「アリスさん、ですか……こちらこそよろしくお願いします」
「えっと、おれは伊村綾太、って言います!」
「それで……自分に一体何の御用が?」
アリスという少女と出会った伊村は自分の名も教えた後、早速彼女へ用件を聞く。
「用、ね………」
「……いいえ、別に大したことではないのだけど………」
「………?」
アリスは少し考えるような素振りを見せた後そう返答した。
伊村はその返事を聞いて不思議そうに彼女を見つめる。
「……、あなた、"魔理沙"には会ったわよね?」
アリスがふいにそう問いかけた。
伊村が先日出会った魔理沙について聞いてきたのだ。
「魔理沙さん……? あ、はい、彼女とは昨日会いましたが?
それが何か?」
先日魔理沙と会った事を話し、アリスへ再度聞き返す。
「やっぱりね。………あの子が昨日あなたの話をしてきたから気になってたのよ」
「私もあの子と同じ"魔法使い"。別に友達って訳ではないけど一応知り合いなの」
するとアリスは、自分が魔理沙の知人であるという事と、彼女と同じ"魔法使い"だという驚きの情報を伊村へ明かした。
「え、……え!? そうだったんですか!?」
(お、驚いた………魔理沙さん以外の魔法使いとこんなところで会えるとは……)
(それに彼女も"魔法使い"だなんて……、あ、確かに隣の妖精?みたいな女の子もよくよく見れば人形みたいだし………もしかしたらこれも……)
アリスが魔法使いで魔理沙の知り合いであった事を聞いて、驚嘆の表情を顔に出しながら伊村はそう考えた。
そして、その中でアリスの隣で何故か空中を浮遊している妖精のような金髪の少女をまじまじと見つめ、その少女が人形だという事に気付くと、この人形自体も魔法使いであるアリスがかけた魔法によって動いているのかと考察した。
「あら? そんなにこの子を見てどうかしたの?」
と、ここでそんな伊村の視線を気にかけたアリスが話しかけてきた。
「え、あぁあ! い、いや……何か凄く精巧な人形さんだなぁと思いまして………」
伊村は明らかにテンパっており、言葉が一瞬詰まる。
というか人形の方へ視線が集中していたのか、アリスの存在と声に反応が少し遅れてしまう。
しかしその後すぐに落ち着きを取り戻すと、アリスへ金髪少女の人形について思った事を感想として話した。
「ふふ、褒めてくれるのね。ありがとう」
「いえいえ!」
伊村の言葉を聞いたアリスが嬉しそうな顔で礼を言う。
それに伊村は右手を振って礼をするほどでもないというジェスチャーを取る。
「あなたって話せば話すほど面白いわ。魔理沙から外来人と聞いていたから、もっと怖がったりするのか心配だったのだけど特に問題はなさそうね」
クスッと笑いながらアリスが伊村にそう話した。
彼女はどうやら伊村が自分と話す時にもう少し取り乱したりするのではないかと考えていたらしく、彼の様子を確認して安心したようだ。
「そ、そうですか……。おれってホント変わってますよね………」
アリスが先程自身を面白いと評価したことに反応し、自嘲するように伊村が呟いた。
「そうかしら? 少なくとも|幻想郷(ここ)の人たちと比べれば、あなたはまだ普通の人間に見えるわよ?」
「はは……、そう言っていただけると嬉しいです……」
だがそれを聞いたアリスは、幻想郷で暮らす者たちの方が伊村よりも普通じゃないと評して、伊村を至って普通の人間と同じように扱った。
その言葉を受け伊村は若干心が軽くなり、先程まで緊張していた口角がほんの少し緩んだ。
「アリスさん、ではおれはこれで………」
アリスに背を向けて伊村は右手を挙げると、その場から離れようとする。
「あら、これからどこへ向かうつもり?」
が、アリスの疑問の声に引き留められる。
「え、あの……ひ、人里を取り敢えず回ってみようかな、と……」
「んー、そう……」
伊村の返答にアリスは少しの間考え込んだ。
そして何故か伊村の顔ではなく身体の方へ視線を落とし、ゆっくりと何かを観察し始める。
「へ? ど、どうしました? アリスさん? おれの服、そんなにへ、変ですか?」
アリスの行動を不思議に感じた伊村が彼女へ不安に思いつつ問いかけた。
「………そうね。その格好だとちょっと浮いてるわね。ここだと」
「え!? ダメなんですか!? この服装!?」
伊村の顔へ目を向け直したアリスが彼の格好についてそう言及した。
伊村の着ている高校の制服は、洋服に殆ど馴染みのない人里内の人間から見ればかなり変わって見えるだろうと指摘を行なったのだ。
「ダメなんて事はないけど、新しく買った方が良いんじゃない?」
「買うって……もしかして?」
「そうね、里の人たちが着てるような服にしてみたらどうかしら?」
アリスがそう言いながら人里内をまばらに歩く和服を着こなす若い男らの姿を指差す。
「あ、あの服……和服を!? え、お、おれ一度も着た事ないんですけど!?」
自分が今まで一度たりとも着たことのない和服を買うべきだとアリスに言われ、思わず伊村は戸惑う。
「大丈夫、そのうち慣れるわ。それにその方が似合うんじゃない?」
「えっ? そう思います? じゃ、じゃあおれ、着てみようかな……?」
アリスからアドバイスを受け、伊村は少し着る気になったようで、人里内の服が購入できる店へ早速向かおうと足を動かした。
「って、あれ………?」
は、言いものの、伊村はこのタイミングである重要なものが手元にない事に気付く。
「あ、ああああ…………そう言えばおれ………、"金"持ってないじゃーーーん!!?」
そう、金だ。
伊村は幻想郷へやってきてから今日まで何一つとして金らしき金をもらったり稼いだりしていない。
勿論どこか道の真ん中に落ちてたりとかそんな自分に都合の良い事など到底起こり得ないので実質的に彼は現在、全く金を持たない無一文と同じ状態と言える。
「あらあら、それは大変ね」
「ど、どうしましょ……これじゃ服どころか食料も買えない、家具も道具も買えない………おれ情けない………」
同情するアリスの台詞を聞きつつ、絶望しきった顔で地面に顔を向けてしゃがみこむ。
この先自身に迫り来る"死"という最悪の結末を想起し、伊村はぶつぶつと嘆きの言葉を呟いた。
「………。なら私が服のお金代わりに出すわ」
「………え!?」
そんな中、なんとアリスが伊村へ自分のお金を代わりに出すと口にした。
「心配しないで。私たまにこの里で人形劇をやってるの。だからお金なら十分あるのよ」
アリスの言葉を耳にした伊村が不安そうな表情をした為か、アリスが微笑みながらそう話した。
「それに、あなたは幻想郷に来たばかりなんでしょ? ついでだし、この人里の店とか施設を案内してあげるわ」
更に、アリスは服を買う次いでとして人里内の施設や店舗を紹介する事を提案してきた。
「い、良いんですか!? おれにそ、そこまで……!?」
(おれなんかにこんなに優しいなんて………魔法使いじゃなくて聖人なのか!?)
ここまで自分に良くしてくれるアリスに聖人かよと思いながらも、彼女へ聞き返す。
「外来人を見捨てる訳にはいかないわ。それに、一応あなたは魔理沙の友達らしいからね」
どこか優しそうな顔をしながら、アリスは魔理沙の友人であり外来人である伊村を見捨てて行くことはしないと断言した。
「あ、ありがとうございますー!!」
(よ、良かった! この人はマジで聖人だよ!)
アリスの返事に伊村が感謝の言葉を述べる。
助かったと思うのと同時にアリスの人柄の良さに惚れながら。
何はともあれ、こうして伊村は人里の案内をしてくれるという彼女の後ろをついて行くこととなった。
よく見たら今回全く話が進んでない……^^;
次回から人里案内となります。