1.「八雲紫と伊村」
現代社会。それは人間関係が大事となる社会システム。
その構築に失敗すれば、最後に待つは孤独。
上司、同僚、家族、友人、恩師、誰にでも良い付き合いができなければその当人はたちまち孤立していく。
どう足掻いても変えられない"現実"というものは、なんと非情なのだろう。
これから始まるは、現実世界にひどく絶望した一人の少年が体験する、夢現に見紛うような幻想的な物語である。
「くそ……、この世はなんて不条理なんだ………」
人気のない路地裏で、16歳くらいの黒髪の少年が一人で蹲っている……。
少年はぶつぶつと独り言を呟きながら、僅かに顔を上げる。
「おれだけがこんな不幸な人生を送る事になるなんて……、呪う、おれが死んだら……家族も、学校の奴らも全員呪ってやる……!」
独り言を口にしている少年の名前は"伊村 綾太"。
実は彼はこれまで家族や学校の教師、さらには自身の同級生たちからまるで最初から無いもののように疎まれていた。
現にこの日、彼は登校して授業を受けたのだが、校内の者全員から除け者として扱われ、自分一人で下校する際も、校門を閉められそうになったりと碌な目に遭っていない。
また、彼は生まれながらに身体がかなり脆い。
骨は折れやすく、皮膚はちょっとしたことですぐ出血してしまう。
その為これまで幾度となく切り傷、擦り傷、打撲、突き指……終いには骨折、感染症などの大怪我や大病を患った事もあった。
それらもあってか、伊村の周りには誰も人が寄り付かず、彼を見た者全てがこの世のものではない存在に触れてしまったかのような反応を示し、露骨に距離を置かれていた。
「…………、はあ、もう良いや。どうせこの世は残酷だ。おれの想いなんて叶わないものなんだ………」
これまで自身に降りかかった不幸な出来事だけ思い返し、悲観しているだけではダメだと考えた伊村は諦めたように呟くとゆっくりと立ち上がり、人通りのある道路の方へ歩き出す。
「あら、そう決めつけるのは……まだ早いわよ?」
……だが、その行動は急に目の前に現れたこの世のものとは思えない金髪の美女の登場によって阻止された。
「ん……? ………へ!!?」
自身の眼前に突如として出現した美女を目にして驚愕し、大きく後退る。
その美女は白い帽子に紫と白色をしたワンピースに身を包んでいるようで、その姿はとても現代の女性が着るようなものとは思えない。
「ひ、……女の人が、いつの間に……!? って気持ち悪っ!?」
伊村はぶるぶると小刻みに震えながら自分の前へ現れたその金髪の女性へ改めて目を向けると、女性は端がリボンのようなもので装飾された裂け目を背にして立っていた。
しかし、伊村の目を引いたのはそこだけではない。
何故ならその裂け目は、目と思しきものが大量に浮かび上がっていたからだ。
「……な、何なんだ一体……、これは夢、なのか……?」
「あぁ、そうだ。……夢なんだ。夢じゃなければこんな美人な方がおれの前に居るはずがない!」
パンッ!!
「いって……!!」
夢かと考えた伊村が右頬をつねったり、両頬を叩いたりしてみた。
だが、痛みはあり、今この瞬間こそ現実だという事を悟る。
それどころか、強く叩きすぎて頰が赤く腫れ上がっているようだ。
「……そろそろいいかしら?」
そんな伊村の様子を沈黙しながら見守っていた女性が口を開き、次は自分が喋っても良いかと尋ねた。
「あ、すいません……」
先程から一方的に自分だけ話している事に気付くと、両頬を痛そうに押さえたままか細い声で伊村は謝罪する。
「私は"八雲紫"。あなたに用があって来たの」
女性は大きな胸に手を当てて伊村に自己紹介して"八雲紫"と名乗った。
自身の名を教えた紫は次はあなたと言わんばかりに伊村の方へ視線を向ける。
「あ……、お、おれは、"伊村 綾太"って言います! あの……一体何の用でしょう!?」
「ふふ。……用といっても、ただあなたを
「…………え? それってどういう……?」
「
伊村が意味がわからなさそうに紫に尋ねようとしたが、その瞬間、
「へ? あ!? うおわあぁぁぁぁぁーーーーーー!!?」
真下を見ると、灰色の道路があるはずの地面が"消失"し、そこには紫が使っていたものと同じ裂け目が展開されており、悲鳴を上げながら伊村はそこへなす術もなく落ちていった。
「ふふふ。楽しみね」
「あなたがこれから一体どんな生き方をするのか、どんな"影響"を与えるのか、」
「そして、あなたに眠る"未知の力"をどう引き出すのか……、」
「見させて頂くわ」
伊村が先程まで立っていた場所を暫く見つめた後 誰も居なくなった路地裏にて一人呟いた紫は、スウゥ……と自身の作り出した裂け目の中へ消えていった。
私の執筆している"なろう小説"を知っておられる方には分かると思いますが、伊村はあの作品の主人公のうちの一人です。
なかなか癖のあるキャラクターですが、不快感のないよう書いていきたいと思います。