東方貧弱男   作:K.R.

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5.「竹取の姫」

 

翌日……。

 

和室から見える外の景色には、何故か所々に群生している竹の合間から覗く太陽が東に位置し明るくなっている事から、容易に今現在の時刻が朝方だとわかる。

 

「くー……、くー………」

 

先日の夜永琳に治療され命を助けられた伊村は現在、用意された布団に横になり小さい寝息を立てながら眠っていた。

 

「ーーーーさーい! ーーーーーさーん!」

 

誰かが伊村を呼ぶような声が微かに聞こえる。

 

「んうぅ………、んん?」

 

伊村はその声が数度した後、布団から起き上がりその声の主が誰なのかを探り出す。

 

「あ! やっと起きましたか! "伊村"さん!」

 

すると、声の正体が伊村の視界に入った。

声をかけていたのは、兎の耳を頭上につけた長い紫髪が特徴的な赤目の少女だった。

 

 

「へ……? あなたは……?」

 

(なんだあの耳!? 兎の? いや……コスプレイヤーか何か?)

 

(というか……何でおれの名前知ってんの!?)

 

少女の容姿や何故言っていないはずの自身の名前が分かっているのか、等少女について次々と疑問が湧き出てきたが、取り敢えず伊村は彼女が誰なのかを知ろうと試みるべく戸惑いながらも尋ねる。

 

「私は"鈴仙・優曇華院・イナバ"です。鈴仙と呼んでください!」

 

少女は自らの名前を名乗ると、伊村へ笑顔を向けながらそう勧めた。

 

「うどん……、イナ、え? れ、鈴仙さん?」

 

鈴仙の名を一度フルネームで言おうとした伊村だったが、数回噛んでしまったのですぐに諦め、彼女の提言した呼び方に言い直した。

 

 

「はい、その通りです! あ、あとこの耳、別に趣味で付けてる訳じゃないですからね!」

 

「あー……、そ、そうなんですか………」

 

(こ、コスプレじゃないのか? じゃああなたは何なんだ一体……)

 

 

鈴仙が自分の頭の上に付いている白い兎の耳について注意を促す。

それを聞き伊村は鈴仙がコスプレ趣味の有無を否定した事を受け、益々彼女が普通の少女じゃないのではないかと疑い始める。

 

「怪我人だから寝かせていると、"師匠"から話は聞いております!」

 

「伊村さん! 今後はもし何か困ったことが有ればいつでも私を呼んでください!」

 

胸に手を当て誇らしそうに鈴仙が自分へ怪訝の目を向ける伊村へ催促する。

その時に伊村は"師匠"という言葉と、その師匠が言ったという話からそれが永琳で間違いないと確信した。

 

「はい。それでは起きて早々ですが、伊村さん。今から朝食ですよ!」

 

鈴仙はそう言うと、足元に置いてあった木のお盆を手に持ち立ち上がった。

 

「は、え!? ……ちょ、朝食!? 行きます行きます! おれも行きますっ!!」

 

鈴仙の口から朝食という言葉を聞いた途端、伊村は反応して自分も自分もと、子供のように軽くはしゃぎながら食事をするであろう場所へ向かう為、布団からスッと身体を起こす。

 

「った、あ痛だだだだだっ……!?」

 

……だがその瞬間、伊村の身体を痛みが襲う。

昨日よりかはマシになっているようだが、それでもろくに歩けない程の激痛で、堪らず伊村は枕を下敷きに尻餅をつく。

 

「あっ! 伊村さん、無理はなさらないでください!」

 

「私が料理を持ってきますのでここでお待ちしててくださいね!」

 

それを見た鈴仙は伊村へそう言っておくと、背を向けて部屋から退室していった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お待たせしました伊村さん!」

 

数分が経ち、鈴仙がお盆に皿を乗せて部屋へ入った。

よく見るとお盆に乗せているのは五個の握り飯。

どうやらそれが朝食らしく、鈴仙は伊村の布団の横へ来ると、彼の近くにある小さな机に置いた。

 

 

「おお、ありがとうございます……鈴仙さん」

 

「早速 頂きます……!」

 

紫によって見た事もない場所に連れてこられてから初の食事であった為か、伊村は空腹だったらしくすぐに鈴仙が持ってきたそれを一つ頬張った。

 

「…………、ああぁ、お、美味しいです! ………あ、中に鮭が入ってる!」

 

味については美味だったようで、目を細めて感動しながら伊村は鈴仙へ感想を送った。

そして握飯の中には具材として鮭が入っており、これに伊村は嬉しそうな表情をして残りの分を口にする。

 

「ふふ、そう言ってもらえると何よりです。因みに五個それぞれ別の具材が入ってますので楽しみにしてくださいね」

 

伊村から握飯の味の感想を聞いた鈴仙が笑みを溢して伊村へ礼を言う。

その後 残り四個の握飯を指して、それぞれ別々に鮭のような食材が具として入っている事を教えた。

 

「へぇ! それはワクワクしますねぇ!」

 

鈴仙より聞いた握飯の具材について、空腹故に余計何が入っているのかといった食べてからのお楽しみを感じている伊村が興奮気味にそう言った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

サーッ!

 

 

鈴仙が退室してから、伊村は黙々と握飯を食べていた。

が、その時、部屋の奥の襖が引かれる音が聞こえた。

この音は先日永遠亭で目を覚ましてから何回か聞いたので伊村は既に分かっている。

誰かが伊村の居る部屋へ入ってきたのだ。

 

(このタイミングで入って来るなんて……、もしかして永琳さんか………?)

 

伊村は真っ先に永琳が来たのかと考えた。

 

(……いや、あの方は昼におれの身体の状態を確認しに来ると言っていたから、まだ用はないはずだ………が!?)

 

その理由は昨日夜に永琳が伊村に身体の怪我や搬送した経緯等の説明をした際に伝えた言葉。

伊村の怪我の状態を確認するという事で、再び伊村の居る部屋へ永琳から今日の昼頃に来ると知らされていた。

だが、今はまだ朝。来るには数時間程早い。

なので伊村は永琳ではなく別の誰かが来たのかと思い、襖を開けた者へ目を向ける。と………

 

 

「ごきげんよう。貴方が永琳の言ってた外来人(・・・)かしら?」

 

 

ストレートの長い黒髪を靡かせ雲のような模様が描かれた桃色の上衣を羽織り真紅のロングスカートを身につけた少女がそこにいた。

"外来人"という妙なワードを口にしつつその少女は襖を閉めて部屋へ入る。

 

「………、な、な……」

 

(なんだあの綺麗な人は……っ! ち、直視するだけで心を奪われそうになる………!!)

 

部屋へ入ってきた黒髪少女のその美しさに、伊村は言葉を詰まらせ視線を逸らす。

直接その姿を見続けると自分の中の邪心が表に出てしまうと思い、咄嗟に取った行動だった。

 

「あら、そんなに恥ずかしがらなくても良いじゃない。私貴方に何かした?」

 

不思議そうに伊村を見つめながら少女は彼の近くへ寄ってそう問いかける。

 

「い、いやいや!! な、なんでもありませんっ! そ、それよりあなたは一体……!」

 

大分わかりやすくテンパる伊村。

やっとの思いで平静を取り戻すと、少女へ質問を返す。

 

「私は"蓬莱山輝夜"。永琳たちと一緒にここに住んでいるの」

 

落ち着いた様子の伊村を見据えて少女はそう名乗った。

 

「!! そ、そうだったんですか! おれは伊、」

 

「伊村綾太。よね? もう永琳から名前は聞いているから大丈夫よ」

 

「……あ、そ、そうですか………わかりました」

 

伊村も自分の名を言わなければ失礼だと思い早々に名乗ろうとするも、輝夜がそれを遮り彼の名前を言い当てる。

その返しに少し引きつつ彼女の言う通りにした。

 

「輝夜さん、素晴らしい名前ですね……! あ、もしかして、"竹取物語"のかぐや姫から取ったんですか? その名前は?」

 

輝夜の読みが日本で有名な昔話の登場人物名と同じな為、伊村はそこに反応し興味深そうに尋ねた。

 

 

「竹取物語、ね……、惜しいわ。私はそのかぐや姫本人(・・)よ」

 

 

だが、輝夜の返答は、伊村の予想の斜め上をいっていた。

 

「へぇ! かぐや姫ご本人…………、はいぃ!?」

 

輝夜の言葉に伊村は耳を疑い、吃驚仰天し素っ頓狂な声を上げる。

 

「信じられない?」

 

「し、信じられません!! だって! 竹取物語の時代設定は相当昔! 飛鳥時代から奈良時代くらいだとされてるんですよ!?」

 

輝夜の聞きに伊村は当然といった風に言う。

何せ彼の知っている竹取物語とは今より千年以上は昔の話だからだ。

 

「それなのになぜあなたは当たり前のように生きてる(・・・・)んですか!?」

 

そんな昔の物語のヒロインが何故今こうして生きているのかまるで説明がつかない。

伊村はそんな疑問を輝夜へぶつける。

 

「………、そうね……私は、もうかれこれ"1300年以上"は生きてるわ」

 

少しの沈黙の後 輝夜が口を開き自分がこれまで生きてきた年数を教える。

が、それは人間としてはあまりに逸脱した俄かには信じ難い年齢であった。

 

「私の能力・"永遠と須臾を操る程度の能力"で作られた"蓬莱の薬"を飲んで不老不死になったから死にたくても死ねないの」

 

輝夜がこれまで死なずに生きてこられた理由は……なんと、蓬莱の薬という名の薬を使用し不死になった為だった。

 

 

「…………せ、1300年………マジですか」

 

(ふ、不老不死………、嘘を吐くにしてもリアルすぎる……、それに、輝夜さん……何か、寂しそうな、どこか哀しそうな目をしている……)

 

輝夜のとんでもない長寿の秘密を知った伊村は口を開けたまま呆然とし、暫くの間その不老不死について思考を巡らせる。

 

(………、あれ? "能力"?)

 

だが、その途中で輝夜が能力と口にしていた事が引っかかり、彼女へ質問をする。

 

「あの………? 能力、というのは……?」

 

「……あぁーそういえば教えてなかったわね」

 

伊村が問いかけると、輝夜はしまったといった顔で素直に能力について詳細を教える。

 

「"程度の能力"。ここにはこういう"異能"を持った者が私以外に沢山いるの。……で、私の方はさっきも言った"永遠と須臾を操る程度の能力"を使えるわ」

 

能力についての説明をする輝夜。

どうやら伊村が連れてこられた場所では程度の能力と呼ばれるものが当たり前のように存在しているらしい。

そして、その中でも輝夜は永遠と須臾を操る程度の能力という、伊村が理解に苦しむような能力を持っている事が判明した。

 

 

「へ、へぇ〜………」

 

(輝夜さんだけじゃない……? てことは永琳さんとかも同じ……? ………あーっ! だ、ダメだ……、ついていけない……! そもそもなぜそんな能力を持っているのか……、どうなってんのこの人たち……!)

 

輝夜の話した程度の能力について伊村は考える。

輝夜以外にもこれまで会った永琳や鈴仙等も同様の能力を持っているのではないかと。

だが、輝夜と全く同じものを持っているとは思えず、そもそもなぜ程度の能力という現実世界ではあり得ないような力を手にしているのか、伊村には理解しきれなかった。

 

「まあでも、"不老不死"は蓬莱の薬を飲んだからだけどね」

 

頭を抱えている伊村を尻目に、補足として輝夜は不老不死の力を得た要因を教える。

 

「………そ、そうなんですか。すごいですね。その薬」

 

不老不死はあくまで自身の能力を利用して製作した蓬莱の薬によるものだと輝夜から聞いた伊村は、その薬の効力を称えた。

 

「全く、アレは本当に愚かな薬。作るべきではなかったのは確かだわ」

 

「………、は、はあ」

 

が、輝夜はすぐにその言葉を否定し、作らない方が良かったと口にした。

そして、その際何故か物悲しげな表情となっていたのを伊村は見逃さなかった。

 

「………じゃあ、挨拶も済んだ事だし、私はこれで戻るわね。また会いましょう? 伊村綾太」

 

輝夜はそう言い残し、伊村に背を向け歩き出す。

 

「……! はい! 輝夜さん!!」

 

輝夜を見て伊村は大きく返事をした。

彼女ともしかしたらまた会えるかもしれないという淡い考えを抱きながら。

 

「…………、やっぱりあの子、"私たち"に近いものを感じるわね……」

 

……しかし、伊村はまたも聞き取る事ができなかった。

輝夜が最後に呟いた一言を。

そして、その内容についてを。

 

 

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