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「はぁ………、はぁ……、はぁ………!!」
息を切らし歩くスピードが徐々に遅くなっていく伊村。
慧音と伊村の二人は今、森の中を切り拓くようにできた長い獣道を歩いている。
伊村は明らかにバテているが、慧音の方は俄然涼しい顔で道を進んでいく。
「おい綾太! もう疲れているのか!? まったく! そんなんじゃ駄目だぞ!」
そんな状態の伊村を見やり、慧音は彼をそう叱責する。
「む……、無茶言わないで下さい……! お、おれたち里を出て、もう3時間も経ってるんですよ!?」
伊村は疲労のこもった声で彼女へ抗議した。
だが伊村の言う通り、人里を出てから現在地まで、既におよそ数時間は経過している。
長距離の移動に慣れていない普通の人間ならばそろそろ疲弊してきてもおかしくない。
しかもそれに加え、最近まで運動らしい運動を殆どせず引きこもってばかりな伊村では尚更だ。
「このくらいの移動には慣れておかないと、この先生きて行けんぞ!」
「そ、そうですか……っ、けどおれ、本当にもうヘトヘトです……! いつになったらつ、着くんですか!?」
一方の慧音は伊村と違い殆ど疲労を見せておらず、出発時と変わらぬ速さで歩いている。
そんな彼女の後ろをやっとの思いでついて行っている伊村だが、流石に心が折れそうになったのか、目的地はまだかと慧音へ問いかけた。
「そうだな……、もうそろそろ見えてくるんじゃないか? ………ん?」
伊村へ聞かれた慧音が獣道の先を凝視し目指している場所がどのくらいで着くかを確認し答える。
が、その時………
「すまん!! そこどいてくれーーーっ!!!」
二人以外の誰かの声が突如として後方から聞こえてきた。
「……あれは!? 綾太っ! 避けろっ!!」
急いで慧音が伊村へ退避するよう勧告するが、伊村はそれに気付くのが遅れてしまう。
「え……ってうわぁ!?」
(な、何だ、何かが突っ込んで来るっ!!?)
1秒遅れて反応した伊村が後ろを振り向くと、なんと人里方向の獣道から何故か箒に乗った少女と思しき人影が暴走車の如き猛スピードで飛んできた!
間一髪、伊村はそれを紙一重で避けて、その反動で横方向に尻餅をつく。
「ふぃー………危なかったぜ」
二人に突っ込んできた少女が伊村から数メートル程手前まで進んだ後、ゆっくりと箒から降りて安堵したかのようにそう漏らす。
「すまねぇ、スピード出しすぎた……大丈夫だったか慧音? と………そこのお前は誰だ?」
その少女は最初に謝ると、二人の安全を確認した。
が、少女が伊村に視線を向けた途端に不思議そうな面持ちで彼へ問いかけた。
「その少年は"伊村綾太"というらしい。外来人のようだから私が今神社まで案内しているところだ」
体勢を崩している伊村に代わって慧音が彼の事を紹介して、伊村の手を引いて起き上がらせる。
「す、すみません慧音さん……」
(何だ? "神社"って言ったか今? ……慧音さんはおれをどこへ連れて行くつもりなんだ?)
伊村が慧音の手を借りて立ち上がる。
パンパンと制服についた土埃を両手で払い、慧音の口にした神社という今目指していると思われる目的地について考えた。
(というかここは本当に日本、なのか……? 何か明治初期ぐらいの建物が多かったし、もしかしておれは昔にタイムスリップしてしまったのかもしれない………)
思案する中で、そもそも自分の居る場所が日本で合っているのか、若しくは前の時代にタイムスリップするなどといった現象を体験しているのではないかと考える。
(……………。いやいやいや!! そんな現象あり得ないだろ!! ………待てよ、でも確かにこれまで信じられないような体験ばかりだったな……)
(それもこれも"八雲紫"さんに会ってから…………)
だが伊村は、流石にそんな超常現象は起こり得ないと否定した。
が、よくよく思い返せば帰宅途中で出会った紫によって裂け目に落とされてから自身が経験した事は何とも摩訶不思議で信じ難いものばかりだったと感じた。
実際、人喰い少女から逃げたり、かぐや姫本人と名乗る少女と話をしたり、どう見ても百年以上前の建物が並ぶ集落に来たり、これら現代ではまず起こらないだろう現象が次々と伊村の行く先々であったのだ。
「何考え事してるんだ? お前?」
しばらくの間伊村が思いを巡らせていると、箒に乗っていた金髪の少女が顔を覗かせ話しかけてきた。
「んえ? わっ!? す、すみません! これまでの出来事を少し振り返っていただけで!」
少女に声をかけられるとは思っていなかったのか、伊村がその場から数歩後退しながらわかりやすく戸惑い慌てて弁明する。
「あ、あぁぁ……そうなんだな。大変だっただろ? 何せお前は"外来人"だし、妖怪に襲われたり、変な奴に絡まれたり……そういうのはここでは必ず起こるからな!」
その様子に少し驚きつつ、金髪の少女が伊村へそう伺う。
「は、はは……大体は経験しました………」
数日前から既に幾つもの現実ではあり得ないような出来事を経験していたので、苦笑しながら伊村は返答を返した。
「マジか!? そりゃ災難だな!? ………あ、悪い。まだ私の名前、教えてなかったな!」
自分の名を名乗っていなかった事に気付くと、金髪の少女は伊村の目を見ながら自己紹介を始める。
「私は"霧雨魔理沙"! どこにでもいる"普通の魔法使い"だぜ!!」
金髪少女は自らをそう名乗り、自信に満ちた表情で親指を顔に向ける。
「ま、"魔法使い"、ですか……。しかもどこにでもって当たり前のように……、あー、なんかもう驚きつかれましたよ………」
だが伊村は疲弊した顔をし、魔理沙の言った魔法使いについてのツッコミを入れるのを断念し、大きくため息をつく。
「あれ? 何か予想外の反応だな? お前"外来人"だって聞いたから、もっとビックリするかと思ったんだが?」
拍子抜けだと言わんばかりの顔をして魔理沙が伊村にそう言った。
「いや……おれ、今日まで人に噛み付く様子のおかしい幼女とか不老不死のお姫様とか、ビックリするほど変わった人たちに会いましたんで、ちょっとのことじゃあまり驚けなくなってきたんです……」
そんな事言われても、と伊村は苦い顔をしながらこう答えた。
実際、紫の裂け目へ落とされて以降、これまで伊村は常識では考えられないような体験と出会いをいくつもしてきたのだ。
そんな時に今更"魔法使い"だと名乗られても、そこまでインパクトを感じないからか、彼がそこまで驚かなくなるのは仕方のない話だった。
「お、おお……金髪幼女、それに不老不死の姫……てことは"ルーミア"と"輝夜"に会ってたのか………。大変だったろ? だが、もう心配するな! こっから先が"博麗神社"だ!」
伊村の話した内容を反芻し、納得した表情で彼女らの名前を言い当てると、何故か満面の笑みを彼へ向けてこれまで歩いていた進行方向を指さす。
その際に魔理沙はその伊村たちの進んでいた方向に博麗神社という神社がある事を伊村に教えた。
「博麗……神社?」
(もしかして今おれたちが向かってる目的地のことなのか?)
何が何だかよくわからない伊村。
自分が慧音の案内のもと向かっている目的地の事を言っているのかとそう考え、取り敢えず彼女の話を聞いた。
「ああ、そこに居る巫女に会えば
「か、
(どういう事なんだ……目的地の事を言ってるんじゃないの!?)
だがまたしても魔理沙の口から不可解なワードを耳にした伊村は、益々訳がわからなくなってしまったようで、頭を抱えて困惑する。
「うーむ。魔理沙……綾太はまだ来たばかりでここのことは何も知らないんだ。だからひとまずはその博麗神社へ案内しようと思っているんだが……」
それを見かねた慧音が、伊村がまだ全ての情報を把握していない事を魔理沙へ説明し、その状況を解決する為に先程話に上がった博麗神社という場所へ連れて行く事を考えていると釈明をする。
「へ? なんだ、そうだったのかよ」
すると魔理沙は、納得した顔でそう言った。
「まあ、その手の説明なら
それが良いと言わんばかりにウンウンと頷きながら魔理沙がそう言うと、これまで手に持っていた箒を再び浮かせてその上へ跨る。
そして、クイッと顎に親指を向けて自信ありげな様子で話したその直後、慧音の隣に居た伊村を箒の後方へ乗せた。
「えっ? ……あ、ちょ、ちょっと!?」
魔理沙の突然の行動に驚愕、面食らう伊村。
「ここからは私が神社まで案内してやるよ! しっかり掴まってろよ!?」
箒に乗せられ困惑している伊村を魔理沙が一瞥すると、彼に目指していた目的地である"博麗神社"への案内を自分が慧音に代わってやる事を明かして、箒から落ちないように気をつけろと注意を促した。
「つ、掴まれって………こんな箒にぃ!?」
その言葉を聞いた伊村だが、そもそも彼は箒に乗せられた時点で既にもう落ちそうになっており、必死の思いで持ち手の部分に掴まりどうにか落下を免れている。
「慧音ー、こいつは私が案内するぜ! 良いよな?」
伊村のそんな状態を見てまあ大丈夫だろうと判断したのか、魔理沙は伊村より後方へ顔を向けて、そこに居る慧音に伊村の案内を代わりにしていいかと問いかけた。
「そうだな………いいぞ、だが、代わりに案内をしてくれるのは助かるが……あまりスピードを出しすぎるなよ?」
慧音は少し悩む素振りを見せたが、数秒後にそれを許可し、伊村の案内を彼女へ任せることにした。
そして、それと同時に魔理沙へ先程のような速度で箒を使わないように釘を刺した。
「わかってるって! じゃ! 行きますかー!!」
「ちょっ、こ、こわい怖ーいいぃィィィィィィーーーーーーー!!?」
慧音の言葉を耳にした魔理沙がそう言い残すと、伊村と自分を乗せた箒を発進させ、伊村の悲鳴があっという間に遠ざかる程凄まじい速さで移動して行った。
「全く……、言ったそばからもうスピードを出しているじゃないか………」
僅か5秒も経たずして地平線の彼方へ消えた伊村と魔理沙の二人を見送る慧音。
その顔は呆れ半分面白半分といったところか、怒ってはいないのは確かだろう。
そして、二人が消えた道をしばらく見つめた慧音が、彼らに続き再び先へ進もうとしたその時……。
「"慧音"………」
「ん? ………おお、来てたのか」
人里方面の道から慧音に話しかける少女の声が聞こえた。
慧音がその方へ顔を向けるとそこに居たのは、
伊村が竹林にて世話になった妹紅だった。