イラっとした時に舌打ちをするのはユーリの癖がうつったから
「来週から中間試験が始まる。一応言っておくが今回も30点以下の奴は赤点だからちゃんと復習しとけよ〜?」
中間試験……学校によっては中間考査・中間テストとも呼ばれたりする学生にとって避けては通れない壁である
久里須は特段焦る様子もないようで、いつものように過ごしていた
「南里さん勉強は順調?中野さんは?」
「まぁボチボチですかね」
「同じく」
身体を反転させて二人に状況を聞く新庄
「そうなんだ?時々南里さんが勉強教えてるのを聞くけど?」
「あ~……言い触らさないでくれると助かるかな~って」
流石に席が久里須の前なのだから自分が余り勉強が得意でない事はバレるか。と観念して苦笑いするしかない二乃だったが、そんな彼女を余所に新庄は更に続ける
「でもちょっと分かるかも。南里さん国語と英語は今のところ全部満点だし」
「そうなの!?国語はまだ分かるけど、英語もはちょっと意外だわ」
「
改めて便利屋って凄いなと思う二乃であった
―――――――――――――
「二乃」
三人で廊下を歩いていると階段の踊り場で仁王立ちしているのは二乃が最も嫌う人物。嫌悪感を隠す事なく「げっ」と漏らす
「お前、中間試験は」
「皆行こー」
(相変わらず嫌われてますねぇ……)
風太郎に構わずさっさと階段を上る二乃を追う二人。もちろん久里須は風太郎に会釈をする
「あの人中野さんの事呼んでなかった?」
「あいつ私のストーカー」
「ストーカー!?こっっわ……」
しかしここまで言われても引き下がる事をしないのが上杉風太郎という男な訳で
「二乃!俺は諦めないぞ!祭りの日一度は付き合ってくれただろ!考え直してくれないか」
「え?」
風太郎の言葉に思わず足を止めて振り返る新庄
「何ならお前の家でもいいんだ!あと一回だけ!一回だけでいいから!お前の知らない事をたくさん教えてやるよ!だから」
「くっ……くくくっ……」
あらぬ誤解を招きかねない失言のオンパレードに笑いを堪える久里須。その隣では顔を真っ赤にした二乃が風太郎の方に近づいて……
「おぉ!分かってくれ……」
「アンタねぇ……」
「誤解されるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!」
\バチーン!/
盛大に平手打ちを喰らわせ、それがトドメとなって
「アッハハハハハハハ!」
久里須は大笑いしてしまった
「ちょっ!?久里須何笑ってんのよ!」
「いやぁすみません……だっていくらでも言い方がある筈なのに、よりにもよってあんな……アハハハッ」
ヒーヒー言いながら腹を抱えて笑い続け、風太郎はすごすごと退散する
「ごめんなさい本当に……フフフッ」
「いいっていいって!珍しいモノも見れたしさ」
二人のやり取りを見て二乃はふと思い至った
(そういえば、
――――――――――――――――――――
「ふぅ~終わった終わった!」
「この後何処行く~?」
放課後、級友たちが慌ただしく教室の外に出て行く中、今日のこの後の予定について思考をする
(特に予定は無いしこのままゲームセンターにでも……いやいや、テスト期間なんですからちゃんと勉強しなくては……!)
二乃は他の友人とさっさと下校してしまっているし、ココは大人しく一人で帰る事にする
「ただいま」
「おう」
「お帰り~」
聞き慣れた声、やり慣れたやりとり。正直、飽きてきた。それでもやってしまうのは生粋の生真面目さ故か
「そういえば来週試験よね?まぁ、アンタの事だから心配はしてないけど」
前髪の白のヘアピンが目立つ鮮やかな金髪を腰まで伸ばし、白の長袖シャツの上にデニムカラーのベストを羽織り、ジーンズを履いた女性が久里須に近況を訪ねる。彼女の養母であるユーリだ
「まっ、根詰めすぎるのもアレだがね」
ソファの背もたれに左腕を乗せて缶ビールを煽るシュウ
この二人は長い付き合いであり、基本的にやり取りも短い。それも信頼から来るものなのだが
因みに夫婦とはいっているがあくまでも形式上のモノであり、一緒にいるだけで満足しているんだから別に良いよね。という共通認識が存在している
それはさておき、テスト勉強の為に自室に入る久里須。鞄をベッドに無造作に置き、机の上にあるノートPCを机上にある簡易式の棚に置き、ノートと参考書・筆記用具を並べる
「さて、やりますか」
夕食とソシャゲのデイリーも済ませた後、再び勉強机に向かう。しばらく問題と格闘し続け、そろそろ小休止を……と思っていた所でスマホにメールが届いた
【すみません南里さん。少しお時間よろしいでしょうか?】
送り主は五月だった。今日アドレスを交換したばかりだというのにどうしたのだろうか
ク【小休止しようと思っていた所なので大丈夫ですよ】
【突然どうしたんですか?】
五【実は今日の放課後に上杉君と諍いを起こしてしまって】
「(またですか……)チッ」
思わず舌打ちが出てしまった
ク【諍い?今回はどういった理由で衝突してしまったんですか?】
五【父から上杉君に取り次ぎの電話がありまして】
【そこから中間試験の話題が理由でついカッとなってしまって】
【あなたからは絶対に教わりません。と】
ク【売り言葉に買い言葉……ですか】
【私に相談のメールをしたという事は、関係を修復したいという意思はあるんですね?】
久里須が一番聞きたかった事はこれだ。仲直りをする意思があるか、それが無ければ関係修復はまず無理だ
五【はい】
【しかし、どうも彼とは馬が合いません。今回の件も些細な事でムキになってしまって】
ク【無理をしなくても良いんじゃないですか?】
【そのつもりがあるのであれば、謝れるタイミングというのは自ずとやってくる筈ですし】
しかし、どういう内容の電話だったのか?
その辺りを聞いてみる必要があると思った久里須はその事についても訊ねてみる
ク【そういえば親御さんから電話があったと先程書いてましたけど、その時どういった反応をされていました?】
五【そうですね】
【世間話をしただけ。と言っていましたけれど、ものすごい量の汗をかいていました】
(汗……?)
【今回赤点ならもう次は無い。とも】
ク【次が無い?それはつまり、切られるって事ですか?】
成る程合点がいった。大方、次の中間試験で赤点回避出来なければさようなら。という条件でも出されたのだろう
ク【そんな条件を突き付けられて、彼に精神的余裕が無かった事も視野に入れなくてはなりませんね。それだと】
五【確かに……】
五月は文面を打ちながらやはり彼女に打ち明けて正解だったと思っていた。彼女がいなければ一人さめざめと泣いていただろうから
ク【こういうのはアレですけど】
【やっぱり五月さんと上杉さんって仲がいい。というか似てますよね】
【似てる二人は喧嘩する。って漫画のサブタイトルもある位ですし】
【変な所が真面目で不器用といいますか】
【私もそういう人をよく見て来たのでなんとなく分かるんです】
【お互いに歩み寄る意思があるなら、自然と機が巡って来ますよ】
五【南里さん。ありがとうございます】
【少しだけ気持ちがすっきりしました】
ク【私などがお役に立てたのであれば良かったです】
【焦らなくて良いですからね?】
そういえばと五月は久里須に聞きたかった事を聞いてみようと思い立つと同時に彼女の言葉を思い出す
——所詮私は、部外者ですから——
五【そうだ。南里さん】
【今日のお昼、凄く悲しそうな顔をしていました】
【あの……何か理由でも?】
あの様々な感情の入り混じった表情。何かあると思わない方がおかしい
恐らく二乃も彼女に聞く筈だろう。しかし、返って来たのは……
【それは言えません。語った所で、信用して貰えるとは思っていませんので】
またもや意味深な言葉だった
第一章も残り1話となりました
お気づきとは思いますが【】はチャットでの会話になっています