近頃寒くてなかなか筆が乗りませんでした。
今回はいつもより話が進むと思います。
シュウウウウ……!
「はあ……はあ……はあ………」
細く延びる田畑の通り道、そこに立ちこめる灰色の煙……。
上部より見下ろし、自らが倒した敵の地に伏せる姿を確認する。
咲夜と妹紅、刃と炎の交わる両雄の熾烈な戦い。
その決着は、咲夜の使用した"
「……やっとくたばったようね」
次第に視界が明瞭となり、よりくっきりと自らが撃破した妹紅の後ろ姿が映り込む。
咲夜はそれを見て、今度こそターゲットの始末に動き出す。
狙いは無論、魔理沙と伊村。彼ら二名の命だ。
「くっ! あなたの好きには……ッ!」
(ダメだ、身体が思った通りに動かせない……!)
(このままじゃ、本当に二人が……!)
それに反応して動こうとするアリス。
しかし、その意思に反して身動き一つも取れずにいた。
「そこで大人しくしておきなさい。アナタ如きあとでいくらでも始末できる……」
咲夜に余裕など無い。
だが、あちらは擦り傷の他に目立ったダメージは受けていない。
むしろ彼女以上に切羽詰まった状況なのはアリス達の方なのだ。
「…………………」
伊村も魔理沙も、とうに意識は消え失せている。
どう見ても抵抗不可能、目の前の脅威を回避する術もなく死は免れない。
「さあ、今度こそ無様に死になさい!」
ゆったりとした足取りで距離を潰した咲夜、地に倒れる魔理沙と伊村に向けてナイフを振り下ろす。
無論急所狙いの攻撃、微塵の躊躇も感じない。
ゴオオッ!!
「!!? ……はあっ!!」
その瞬間、咲夜の背後に何かが迫る。
同タイミングで気取った彼女は地面を飛び退く。
ただ回避するのではなく、自らの能力である時間操作まで駆使して一瞬で危機から脱した。
彼女の後方へ来ていたのはなんと……、全てを焼き尽くさんばかりの灼熱の"業火"。
「く……! まさかまたやって来るとはね……!」
(急に背中に熱を感じたと思ったら……、案の定か!)
周囲の光景を目にした咲夜が、苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
火の威力で戦場はすっかり焼け野原、空気中には灰燼が舞い、道端や田畑に生えていた草も作物も炎上している。
まさに地獄のような景色と化した。
だが、彼女が煩わしく感じているのはそこでは無かった。
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「あ、"アレ"は………!!」
(嘘、どうしてまだ……!?)
一変した戦場の様子に、アリスの方も動揺を隠せずにいる。
重い怪我で殆ど動けない身体だが、それでも今の咲夜へまともに攻撃が出来る存在を認識するや、極めて心外そうな反応を示す。
こんな攻撃を出せるのは、今の状況ではたった一人しかいない。
それは………
「……ふう、こんなので死んだと思われるとか、私もずいぶんと舐められたもんだな」
ボウッ!!
激しく燃え盛る狐色の火炎を両腕に纏う、"藤原妹紅"その人だった。
さらによく見ると、負傷していたはずの体は、まるで最初からダメージを受けていないかのように元に戻っている。
「まあ、実際
咲夜と対峙するように立ち止まり、ボソリと呟いた妹紅の言葉……。
その内容は、俄かには信じ難いものだった。
「はっ、噂には聞いていたけれど……やっぱりアナタは不死身のようね!」
「……別に望んでこうなった訳じゃねえけどな」
「その割には結構慣れてるようじゃない……!」
死ねない。つまりどんな怪我も病気も、さらには老いでさえも彼女の息の根を止めるには至らない、いわゆる"不老不死"。
効果は漢字四文字だけで説明できる単純さながら、常識をあまりにも逸脱した能力だ。
そんな妹紅を前にしても尚平静を取り繕い、事実確認を行う咲夜。
問われた能力について妹紅は特に否定せず、どこか悲壮感漂う表情を浮かべた。
「どいつもこいつも本当にしつこいわね……、いい加減イヤになってくるわ!」
つい先ほど咲夜が顔を顰めた理由こそ、彼女の"復活"が原因であった。
傷だらけとなり、最後の大技まで使ってまで苦労して倒した人間が今、こうして再び事もなげに自分の前で立ち塞がっている……。
この現実が、咲夜本人の身に重くのし掛かる。
「………それよりもよお」
「お前、軽口叩いてる暇なんてあんのか?」
ボオオォォォ!!
妹紅は鋭くも冷めた眼差しを咲夜に突き刺す。
言葉と共に、両手の炎も呼応するかのように強く燃え盛る。
「くっ!」
彼女の言う通り、咲夜にとっては一刻を争う事態。
不死の能力者を相手する上では、如何にして強力な攻撃を喰らわせて再生を遅らせられるかが鍵となる。
何せ彼女の命題は、いずれ
しかし、ソレが失敗した今、打てる手立ては果たしてまだ残っているのか?
「…………………」
「…………………」
双方のあいだに静寂が流れる。
互いに少しでも一歩前に踏み出せば、その瞬間戦局が大きく動くだろう。
故に咲夜と妹紅は対峙を継続、下手に次なる行動に移れなくなった。
「……、やむを得ないわね」
その場を支配する無の空白を切り裂き、ボソリと咲夜が呟く。
彼女の表情はなんとも言えない苦い顔となり、殺意と戦意がなりを顰め、まるで諦めにも似た様子が伝わってくる。
「なんだ、
「………ここは"撤退"するわ。思っていた以上に邪魔が入った……」
煽りを込めた顔で、妹紅が言葉を投げかける。
対する咲夜の返答は……この戦場からの"退避"。
「て、撤退……!?」
(二人の始末を諦めた……!? あの咲夜が!?)
彼女の判断に思わず困惑するアリス。
先の戦闘により重傷を負った自分はもはや戦えない。それに、道端で倒れ伏せる魔理沙と伊村の二人も勿論戦力外。
となると、今万全なのは妹紅一人だけ。
……だが、それでも咲夜にとって彼女は最大の脅威に代わりないのだ。
「……でも、勘違いしないで? これで終わりじゃないからね」
「明日も明後日も……なんなら今夜にでも、隙さえあればいつでも仕留めに来てあげるから!」
シュンッ!!
これ以上戦っても勝敗は決しない。それどころか長期戦により魔理沙が再び意識を取り戻し、最悪逃げられる可能性すらある。
ならばここは一旦逃げ、体制を立て直すべきだと判断した模様。
咲夜は捨て台詞に似た言葉を残すと、躊躇なく能力を使い、現場から離脱。
ものの一瞬にして、その場から姿を消して行った。
「へっ、そりゃこっちにとっても好都合だ。……何度でも来いよ。その度に私がまた打ち負かしてやる」
苛烈を極めた激戦が遂に終幕を迎える。
先程まで戦っていた敵・咲夜の刹那にして消えた後ろ姿を見送ると、妹紅は表情に冷静さを携え静かに口にした。
「…………」
(妹紅って、こんなに強かったの……?)
一方のアリスはそんな妹紅を見ながら、信じられないとばかりに目を見開いている。
(永遠亭に住む月の姫とアイツが、満月の夜が来るたび殺し合いをしている、なんて噂を耳にはしていたけど……)
(まさか、あの咲夜を退けるほどだなんて………)
どうやらアリスは一応、以前より妹紅にまつわる話を小耳に挟んでいたという。
しかし、それを考慮したとしても、今回の彼女の強さは想像を遥かに上回るほどのものであった。
「よいしょ……っと! 取り敢えずこいつらまとめて竹林に運んどく。……あんたもボロボロだし、ついてくるか?」
「………。我ながら情けないけど、仕方がないわね。案内をお願いするわ」
妹紅の問いに対し、アリスも一瞬戸惑いはしたが話に乗り同行を決意。
そう、妹紅は多くの人々が迷子になる事で有名な"迷いの竹林"の案内に長けている。
幻想郷における医療施設である"永遠亭"は、その竹林の奥にある。彼女の先導なしではまず辿り着けない。
「そうか。んじゃ、さっさと行くぞ!」
「特に綾太が危ねえ……、なんせ腹に穴が空いてやがんだ!」
ドォン!!
話が纏まるや、妹紅とアリスはその場を後にしていく。
倒れている重症者二名、魔理沙と伊村については妹紅が肩に担ぎ上げてそのまま空に浮かび一直線に飛んでいく。
方向は人里のさらに向かい側にある竹林。遠方より見える夥しい数の竹の迷路、それを目印に急行した。
「はあああぁぁぁ!!」
(最後の力を……振り絞る!)
アリスもその後ろを追随し、人里上空を二つの影が猛スピードで突っ切っていくのだった。
長く続いたバトルパートもいよいよ終了です。
次回以降はまた、長ーい会話パートに入ります。
多分ここから急展開になりそう……