ガールズ&パンツァー  ~ 時空を超えた狼サムライ~   作:鷹と狼

10 / 13
第8話 黒狼の狩り

 

 

 

「よし!取り敢えず指定された場所に移動するぞ。沖田真澄、行くぞパンツァーフォー!」

 

 

「り…了解!」

 

 

桜井勇介の合図で黒狼のマーキングが描かれたドイツ戦車、パンターⅡが走行する。

 

 

「(こいつぁ、いい勘をしていやがる)」

 

 

沖田真澄が操縦席に座り、扱う戦車はかつて、70年前にベルリン攻防戦で戦ったパンターⅡ。

 

森林が覆う区域に突入する

 

 

だが

 

 

ガタッ

 

 

「おっと…こら、沖田さん!履帯を障害物に乗せるな~!」

 

 

「すっすいません…大賀さん!」

 

 

 

晴香が真澄に激を飛ばした。

 

 

彼女の重圧なのか、曾祖母の豊田純子が扱い70年前の仲間の前で、真澄は更なる重圧で操作が頑なになった。

 

 

それが心配になったアリシアが、真澄に優しく声を掛けた。

 

 

「…真澄さん…慌てない慌てない…肩の力を抜いて…」

 

 

「はっはい!」

 

 

「アリシア、余計なことを言うな…」

 

 

「車長……」

 

 

アリシアを制止した勇介は、キューポラの砲塔で支給された地図を広げ、確認した。

 

 

「…うん…沖田さん、◯◯◯地点へ走行してくれ!」

 

 

「り…了解です…!」

 

 

真澄が扱うパンターⅡは擬装網で緑に覆われ、勇介の指示で緑が覆う高地にたどり着いた。

 

 

そして各チームは指定された位置に到着する。

 

 

 

『皆スタート地点に着いた様ね!ルールは簡単全ての車両を動かなくするだけ、つまりガンガン前進してバンバン撃って!やっつければいい訳。分かった!』

 

 

 

そして、蝶野は無線でルールを説明するが、流石に説明がシンプル過ぎる。

 

 

 

 

 

「本当…適当ね」

 

 

 

「シンプル is ベスト」

 

 

 

アリシアとパウラも呆れる。

 

 

 

『戦車道は礼に始まって礼に終わるの、一同礼!』

 

 

 

『よろしくお願いします!!』

 

 

 

『それでは、試合開始!』

 

 

 

全員が挨拶をして蝶野が試合開始の合図を出して試合開始だ。

 

 

 

「先に誰から倒しておくの?」

 

 

晴香に言われて勇介は、地図を見て、今いる地点から出会う可能性が高いのは、Ⅳ号Aチームと八九式Bチームと三突Cチームとなれば話は早い。

 

 

 

「まず、三突のCチームからだ。あれは厄介だからな!」

 

 

 

「先にⅣ号じゃないの?確かに三突は脅威だけど乗っているのは大した実戦や実力も無い娘達ばかりじゃない」

 

 

「確かにそうだが俺は言ったはずだ、誰が相手であろうとも油断するな。西住さん達のⅣ号はD型だ、主砲は砲身の短い24口径75mm砲歩兵支援用の榴弾しか飛ばせない。それに対して三突の長砲身48口径75mmと車高の低さを利用されて待ち伏せを喰らう可能性がある。先に潰しておいて損はない、不安の芽は摘んでおくに限る!」

 

 

 

勇介の言う様にⅣ号D型は当時主力だったⅢ号戦車の火力支援の為に作られ主砲の砲身が短く榴弾を飛ばす事が主で、ティーガー級の装甲は分厚い重戦車には歯が立たない。

 

対して三号突撃砲は高速の48口径75ミリを搭載しているがそれでもパンターの厚さ40ミリの正面装甲が弾を弾く。

 

三突がパンターを倒すにはパンターの側面を約300メートル近くの距離から砲撃するしかない。だが、2000m先からでも戦車を撃破出来るパンターに近付くのは至難の技なので三突の車高の低さを利用して林に身を隠してパンターの側面装甲を砲撃してくる事を警戒していた。

 

対する勇介たちは得意なゲリラ戦で挑むことにした。

 

 

「成る程ね、分かったわ」

 

 

「さあ、黒狼が狩りのタイミングだ!真澄、任せたぞ!」

 

 

「は…はい!!」

 

 

そして、真澄は操縦桿を握ってパンターⅡを動かし、敵を求めて発進する。

 

 

 

 

 

勇介達は、辺りを見回せる丘を陣取り、勇介は双眼鏡で辺りを探っているとドカーンと爆音が聞こえて来た。爆音のした方を見ると林の中で幾つかの煙が上がっていた。

 

どこかのチームが接触し交戦に突入。しかも、同じ所から同時に煙が上がっており、恐らく敵戦車は2両以上いる事になり3チームが同時に接触した可能性が高い。

 

 

 

「始まったか!?こうしちゃいられない!晴香、行くぞ!」

 

 

 

「了解!沖田さん、行くわよ!」

 

 

 

晴香がそう言って真澄はパンターを発進させ向かう。

 

そして勇介は、地図を見てあの3チームと現れるであろう場所の距離と時間を計算した。

 

 

 

「よし、晴香、真澄!この先に川があった筈だ。その川沿いを少し登った所に橋があるそこで迎え撃つ!」

 

 

 

「「了解!」」

 

 

 

「パウラ、何時でも撃てる様徹甲弾を装填しておいてくれ!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

一方のBチームとCチームの両方から追われているみほ達は

 

 

「危ない!」

 

 

みほが叫ぶと、寝ていた女子生徒は起き上がり迫って来たⅣ号戦車の車体に向かって大きくジャンプしたが着地に失敗し掛ける。

 

 

 

「痛!!」

 

 

 

そして、掛けた女子生徒の顔を見ると、今朝勇介が背に乗せていた少女だった。

 

 

 

「あ、今朝の!」

 

 

 

すると、キューポラが開き中から武部が顔を出して

 

 

 

「あれ、麻子じゃん!?」

 

 

 

「沙織か?」

 

 

 

「あ、お友達?」

 

 

 

「うん、幼馴染み。何やってんのこんな所で!?授業中だよ!」

 

 

 

「知っている」

 

 

 

「はぁ〜」

 

 

 

冷泉の幼馴染みである武部は、冷泉がまた授業をさぼったなと思い溜息をつくと。後ろで爆発が起こった。

 

 

 

ドカーン

 

 

 

「「「うわわぁ」」」

 

 

 

「あの!危ないから中に入って下さい!!」

 

 

 

砲塔から頭を出しては危ないと判断したみほは、車体の上に乗る冷泉も一緒にⅣ号の中に入れる。

 

 

「はぁ〜酸素が少ない〜」

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

「麻子低血圧で…」

 

 

「今朝も辛そうだったもんね」

 

 

「麻子と会ったの?」

 

 

「うん、今朝桜井さんに背負って運ばれている所に偶然会ったんだ」

 

 

「だから二人共遅刻したんだ」

 

 

 

 

そして砲撃が響く中、勇介はパンターⅡから降りて単独で武装、擬装網を被り斥候、地図を視ながら確認した。

 

 

「(あそこに吊り橋か…あのワイヤー…錆び付いて…危ねぇな…ん?)」

 

 

双眼鏡で確認すると森林からⅣ号戦車が走行、みほが下車して、ゆっくりとつり橋を渡っていた。

 

 

「おいおい…吊り橋を渡るなんて…敵さんの的になるぞ…っ!?」

 

 

 

勇介が思った時、Ⅳ号は左に寄り掛けながら、ワイヤーを擦り、バランスを崩した途端、滑空音が鳴り響き、車体に被弾しつつも不発だった。

 

 

「危ねぇな…」

 

 

Ⅳ号の右側に三突と八九式が走行、左側にt38とM-3戦車が走行していた。

 

 

「2輛で獲物を封じるのはいいが、西住さんたちに手を貸すか…おっ」

 

 

すると、吊り橋でバランスを崩しかけたⅣ号は立ち直った。

 

 

「さっきまでのⅣ号とは違う…操縦手が代わったのか…?くっ!」

 

 

脅威になることを実感した勇介は、駆け足で擬装、待機したパンターⅡの元に戻った。

 

 

 

 

パンターⅡの乗員は、勇介が戻ってくるまで待機していた。

 

 

「いいのですか、他の戦車を砲撃しなくて?」

 

 

 

「あぁ、沖田さん。とりあえず、大洗の方々と何より西住さんの実力も把握しておきたいからね」

 

 

 

「それが、勇介車長の気になる相手を試そうとする彼の悪い癖が…」

 

 

 

晴香は、勇介のいつもの癖が出た事に内心溜息を吐く。すると

 

 

「ただいま!」

 

 

「車長!」

 

 

茂みの中から斥候から帰ってきた勇介が帰還した。

 

 

「どこまで行ってたのですか…?」

 

 

「沖田さん、出動だ!目標は、川沿いの広場だ!!」

 

 

「はっはいっ!!」  ガチャ

 

 

イメージトレーニングしていた真澄は、勇介の指示で走行レバーを倒し、出動した。

 

 

「さて、腕が鳴るねぇ~♪」

 

 

晴香は手を鳴らしながら主砲のグリップを握り締めた。

 

 

「激しい砲撃ですわね…真澄さん…?」

 

 

「うぅ…はぁ…はぁ……」

 

 

次々と砲撃が鳴る中、アリシアは真澄の息がやや荒い異常に気づいた。

 

 

「真澄さん!」

 

 

「はい!?」

 

 

「…緊張していますか…?」

 

 

「い…いえ…これから本当に…戦場へ行くのですね…」

 

 

真澄が操作するパンターⅡが森林から抜け出した頃、砲撃が静かになった。

 

 

「おぉ…やったんだな~」

 

 

勇介が目の当たりにした光景は、つり橋で西住みほのⅣ号が全て撃破、殲滅したことだ。

 

 

 

『DチームM3、Eチーム38(t)、Cチーム三号突撃砲、Bチーム八九式いずれも行動不能!』

 

 

 

無線から蝶野が申告する証として、それぞれの車輛に、白旗が掲げられていた。

 

残るは、勇介達のパンターⅡ戦車Fチームとみほ達のⅣ号戦車Aチームの2チームだけとなった。

 

そしてそこから、戦車道の名家の西住みほとドイツ国防軍最精鋭の外人戦車部隊隊長の桜井勇介の一対一の一騎討ちが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

「いよいよ桜井殿パンターⅡとの一騎討ちですね西住殿」

 

 

 

「うん、そうだね」

 

 

 

「桜井さん達の戦車…どこに?」

 

 

 

沙織が呟きながら、辺りを警戒しながら探した。

 

 

 

「居ました!あそこです!!」

 

 

 

優花里がある方向に指を指してそう言って、皆がその方向を向く。

 

Ⅳ号戦車の車体後方の直線上にパンターⅡがいたのだ。

 

 

 

「いつの間にあんな所に」

 

 

 

「全然気付きませんでしたわ」

 

 

 

「まずいですよ、この橋でパンターⅡとの対決は逃げ場がないのでこちらが不利です。今ここで砲撃を食らったら…」

 

 

 

優花里がそう言うと、橋の上では左右に移動する事が出来ず前後にしか行けず砲撃する側からすれば恰好の標的だ。

 

更にドイツの戦車パンターはティガーと並び、連合軍の兵士に恐怖症を引き起こさせる程恐れられていた。

 

パンター75ミリの主砲はどんな装甲板も破壊するのだ。

 

Ⅳ号戦車では砲弾が届かないし、接近しても厚さがあり、IS-2の122ミリの弾も跳ね返してしまう怪物、その改良型のパンターⅡ未知数の戦車の攻略は難題だった。そんな時

 

 

「待ってやる!」

 

 

「「「「 え!? 」」」」

 

 

「君達が橋を渡り終えるまで待ってやると言っているんだ!」

 

 

砲塔の上で仁王立ちしている勇介は、みほ達のⅣ号戦車が橋を渡り切るまで砲撃しないと宣告する。

 

 

「随分気前がいいんだね」

 

 

「うん…冷泉さん、このまま橋を渡って下さい」

 

 

「分かった」

 

 

みほは、少し迷ったが勇介の事を信じて麻子に橋を渡る様指示する。そして、その間勇介は約束通りみほ達Ⅳ号が橋を渡り終えるまで一切砲撃しなかった。

 

そしてⅣ号が橋を渡り終えると勇介はキューポラの中に入る。

 

 

「さてと、どう攻めてやろうか?」

 

 

お互い睨み合って動こうとしない。

 

西部劇の荒野の決闘の撃ち合いの様に冷静さを保って相手より先に撃った方が勝つのだ。

 

Ⅳ号D型の砲身の短い75mmでは、例え零距離からでも弾かれる。

比較的薄い側面装甲か、エンジンを積んでいる後面、履帯を破壊するか、そしてパンターには、砲塔と車体との間に小さな溝がありそこを砲撃されると砲塔を旋回できなくなるのだ。

 

 

「秋山さん聞いて、これからパンターの右側にまわるから破甲砲弾でパンターの砲塔を狙って下さい」

 

 

「了解です!」

 

 

「冷泉さん、パンターⅡの右側に回って下さい!」

 

 

「わかった」

 

 

最初に動いたのはみほ達だった。

 

Ⅳ号は大きく迂回しようとする。勇介は、これを見て側面か後面を砲撃するのだと判断した。

 

 

「やはり側面か!沖田、左に旋回」

 

 

「了解!」

 

 

勇介が真澄にそう指示すると彼女はパンターを前進させ左に旋回させる。

 

まずは、Ⅳ号の第一弾が発射されたが、砲弾はパンターの近くの地面に着弾し、急いで優花里は次の弾を装填しテパンターに狙いを定める。

 

続いて第二弾が発射され砲弾は、パンターの砲塔上面に当たって跳ね返った。そして今度は、パンターがⅣ号に狙いを定める。

 

 

「狙いが定まった!今度はこっちの番だ」

 

 

「撃って!」

 

 

晴香の引き金でパンターの75mm砲が火を吹き掛けた時、真澄の操作ミスでパンターⅡは地面を横滑り砲弾が岩場に向かって飛んで行く、そして砲弾は岩場を撃破、飛び散った岩がⅣ号戦車の側面に命中、パンターⅡは砲身が損傷。

 

Ⅳ号とパンターⅡから撃破判定のフラグが立った。

 

 

『AチームⅣ号、FチームパンターⅡ。引き分け!』

 

 

無線で蝶野が、みほたちⅣ号と勇介達Fチームが引き分けの宣言をした。

 

だが、この結果は想定外だった。

 

幾ら戦車道の家元の西住みほがいると言え、他は今日戦車に乗った娘ばかりの素人集団。

 

対して勇介達は、第二次欧州大戦の米英露戦で幾多の戦車戦を繰り広げて来た職業軍人と言える猛者と言えども、自然の脅威には逆らえない。

 

 

 

『回収斑を派遣するので行動不能の戦車はその場に置いて戻って来て』

 

 

 

無線から蝶野が行動不能の戦車は回収斑が回収するとの事で撃破された戦車から各チームの女子達が戦車から降りて格納庫に向かう事にした。

 

 

 

「やはり、彼女と彼等に戦車道を受講させたのは正しかった」

 

 

「作戦通りだね」

 

 

38(t)の中では、生徒会の河嶋と角谷は、上手く行ったと言わんばかりに笑う。

 

 

 

 

そして、勇介達もパンターに乗って格納庫に向かって走っていた。

 

 

 

「みんなグッジョブベリーナイス!初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来よ!特にAチームとFチーム良くやったわね」

 

 

 

夕刻、一同は格納庫の前に立つ蝶野の前で整列をした。

 

そして、今回の練習試合でのMVPが発表されみほと勇介のチームがMVPに輝いた。

 

みほ達は、引き分けたとは言えそれを聞いてみんなは喜んだ。

 

勇介達は、幾らMVPを貰っても素人集団相手に勝ったと言う気がしないと言った複雑な気持ちだった。

 

 

「後は日々走行訓練と砲撃訓練に励む様に、分からない事があったらいつでも明示してね」

 

 

「一同礼!」

 

 

『ありがとうございました!』

 

 

と河嶋の号令で一同礼をして解散となった。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。