東方貧弱男   作:K.R.

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予定よりも少し長引いてしまいましたが、この回で一応アリスさんによる人里案内は終わりになります。



20.「寺子屋」

 

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「最後は"寺子屋"に行くわ」

 

稗田阿求に会い、彼女と挨拶を済ました伊村。

呉服屋、鈴名庵、稗田邸と周ってきたアリスの案内としては最後……つまり彼女による人里の案内が最後の目的地、"寺子屋"という施設へ彼は向かっていた。

 

 

「寺子屋……! いよいよ慧音さんがいるところへ向かうんですね!」

 

「ええ。あそこには"上白沢慧音"……貴方の知り合いがいるわ」

 

「な、なんか改めて会うかもしれないと思うと……少しドキドキしてきました……!」

 

寺子屋で教師を務めているという慧音に会う事になると想像した途端、顔に出るほど伊村は緊張し始める。

 

「何故このタイミングでそうなるのかわからないのだけど……。とにかく、早く行きましょう綾太」

 

「はい!」

 

そんな伊村を大袈裟そうにアリスが見やると、慧音の居る寺子屋へ早急にむかうために後方の彼へ呼びかける。

伊村はそれに応答し、また共に軽快な足取りでアリスの後をついて行った。

 

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「着いたわ。ここが寺子屋よ」

 

大きな門のある家屋の前で歩みを止めたアリス。

一言だけ伊村へそう呼びかける。

 

「はー、この大きな建物が"寺子屋"なんですね」

 

アリスの案内で彼女が言う寺子屋とされる建物までやって来た伊村は、その外観を感慨深そうに観察する。

 

(昔の学校ってこんな感じなんだなぁ……)

 

寺子屋と自身がこれまで通っていた高校の見た目を脳内で見比べ、現代の学校と呼ばれるものが昔とは全く異なる変化を辿っていた事に彼は勉強になったと言わんばかりに頷きつつ寺子屋の門の前まで近寄る。

 

ガラララッ!!

 

 

「慧音先生ー! さようならー!」

 

「また明日ー!」

 

 

すると、寺子屋から生徒と思われる和装の子供たちが一斉に外へ出てきた。

 

「あ、もしかして下校時間ってやつ……?」

 

門の前にいた伊村は子供らの通行の妨げにならないように急いで門の外へ行きアリスの近くへ戻った。

 

「そういえば今日は、寺子屋の子たちが早めに家に帰る日だったわね」

 

思い出したかのように寺子屋に関する肝心な情報を口にするアリス。

 

「し、知っていたなら早く教えてほしかったですよ……」

 

「ついうっかりしてたわ。ごめんなさいね」

 

二十人程だろうか、寺子屋の生徒たちが帰って行くのを見送った伊村とアリスはこのようなやり取りをした後、仕切り直して寺子屋の門の下を通る。

 

 

ガララッ!!

 

 

「……おや、お前たちは?」

 

「………あ」

 

 

その時、寺子屋の入口である横開きの戸が開いて中からある人物が姿を現した。

 

 

「け、慧音さん……!?」

 

 

その人物は……伊村がアリスと行動を開始した今朝から会う事を目的としていた人物である、上白沢慧音、彼女であった。

 

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「なるほど……。人里の案内、か……」

 

 

伊村らから寺子屋を訪れた理由を知った慧音は顎に手を当てて考え込む。

 

「ええ、その通りよ。まあここが最後の案内になるけどね」

 

伊村とアリスの二人は、慧音の勧めで寺子屋に隣接する形で建てられている彼女の住む家屋へ通され、そこで用意された座布団に腰を下ろして話をしていた。

 

「うぅーん……、寺子屋で最後なんですかぁ………」

 

「退屈、って顔してるわね綾太?」

 

やや物足りなそうに呟く伊村の言葉に反応して話しかけるアリス。

 

「い、いやいや!? そんな事はありませんよ!?」

 

それに慌てて伊村は退屈という言葉を否定をした。

 

 

「…………。この寺子屋で案内は終わり、という事か……。綾太、この後はどこへ行くつもりなんだ?」

 

「……え? いや……特にどこへ行くかは……予定はないですけど……?」

 

 

ふいに慧音から問われた伊村は多少言い淀みながらそう答える。

 

「そうか……。何、少し心配になったんでな、君は外来人でまだこの世界には来たばかり。それに年だってまだ大人じゃないだろう?」

 

心配そうな表情を浮かべ慧音が伊村を案じてこんな言葉をかける。

 

「け、慧音さん……こんなおれを心配してくださり本当にありがとうございます……!」

 

その慧音の発言を聞いた伊村は感動したと言わんばかりに、顔を綻ばせて嬉しそうに感謝の言葉を返す。

 

「うーん……、そうだ! 綾太、この人里で暮らしていく中でもし時間が空く時があったなら、ここで授業を受けてみないか?」

 

「へ? じゅ、授業……?」

 

すると突然、慧音からこんな提案をされる。

それは彼女の務める寺子屋で授業に参加するというものであった。

 

「ああ! 夕方以降ならいつでも私が1対1で君にとってためになる知識を授けてやる!」

 

「い、良いんですか? そんなおれだけ………」

 

慧音の説明を受け、不安に思ったのか伊村は少し申し訳なさそうに聞き返す。

 

「全く問題ない! というかむしろさせてくれ! 君には幻想郷の歴史や人里の歴史、妖怪、危険な場所の常識や文字の読み書きを教えてやりたい!!」

 

伊村の方にまで伝わってくるほどの熱意をこめて、慧音が彼へ教えたい内容を口に出した。

 

「え、ええ……まあ、時間があれば……お、お願いいたします……!」

 

そんな彼女の気迫に押された伊村は断るに断れなかったようで、授業を受けることを承諾する。

 

 

「おお! 本当か! 懸命な判断だ綾太!」

 

「私の知識……みっちりと君に教授しよう!」

 

 

その返事を耳にした慧音は彼の返答と決断を称え、やる気に満ちた顔で彼に教鞭を振るう意欲を示した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「慧音さん……、やっぱりあの人は親切な方だなぁ……!」

 

 

慧音との話を終えた伊村とアリスの二人は、彼女の住まいを出て人里入口の門の近辺に向かって移動をしている。

 

「はぁ……やれやれ、慧音も相変わらずの熱弁だったわね……。じゃあそろそろ私は帰らせてもらうわ」

 

アリスが煩わしそうに溜息をつくと、伊村へ別れを告げる。

 

 

「あ……はい! アリスさん。今日はどうもありがとうございます!」

 

「……ここまで人里を案内してくださって、おれマジで助かりました!」

 

 

一瞬だけ別れが惜しいのかアリスの顔から視線を外した伊村だったが、彼女に感付かれないよう取り急いで気持ちの整理をした上で、人里内の案内についてお礼の言葉を口にした。

 

 

「そう……、そう言ってくれて良かったわ。また会いましょう綾太」

 

「ええ、またいつか機会があればあなたとお話したいです!」

 

「……ふふ、私もよ」

 

 

にこやかに微笑し満足したようにアリスは伊村に返事をすると、彼との再会を楽しみにしつつ人里を後にしていった。

 

(アリスさん……親切な人だったな……)

 

(…………、……………)

 

自身を人里の様々な場所へ先導してくれたアリスと別れた伊村。

だが別れてからもしばらくは彼女のような心優しい人物が居ないという孤独感に苛まれる。

 

(……………。明日からどうしよう……、何も予定なんか立ててないんだけど………)

 

少しして、伊村は人里の端にある自分の自宅前へ到着した。

が、到着したのは良いが、彼は明日以降の予定は特に立てていない事に気付く。

 

(うーーーーん…………………。まあ良いか……、なんとか……なるでしょ!)

 

数秒間熟考した後 伊村が今後の予定に関して決定を下した。

それは……あまり深く考えない事であった。

考えすぎは却って疲れるという面倒くさがり屋な彼らしい理屈だ。

 

(って、あれ? も、もう昼じゃん!? 嘘だろ!? えーと、取り敢えず………)

 

と、そこで伊村は空を見上げて現在の時間帯が昼頃だという事に今更ながら気がついた。

 

(……………………)

 

彼は既に時刻が昼頃になっていたという事実を受け、しばらく何をすべきか考える。

 

(…………………………………、あっ………そういえば…………)

 

だがその時、今朝から忘れてはならない肝心な生活習慣を頭の中から綺麗に忘れていた事を彼は今、漸く思い出す。

 

()から()が鳴ったことによって。

 

 

(腹が減ったよーーーーーーーーーっ!!!)

 

 

伊村はこの日現在に至るまで全く"食事"と呼べるものをしていなかったのだ。

人の殆どいない状況下、声には出さないながらも彼は高らかに悲鳴に似た叫びを上げ、自宅を再び後にした。

 

 




次回から伊村が一人で行動を開始します。
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