「魔理沙め、余計な真似をしてくれる………!」
不貞腐れたように呟くレミリア。
彼女は魔理沙のした妨害に少なからず腹を立てている。
槍を強く握り鋭く冷たい眼光を下へ送り、再び地上へ降下していく。
「急いで私の後ろに乗れ! 最速で脱出するぞ!!」
「はい! 助かります!」
魔理沙の促しに応じ伊村は箒に跨がる。
直後、彼女達は全速力で現場から逃走を開始した。
「アイツの攻撃、どうにか急所は外せた………」
同タイミングで咲夜が部屋の端に姿を表す。
まるで瞬間移動の如く出現すると、戦闘の影響で衣服に付着した埃を払いなんとか難を逃れた様子で言葉を口にする。
「咲夜! アイツらを追いなさい!」
「魔理沙は手負いだ、そこまで速度は出せない。追いつき次第まとめて仕留めてしまえ!」
その時、レミリアが彼女へ指示を飛ばす。
箒で逃げて行く魔理沙を指差し二人の始末を命じた。
「ご承知の通りに……ダーツのように刺し殺してきます!」
その指令に従い咲夜は動く。
挙動に繋がりがないカクカクとした変則的な動き、まさにパラパラ漫画。
二人の間に出来た距離をどんどん埋める。
「もう来たか! ……よし! さらに飛ばすぜー!!」
自分らを仕留めに追ってきた咲夜に魔理沙が気付くと、速度を一段と上げ飛行を持続。
後ろへの注意を向けつつ館の通路を駆け抜ける。
「う、おおああぁーーー!? 相変わらずの速さァーーー!!」
またもや彼女の粗暴な運転を味わう事になった伊村。
悲鳴を上げるも必死に箒にしがみ付き、落ちないように頑張っている。
「おーし! ここで曲がるぜ!!」
距離にしておよそ300メートル、最初の部屋の扉が見えなくなってきたところで魔理沙は二股に分岐する通路を左折。
方向転換後も、スピードを落とす事なく順調に逃走を続けていく。
(こ、このまま無事に出られれば良いけど……)
伊村は魔理沙の後ろで微かな不安を抱きながら一縷の望みを賭ける。
ともあれ、何も起こらず脱出作戦は円滑に行くかと思われた。
「……………ねえ、どこへ行くの? お姉様のお客さん……」
だが、現実はそう上手くは出来ていない。
廊下の中空を疾走する伊村達の下から声が聞こえてくる。
「………ん、だ、誰の声………えっ……?」
館にレミリアと咲夜以外の住人がいたのかと予想外に感じる中、伊村が人のいる方向へ振り向く。
その時………"気が付いた"。自分の腹の中心に、ぽっかりと『穴』が空いている事に。
「!! うぐ、ぐあああぁぁぁぁぁーーーーー!!?」
(は、腹が……っ!? な、なんで突然……っ、痛てえ………!!)
途端に仰け反り、箒から体制を崩して落ちる伊村。
ぼたぼたと血が滴る自らの腹に顔を向け絶望と苦痛に表情を歪ませる。
「痛そーだね? まあお腹の真ん中だし、当然かな」
向こうから少女の声が聞こえる。
声の主は10歳前後に見える幼い金髪の少女。
しかし、背中に宝石のような物体がぶら下がった奇妙な羽根を生やし、瞳は鮮血のように紅く彩られており、そんな特異な姿をした彼女は館の主・レミリアにとても良く似ていた。
「まさか……お、お前は………!」
箒から降りた魔理沙の顔が驚愕に染まり、声を溢すと共にミニ八卦炉を取り出す。
少女を凝視する彼女は伊村を守る態勢に入る。
「私は"フランドール・スカーレット"……。久しぶりー魔理沙!」
そして、少女は名を名乗った。
レミリアの関係者と考えられる彼女は魔理沙と面識があるのか、屈託のない笑顔を浮かべてその再会を嬉しんだ。
「追いついたわよ。………!? 妹様!? こんなところで何をなされているのです!」
更にそこへ、二人を追跡していた咲夜がナイフを手に駆け付ける。
敵対中である魔理沙と伊村へ鋭い視線を向けるが、彼らの側にいるフランドールを目にした瞬間驚愕、二人を尻目に問いかけた。
「あ、咲夜。暇だったから散歩だよ散歩」
するとフランは緩やかに背伸びして答える。
ただの散歩だと返したが、伊村の身体に空いた穴に関しては何も明かず。
「そんなことより、魔理沙と"コイツ"……侵入者?」
「そちらの者は違いますが、魔理沙についてはおっしゃる通りでございます!」
方法は定かではないが館内へ侵入した魔理沙と、招待されたとは言え会話の流れで敵として戦う事になった伊村。彼らはいずれもレミリアから始末の指令が下されている。
フランの疑問を肯定した咲夜がナイフを正面に向けると、手早く二人へ弾幕を飛ばす。
「ふぅん、わかった! けどコイツもう"破壊"しちゃったから、後は魔理沙だけだね」
咲夜の言葉を聞いたフランは狂気的、とも言える歪な笑みを浮かべると大きく飛翔する。
次の瞬間、咲夜と同様に魔理沙らに向けて弾幕を差し向ける。
「く……! めんどくせえな!!」
文句を垂れるように呟き魔理沙は十数個もの弾幕を発射。
フラン、そして咲夜と戦わざるを得なくなった彼女はやむ無く迎撃に出るのだった。