東方貧弱男   作:K.R.

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8.「人里の寺子屋教師」

 

 

「で、出られた……、迷いの竹林から……!」

 

 

妹紅の案内で竹林を歩き始めてから暫くして、伊村は迷いの竹林を抜け田園風景が広がる田舎のような場所へ出ていた。

 

「すー……、はぁー……!!」

 

小一時間も竹林内で迷っていて不安しかなかった為か、竹林から出るや否や一人呟いた後新鮮な外の空気を吸おうと伊村は深呼吸を行った。

 

「お、おいおい……竹林から出られたのがそんなに嬉しいのか?」

 

呆れ顔で妹紅が息を吸っては吐いている伊村を見てそうつっこむ。

 

「ええ勿論! あんなところで出られないまま死ぬなんて、そんなの嫌に決まってますからね!!」

 

当然といった様子で伊村がそう口にした。

 

「はぁそう……。まあ、これでこの一帯を抜ければ一先ず"人里"へ着くだろうよ」

 

「お、おお! それは良かった!」

 

妹紅が田畑が続く地平線の先に小さく見える人間の里と思われる建物群を指差して教えた。

その時彼女が言った"人里"というのは"人間の里"の略語かと理解しつつ伊村はその遠景を見て歓喜し、妹紅の前へ大きく一歩を踏み出して後ろを振り返る。

 

「妹紅さん! ここまで案内してくれてありがとうございます!」

 

そして、伊村を可笑しそうに見つめている妹紅へ深々と頭を下げてお礼の言葉を口に出した。

妹紅の竹林内の案内が終わった為、彼女とはこの場で別れると考えていたからだ。

 

「別に礼など要らないさ。…………それに、私はまだここで"別れる"とは言ってないぞ?」

 

だが妹紅は首を横に振って伊村と別れるのを否定する。

 

 

「へっ?」

 

 

想定外の発言に、呆気に取られた表情で思わず変な声が出てしまう伊村。

 

「私もこの後人里で用があるんだよ。ついでだし、そこに着くまではお前に同行してやる」

 

淡々と妹紅は自分のこの後の用事を語り、彼女の言う人里まで伊村と目的地が同じである事を明かす。

 

「な、なるほど………。もしかして誰かに会ったりするんですか?」

 

「ああ。ちょっと友人に用事があって……、まあ大した事じゃないんだが」

 

伊村の問いに頷くと、妹紅は歩き始める。

 

「そうですか……、あ、すみません。プライベートの事をお聞きしてしまいましたね」

 

うっかり人の私情について聞いてしまったと伊村は詫びた。

 

「いや特に気にしてない。それより早いとこ行くぞ」

 

無機質な表情を維持したまま妹紅がそう返すと、先程と同様に伊村の前を進む。

 

 

「は、はい!」

 

 

その言葉を聞き安心したのか、伊村は心なしか軽い足取りで妹紅の後を歩いて行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここが、人間の里……!!」

 

 

妹紅の後をついて行ってからしばらくして、伊村は取り敢えずの目的地であった人間の里(妹紅曰く略して人里)へ到着した。

そこには江戸時代頃のような木造建築の建物が多く立ち並び、行き交う住人たちは皆和服を着ていて、現代人の伊村が見ても一昔前を思わせる格好と言える。

また、里内にある野菜や魚等を売る露店には道行く人々が立ち寄り繁盛している。

ちなみにこれより少し前には、里の入口にて門番に視線を向けられたのだが、妹紅が居た為か特に問題なく里内へ入ることができた。

 

「よし、これで私の案内は終わりだ。……綾太、後はお前一人で何とかしろよ」

 

周りを見やり、里の様子を確認した妹紅が伊村へ別れの言葉を口にすると、もんぺのポケットに手を突っ込みながらその場を立ち去って行く。

 

「え、あ………、もうあんな遠くに……」

 

人里の住人らと活気付いている商店へ目を向けていた伊村はそれに反応が遅れてしまい、妹紅を引き留めようとするがその頃には既にもう彼女は遠くにおりどんどん姿が小さくなっていた。

 

(………どうしよう。これ割とヤバくないか? 幾ら安全な場所に行けたとはいえ、この後の目的がまだ何も決まってないし……!!)

 

不安と焦りに満ちた顔で頭を抱える伊村。

これまで自分を安全な場所まで案内してくれた妹紅と別れてしまった以上、今後は己自身の力でどうにかしていくしかない。

だが、"人里へ行く"という目的を果たした後 それ以降具体的には何をすれば良いかを伊村は聞いていなかった。

それ故 そんな状態で一人きりになってしまえば、まだこの地域の事をよく知らず土地勘もない自分は何をどうしたら適切かがわからず、ただ永遠に先行き不透明なままじゃないかと伊村は嘆いた。

悩みに悩んだ末に伊村は、

 

(……あーもう! 仕方ない、面倒くさいけどここの人たちに聞こう……!)

 

里内に住む者たちに話しかけ、有益な情報を収集する事にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(ダメだーーーっ!! うまく話しかける勇気が出ないーーーっ!!)

 

 

が、そう考えたまでは良いが、伊村には見ず知らずの他人へ声をかける度胸が……まるで無かった。

里に着いてから二時間は経ったが、自分の近くを通る者たちへ話しかけようと思っても、それを行動に移せず口をもごもごさせるのみであり、殆ど進展はなし。

先程の決意もこれでは意味がないだろう。

 

しかし、無理もないかもしれない。

なぜなら彼は最近までよく部屋に引きこもっていた不登校少年だからだ。

家族以外の者との会話はあまり進まず、そして自分から話しかける事も一切なかった。

このような生活が続いていればそりゃこんな体たらくにもなる。と誰もがそう思うだろう。

 

(くそっ! こんな事してたら日が暮れてしまうっ!!)

 

全くもって人へ話しかけられない自分の不甲斐なさに苛立つと共に、空を見上げてついに昼時へ差し掛かってきたのに気付いた伊村はいよいよ本格的に焦り始めた。

 

 

だが、そんな時……、

 

「……ん? おい! 君こんなところで何をしているんだ?」

 

やや高い女性の声が伊村の横から聞こえてきた。

どうやら誰かが話しかけてきたらしい。

 

「!! あ、あなたは?」

 

女性の声の方へ伊村が顔を向けると、そこには長い水色の髪をした10代後半ぐらいの見た目の少女がおり、頭には赤色のリボンの付いた青色の帽子を被っていて、下には青色のロングスカートを着た格好をしているようだ。

 

「ん、私か? 私は"上白沢彗音"、この人里の"寺子屋"で教師をやっている者だ」

 

大きな胸に手を置いて水色の髪の少女は自らをそう名乗ると、伊村の目を見て不安を与えないようにする為か、にっこりと笑みを浮かべる。

 

「お……、おれは伊村綾太です。見ての通り、ここの人間じゃありません……」

 

慧音という少女のその顔に少しドキッとしつつ、伊村は自己紹介した。

そして、それと同時に自分は人里やその近辺の住人ではないと明かした。

 

「そうか、やっぱり君……"外来人"だったか! 初めて君を見た(・・・・・・・)時からそうじゃないかと思っていたんだよ!」

 

慧音は伊村の事を外来人と呼ぶと、納得のいったような様子でそう言った。

またその際にまるで彼と何回か会ったことがあるような言葉を口にする。

 

「………んぇ? 慧音、さん? その言い方……なんかおれとは初対面じゃないように聞こえるんですが……?」

 

当然伊村は慧音の言ったその部分が疑問になり、彼女へ問いかけた。

 

「あれ? 綾太……、"妹紅"のやつから聞いてなかったのか?」

 

「え?」

 

何故か妹紅の名を口にしながら慧音が首を傾げて伊村に投げかけるが、彼から漏れた声を聞いた途端に何かを察したように頷き苦笑いを浮かべる。

 

「そうか……、妹紅、あいつは口下手だからなぁ。君には知らせてなかったようだなー」

 

仕方ないなと言わんばかりな様子で慧音はそう語った。

 

「い、一体何をです……?」

 

(というか慧音さん、妹紅さんと知り合いだったのか………)

 

慧音が妹紅と面識があった事に少しばかり驚きつつ、伊村は慧音へ何を言いたいのかと問いかける。

 

「綾太……、数日前、君はこの"人里"にある川で流されてるところを助け出された、というのは聞いているな?」

 

謎の人喰い少女に襲われた森から川へ流された伊村が発見された状況。

それについて慧音は言及し、伊村へその事を知っているかと問うた。

 

「あ、はい。永琳さんからお、教えてもらいましたが」

 

伊村は縦に頷き、それについて肯定した。

この事に関しては人里に向けて出発前の昨日の夜、彼は既に永遠亭にて永琳より自身が助け出された状況について聞いていたので、妹紅や慧音に聞いておく必要はなかった。

 

 

「実は、あの時君を発見して助けたのは、()なんだよ」

 

 

怪我を負っていた伊村を見つけ救出したのは、なんと慧音だった。

 

「へぇ、慧音さんがおれを………、………………え?」

 

「え、えぇぇー!? あ、あなたが!?」

 

慧音が自身を助けてくれたとは思わなかったのか、伊村は大層仰天しながら聞き返す。

 

「ああそうだ。その服装を見て"外来人"だとすぐにわかったからな。外来人ならば放っておくわけにはいかんだろう?」

 

伊村の格好に目を移し、当然とばかりに慧音は答える。

 

「そ、そうなんですね……。慧音さん。おれを助けてくれてどうもありがとうございます」

 

自身の高校の制服のおかげで命拾いした事について信じられないと思いつつも、伊村は慧音へ頭を下げて礼を述べた。

 

「はっはっは! 礼には及ばんぞ! ……おお、そうだ。あともう一つ君に知らせておくことがあった」

 

礼儀正しい伊村のこの態度に慧音は高笑いをすると、何かを思い出して彼へ伝えておく事があったと話した。

 

「……へ? な、何です?」

 

一体何なんだと伊村は頭を上げた後 慧音を見つめてキョトンとした顔をする。

 

「私が君を助けた後の話だが………、あの後 君を担いで竹林を通り永遠亭まで運んだのは、"妹紅"だ」

 

慧音に助けられた伊村。

実はあの後 迷いの竹林の案内役をしている妹紅が彼を永遠亭へと運んでいたという事実が慧音の口から告げられた。

 

「妹紅、さん………はっ!」

 

(あの人……、"藤原妹紅"さんが!?)

 

妹紅が自分を永遠亭まで搬送してくれた事を知り、伊村が心底衝撃を受ける。

 

「あ、あの人がおれを永遠亭まで搬送したんですか!?」

 

「その通り。あいつは力があるからな、君ぐらいなら普通に担いで行けるだろうな」

 

目を丸くして伊村が聞くと、慧音が自慢げにそう言った。

 

「す、すごいですね、あの人………」

 

妹紅が自身を担げるくらいの筋力を持っている事を知り、迷いの竹林の案内も然り伊村は改めて彼女を凄いと思った。

 

 

「………、さて、聞くが君、この後はどうするつもりだ?」

 

「……こ、この後、ですか………」

 

少し間をおいてから、慧音が今後の方針について伊村へ尋ねる。

 

(しまった……、予定なんてまだ立ててないぞ……。どうしたら………!)

 

だが、里へ着いた時よりそうだが、伊村は永遠亭から竹林を抜け、人里へ行くという目標を定めていただけで、依然としてこれから何をするかどう行動するかといった明確な考えを持っていなかった。

 

「あ、あの………慧音さん!」

 

「ん?」

 

なので伊村は………

 

「おれ、ここに着くまでが目的だったんで、この後はどうしたらいいか、わかりません! ……よ、よければ教えていただけませんか!?」

 

人里内の事やその周辺地域について詳しく知っていそうな慧音に、今後一体何をすべきかを聞き出す事にした。

 

 

「………。ははは、そうか、わかった!」

 

 

少し沈黙した後 慧音は伊村の嘆願に応じる。

 

「綾太、君のような外来人はな、まず真っ先に行くべき"場所"があるんだよ。そこまで私が案内しよう」

 

そして、伊村へ彼と同様の立場の者が向かうべき目的地がある事を教えて、そこへ案内するのを買って出た。

 

「え、ほ、本当ですか!? ありがとうございます!!」

 

自分の頼みを了承してくれるとは思わなかったのか、伊村が目を見開いて喜び、慧音へ感謝の意を口にした。

 

「では早速行こう。私についてきてくれ!」

 

慧音がそう言って、伊村に背を向けると人里の入り口の方へ歩き出していく。

 

(助かった! にしてもこんな綺麗な人が案内してくれるなんて………へへへ)

 

(………と、とにかくこの人について行けば何かわかるかもしれない!)

 

慧音のような美少女が自身を目的地まで案内してくれる事に心躍らせ顔をニヤけさせつつも、伊村は彼女の後をついて行った。

 

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