19話目、できました。
一応来年、1月末までには人里案内は終わらせるつもりです。
大晦日に本編小説そっちのけで東方二次小説最新話をひっそりと投稿するぼっちな自分……
「………"稗田家"?」
鈴奈庵を後にした伊村は引き続き、アリスの案内のもと人里の中を歩く。その道中、霧雨道具店という道具屋や、里で人気の団子屋、運松と名乗る老人の住む家に案内されており、これから人里で暮らす事も兼ねて丁寧に挨拶をしていった。
「ええ、今私たちの目の前に建つこの屋敷がそうよ」
「な、なるほど………」
そして現在、人里の中でも一際大きく荘厳な雰囲気のある屋敷の前に、伊村とアリスは来ている。
「"稗田阿求"さん……でしたよね? その方が"御阿礼の子"と呼ばれていると……?」
「その通りよ。稗田家はこの人里にある名家でね。綾太がこれから里で暮らしていくなら挨拶しておいた方が良いと思って案内しようと思ったのだけど……」
「…………。でも、この様子だとまだ彼女はいないようね………」
アリスが屋敷を見つめながら残念そうに呟く。
伊村はこの大きな屋敷に着くより少し前、アリスから"稗田家"という一族と"稗田阿求"という人物、そしてその歴史について教えられていた。
この歴史とは、稗田家の当主が幻想郷における妖怪の歴史やそれらに遭遇した際の対処法等を編纂した幻想郷縁起を死ぬまで執筆し続けるといった定められた運命の歴史。
そして、その幻想郷縁起を初めて作成した初代執筆者・"稗田阿一"は"稗田阿礼"の魂の転生体として生まれ、以降阿礼の魂は稗田家の当主に代々乗り移り幻想郷縁起の執筆に人生を捧げている。
自身が死んでもその魂と信念を次の世代へ引き継がせるといった部分は、仏教の世界的に言えば"輪廻転生"というやつだろう。
「勝手に入る訳にはいきませんからね。………どうしましょうか?」
伊村はその稗田家の歴史に少し感傷に浸りつつ、アリスへ問いかける。
「次の場所に行くわ。待っていたら時間が無駄になるからね」
空の日差しに眩しそうに目を細め、アリスが屋敷から移動し次の目的地へ進むことを提示した。
「そうですね。そうしましょう」
伊村は迷い一つ見せる事なくそれを了承し、アリスと共に稗田邸前から移動を開始した。
(阿礼の転生者……稗田阿求さん、か。一体どんな方なんだろうか……。今日は会えなかったけど、いつか会えるのかな……?)
移動中、伊村が稗田阿求についてどんな女性でどんな容姿をしているかをアリスに悟られないうちに想像していく伊村。
幻想郷の住人は"能力"の概念がある故に、見た目だけで人間性を推し量ることができないのは伊村も十分理解している。
しかし彼はこれまで紫や永琳、慧音等といった外見的に自分とあまり年の変わらない、或いは少し年上の女性に出会ってきた為か、これから会う予定だった"稗田阿求"とされる少女もアリスらと年齢が近いものだろうと予想をしていた。
(ずっと昔から転生を繰り返してるくらいだから、多分結構大人っぽいかもしれないなぁー)
するとその時……
「あら、あの姿………阿求だわ。どうやら帰ってきたみたいね」
伊村の前を歩いていたアリスがそう呟く。
彼女の視線の先には……こちらに向かって歩く着物を着た紫髪の少女の姿があった。
「……え? も、もしかして彼女が、"稗田阿求"さんなんですか……?」
意表を突かれたように素っ頓狂な声を出しつつ伊村が前方を凝視してみる。
アリスが"阿求"と呼称した紫髪の少女は、若草色の着物に黄色の花柄の羽織を重ね着し、さらにその上から赤い袴を着用した女学生を思わせる容姿をしていた。
「そう。彼女が"稗田阿求"。丁度いいタイミングね」
アリスの言う通り、稗田家の屋敷から立ち去ってから間もないタイミングで、その稗田家の当主・"阿求"本人が伊村たちの眼前に現れたのだ。
「あら? あなたはアリスさん? こんなところで珍しいですわね」
紫髪の着物を着た少女・阿求が向かい側から歩いてきたアリスがこちらに目線を向けてきたのに気付くと、意外そうな様子で彼女へ声をかける。
「こんにちは阿求。今日は少しあなたに用があって屋敷のところで待ってたのだけど……」
「なるほど。そこに私がいなかったのでこうして歩いていた、と?」
アリスが言い終わるより前に阿求が予測し、彼女らの伝えたかった事を言い当てる。
「そういう事よ。まあ用があるといっても別に大したことじゃないのだけれどね」
「……綾太」
アリスが前置きを挟むと、伊村へ顔を向けて小さく彼の名前を呼ぶ。
「あ、……はい! "伊村綾太"です! これから人里で暮らすことになったので、何卒よろしくお願いします!」
アリスに名を呼ばれて少しだけ焦燥しながらも、伊村は阿求に自己紹介を行う。
「………。ええ、こちらこそ。よろしくお願いいたします。伊村綾太さん」
伊村の名前を聞いた阿求は和かな笑顔を向けて快く彼に返事を返した。
(こ、この少女が稗田阿求………。何というか、想像以上に幼いんだけど……?)
(やっぱり幻想郷の女の子って、見た目で判別しづらいな……!)
阿求と簡易だが自己紹介を交わした伊村は彼女の外見の幼さに戸惑いを感じる。
伊村が想像していた阿求よりも、実際に会った阿求は想像より一回り幼く、まだ10代前半程の少女にしか見えないのだ。
想像と現実のあまりのギャップに伊村は軽く衝撃を受けた。
そしてその時、改めて伊村はこう思った。
幻想郷の人間は少し見たり、聞いたりしただけで容易に判断すべきではない、と。
「もう既にご存知のようですが、私は稗田阿求。あの屋敷に住んでいますので、何か聞きたいことや困ったことがあれば、いつでもお尋ねくださいまし」
「私でよければ知識を授けます。特に、妖怪の事ならばいつでも相談に乗りますわ」
そんな伊村の考えている事など露知らず、阿求が名を名乗り、私に任せてくれと言わんばかりに自信に満ちた表情をしてこう勧めた。
「よ、妖怪……わかりました………」
(確かに……、阿求さんなら幻想郷縁起を書いてるぐらいだから、それぐらいはわかって当然か………)
幻想郷縁起という妖怪への対処方法等を記した書物。
それを現在進行形で執筆している阿求。
そんな阿求が妖怪に関しては何でも知っていても不思議ではないと伊村は心の中でそう納得をした。
「……では、私はこれで。またお会いしましょう。綾太さん」
最後に阿求が伊村らに別れの言葉を残すとその場を後に、自分の暮らす稗田家の屋敷へ向かって行く。
「はい。また今度話せるのを楽しみにしてます!」
阿求のうしろ姿を見送りながら、伊村は人里で暮らしていく中で、彼女にまた会える事を楽しみにしつつ大きな声で見送った。
来年も是非ともよろしくお願いします。
あと、本編の方も……が、頑張りますっ!