリアスに背を向けて逃げるようにフュリアスから遠ざかる。

 ……その先は更に切り立った岩峰であり、そこに戦場を移した意図をフュリアスのパイロットは悟る。

 

「足回りに非常によく秀でている。コアの制御のみならず躯体の設計も見事なものだな。つまり、足回りと旋回性能で勝負を仕掛けると?」

「……、ちっ」

「この機体を舐めない事だ、Ziファイター。俺の潜ってきた死線はお前ほどぬるくない」

 ゼーガの狙いは、不自由な足場の戦場でその機動性を封じる事だった。

 そのようにすればワイズタイガーの強靭な脚部と運動性なら五分を取れると踏んでいた。だが、実情はフュリアスエナジーのスペックがその上をいっていた。

 フュリアスは鋭く一瞬一瞬でエナジースラスターを吹かしながら脚部アンカーを下ろしながら岩山を突き進み、エナジーキャノンで岩の影に隠れるワイツタイガーを撃ち抜こうとしてくる。

 

『ゼーガ。確かに君の考え方は悪くない。立体的な障害のある領域に誘い込むのは高速ゾイドの速力を殺す常套手段だ。だがあのフューラーは旋回性能もエナジーライガーのソレを踏襲しているようだ』

「そうみたいだな。まったく、さすがにエナジーチャージャー搭載機とマッチアップしたことなんてないっての……!!」

 じりじりと、レーダーが相対距離の狭まっていくのを告げている。

 機首を反転させながら時々エレクトロンキャノンを放つが、その悉くをツインキャノンとガトリングで相殺していく。

 尋常ではない、とゼーガは内心で冷や汗をかく。この相手は恐らく本物だろう、プロのZiファイターと比べても何ら劣る腕前ではない。

 

「……名前、聞いてなかったなテラガイスト。あんたを倒して治安局に突き出すために聞いておきたい」

「知りたいのならサーペント、とでも覚えておくといい」

「――!!」

 直後に、バックパックから放たれる16連装ミサイルが正確に岩峰を撃ち抜いていく。

 

「更地に、するつもりかっ!!」

「誰が馬鹿正直に戦うと思う。これが興行であったなら乗ってやるのもやぶさかではなかったがな」

「う、おおおぉぉぉ!!!」

 脚部関節のサーボが悲鳴を上げる限界まで駆動させながら、同時に紙一重でミサイルの爆風をかいくぐっていくが、被弾を完璧に避けることはできなかった。

 

 巻き上げられていく岩塊を次々と足場に変えて宙を舞いながら、ワイツタイガーは刹那にフュリアスとにらみ合う。

 次の瞬間には足場にした岩塊が塵に代わるほどの速力で踏み出すと、フュリアスも同時にエナジースラスターを吹かせて突撃する。

 

 照準を合わせる隙を与えさせない速度。

 無理に射撃戦に持ち込もうとすれば今度は共々自爆に巻き込まれて終わるだろう。

 

 全身を奔る衝撃。

 ワイツタイガーとフュリアスが正面から衝突する。

 初速は間違いなく、フュリアスが上だった。物理学は至極明快で、物理的エネルギーは速度の二乗に比例する。

 

 だからこそ確かにワイツタイガーは押された。

 だがそれだけでは決して終わらない。全身を震わせながら、肩と肩をぶつけ合う鍔迫り合いが続くがそれを次第にワイツタイガーが圧していく。

 

「この尋常ならざる膂力……、これが古代虎型ゾイドの真価か」

「ああ。大したもんだろ、フェイ博士の設計してくれたゾイドは……!!」

 フュリアスの腹から捲り上げるように頭突きでワイツタイガーは突きあげると一瞬姿勢を崩す。

 更にその上からエレクトロンクローを振り下ろすが、それを易々と許しはしなかった。

 

 恐ろしい速力で慣性を帳消しにしてまたしても遠ざかる。

 

「……、さすがに早すぎる。攻めるも逃げるも速度が資本、か。そりゃそうだよな。親父も言ってたな、ゾイドは高速型に限るって」

「貴様のゾイドとて、本来であれば更に速度を上げることができるだろう。……だが知っているぞ、そのゾイドコアは融解の危険性を秘めている、とな」

「どこまで、お前はこちらを知っている。ワイツタイガーは機密の中の機密の扱いのはずだ」

「答えると思うか?」

 ワイツタイガーの操縦席でモニタリングされているデータにも、リアルタイムでワイツタイガーのコンディションが確認できる。

 既にワイツタイガーのコア出力がワイツタイガーの昂ぶりと共に四割の壁を越えようとしていることも。

 五割を越えれば躯体の融解につながりかねない。

 

「……時間がない、か。ワイツ。お前の力を貸してくれ」

 静かに、ワイツタイガーは機首を下げてぐるると唸る。

 そして今度はワイツタイガーが攻める番だった。

 フュリアスは飽くまでも合理的に防戦と引き撃ちに徹するつもりだが、それでもなお更地に仕切れなかった険しい地形が退路を阻む。

 エレクトロンキャノンの偏差射撃をエナジースラスターでかわしながら、同時に脚部を軸にして鋭くターンを切り返し、ワイツタイガーと一定の距離を維持する。

 

 エレクトロンキャノンを駆使しながらフュリアスを"動かす"戦いになっているが未だにそれでもワイツタイガーは決定打を叩き込めていない。

 同時にこの場に至ってゼーガ自身も間違いなく消耗していた。

 激しすぎるワイツタイガーの挙動にパイロットスーツ無しで耐えきるにはあまりに無理があった。

 

 手本のような高速ゾイドの操縦だと思うが、同時にフューラータイプであるからこその欠点を見逃さなかった。

 

「……なぁ、サーペントさんよ。エナジーライガーって知ってるか?」

「無論、知らぬはずが無かろう」

「じゃあ更に質問するよ。二足歩行と四足歩行のゾイドの違いってなんだと思う?」

 そう、静かにゼーガが言って、エレクトロンキャノンを放った瞬間の事だった。

 わずかに、フュリアスのターンの切り返しが遅れた。

 

 脚廻りがわずかに鈍り、回避が遅れた瞬間に右脚部装甲諸共にガトリングが破壊された。

 

 

「……なっ」

「エナジーチャージャーの速力はそりゃ凄いさ。それをバーサークフューラーに載せれば確かにエナジライガーに匹敵する怪物級ゾイドになる。……でも、アンタは動かし過ぎだよ。――四本足以上に二本足のゾイドには急ブレーキの負担がのしかかるんだ。まして、それがエナジーチャージャー搭載機ともなればなおさらだ」

 ゼーガの指摘に、はっとフュリアスのパイロットは息を呑んだ。

 この戦いが始まってから、終始ワイツタイガーはフュリアスを激しく動かさせる事に終始していたのはこれが狙いでもあったのだから。

 エナジースラスターによる急加速とその脚部による急停止。それを繰り返したフュリアスの脚部には過度の負荷がかかっていたのだ。

 

「本来だったら、激しく運動させて脚部を疲弊させるのはレッドホーンみたいな重装型のゾイドに使う手だ。……でも、早く動け過ぎるのも考えもんだよな」

「まだだ、これで勝ったと思うか――!!」

 わずかに、いら立ちながらフュリアスのパイロットは再度荷電粒子砲を構える。一文字に伸びた姿勢で、喉奥から荷電粒子の輝きが満ちる。

 同時にエナジーチャージャーも稼働率を上げていく。

 

 勝利を確信して突っ込んだ手前でコレは不味い、とゼーガは思った。

 荷電粒子砲を急速で構えられたのだから。

 しかし今度はワイツタイガーがゼーガに応える番だった。翼のように広げたウィングスラッシャーが、直後に放たれる光芒の側面を引き裂いていく。

 

 分子レベルでの振動、のみではない。ワイツタイガーのコアの出力によって高められたウィングスラッシャーが超高電圧を纏い、荷電粒子を散らしていく。

 

 飛沫のように散っていく閃光と共に、たった一閃振り抜かれたウィングスラッシャーが、バックバックのエナジーチャージャーを絶つ。

 

「……、強いか。クソッ。こんなところで、ゼネバス再興の夢は――テラガイストは――!!」

 

 切り離すように、バックパックを絶たれるとともに、フュリアスはその膝から崩れ落ちる。

 

 くたりと、力を失ったように。

 

 

 

 

 ワイツタイガーの勝利だった。鋼の喉を震わせながら、ワイツタイガーは轟くような咆哮を挙げる。

 それと共に少し遅れて、遠くからホバーカーゴも見えてくる。

 

 だが、同時にゼーガにも限界が訪れた。

 

 ワイツタイガーのコンディションに付き合い続けるには、パイロットとしての体力が続かなかったからだ。

 ゆっくり瞼が落ちていく。

 そんな眠気が訪れる中で、思うところがあるとすればひとつだった。

 

 

「ワイツ……、俺を認めてくれると、いいんだけどなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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