東方貧弱男   作:K.R.

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3月最初の投稿です!
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気合い入れて頑張ります!


21.「金、そして食欲」

 

「う、うぅぅ………お腹が………」

 

腹を押さえて低く唸る伊村。

 

(ダメだ……腹減りすぎて力が入らない……)

 

彼はゆっくりと、側から見ても分かる程に弱々しい足で人里中心部へ歩を進めている。

 

「けど、もうすぐ、もうすぐだぁ………」

 

その理由は、現在進行形でとどまる所を知らぬ自らの空腹感を早急に満たす為だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あー、美味しそうな匂いがする………」

 

しばらくして、伊村は人里にある居酒屋の雰囲気が漂う食堂へ辿り着く。

 

そこには極限までの空腹状態に至っている彼の食欲を刺激する色とりどりの料理が、香ばしい匂いを放ちながら畳張りの床に置かれた机の上に見事に鎮座している。

 

(って、うわっ、お昼時だからか人がめっちゃいる……!!)

 

さらに、室内には人里の人間たちが食事をしており、皆それぞれ談話を織り交ぜつつ美味しそうに食堂の料理を口に運んでいた。

 

(な、なんかちょっと入りづらいかも……)

 

そんな店内の客で賑わう様子に少し尻込みしたのか、伊村は出入り口の前で立ち止まったまま困惑の表情を浮かべる。

 

「おう! お客さん! 食べに来たんだろう?」

 

すると、伊村へ店主らしき男が声をかけてきた。

 

「遠慮はいらんぞ! 好きな席に座ってくれ!」

 

「あ、あはは……ありがとうございます……」

 

店主の男の催促する言葉を受け、多少顔を顰めながら伊村は空いている席に向かう。

 

「えーと……まずは何を頼もうかな………」

 

「え」

 

机の前に置かれた座布団に座り、早速注文するメニューを選ぼうとした。

が、しかし……

 

 

(ちょ……な、何て読むの……コレ……? )

 

 

メニュー表を目にした伊村は程なくして大層困惑する。

彼が困り果てた原因は机に立てかけられたメニュー表、そこに書かれていた"文字"であった。

 

(し、しまった……! そういえばこの幻想郷……確か文明レベルは近く見積もっても明治時代辺り………)

 

(現代のひらがなとか漢字とかと比べて形が結構違ってたんだ……!)

 

その文字は伊村のような現代人が読むにはあまりにも難解で解読困難な形をしていたのだ。

平仮名……片仮名……そして漢字等がとても読み辛く、ひどいものでは一文一句読めない文章まであった。

 

(お、おれこういう昔の文字に関しては全くの無学なんだけど! これは参った……!)

 

あまりに難解すぎるメニュー表の文字を目にした伊村は衝撃を受け、心の中で後悔と共に文字の解読を早々に諦め白旗を上げる。

 

「おう、どうしたお前さん。何か困っているようだが?」

 

と、その時、隣のテーブルで食事を済ませて湯呑みを啜っている壮年の男に話しかけられた。

 

「へ? あ、いや……、こ、この文字がよ、読めなくって………」

 

「あー、成程……外来人か、そりゃ読めねぇわな。仕方ない、代わりに俺が頼んどくよ」

 

伊村が事情を説明すると、男は彼の身の上をすぐに理解し注文の代行を買って出る。

 

「す、すみません……助かります……」

 

申し訳ないと思ったのか、少し弱気な声になりつつ伊村は男にお礼を述べ、注文した料理が来るのを待つことにした。

 

 

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「……ふぅー。満腹満腹」

 

腹に手を当てて料理を完食した伊村が満足そうに口にする。

 

(空腹すぎて危うく餓死するとこだった………)

 

食堂の出入り口近くにある帳場に向かう中伊村はこう考え、着流しの隙間から貨幣を取り出す。

 

「あの、美味しかったです。ご馳走様でした」

 

「おう! またのご来店をー!」

 

料理を提供してくれた店主にお礼を言うと同時に支払いを済ませた伊村は入店時とは打って変わって落ち着きのある穏やかな顔で食堂を出る。

 

(………、"アリス"さん、あなたが居なかったら今頃おれは間違いなく餓死していたでしょう……)

 

食堂から移動を始めた伊村は再び物想いに耽った。

自分を人里の様々な施設へ案内してくれたアリスに。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数時間前ーー

 

『えっ? いらない?』

 

伊村がアリスの案内で入った人里の呉服屋。

早速買った服を着た伊村は、自身へ代金を貸してくれたアリスへ余った金銭を返そうとした。

だが、

 

『いいのよ。お釣りぐらい。それはあなたが必要な時に使って』

 

アリスは彼のお返しを断り、逆に伊村へその残金を自分用に使うよう促した。

 

『で、でも……』

 

『お金なんてまだ沢山あるから大丈夫よ。遠慮しないで持っておきなさい?』

 

戸惑う伊村へアリスが遠慮するなと声をかけ、彼に微笑みかけながらそう催促した。

 

『ア、アリスさん……、う、うあぁ! あ、ありがとうございますぅ!! こ、この恩はいつか、いつか必ずお返ししますっ……!』

 

彼女の優しさのこもった言葉を聞いて思わず半泣きになりながらも、伊村はアリスへ出来うる最大限の感謝の言葉を贈り貰った貨幣を仕舞い込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(……、そう考えると、おれってここに来てから色んな人に世話になってばっかだな………)

 

アリスの事についてふと振り返った伊村。

それを終えると彼は今度は自分のこれまでの体験について思い返した。

永遠亭や人里、博麗神社、寺子屋、さらには先程彼の訪れた食堂等……、彼にとっては行く先々で知り合った様々な人物から助けられた体験ばかりであった。

 

 

(………、でもおれはこれから自分の力で生きていくんだ。他の人には頼らず生活していかなきゃならないんだ……)

 

(甘えた言葉は言えない……自分の事は自分でやるんだ。おれはここで自分の人生を精一杯生きてやる……!)

 

だがそれらを鑑みてこのままではいけない、自分の為にはならないと思い知ったのか、改めて幻想郷で一人だけの力でまともな生涯を全うする事への決意を固めた。

 

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