「お、おおぉぉぉ………!!」
「あ、赤い……、これが"紅魔館"……!」
柱や壁、床に至るまで、その全てが紅色で統一された異様で奇怪な内装。
咲夜の先導により館内へ通された伊村が思わず息をのむ。
「……、見回すのは結構ですが、迷子にならぬようお気を付け下さい」
その様子を無言で見ていた咲夜は彼に忠告する。
彼女が言うように紅魔館内の廊下はとても広大で、初見なら確実に迷うだろう事が想定できるのだ。
「いや、ここで迷子とか確定で死ぬヤツじゃないですか。見た感じすんごく広っそうだし……!」
「よ、妖怪に襲われでもしたら、大変だぁ……」
咲夜の警告を前に、一体何十メートルあるだろうか遥か先へと続く廊下に目を向けながら最悪の事態を思い浮かべて畏怖する伊村。
「……そうですね、ですがそのような心配はご無用。当館では耐弾幕性の絨毯に壁紙、さらに火や水気に強い照明等……もしもこの館で戦闘が起きた場合役立つ家材を用意しております」
「敵の襲撃が発生した際は速やかに私が対処させていただきますのでご安心を……」
だが、咲夜は何処か自慢げな顔をしつつ、館の設備の優秀さを説明。
万一館内へ敵が来ても即座に対応可能だという事を彼に理解させた。
「そ、それなら、いいんですが……」
咲夜の言葉に頷き会話を終えると、二人は館内の廊下を進み始める。
黙々と前を行き自身を案内していく咲夜。その後ろ姿に少し不安を覚えながら伊村は後をついて行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………では、こちらの階段を上られた先が、あなたをお待ちしておられる"お嬢様"の居室でございます」
「はあ……はあ……っ、よ、ようやくですか……」
数分が経っただろうか、廊下を進んでいた咲夜が足を止める。
その側には幅の広く手すりが付いた何とも豪華な階段、彼女はそれを指して伊村に声をかけた。
しばらく歩いたせいか息も絶え絶えな伊村は返事をしてから、今度は数十段にも及ぶ階段を上がっていく。
「………。お嬢様、失礼致します………例の方をお連れしてきました……」
「そう、よくやったわね。入っていいわ……」
階段を上り切った先、大きな扉の付近に立ち咲夜はこう言った。
然程間を置かないうちに聞こえてくるは高めの少女の声。
恐らく館の主と思われる声より許可を得ると、伊村に道を譲るかのように一歩横へ退いた。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ふぅー…………」
(…………。この話し方、女の人だな……まあこれまでの事を考えれば概ね想像通りだけど………)
呼吸を整え、いよいよ咲夜がお嬢様と呼ぶ紅魔館の主人と対面するべく扉に手をかける。
この時伊村は主人についてこのような想像をしており、幻想郷における今までの出来事を考察材料に性別を言い当てた。
「………し、失礼します…………」
一言口にすると、恐る恐る閉ざされていた扉を開けて室内へ足を踏み入れる。
(お嬢様、か。果たしてどんな超人なの、か………)
「……………………」
咲夜の仕える主人はどういった人間か、それを考えながら彼は室内に入る。
と、そこには貴族が使用していると言われても違和感がまるで無い程に煌びやかに飾られた装飾……と、中央に一つだけ設置されたソファ。
しかしそれよりまず伊村の目に入ったのは、このソファに一人腰掛ける青紫の髪の幼い少女。
自分を今回呼んだのは、まさか、と思案する中、彼が来た事に気付いた少女が微笑む。
「初めましてご機嫌よう、"伊村綾太"……。私はこの紅魔館の主、そして見てわかる通り吸血鬼の"レミリア・スカーレット"よ」
「……………はぇ?」
見た目とは裏腹に落ち着きと上品さのあるトーンをした声で、ソファに座る少女は挨拶がてら自らの名を告げた。
予想だにしない主の姿、伊村は実に間抜けな声が漏れてしまった。