ヴァッサーファルの中心地が、多くのモンスター出現によって悲鳴が空を覆いつくしている。
バンスイの説明曰く、オリバー城内に出現した、目が無い人食いサイクロプスと同じモンスターだと推測される。あの時も魔法陣を展開された事により、多くの兵士が犠牲となった。
バンスイは神殿を守る為にその場に残り、ケイア達は急いで町中へと向かう。ケイアとライムとヤネスはメニカに乗り、デモンとキメラは自分の脚で向かい、近づいて行くにつれ、煙があちこちに立ち込めていた。
海から城門を潜ると、場内は悲惨な叫び声と怒号が飛び交っていた。バンスイの推察通り、オリバーで目撃したサイクロプスと酷似している。そんな中、水棲亜人達も死力を尽くして戦っているが、先程から正体不明のサイクロプスから吐き出される紫色の息によって動きが鈍くなっている。
毒煙のように辺り一面に広がり、水棲亜人達は水中から上がってこられず、立ち往生していた。そんな身動きの取れない水棲亜人達の水の傍まで近付き、サイクロプスは口から毒液を抽出して水の中に流し込んだ。
それを見ていたケイアは、早く攻撃を止めようと、メニカに急ぐように促す。そんな禱りも虚しく、毒気に気付いた水棲亜人は苦痛から逃れる為、その場から飛び跳ねて地上へと上がる。
地上での動きが著しく低下した水棲亜人達にサイクロプスは近付き、今にも食べようと口を大きく開ける。それを見て水棲亜人は、持ち手の三叉槍を振り回し、必死に抵抗した。
食べられそうになるが、間一髪で間に合い、メニカの渾身の拳が炸裂する。
ケイア「ライムは怪我人の保護と援護。メニカは兎に角、サイクロプスの殲滅をお願い」
ライム『いいよ♪』
メニカ『了解デス』
二人に指示を出して動いてもらい、ヤネスは歌による回復魔法で救助活動を行った。少し遅れてデモンとキメラの子は、独自で行動をして敵の撹乱をする。
デモン『何やねんこいつら、斬られてんのに笑っとる……。気持ち悪……』
?『文句は後。早くしないと、みんなやられる』
キメラが頭の角に光を溜めて白く光り始めた。キメラが嘶きながら角を突き上げると、白い稲妻が数体のサイクロプスに命中する。続けてキメラの背中についている龍の羽を使い、周辺の毒煙を風圧で消していく。
一体で熟せる量が普通のモンスターと違う為、戦う際もそれぞれが意思を持っている。連携が取れていないように思えるかもしれないが、感情がバラバラでも心は繋がっている。
そして、それに感化されたデモンは簡単にサイクロプスを撫で斬りにしていく。
デモン『流石やな、キメラって。ウチも負けられんわっ!』
抜刀した状態から、襲い掛かるサイクロプスを軽々斬り捨てていく。
その頃ケイアは、サイクロプスの毒気にやられた水棲亜人の救助に当たっていた。兎に角、重傷者を助ける為に自分の右手を翳しながら回復を施していく。ケイア自身は、こんな事しか出来ないと思いつつも、助けられた水棲亜人は徐々に人間に対しての懐疑的趣向が崩れ始め、好感を持つようになっていった。
残り一体となったサイクロプスにデモンが斬りかかろうとした時、その後ろから爆音と共に瓦礫が崩れ、煙でよく見えないが黒い影が立っていた。
影から目視した限りでは、4mは推定される。暫く呆気に取られていると、モンスターは動き出し、突然サイクロプスを襲い始めた。サイクロプスの頭には、デカく血塗れの出刃包丁が刺さっている。
煙が晴れ、姿を現したのはアンデッド型のモンスター。両手にはその体格と同じ程の剣は、鎖のような物で手首に繋がれ、落とさないように施されている。身体にはボロボロの木の鎧で装飾され、肩には動物の毛皮が掛けられ、頭には鉄でできた網目状の籠を被っていた。
この異様な姿に、ケイアは立ち竦んでしまう。体格差で圧倒されるのと同時に、血塗れの刀を携えている状況であれば当然。
そんな事もお構いなしに、デモンは先程の戦闘で歯応えを感じていなかったのか、闘志を燃やしていた。
デモン『随分えらいもんぶら下げてんな。やり合うんが楽しみや』
『アァ……アァ……』
デモンは透かさず刀を構え直すと、そのアンデッドは何の動作も無く、急に走り出してきた。その瞬発力に驚いて、デモンは反応に遅れる。アンデッドは刀を振り上げ、デモンに斬りかかり、受け止める。
尋常じゃない力に驚くデモンは、押し潰されそうになる為、刀を横に受け流し、胴体に狙いを定めた。だが、アンデッドによるものなのか分からないが、異常なほど体をくねらせて斬撃を回避。
生身の人間であれば、背骨が折れる程の捻じ曲げ。巨漢である為、的が大きく当てやすいと思っていたデモンは少し甘く見ていた。長引けば後々何が起こるか分からない為、技で一気に仕留めにかかる。
デモン『霹靂神流……迅雷ッ!!』
上段の構えから兜割りの動作で斬りかかった。見事にアンデッドは真っ二つに割れ、その場に倒れた。刀を鞘に収め、暫く見つめながら考える。
デモンは眉間に皺を寄せながら見つめていると、遠くの方からケイアの呼ぶ声に気付き、後ろを振り返る。
ケイア「デモンさ~ん!。大丈夫ですか~?」
デモン『お~いチビ助~!。こっちも終わったで~!』
ケイアが手を振りながら向かってきた為、デモンも同じようにふり返した。だが、ニコニコ近付くケイアの顔がみるみる変わり、後ろに指をさしながら促してくる。
ケイア「デモンさん、まだ死んでないですっ!」
デモン『ハッ!?」
デモンが振り返った瞬間、アンデッドの胴体は直りつつあった為、敵の刀が顔に迫っていた。何とか体を動かし、紙一重で躱せたと思ったが、刀が伸びてきた。刀は鎖で繋がれている為、デモンの顔に迫る。
体勢を崩しながらも何とか避ける事が出来たが、頬に切り傷が残った。一旦距離を取り、アンデッドから離れるとブロンド色のおかっぱ頭で、前髪が長く瞳が見えない男性か女性か分からない人物が立っている。先程まで居なかった場所に佇み、アンデッドの膝に寄りかかりながら微笑んでいる。
ケイアとデモンはただならぬ気配を感じながら身構えていると、女性は二人に語り掛ける。
?『君達が生きてるって事は、アンタレス達はしくじったんだね。あの三人は言う事聞かないし、別にいいか……。ところでどうかな、ボクの実験体は?。アンデッドなんだけど、僕の力が練り込まれてるんだぁ。強いでしょ?』
デモン『趣味悪いな。気持ち悪いにも程があるわ……』
カス『そうかい?。気に入らなかったかな……。あっ、自己紹介がまだだったね♪。ボクの名前は『カストル』。伏魔十二妖星の一人、よろしくね♪。そっちのお名前は?』
デモン『教える訳ないやろボケ。教えてほしかったら住人殺すのやめろや……』
終始友好的ではないデモンの態度に、カスは怒りを募らせている。笑いながらも笑顔が引きつっているように感じる。
そしてカストルが手を二回叩くと、アンデッドの刀が緑色に光り出した。先程よりも、より気性が荒くなったように感じる。地団駄を踏みながら刀を地面に叩き付け、相手の恐怖感を煽ってくる。
カス『ボクは帰るよ、君達の戦い方をじっくり観察する良い機会だからね。まぁ、精々足掻いて見せてよ。じゃね~♪』
デモン『オイッ!……さっきよりも元気やんか……。こりゃあめんどくさいなぁ……』
アンデッドは刀を擦り合わせながら戦闘態勢に入り、呼吸も荒くなっている。極度の興奮状態であるのは分かる。
そのままアンデッドは、刀を引き摺りながら接近してくる。デモンも刀を構え、最初の時とは明らかに空気感が違う。
デモンが攻撃を仕掛けようと瞬きした瞬間、目の前にアンデッドの顔面が現れ、呆気にとられる。そしてアンデッドはその勢いのまま、デモンに頭突きを食らわせ、下段から斬り上げた。辛うじてデモンはその攻撃を躱し、再び後ろへと距離を取る。
デモン『いってぇ……。体格差のせいで腕のリーチがあり過ぎる……。おまけに刀も長いから、一歩目から斬撃が飛んでくる。それに、まだ隠し玉持ってるかもしれないしなぁ……。さっきも何で生き返ったんか分からんし。まぁ、もう死んどるんやけど』
『アァ……』
ケイア「デモンさん、大丈夫ですか?!」
ケイアは透かさず回復を施し、余裕の表情を見せる。
デモン『チビ助、回復魔法ありがとうな。チビ助には敵わん相手やから、後ろに下がっとき』
ケイア「でも……」
デモン『アイツの攻撃範囲に入ったら、一瞬で斬られるで』
デモンはそう促しながら、ケイアを後ろに待機させる。デモンは八双の構え取りながら低い姿勢をとり、一蹴りで鎧のアンデッドに近付いた。
八双の構えは、前腕を「八」の字に構えることで腕への負担が軽減され、体力の消耗が抑えられる。また、全方向の敵に素早く対応することが可能。アンデッドはやはり反応が早く、両手に持った出刃包丁を横薙ぎに振り、両断しようとした。
だが、デモンは低い姿勢を維持していた為、攻撃する箇所が一点しかない為、避けるのが容易。そこから高く飛び上がり刀を振りかざす。
デモン『取ったっ!!』
力を込めながら全体重を乗せ、先程と同じように敵の頭を目掛けて振り下ろした。その直前、アンデッドの被り物の籠が緑に光り出し、光線のような物を放とうとしていた。
空中で尚且つ勢いをつけていた為、避ける事が出来ないデモンは無意識に自分の刀を盾にするように構える。
熱光線が消えていくと、デモンの四肢の節々に火傷のような傷跡が残っていた。
ケイア「デモンさんっ!?」
デモン『こんなんでクタバランて。あっちぃ……刀が業もんでよかったわ。恐らく、あれが奴の隠し玉やろ。早いとこ決着つけんと、大量のサイクロプスに他のやつらが押しつぶされる』
ケイア「回復させたので、もう大丈夫です」
デモン『おう!さっきより力が湧いたような気がするわ。ちゃちゃっと片付けて、はよ帰らんと!』
そう言いながら先程と同じように八双に構え、地面を蹴り上げた。するとデモンは、少ししか力を入れていないのにも関わらず、以前より俊敏性を増したことに気付く。それに加え体が軽く、アンデッドが攻撃を仕掛けた際に先程より遅く見えていた。
何が起こっているのか分からないデモンは、兎に角戦いに集中しようとアンデッドに斬りかかる。そしてあっさりアンデッドの右腕、左腕は宙を舞い、地面へと落ちていく。
そしてデモンは右足を引いて体を右斜めに向け、刀を右脇に取り、切先を後ろに隠すように下げて脇構えをとる。また止めと言わんばかりに、デモンの刀身が雷を帯び始め、その場に雷鳴が轟く。
デモン『霹靂神流……疾雷ッ!』
光の速さでアンデッドに水平になるよう斬りかかり、刀を鞘に収めると同時にアンデッドの上半身が崩れ落ちた。
暫くするとアンデッドの体から放たれていた緑色の光は、徐々に消えていった。デモンも一息つきながらアンデッドの死体を眺め、ケイアに回復を施されてからの事を小さく思い返していた。
デモン『チビ助に回復されただけで、こんなに変化とは……』
ブツブツと呟いていると、遠くで見守っていたケイアが近づき、労いの言葉を掛ける。
ケイア「デモンさん、凄いカッコよかったです!。あんな簡単に倒しちゃうなんて!」
デモン『なぁチビ助、回復以外でなんか魔法でもかけたんか?』
ケイア「いえ、何も。どうかしたんですか?」
デモン『いや、それやったら何でもないんやけど……』
カス『やっぱり鬼人は侮れないね。結構強く改造したつもりだったんだけど……殺し損ねちゃったね』
二人が話している側に、空中からカストルが舞い降りてきた。ニヤニヤと笑いながら近付いてきた為、デモンは苛立ちながら語気を強めに挑発する。
デモン『チビ助が持ってる宝玉、奪わんでええのか?。お前やったら、このアンデッドより有利に戦えるやろ?』
カス『こっちにも色々事情があるのさ。君達の事がよく分かったから、一先ず退散するよ。じゃね~♪』
カストルはそのまま宙に浮き、何もなかったかのように消えていった。居なくなったことを確認した二人は、直ぐ仲間の下へと向かい、残りのサイクロプスを殲滅していく。
そして数時間後に討伐が完了し、ヴァッサーファルの兵士たちは国内に散らばる死体を回収していると、以前オリバーでも確認した召喚用の石が確認された。やはりあの化け物は、儀式による召喚でしか出現しない事がハッキリわかる。
この事を国主であるクヴェレに報告し、国内情勢をデモンが説明する。
デモン『ヴァッサーファル内での水棲亜人達の被害は重傷者は出ているが、チビ助のお陰で死者は出ていない。ついでに言えば、姐さん達の拠り所でもある神殿を綺麗に出来たのも、コイツのお陰やしな』
クヴェレ『そうか……。水の神殿だけでなく、度重なる反乱を鎮めてくれた事、深く感謝する。そうだ、解放してくれた御礼をせんとな。番の話を―――』
ゼーユ『クヴェレ様っ!だからその話は撤回してくださいと言ったでしょ!?』
ケイア「あはは……。それで、この水の宝玉はお返ししますね」
クヴェレ『少年が持っていろ。一国の主が言う事ではないが、災いの種を国に置いていても此度のように臣民も苦しむ。それに加えて、またデモン達に救助要請を出すのは互いにとって利害は一致せんだろ』
デモン『押し付けたいだけやろ……。まぁ、地上戦が不得意な軍隊やからしゃあないけど……』
その後数日が経ち、ケイア達はヴァッサーファルの復興作業に当たり、商人たちの行き来できる程まで回復する事が出来た。そして一緒に居たヤネスは、華の鉄格子のメンバーの下に戻るのかとケイアは聞いたが、この場で残りやり残したことがあると告げた。
ヤネス「本当はオリバーに戻るつもりだったけど、ケイア君の勇士を見てもう少しいようと思うんだ」
ケイア「どういう事ですか?」
ヤネス「サイクロプスで負傷した水棲亜人とか、その場に居た商人の獣人とか救助してる姿が一番印象に残ったんだ。最初ここに来た目的が、水棲亜人と人間の蟠りを無くそうと思って来たけど、今度は君の物語を歌にして広めようと思うんだ。その方がリアルで伝わりやすいと思う」
ケイア「何か恥ずかしいですけど、体には気を付けて下さいね。僕達はオリバーに戻って、今回の事を報告しに行きます……それじゃあ」
ヤネスに別れを告げ、ヴァッサーファルの城門を潜り抜けてケイアは海にある神殿を見つめた。すると水の神殿に、龍の姿をしたバンスイが手を振るように尻尾を横に振り別れを告げるような仕草をしていた。
別れが恋しかったが、ケイアは迷宮の大森林を進み、オリバーへと目指した。歩いている途中、ケイアはある事に気付いていた。『キメラ』が依然として付いて来ている。
ケイア「森に帰らないの?」
?『お前と一緒がいい』
デモン『何虫のいい話しとんねん。ここに住んどったんやろ?せやったら、ここの食べ物食べたらええやん』
?『うるさい。コイツと一緒がいい……』
デモン『コイツ―――』
ケイア「まぁまぁ。それじゃあ、一緒に来る?」
デモン『正気かいな?!コイツ体デカいし、飼うの大変やぞ?。メシもメッチャかかるし」
ケイア「何とかなりますよ。それに、心強い仲間は居た方がデモンさんも安心できるでしょ?」
デモン『べ、別にチビ助の心配なんかしてないわっ!』
そしてキメラの正式な仲間として加入し、これからライムとメニカとの連携を考えていかなければならない。そんな事を模索していると、キメラがケイアの袖を引っ張りながら聞いてくる。
?『名前……。名前つけて』
ケイア「あぁ、そっか。研究所みたいなところで生まれたから、名前なんてないよね。う~んと……『キラ』なんてどう?」
キラ『キラ……キラ……。うん、気に入った』
デモン『何や安直な名前やな。ホンマに動物に付ける名前やんか』
キラ『うるさいっ……』
デモン『痛っ!?』
デモンはキラにどつかれながら迷宮の大森林を歩き出し、ケイアはまた新たな仲間が増えて喜びに満ちていた。亡くなったホテプの分まで面倒を見ようと決意し、親代わりのような役目が出来るように心の中で唱えながら歩いた。
大森林を抜けるまでの道のりは3日程かかるが、ヴァッサーファルでの出来事を話しながら進んでいた為、体感的にあっと言う間に抜ける事が出来た。
オリバーへは1日もすれば着くという距離まで来ると、街道を進む先にオリバーの兵士が血相を変えて走ってくる。
「デモンさん、大変です!?」
デモン『お前は、第三師団の隠密部隊のやつだな。どうかしたんか?』
「以前、オリバー王国が襲撃を受けた際、混乱に乗じ『ユスティーツ』が政治撹乱を起こしています。正義と騙りながら武力で支配し、国内は内部分裂を起こし始めています。その間に、リアム王が国民に呼び掛けはしているのですが、絆された国民は彼らのプロパガンダにより、手の付けられない状況になっています……」
デモン『負傷者は出とるんか?!』
「面目次第もありませんが、数十名の尊い兵士が命を落としました……」
デモン『侵入経路はどっから?』
「西側にある居住区画の城門が、何者かによって破壊されました。恐らく、国民の何人かは引き抜かれ、その居住者がやったとみられます……憶測でしかありませんが。団長と副団長が被害を食い止めています、長旅による疲労はまだ癒えていないと思いますが、急いでください!」
デモン『わかった、お前ら行くで!』
ケイア「はい!。メニカお願い」
メニカ『了解。アクセルモードニ移行シマス、シッカリ捕マッテイテクダサイ』
ケイアとライムはメニカに飛び乗り、デモンとキラは走って向かう。心の中でケイアは、少しでも被害が広がらないように願い、一刻も早くオリバーへと向かった。