主人公全く出ません(つまり空気……?)
時を同じくして、人里郊外の家屋。
数日前から伊村が利用している住居前。
「綾太ー、いるかー?」
住人である伊村が紅魔館へ半ば誘拐の形で連れて行かれ、もぬけの殻と化したそこへ誰かが尋ねてきた。
「魔理沙だぜ! たまたま通りかかったから来てやったんだー!」
それは自称"普通の魔法使い"、霧雨魔理沙。
彼女は奇遇にも付近を通ったという実に単純明快すぎる理由で伊村の家を訪ねたようで、玄関の前で戸を叩き訪問を知らせる。
「…………? トイレ中かー? まあ良いや、入らせてもらうぜー!」
幾ら待てど彼が姿を見せない事を受けてそう解釈した魔理沙は、遠慮なく屋内に足を踏み入れた。
「おーい、居るんだろー! 返事くらいしろよ冷たいなー!」
「あれ? ここには居ないのか、ならあの中庭の方か……?」
寝具と机が置かれた居間で再度伊村へ呼びかけるが、結果は変わらず。
首を傾げつつ彼女は次に見晴らしの良い中庭へ移動する。
「綾太ー、何恥ずかしがってるんだー? 早く出てきてくれ!」
「もしかして私がわからないのか!? この間会っただろー!!」
部屋の外にて今は居ない伊村に姿を見せるよう促す魔理沙。
中庭の後に便所や蔵、台所等も確認しに行き伊村を探し回るが結局それは徒労に終わった。
(………。おかしい。こんなに呼びかけてんのに一言も返ってこない……、あいつはそんな薄情な性格してねぇはずだが………)
これにはさしもの魔理沙も怪訝に思った。
少し弱気で臆病ではあるが、礼儀正しく温厚な性格の伊村は少なくとも自分が訪ねて来たとわかればまず無視などしないだろうと考えられるからだ。
(それに、もう一通り部屋は回ったが、全然見当たらなかった………つまり今どっかに出かけてるかもしれないってことだ)
(……でも、まだ"朝"だよな……? こんな早くに一体何処へ用があるんだ……?)
また、人間が里を一歩でも出れば凶悪な妖怪に襲われてしまう可能性がある。
もし仮にこの常識を霊夢達より知らされている伊村が早朝にも関わらず外出していれば、今頃危険に晒されているに違いない。
流石に命を投げ出すようなものなのでそんな事はしないと思われるが、そういった場合も無いとは限らない。
眩しく照りつける朝陽を見上げながら魔理沙が一人疑問を浮かべた。
「…………。なんか、嫌な予感がするんだぜ……」
……一通り彼女は考察したが、頭をよぎる一抹の不安はどうやっても拭えなかった。
何とも不穏な雰囲気を残したまま、魔理沙はボソッと呟くのを最後にその場を去っていった。