「………やばい。出口どこ? どこなの?」
辺り一面が天高く生える竹でびっしりと覆われている……。
空も、十数メートルは超えているだろう竹のせいでわからず、今の天気も太陽の位置すらも知る事ができない。
ここは迷いの竹林。
入った者はもう二度と出られず永遠に迷う事になると言われる場所。
(これはマズイ……。永琳さんの話だと、確か迷いの竹林……と言っていたな………)
(ここが………この竹林がそうなのか………)
伊村は竹林内を歩きながら、出発前に永遠亭で永琳から教えられた迷いの竹林について考え、自分が今居る場所がそこだと自覚する。
(方向感覚がおかしくなりそうだ……、一体どこに出口がある……?)
竹林に延びる細い道を僅かに早い足取りで伊村が進む。
だがしかし、どれだけ歩いても周囲の景色は竹林のみでそれらが延々と続いているようだ。
(ダメだ、いくら歩いても歩いても……同じような風景で正しい方角がわからない……っ!!)
ガクンと両膝をついて項垂れ、伊村はその場に立ち止まった。
(……………。あー………)
(……、もしかしておれ、ここでこのまま……死ぬんかな?)
頭の中で伊村は、自分は迷いの竹林の中から出られずに一生を終えるのではないかと思った。
が、それでも何故か伊村の顔には絶望や苦悩といった負の感情はない。
(は、はは……1時間も歩いたから、さ、流石にもう………疲れたなぁ…………)
ふいに伊村は立ち上がると、竹林の道の隅に座り込み、側に生えていた竹を背に休息を取り始める。
(…………。ここで休んで……、目が覚めたら、あの世だったりして………)
洒落にならない冗談を心の中で口にしつつ伊村は目を閉じる。
もしかしたらまた金髪少女のような意味のわからない輩に襲われるかもしれない、そんな不安など考える余地もなかったのだろうか、伊村は無防備に両足を大の字に広げた。
「くー……、くかー……」
永遠亭より出発して1時間……。これまで歩いてきた疲労から、伊村は意識を手放した。
それまでにかかった時間は、わずか30秒。驚異の速さだ。
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「…………。おーい。こんなところで寝てると危ないぞ?」
「……………、んんぅ……?」
眠りに入ってから数分後、突然何者かが伊村へ話しかけ、まるで彼へ忠告するような言葉をかけた。
(……、なんだ? 誰かの声……? ってこれ、女の子の声かな……? いや、何で? こんな竹林に……?)
よく聞くとその声は、透き通るような、尚且つどこか勝気そうな印象を与える少女の声だった。
伊村はそれに気付いた途端に、何故そんな声をした少女が迷いの竹林の中に居るのかと疑問に思い、少女の姿を確認するべく多少眠そうながらも瞼を開ける。
「起きたか。……お前、大丈夫だったか? 怪我とかは……してないようだな」
伊村が目を開くと、その前には背を屈めて彼を見下ろしている少女が居た。
その少女はアルビノのような長い白髪、白いワイシャツに燃えるような赤い瞳、下は真っ赤なもんぺを履き、そこには所々に御札が貼られた何とも特異な格好をしている。
「な、な………っ!」
(め、めっちゃタイプ! 一目見ただけで好きになったわ! 何だこの子! 白髪……それにあの瞳……無茶苦茶可愛い……!! まるで
だがその少女の姿を見て、まず伊村は驚く。
彼は一瞬だけ少女の格好について気になったりしたが、そんな事は少女の可憐な顔を目にした途端一気に忘れ、瞬く間に伊村の脳内は全て白髪少女でいっぱいになっていった。
「……ん? おい、聞こえてるのかお前? おーーい!!」
少女が口を開けたまま見惚れている伊村に、何だこいつと言わんばかりに眉を顰めて再度声をかける。
「………は! す、すみません! おれは大丈夫です! ただ少し休憩してただけなんでっ!!」
それに気付いた伊村は慌てて少女に謝り、自身の無事を強調した。
「へぇそうか。けどこの竹林は舐めない方がいいからな。私以外の奴は殆どがここで迷っちまうんだ」
軽く少女が頷くと、自分らの居る迷いの竹林の危険性を伊村へ教えた。
「え!? ま、マジですか!?」
竹林の危険さを少女より知らされた伊村は驚愕し、思わず聞き返す。
「あぁ、本当さ。……ま、それは私の"案内"がなかった場合だけどな?」
「あ、案内……?」
少女から案内という言葉を聞き、一体どういう事だと首を傾げる伊村。
「私はこの迷いの竹林の案内役をしてるんだよ。暇だからね。」
すると、少女は自分が迷いの竹林の道案内をする役をしている事を伊村へ明かした。
「!! も、もしかして、この竹林の正しい道順とかがわかるんですか!?」
これを聞いて伊村は、少女についていけば竹林から出られるのではないかと目を見開き微かな希望に縋るようにそう尋ねる。
「私はここで
少女はどこか遠くへ視線を向けて、長きに渡り竹林の中で生活してきた事を告げると、竹林から出られず困惑していた伊村に提案をする。
だがその時、伊村はその言葉と同時に少女の燃えるような瞳の奥底で、一瞬だけ黒く暗い闇が垣間見えたような感覚を抱いた。
「い、良いんですか!?」
少女の道案内など、見ず知らずの自分の為にやってくれるのかと少なからず不安に思いつつも、少女へ問う。
「ああ、任せろ。………えーと? 名前は?」
伊村の疑問の言葉に対して少女は自信があるのか、口角を少し吊り上げつつ快く道案内を買って出る。
と、ふと伊村の名を聞いていないことに気付いたのか、少女は彼へ名前について話を振った。
「あ! 失礼! ……おれ、伊村綾太です!!」
自分がまだ名前を言っていなかったと自覚した伊村は急ぎ少女へその非礼を詫びると、早急に自身の名前を名乗った。
「伊村綾太、か……わかった、ありがとな」
伊村の名を覚える為か、少女は一度口に出して彼のフルネームを復唱して礼を口にした。
「はい! よ、よければ貴女の名もお伺いしても宜しいですか?」
自分の名を女子に覚えてもらった事が嬉しく感じたのか、満面の笑顔となりつつ伊村はこれまで気になっていた少女の名前を教えてもらうことにした。
「……"藤原妹紅"。つまんない女だけどよろしくな」
藤原妹紅、と少女は名前を伊村へ明かすと、彼へ背を向けて竹林内の道を歩き始める。
「は、はい! 藤原さん! よろしくです!!」
妹紅という少女の名を伊村が聞こえないような声で復唱して覚える。
そして伊村は先を行く妹紅を彼女の上の名で呼び、また会うかもしれないと思い挨拶をした。
「おい、そこは"妹紅"と言ってくれないか?」
だが妹紅は、上の名前で呼ばれたのを快く思わなかったようで、歩みを止め伊村へ下の名で言うように苦言を呈する。
「す、すみません! 妹紅様……妹紅さん!」
「そうだ、そういう感じで言ってくれ。その方が良い」
慌てて伊村が訂正し呼び直すも、最初に口にした呼称が妹紅の眉を顰めた為、結果シンプルな呼び方のさん付けにするように心懸けした。
「まあそんなに時間はかからないが、しっかりついてこいよ綾太」
「な、名前呼び……! はい! 了解です!」
妹紅が伊村を後ろにつけると、再び竹林の道を進み始める。
伊村はその際に妹紅から下の名前で呼ばれた事が嬉しかったのか、少し顔をニヤつかせながら浮かれ気分のまま彼女へついて行った。