忘れ物を取りに行こうとしたら、五つ子に会いました   作:昂牙

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久里須の秘密③
好きなおにぎりの具は鯖


第四話:花火大会と便利屋②

「コレは……」

 

久里須と五月はブロック塀の上に置かれているお面とヘッドフォンを前に立ち尽くしていた。五月はそのヘッドフォンに見覚えがあった

 

「このヘッドフォンは三玖の物です」

 

「えぇ!?じゃあ一体何処に……」

 

「一先ず時計台に行きましょう。四葉とらいはちゃんがいる筈です」

 

「五月さん!」

 

五月は三玖が残した持ち物を持って走り出すのを向かおうとしている方角とは違う場所を指差して引き留める

 

「時計台はこっちです!」

 

ム~…………///

(かわいい……)

 

自分の方向音痴っぷりが恥ずかしくて顔を真っ赤にして肩を震わせながら久里須の所に戻る五月であった

 

―――――――――――――――――――――――――

 

とりあえず時計台に向かった二人は四葉と風太郎の妹、上杉らいはと合流した

 

「五月!南里さん!」

 

「すみません……色々あって時間が掛かってしまいました」

 

「ふぅ〜ひとまずは三人……イヤ、二乃さんも加えて四人ですね」

 

「皆どこに行っちゃったんだろう……」

 

どうしたもんかと悩んでいると久里須の携帯が鳴る

 

「もしもし?」

 

『久里須!私だけど、今何処にいるの!?』

 

電話の相手は二乃だった。やけに焦った様子だ

 

「今ですか?今四葉さんとらいはさん、五月さんと時計台に居ます」

 

『そう。分かった……そっちに行くから三人に伝えて』

 

「えっ……」

 

それだけを告げられて電話を切られた

 

「誰からですか?」

 

「二乃さんです……今からコチラに向かうとの事です」

 

「えっ、ソレって……」

 

コッチに来る。それはつまり姉妹全員で花火を見る事を諦めたも同然という事

彼女だってソレは不本意であろうにその選択をした理由は分からない

 

重苦しい空気の中久里須の携帯に再び着信が入る。が、先程とは違う着信音だ

 

『よぉクリス』

 

「お養父さん!依頼はもう?」

 

その声を聞くや否や久里須は一気に晴れやかな表情になった

 

「えっと、南里さんのお父さんから?」

 

「そのようですね」

 

楽しそうに話をしている様子を見ながら話をしている四葉と五月。の隣で久里須とは対照的にしょんぼりしているらいは

 

「花火……みんなで見たかったな…………」

 

「らいはちゃん……」

 

名残惜しそうに呟くらいはを前になんと声を掛ければいいか分からない五月。対して四葉は彼女が持っている物に視線を向けている。ソレは四葉が彼女の為に買った花火セットである

 

「あっ!良い事を思い付きました!」

 

妙案を思い付いたらしい四葉と同時に久里須が三人の方に向き直り頭を下げる

 

「すみません。ちょっとお養父さんを迎えに行ってきます」

 

「南里さん!上杉さんにあったら伝えてほしい事があります!」

 

頭に疑問符を浮かべる三人をよそに「ししし」と笑うのであった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(そういや今日は花火の日だったか……)

 

ぼんやりと次々と打ちあがる花火を横目で見ながらそんな事を考えながら愛車を運転する男が一人

切れ長の藍色の眼、Tシャツとズボンにスーツの上着という出で立ちでその全てが黒に統一されており、左腰にはこれまた黒のインサイドホルスターと、その中にオートマグⅢが装着されている

 

「ん……?」

 

ふと前方に何やら人影が見え、その前方50メートルの所で停車させて現場に向かう

どうやら二人の男性と一人の女性が揉めているらしい。その後ろからもう一人女性が走って来た

 

「君は……なんだ君は!君はこの子のなんなんだ!?」

 

「俺は……俺はこいつの…………こいつらのパートナーだ。返してもらいたい」

 

七三分けのちょび髭の親父と後ろに髪を纏めた少女の手を掴んでいる頭頂部に二つのハネッ毛がある少年……そしてショートヘアの少女。この四人が当事者のようだ

事情は知らないが、カッコいい事を言っている少年に慌てているちょび髭親父

 

(ん……?あのおっさんどっかで見た事があるな?)

 

「な、何を訳のわからない事を!」

 

「よく見てくれ!こいつは一花じゃない!」

 

「あ、あの……」

 

「その顔は見間違いようがない!さあ早く……うちの大切な若手女優から手を放しなさい!」

 

(あぁ、思い出した。このおっさん織田芸能プロダクションの社長じゃねぇか)

 

男は合点がいったように頷いた。以前依頼を受けた時に彼の事務所の俳優と共演して顔合わせをした事があったのを思い出した

そんな男とは対照的に

 

「わかて……じょゆう……え?カメラで撮る仕事って……そっち?」

 

顔を真っ赤にしているショートの女子の方を振り向く少年

っというかこのままでは埒が明かないのでそろそろ行動に移さなければならない

男は止めていた足を一行の所へ向けて口を開いた

 

「全く、町に戻って早々揉め事に遭遇するとは……トラブル体質も考えもんだなぁこりゃ」

 

突然の闖入者に顔を向ける四人を意に介さずに男は煙管を燻らせるのだった

 

「全くなんなんだ今日は……なぜこうも次から次へと」

 

「つーか揉めるなら場所を変えてくれねぇか?通れねぇんだが」

 

後ろにある自分の車を親指で差すと、声を掛けた理由を察した四人はペコペコと頭を下げて謝罪する

 

「あぁーすいません!すぐ退きますので……」

 

「すんません」

 

「「ごめんなさい」」

 

「ん…………?」

 

一旦歩道に移動した一行

少女達を見て違和感を感じた男はじぃっと二人の顔を見つめる

 

「お前さん達、もしやとは思うが『中野』か?五つ子の『中野』姉妹」

 

「は?五つ子?」

 

「…………アンタ、一花と三玖を知ってるのか?」

 

「イヤ、私は初対面だけど?」

 

「私も……」

 

「知らねぇのも無理はねぇ。俺も養子(むすめ)経由で知ったクチだからな」

 

怪訝な顔をする二人だったがハッとしたような様子で織田は一花の方に歩み寄る

 

「おっと、こうしちゃいられない。行こう一花ちゃん」

 

「待てって!」

 

「止めないでくれ。人違いをしてしまったのは本当にすまなかったね。でも、一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるんだ」

 

「そんな急な話があるか!こっちの約束の方が先だ。一花、花火いいのかよ?」

 

そういう少年の問いかけに一花と呼ばれた少女は

 

「皆によろしくね」

 

一切振り向かずに笑顔のままそう言った

 

「一花ちゃん急ごう。会場は近い、車でなら間に合う」

 

「あいつ……」

 

「フータロー……」

 

悔しそうに歯ぎしりをする少年に三玖と呼ばれた少女が話しかける

 

「足……これ以上無理っぽい。一花をお願い」

 

「だが、ココでお前を一人にする訳には……っ!そうだ!おい、アンタ」

 

フータローと呼ばれた少年はスーツの男に向かって提案をする

 

「アンタの車で三玖を送っちゃくれねぇか?場所は……」

 

「ん~その必要はたった今無くなったわ」

 

反対側の歩道に目線を向けたまま煙管をペン回しのようにクルクルと回しながらそう告げる男

それを裏付けるように

 

「お養父(とう)さん!」

 

「おー」

 

コチラの方に駆け寄ってくるクリスに空いている左腕を上げて挨拶をする男を見て二人は呆気にとられる

 

「お……」

「「お父さん!?」」




此処でクリスの父親が登場しました
ちなみに彼はモーションアクターの仕事帰りに風太郎達に遭遇しました

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