東方貧弱男   作:K.R.

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最後です。
これで一区切りつきました。



13.「孤独な少年の過去」

 

「彼はこの幻想郷に居させてあげて」

 

紫が淡々とした口調で霊夢へ提言する。

 

「紫、あんた最初から話聞いてたんでしょ……」

 

「綾太は外の世界から来た"外来人"。面倒くさいけど元の世界に返してあげるのが私の仕事なのよ? 邪魔しないでくれる?」

 

伊村を現実世界へ帰さず、幻想郷に留まらせるよう要求してきた紫。

彼女の話を聞いた霊夢はため息をついた後 呆れたような目で紫を見据えながら一言そう言うと、紫へお祓い棒を向ける。

 

「何か勘違いしているようだけど………」

 

「彼を外の世界には戻せない理由があるのよ霊夢」

 

伊村を現実世界へ帰す事はできない明確な理由が存在すると紫は話し、霊夢へお祓い棒を下げるよう促した。

 

「…………。そう」

 

紫の言葉を聞いた霊夢は少し沈黙すると、大人しく引き下がった。

 

「紫さん………。数日ぶりですね、やっと会えて嬉しいです……!」

 

「ええ、綾太。少し立て込んでてなかなか直接会いには行けなかったから、私も再会できて嬉しいわ」

 

紫との再会を喜ぶ伊村。

その紫も、可笑しげに伊村の顔を見ると、彼と同じく再会を喜んだ。

 

「ふん、よく言うわ。いっつも暇そうに私に話しかけてくるくせに」

 

だが霊夢は紫へツッコミを入れた。

彼女によると紫は退屈そうに霊夢に声をかけることがあるそうだ。

 

「あら、そうだったかしら?」

 

しかしそれについては紫は口元に手をやり、覚えてないと言わんばかりに惚けながら首を傾げた。

 

「…………。まぁ良いわ、とにかく、綾太を外の世界に返せない"理由"ってやつを教えてもらおうかしら」

 

再び紫と霊夢の間に沈黙が流れたが、早々に霊夢がそれを破ると、先程紫が口にした伊村を現実世界へ送り返せない訳を聞き出し始める。

 

「紫……まさかあのスキマ妖怪がこんなところで姿を現すなんてな……」

 

「綾太を元の世界に返せぬ理由などあるのだろうか?」

 

妹紅と慧音が考える。

紫は何の用で、どんな目的があって伊村を幻想郷に留まらせようとしているのかを熟考した。

 

「…………、たしかに、外来人は普通なら前までいた世界に帰りたいってなるはずだし、あ、もしかしたらあいつの暇つぶしとかだったりして……」

 

あ、と理解したような顔をして妹紅が冗談混じりにそう予想した。

 

「いや妹紅、それじゃあまりに身勝手すぎるだろう……だが、仮にそうじゃなかったとしたら一体どんな理由があるんだ……?」

 

すぐさま慧音がその予見を否定し、紫は私的な理由以外にどのような事情で伊村を幻想郷に留めようとしているのかと疑問を浮かべた。

 

 

「…………、綾太には生まれた時から"不思議な力"があったの」

 

 

少し間を開けた後、ゆっくりと紫がこう語った。

 

「その力はとてもこの世のものとは思えない程"異質"で、且つ神聖な力。綾太はその力を持っていることに気付いてなかったようだけど、かなり強大なパワーを秘めているのよ」

 

紫によると、伊村には強力な力が眠っているらしい。

その力は異質とも神聖とも形容できる"不思議な力"だという事が判明した。

 

「!!? 不思議な力……お、おれにですか!?」

 

紫が話した自身に眠るという特異な力について当の本人である伊村は驚愕し、目を丸くして紫へ問いかけた。

 

「ええそうよ。まあ無理はないわね」

 

知らないのも仕方ないかと紫は肩を竦めると、伊村に話をし始める。

 

「あなたはこれまで周りの人間全てから避けられたり(・・・・・・)、無視されたりしてきたから、そんな情報なんて手に入るわけがないもの」

 

その話は、伊村がこれまで受けたと思われる哀しき境遇についてだった。

 

「周りの者たちから……? それはどうしてだ? 綾太が何かしたのか?」

 

「いや、綾太は特に何もしてないわ。ただ………」

 

紫のこの話に反応した慧音が訝しげな表情で彼女に問い、一体何故伊村がそのような扱いを受けたのかと質問する。

 

 

「綾太の内に眠る力、それが私たちのような幻想郷に住む者以外の人間……つまり外の世界の人間たちにとってはあまりにも特異で不気味な存在に映る。だから彼はこれまで他の人たちからまるで忌子のように扱われてきたの」

 

 

その質問に、紫が答えた。

だがその返答によって伊村の暗い過去の話に直結する禁断の質問をしてしまったという事に慧音らは気付かされる事になる。

 

「そ、そうだったのかよ綾太……」

 

「なんて事だ……綾太は何もしていないというのに………」

 

魔理沙が同情するように眉を顰め、慧音は伊村の哀しき境遇に嘆くかの如く顔に手をやり一言口にする。

 

「…………………」

 

そして、紫の話を伊村はただ無言のまま聞いていた。

 

「綾太はいつも"孤独"。一人ぼっちでほぼ毎日ずっと部屋に引きこもっていた……」

 

「一応家族はいるけどあれは只の偽り(・・)の存在………。食事も学費もろくに出さなかったようだし、最早あなたを家族とも思ってなかったようね」

 

「登校しても友達すらいないし、いじめられた事はなかったようだけど、教師も生徒も皆わかりやすいくらいに彼を避けていたようだわ」

 

高校や家庭内での伊村の扱いや、彼が送っていた普通とは思えない日常。その大まかな内容を隠す事なく霊夢らに明かした。

ここまで話すと紫は神妙な面持ちで一度伊村の方を見やる。すると……

 

 

 

「………あ、ああああぁぁぁぁぁっ!」

 

「も、もうやめて下さい……っ、あの時の事は思い出したくない……!」

 

「お、おれをあんな………あんな、"人間"じゃないような目で見やがる連中の事なんて……忘れ去りたいのに……っ!!」

 

 

伊村が、遂に精神崩壊した。

ガクッと膝から崩れ落ち、顔を両手で覆って感情を爆発させ、これまで自分が元の世界で嫌という程体感した負の視線と、その人間たちの存在を忘却したかった事を皆に告げた。

 

 

「そう……ごめんなさいね。少し喋りすぎちゃったみたい」

 

一変した伊村の態度に少し驚いた紫。

だが自分が彼の過去について勝手に言いすぎてしまった事が原因でそうなってしまったのだとすぐ自覚し、伊村に謝罪をする。

 

「り、綾太にまさかそんな過去があったなんて………」

 

「綾太………」

 

伊村が普通の人間ならあり得ないぐらいに重い過去を背負っていると知った慧音と妹紅が驚きつつもお互い彼に心配そうな眼差しを向けている。

 

「………、紫。今話したのは本当の事なの?」

 

そして、これまでの伊村と紫の話を傍聴していた霊夢が冷静な表情をして紫に話した内容の真偽を問うた。

 

「ええ。綾太が生まれてすぐに外の世界に行って定期的に彼の事を観察してたから。さっき話したのは全て"事実"よ」

 

紫は恐らく自身が使える裂け目を利用した能力によって伊村を外の世界から観察していた事を教え、自分の説明した内容が全て本当の事だと霊夢にそう話した。

 

「…………、あの反応を見る限り、どうやら嘘じゃなさそうね」

 

ジッと霊夢は肩を震わせ顔を手で覆っている伊村の様子を一瞥し、その光景から察して紫が語った言葉が全て事実であると信用した。

 

「わかったわ。綾太はこの幻想郷で暮らすという事にしましょう」

 

と同時に、伊村を幻想郷で暮らさせる事を決断した。

 

「…………っ!?」

 

霊夢の発言を耳にした伊村はビクッと大きく肩を震わせた後、恐る恐る霊夢の方へ顔を向ける。

 

 

「あら、どうしたの綾太?」

 

「まさか帰りたいの? けど今外の世界に戻したって、あなたには何処にも居場所がないし、生きてても辛いだけでしょ?」

 

霊夢が現実世界に帰りたいのかと伊村に問いかける。

 

「い、いや……な、何でもないです……。ただ、」

 

だが、無論伊村が言いたいのはそんな事じゃない。

 

「ただ?」

 

「おれ本当にこの世界に居てもいいのかな、って……そう思うと少し、怖くなってきたんです………」

 

彼が言いたかったのは、幻想郷に自分が居てもいいのか……という存在理由だった。

 

「……、当然よ」

 

だが、その質問に対し霊夢は一言そう呟く。

 

「え……?」

 

「あなたはこの幻想郷に住んで当然なのよ。誰がそれを否定するの? 誰があなたを避けるの?」

 

幻想郷は全てを受け入れる(・・・・・・・・・・・・)

 

「みんなあなたを避けたりしない。だからあなたも胸を張りなさい?」

 

さも当然の如く霊夢は伊村へこう説いた。

その顔は誰よりも優しく、誰よりも暖かく感じるものであった。

 

「れ、霊夢さん……」

 

「自分はここで生きてても良いんだと、自由に楽しく過ごして良いんだと、当たり前のように思う事が大事。もう二度と元の世界に帰らず辛かったり苦しい思いもせずに前を向いて自分らしく生きる事だけ考えるのよ。わかった?」

 

幻想郷で自分は何も邪魔されず、何も嫌な思いもせずに生きる事を考えれば良い、と伊村へ伝える。

一見当たり前のように聞こえる言葉だが、だからこそ伊村には深く響いた。

そして最後に再確認の意味を込めて霊夢が伊村へ聞き出した。

 

(……、自分らしく……当たり前に………)

 

(……おれは、おれは………この幻想郷で生きてても良いんだ………!)

 

 

「はい、わかりました……! 霊夢さん、本当に……本当にありがとうございます!」

 

 

自分は幻想郷で生きてても良い。自身の存在価値と、大事なことが何かを霊夢から教えられた伊村は彼女に深く感謝した。

それと同時に今この時から、伊村は幻想郷の住人として、新たな生活を送ることとなった。

 

 




次回は月末頃の更新を予定しております。
お楽しみにー。
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