「うわああぁぁぁぁーっ!!」
後方から押し寄せる弾幕の数々、伊村は左右に不規則に走りどうにかそれらを躱す。
彼は逃げる。脇目も振らず只管逃げまくる。
「タダで帰れるなんて思うの? 真っ赤な雨を降らせてあげるわ!」
放った攻撃を回避されたレミリア。
だが彼女はそれが分かっていたのか不敵な笑みを浮かべ、次なる弾幕を出現させ再び撃ち出した。
「!! 綾太! ヤべェ!!」
「私相手によそ見は命取り!」
「ぐっ!!」
戦闘中だった魔理沙がレミリアに追われる伊村を助けようと駆け出す。
しかしそれが隙を晒し、咲夜の投げたナイフが下腹部に刺さる。
遂に魔理沙は彼女の攻撃をまともに食らってしまった。
「痛てーなコラ!!」
(クソ! どうやら先にコイツを倒さないと、綾太のとこへ行けねーみてぇだな!!)
被弾した反動で体勢を崩す魔理沙。
素早く引き抜き、休みなく襲いかかる大量のナイフを即座に展開した自身の弾幕で打ち消しつつ、まずは咲夜を倒さねば伊村は救出できない厳しい現実を思い知らされる。
「さあ伊村綾太! 秘められたその力、今こそ見せてみなさい!!」
伊村を追うレミリアも、じりじりと距離を縮めていく。
「いやだから無理なんですってーーーっ!!」
この状況で能力を見せろと求めてくるレミリア、あまりの無茶振りに彼は半泣きで悲鳴を上げる。
(…………、こうなりゃアレを使うか!)
「咲夜、もう小手調べはお終いだぜ。一気にカタを付けてやる!」
ナイフを躱しながら少しの間思案し、魔理沙は意を決した。
直後、大きく後ろへ下がると咲夜へ宣言する。
「!! その気になったようね。でも貴方の手の内なんてもうお見通しよ」
「へっ! そうかよ! なら"コレ"を使うって事も、分かってんだろうなっ!!」
これに対し余裕で構える咲夜、それを鼻で笑い言い放つ魔理沙。
「!! まさか貴方……」
次の瞬間、彼女は懐から八卦炉に似た道具を取り出した。
これは以前香霖堂で伊村に見せた小さなあのアイテムだ。
「いくぜ………恋符「マスタースパーク」ーっ!!」
魔理沙は大声で叫んだ。
そのスペルカードの名は、「マスタースパーク」。
小さな八卦炉を正面に構えたと同時、なんとそこから虹色に発光するレーザービームを発射した。
しかも最大の特徴はレーザー自体の太さ。恐ろしい事に部屋の半分を覆い尽くす程の範囲を誇る。
咲夜に向けて発射されたマスタースパークはあっという間に彼女の姿を包み隠し、部屋の壁を抉り外へ突き抜けた。
「ゆ、揺れた!? あ、それに壁が崩れてる!」
魔理沙の繰り出したマスタースパーク、これが齎したのは逃走のチャンス。
当然壁の崩壊に気付いた伊村は、すかさず進行先をそちらに切り替えて館への脱出を目指す。
「"マスタースパーク"か、アイツ遂に撃ったわね……この館が壊れたらどう責任取ってもらおうかしら!」
故意ではないとはいえ、自分の屋敷が破壊されたことに不満を露にするレミリア。
感情そのままに、彼女は右手に真紅に発光する大きな槍を出現させる。
「神槍「スピア・ザ・グングニル」……!」
彼女は槍の名を告げる。
こちらもスペルカード、魔理沙達と同様に使用してきた。
「ひ、ひい! 今度はこっちも!?」
いよいよ全力を出してきたレミリアに驚きと共に恐怖を覚える。
痛む肺はお構いなしに伊村は全速力で脱出を目指す。
「死なない程度に済んだら良いわ……ね!!」
レミリアは更にギアを上げ追い立てる。
一段と速度を増して逃げる伊村のすぐ先まで迫る。
「嫌だぁ………し、死んでたまるかあぁーーー!!」
彼が追いつかれるのは時間の問題。
明白となった己が殺される未来、それを拒絶するように伊村は力の限り叫んだ。
「どう足掻こうと無駄! さあ死になさい!」
しかし抵抗も虚しく、とうとう魔の手は彼へ及んでしまう。
レミリアが伊村の真後ろ、手の届く距離まで到達し槍を真上に振りかぶる。
そして、その命脈を断つための強烈な縦の一撃を繰り出した、
「させねぇぜ!」
と思ったが、突然、彼女の横から数発の弾幕が飛んでくる。
「………!? はぁっ! ちょこざいな!!」
攻撃の直前を狙った唐突な横槍。
虚を突かれ多少反応が遅れるレミリアだったが、空高く飛翔する事でこれを回避。
すぐさま見下ろしてこれらを撃った元凶を確かめた。
「綾太! 今がチャンスだぜ! ここから出よう!!」
犯人は魔理沙。咲夜との戦いでマスタースパークを放って生じた大きな隙、その間に伊村を助けに入ったようだ。
「魔理沙さん! え!? 腹に傷が……だ、大丈夫ですか!? それに、さ、咲夜さんは………」
彼女が加勢しに来てくれたことに伊村は安堵の様子。
しかし今まで戦っていた相手の咲夜はどうなったのか、依然その姿が見えないことに不安を感じる。
それと彼女が腹部に負った刺傷も尋常ではない。このことに気付いた途端、血相を変えて彼は側まで駆け寄った。
「ああ、私の十八番が直撃したはずだぜ。あれを喰らったんだ。しばらくは来られねぇと思う」
「ちょっと痛てーけど、後で永遠亭に行くまでは動ける。心配いらねぇぜ」
だが怪我の状態とは裏腹に、自信と自慢を見せて彼女は返答する。
強がりか、或いは痛みに慣れているのか、何れにせよ凄いことである。
「す、すみません……でも、どうか無理はしないでくださいよ………」
魔理沙からの言葉を受け少しの懸念を残しつつ、やむ無く伊村は彼女に念押しするのだった。