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「んあぁ〜……眠い……」
瞼を擦りながら伊村が布団から起きる。
(ああ、それに腹が減った………)
(あの綺麗な人と会ってから家着いてすぐ寝ちゃったからなー……)
腹から低く鳴る音に表情を顰めつつ昨日の事について想起する。
人里で邂逅した咲夜という少女と別れたあの後、伊村は帰路に着くが食事も特に取らぬまま真っ先に寝床に横になりそのまま眠りに落ちたようだ。
「はあ……」
(やっぱ夜何も食べないと力が出ないんだなぁ)
(けどそんなのもう慣れた……、一食抜いたくらいで人間死ぬもんか)
深めのため息を吐いて口に出さずに悔いるような言葉を並べる。
だが、それも少しの間だけですぐに伊村はその思考を改めた。
コンコン!
「!!」
そんな中、玄関の方から誰かが扉を叩く音が聞こえてくる。
(な、なんだ? こんな朝早くに一体誰が……?)
早朝にも関わらず誰が自分の家へ来たのだろうと不思議に思った伊村は怠そうに腰を上げ玄関へ向かい戸を開けた。
ガララララッ!!
「え? あ、あなたは……」
扉を開けた伊村は訪問者の正体を知り声を詰まらせ驚く。その正体は
「よう綾太ー! 元気かー?」
「ま、魔理沙さん!?」
伊村邸の戸を叩いた人物とは、なんと自称"普通の魔法使い"こと魔理沙であった。
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伊村のもとを訪ねてきた魔理沙が彼と一緒に室内に入りその光景を眺める。
「へえ、ここがお前ん家かー?」
「ま、まぁそんな感じ、ですね……」
魔理沙が感心した様子で伊村へ聞くと、伊村はやや気恥ずかしそうに答えた。
「それで……今日は一体おれに何の用でしょうか?」
魔理沙が視線を伊村へ戻したところで、彼は訪問の理由を尋ねる。
「ああ、私の行きつけの場所があるからそこをお前に紹介してやろうと思ってなー!」
「な、なるほど、そうなんですか……」
陽気な口調と明るい表情で魔理沙がそう返した。
(この人が言うとなんか……どことなく嫌な予感がするんだけど……気のせいだよな? これついて行っても大丈夫なのかな……?)
が、彼女のその返答を聞いた時、伊村は少しだが今後良からぬ展開になりそうだと得も言われぬ危機感を抱く。
「あなたのお気に入りの場所……興味ありますね、是非よろしくお願いします!」
しかしそれを魔理沙本人の前で口にしたら面倒な事になるかもしれないと考えた伊村は取り敢えず心の中にしまっておき、彼女の提案に乗った。
「よーし、決まりだな! んじゃ早速私について来るんだぜ! あ、因みにここからそう遠くない場所にあるから道中妖怪が出る心配はないと思うぜ!」
「いざしゅっぱーつ!」
「あ、やっぱり箒で行くんですね………」
「当たり前だぜ!」
目的地が現在地から近い事、そして目指す場所までの道程の安全性を告げると、魔理沙は伊村を自身の箒の後方へ乗せて勢いよく飛んで行った。
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「到着ー!」
「なるほど、ここですか……」
魔理沙が伊村と共に箒でしばらくの間飛行して、人里と付近の森近くの畦道で止まると、二人同時に地面へ降り立つ。
(まさかあの森の入り口にこんな風情ある建物が……)
魔理沙と伊村の眼前にある今回の目的地である建物……。
その外観は瓦屋根の和風建築に障子のついた窓、洋式の扉と西洋東洋入り混じった少し奇妙だが実に立派な一軒家だ。
また、隣接するように大きな倉が置かれているのも特徴的。
(この中に魔理沙さんがよく足を運ぶらしいけど、果たして何を取り扱ってるんだ?)
そんな建物に足繁く通っているという魔理沙に同意するかどうかは兎も角、そこまで彼女が通うほどに魅力のある商品はあるのかと伊村は些か疑問に思っていた。
「おっ、やっぱ気になるよなお前も! "香霖堂"って店なんだけどよ、外来人なら絶対行った方が良いんだぜー?」
香霖堂……魔理沙は目の前にある建物の名を口にすると、伊村へそう勧めた。
「……? それほどまでに品質の良い品が売られているという事でしょうか?」
魔理沙のこの言葉に伊村は訝しげに質問を投げかける。
「あっ、ま、まあそんな感じ……だぜ? は、はは……はははっ!!」
だが何故か魔理沙はまるで何かを隠すように笑いながら返答をした。
「い、言えないぜ……! あれ……ひ………もの……なんて!」
そして小さく、かなり聞き取りづらい程の小声で魔理沙は呟いた。
「あ、あのー魔理沙さん?」
「! あ、あぁ何でもないー! とにかく結構珍しい物が揃ってるから一度は来ないとそ、損するんだぜ!」
(あれ? 魔理沙さん誤魔化してない?)
無論伊村は魔理沙のこの言葉はほぼ聞こえておらず彼女へ聞き返すが、強引に丸め込まれて香霖堂という建物の扉の前まで背中を押される。
「さあ入った入った!」
魔理沙に押されるがまま、伊村は香霖堂の扉を開けて恐る恐る中へ入った。
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(う、うわ……何か想像とは違う……!)
香霖堂の店内へ入った伊村はまずその状態に驚く。
店内……内装はかなりごちゃごちゃしており、戸棚には物が所狭しと陳列され、カウンターには商品かは不明だが一見ガラクタにしか見えない不可解な代物が幾つか並んでいるといった何ともカオスな事になっている。
(香霖堂……まさか、こ、こんなえげつない店だったとは……っ)
伊村は自分の想像とは全く異なる香霖堂という店の実態に、大層衝撃を受けた。
「おや? いらっしゃい……ってなんだ魔理沙、君か」
香霖堂の店主と思しき銀髪下縁眼鏡の若い和装の男が伊村たちが入ってきた事に気付いて挨拶するが、魔理沙の顔を見るなり少し冷めた反応となる。
「おいおい、相変わらず客になんて態度だよ、"霖之助"」
「僕は一回も君をお客さんだと思った事はないよ」
「そんな事言うなよー私は別にただ見にきただけだぜ?」
魔理沙が霖之助と呼んだ店主らしき男が彼女の言葉に終始真顔でこう言った。
それに対し魔理沙はやれやれと陽気ないつもの口調で来店の正当性を口にした。
「そうか、ところでこちらの人は? 魔理沙の知り合いかな?」
「あ、はい、自分の名前は……」
自分の事を聞かれた伊村は己の名と自身が幻想郷へきた理由を軽く男へ明かした。
「伊村綾太……確かに外来人みたいだね」
伊村の名前と話を聞いた男は二回ほど頷くと、彼が外来人だという事を一発で確信する。
「初めまして。僕はこの香霖堂を営む店主・森近霖之助だ。綾太、これからよろしく頼むよ」
そこから男は名字含めた自身の名と香霖堂の店主だという事を伊村へ教え、彼と挨拶を交わした。