ついに来た、ついに来た……!
戦闘回、どうぞ!
「はあ!!」
シュ!
アリスに向けて一つ、ナイフを投げる咲夜。
狙いは首元、実に正確無比のコントロールだ。
「ガードしなさい」
だが、それはアリスの操る人形の弾幕によって未然に防がれる。
彼女の意思に従って動く人形から撃ち出された弾幕が、咲夜のナイフと当たり爆発した。
「今のはただの牽制、まだ始まったばかりよ!」
しかし咲夜は意にも介さず、空中へ飛び上がりもう三本追加。
防いだばかりの体勢を整える間の隙を狙い、銀色の凶器が上から勢いよくアリスへ迫る。
「本数が違うだけで攻撃手段は同じ。私には通じないわ……!」
ガガッ!!
が、それもアリスは外す。
近くまで迫ったところで大きく飛び退き、ナイフの直撃から逃れる。
地面に突き刺さる咲夜の得物、すると、彼女は笑みを浮かべた。
「………。くくっ、ふふふっ! いつまでも避けられるなんて思わないことね。油断した瞬間、死ぬのはアナタの方なのだから」
不敵に笑う咲夜、その手にはいつの間にかスペルカードの札が握られていた。
「次なる手は、これよ……!」
そう言って、アリスが人形を操る。
彼女の手には咲夜と同じくスペルカード。
二人揃って勝負に出るつもりだ。
「幻在「クロックコープス」!」
先に仕掛けたのは咲夜だった。
その名を口にした次の瞬間、放たれるは無数の弾幕。
人里へ続く長閑な田舎道はあっという間に光弾に埋め尽くされ、戦闘環境は一変する。
「ただ数を増やしただけなら、いくらでも攻略法はあるわ」
「白符「白亜の露西亜人形」!」
だが、アリスの方もスペルカードを使用。
片手を動かし、人形を介して弾幕を発射。
白、赤、青と、色とりどりの米粒のように細長い多数の弾幕が、付近の弾を優先的に潰して迎撃する。
「お返しするわ。蒼符「博愛の仏蘭西人形」!」
そして、アリスも反撃に転じる。
再度スペルカードを発動し、人形から弾幕を放つ。
その数は膨大。色鮮やかな光弾が高速で動く。
それは、先程の咲夜のスペルカードにも迫る数だ。
次の瞬間、咲夜の弾幕と大部分が相殺、一部が彼女の懐まで飛ぶ。
「………はぁっ!」
自身へ近付く弾幕を、咲夜は横へずれて回避する。
が、弾は彼女の脇腹をほんの少し掠めていた。
メイド服の縫合部分がほつれ、うっすらと黒ずむ。
「やるわね。魔法使いさん」
「…………」
(手応えは無いわけではない。けど……)
口には出さずして、アリスは自分の攻撃の命中を実感する。
しかし、掠ったとはいえ相手の表情はやけに落ち着き払っていた。
直接的なダメージこそ受けなかった、にしても異様な余裕ぶりを咲夜は見せている。
「ふっ、攻撃はそれでもう終わりなの?」
短く笑うと、咲夜は少しアリスの方へ距離を詰める。
(あの様子は何かを隠している……。一体何を………)
「もちろん、まだまだ手札はあるわ。……戦いは始まったばかりよ!」
頭に残る疑問をひとまず置いておき、アリスはまたスペルカードを手にする。
長引くであろう戦闘の主導権、握るのは自分だと言わんばかりに咲夜へ宣言した。
「それに、いくら撃ったとしても同じ事。私の人形は、こんな弾くらい容易に消せる……!」
鋭い視線を突きつけ、彼女もまた余力と対応力の高さを強調する。
「あらそう。でも……残念ながらもうアナタに逃げ場はないわ!」
しかし、咲夜は言うと同時に指を鳴らす。
直後だった。
アリスの周りに何の予兆もなく刃渡り15cmほどのナイフが出現する。
「!? これは……!!」
(急に大量の弾幕が……!? 何らかの能力を使ったとでも言うの……?)
しかも、ナイフは一つや二つには留まらない。
何十、何百本にかけてアリスの周囲に展開されていた。
そう、気付かぬうちに彼女は窮地へと追い込まれていた。
「……!? くっ! この位置関係……まさか!」
さらに、彼女の近くの地べたには重傷者2名。魔理沙と伊村だ。
うち、伊村の方は意識すら無くなっている。
方向が下に向けられたものもあり、下手にナイフを回避すれば、彼らに流れ弾が当たってしまう。
「気付いたようね。これでもうアナタは躱せない。それに、これほどの規模の弾幕は処理が難しいでしょう?」
「………!」
これこそが、咲夜の狙いだった。
彼女はまずアリスのスペルカードの攻撃を凌ぎ、自分の放った弾幕を攻略されたタイミングを見計らい、能力を発動。
「さあ、みんなまとめて死になさい!」
「させないわ! 雅符「春の京人、……っ!?」
不意を突くだけでなく、アリスが守ろうとするであろう伊村達も利用し、ダメージソースも稼ぐ。
なんとも巧妙な策略だった。
攻撃が迫る中、スペルカードを再び使う。
だが、彼女が言い終わるその直前、ナイフが2本、彼女の腹部を捉える。
「ぐ……、はあああっ!!」
(なんて数! 捌ききれない……!)
やむなく中断し、通常の弾幕を放ち、どうにか急所を外しながら下にいる二人への弾も人形を駆使して迎撃する。
しかしあまりにも数が多すぎた。
アリスは身体の至る所を被弾し、ナイフが全て無くなる頃には……彼女は全身から血を流していた。
「はあ……はあ………、はあ……っ!!」
(お、重い……。動きが鈍くなってきているわね……)
息を切らして咲夜を睨むアリス。
服は真紅に血染まり、ナイフにより切り裂かれた痛々しい裂傷が見えている。
動けはするが、遅く全身に痛みが伴う。
隙の生まれやすい大きな制約が付いてしまった。
「あら、キツそうじゃない。流石にあの密度の弾幕を耐えるなんて無理だったようね」
アリスのその状態を見て、咲夜は薄く笑って返す。
耐えるなどできるはずがない。とまるで自分のスペルカードの威力を自慢するように。
「……、はあ!」
「……しぶといわね。こんなもの当たるはずがないわ」
ここで、アリスが人形から弾幕を放つ。
青色の弾が三発、咲夜へ射出される。
だが、その弾は軽々と咲夜に避けられた。
しかも、能力すら使われず直接躱される。
(……やはり、"時間操作系の能力"を使っているのね……)
この時、アリスは確信した。
咲夜の能力の効果、主な能力の概要を。
彼女が使ったスペルカードの攻撃、そして先程の攻撃……
ここぞという時に使用された能力……、見るからに不自然なタイミングでナイフが突然出現したあの時、思い至った結論がこの答えだった。
「はあ……はあ……」
(能力がわかったところで、このままだと……負ける……)
能力がわかれば、あとは作戦を立てて実行に移すのみ。
しかしアリスの身体は今、誰がどう見てもズタボロだ。
対して咲夜はほぼ無傷。彼女が劣勢なのは揺るぎが無い。
(何か、対策を練らないと………!)
「さてと、そろそろ終わりにしようかしら。……っと、そうだったわ」
「……?」
すると、咲夜は視線を下へ落とす。
こんな時に何だ?とアリスは策を張り巡らせていた思考を止め、彼女の動きを注視する。
「本来のわたしの役目は、"アイツら"よ!」
その時、咲夜が急降下。
これまで空中で戦っていた二人だったが、彼女が不意にアリスから狙いを切り替える。
手に持つナイフの刃先、向けられるのは伊村と魔理沙。
動けない二人に向かい、咲夜は急接近して行った。
「く……!!」
(まずい! 身体が上手く動かせない……!)
(二人が……死ぬ!)
急ぎ、アリスは悲鳴を上げる身体を動かして咲夜を追う。
弾幕も放つが、咲夜のほうが速い。
それに、血を流しすぎたのが影響したのか、プルプルと震えて力も入りづらくなっている。
「ふうっ!」
「ま、間に……合わないっ!!」
空から一定距離まで接近したところで、咲夜が二人目掛けナイフを飛ばす。
確実に仕留めるべく、本数は8本。
両手に用意した全てのナイフを正確なコントロールで彼らへ投擲したのだ。
投げられたナイフが迷いなく二人の身体を刺しにかかる。
絶対絶命。二人を待つのは、逃れられぬ死……
ボウッ!
「………え?」
(これは、火、"火の粉"? どうしてこんなところに……?)
その時、アリスの頬を熱い何かが通り抜けた。
目を向ければ、そこにあったのは小さな火の粉。
一つ……いや、よく見てみれば火災でもあったかのように、その場には沢山の煤や火が舞っていた。
この田園地帯になぜこんなものが……?
アリスが疑問に感じていた……
「おい……、一体誰のツレに手ェ出してんだよ」
まさにそんな時だった。
ゴオオォォォォォ!!
「………なにっ!?」
道の向こうより声が聞こえてきた。
そして、魔理沙と伊村の上を灼熱の炎が通り過ぎる。
それは彼女達に迫っていたナイフを包み込み、焼き尽くす。
この現象を目の当たりにして、咲夜は驚愕する。
「……おおぉぉぉっ!!」
否、驚く余裕は無い。
その炎は真っ直ぐ彼女へ向かってきている。
咲夜は急ぎ飛翔し、空中へ戻る。
「あ、アナタは、竹林の………」
「へえ、こんなところで会うとは思わなかったわね……」
空中で体勢を整えた咲夜、そして痛み軋む身体を無理やり動かし、炎の来た方向を見るアリスが捉えたものは……
「蓬莱人……!」
「はぁ……、一応私には"藤原妹紅"っていう名があんだけどな。まぁそんなのはどーでも良い。それよりもよ……」
狐色の炎を周囲に纏う妹紅だった。
顔には不満の色が浮かび、右手には高温の火炎が宿る。
どうやら人里方面から道を歩いて来たようだ。
道隅に倒れる伊村達にゆっくりと歩み寄り、彼らを見下ろしている。
「お前、まさかこの"メガネ"を傷付けたりはしてねェだろうな?」
とりわけ彼女の視線は、地面に倒れた伊村の姿に釘付けになっていた。
血に濡れた彼のメガネ――そのレンズ越しに見えた無防備な顔に、一瞬、怒りではなく、どこか哀しみにも似た感情が浮かぶ。
ゆっくりと、しかし確実に、妹紅の足取りが咲夜の方へと向けられる。
その肩口からは熱が噴き出し、空気が歪む。
「……もしそうだったら、タダじゃ済まさねぇ」
静かに吐き出したその言葉の裏には、言い逃れも容赦も許さぬ決意が篭っていた。
長きにわたり死と向き合ってきた不死者――藤原妹紅。
今まさに、戦場に降り立った彼女の登場によって、戦いは新たな局面へと移ろうとしていた。
月曜日か……
妹紅と月、なんか縁を感じますねェ……