忘れ物を取りに行こうとしたら、五つ子に会いました   作:昂牙

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久里須の秘密⑦
好きな動物は鷹


第八話:いざ、中間試験

いよいよ今日は中間試験。風太郎と五つ子にとっては関門となる。最も、ソレはある一人を除いて

 

「ファ……」

「あら~?どうしたの久里須?珍しくあくびなんかしちゃって?」

 

ニヤニヤしながら隣席である友人の顔を覗き込む二乃

 

「実は昨日、少し夜更かししてしまいまして……」

「へぇ~アンタがねぇ」

「でも貴女も今日は遅刻ギリギリで登校して来ましたよね?」

「ぐえぇ」

 

強烈な切り返しをされて思わず仰け反ってリアクションをとってしまう

 

「とはいえ中間試験、お互い頑張りましょう」

「え?あぁ、そうね」

 

この時二乃は風太郎が赤点回避出来なければ家庭教師をクビになる事を泊まり込みで勉強会をする事になった際に知った為、他の四人に比べて余りしていなかったのでその問いにあやふやな返事をしてしまった

 

一方その頃久里須の家では――

 

Spinnengewebe(シュピネンゲヴェーベ)だ。要件はなんだ?」

【失礼。私は……】

 

―――――――――――――――

 

数日後、中間試験の結果が帰ってきたのだったが浮かない顔をしているのがチラホラいる。それというのも……

 

(今回の社会のテストだいぶ難しかった様な……?)

 

答案を見ながら頭を捻る久里須。しかし、気になるのは先日養父から聞かされた依頼の件だ

 

まさか指名の依頼とは……しかもその内容も驚きだった

 

「えっと……確か図書室に行くと二乃さんは言っていましたよね……」

 

自分もこっそり行ってみようかと思い至ったが乗り込むのも違う気もする。ウロウロしながら考え、結局外で待っている事にした

 

その頃、図書室では風太郎が五つ子それぞれに助言を送っている所だった

 

「三玖、今回の難易度で偏りはあるが68点は大したもんだ。今後は姉妹に教えられる箇所は自信を持って教えてやってくれ」

「え?」

 

三玖

国語…25 数学…29 理科…25

社会…68 英語…15 合計…162

 

「四葉、イージーミスが目立つぞ?もったいない。焦らず慎重にな」

「了解です!」

 

四葉

国語…30 数学…09 理科…18

社会…22 英語…16 合計…95

 

「一花、お前は一つの問題に拘らなさすぎだ。最後まで諦めんなよ?」

「はーい」

 

一花

国語…19 数学…39 理科…26

社会…15 英語…28 合計…127

 

「二乃、結局最後まで言う事を聞かなかったな。きっと俺は他のバイトで今までのように来られなくなるが、今まで通り南里に教えて貰えればいい。ここまで食い下がれたのはアイツのフォローのお陰だろうからな」

「ふん」

 

二乃

国語…21 数学…23 理科…32

社会…18 英語…49 合計…143

 

後は五月だけとなった所で三玖が不安な表情のままどういう事かと伺いをかける

 

「フータロー?他のバイトってどういう事?来られないって……なんでそんなこと言うの?私……」

 

重苦しい沈黙に包まれる六人

無理も無いだろう。事情を知らないとはいえ風太郎のお陰で前を向く事が出来た三玖にとって彼は精神的支柱でもあり、初めて意識した異性でもあるのだから

 

「三玖……今は聞きましょう」

 

そんな彼女を五月は表情を変えずに言い聞かせる。まぁ、その顔も直ぐに崩れる事になるのだが

 

「五月、お前は本当に……バカ不器用だな!」

「なっ!?」

「一問に時間かけすぎて最後まで解けてねぇじゃねぇか!」

「は、反省点ではあります……」

「自分で理解してるならいい。次から気を付けろよ?」

 

五月

国語…27 数学…22 理科…56

社会…20 英語…23 合計…148

 

その時、タイミングを見計らったかのように五つ子の父からの着信が入った

 

「上杉です」

『あぁ、五月君と一緒にいたのか。個々に聞いていこうと思ったが、君の口から結果を聞こうか。嘘は分かるからね』

「つきませんよ。ただ……次からこいつらにはもっと良い家庭教師をつけてやってください」

『うん、その事なんだがね……』

 

突然、二乃が風太郎からスマホをひったくる

 

「え?」

「パパ?二乃だけど。一つ聞いていい?なんでこんな条件出したの?」

『僕にも娘を預ける親としての責任がある。高校生の上杉君がそれに見合うか計らせて貰っただけだよ』

「私たちのためって事ね。ありがとうパパ。でも相応しいかなんて数字だけじゃ分からないわ」

『それが一番の判断基準だ』

 

押しも押されぬ状況で両者一歩も引かない。そして、二乃はとんでもない事を言いだした

 

「あっそ、じゃあ教えてあげる。私達五人で五科目全ての赤点を回避したわ」

「!?」

『……本当かい?』

「嘘じゃないわ」

『二乃君が言うのなら間違いはないんだろうね。これからも上杉君達と励むといい』

「え?」

 

一瞬彼女にとって聞き捨てならない言葉が聞こえた為に追及しようとしたが、その前に切られてしまった

 

「二乃……今のは?」

「私は英語と理科、一花は数学、四葉は国語、三久は社会、五月は理科。五人で五教科クリア、嘘はついてないわ」

「そんなのありかよ……」

 

久里須のように右手で頭を抱えて呆れる風太郎

 

「結果的にパパを騙す事になった。多分二度と通用しない。次は実現させなさい?」

「……やってやるよ」

「…………それはそれとして、さっき気になる事を言っていたわね。まるでもう一人家庭教師を雇ったみたいな」

 

眉をひそめる二乃に対して一花が予想を立てた

 

「もしかしてクリスちゃんだったりして~?」

「はぁ!?何言ってんのよ!?そんな事……いや、あり得るわ。あの子の家は便利屋だったし」

 

思わず納得してしまった

以前から彼女に勉強を教わっている事、そして彼女が便利屋なのはこの場にいる皆が知っている事。白羽の矢が立つには十分な条件が揃っている

 

――――――――――――

(長い……)

 

それなりの時間が経ったがテストの結果を知らせるだけにしてはやけに時間が掛かっている

もういい加減突撃してしまおうか?と思っていると突然大きな笑い声が聞こえて来たと同時にパタパタと複数の足音が聞こえて来た

 

「ん……終わりましたかね?」

 

そう呟く事数秒後、ガラッと図書室のドアが開いた

 

「わぁお、南里さん!」

 

真っ先に気づいた四葉の声に遅れて全員が彼女の方を見る

久里須は背中を壁に寄り掛からせて片膝を軽く曲げた態勢で両腕を組んで佇んでいた。反射した夕影に照らされたミントグリーンの瞳と彼女の纏う凛とした雰囲気が絶妙な組み合わせを生んでいる

 

「なんだ、待ってたのか」

「お取込み中だったようですので」

 

腕を組んだまま首だけを6人に向けたまま口を開く友人に二乃と五月は恐る恐る聞いてみた

 

「ねぇ、もしかして……」

「私達の家庭教師……いえ、上杉君の補佐を任されたのですか?」

「ハイ。中間試験直前に養父(ちち)から皆さんのお父様からの依頼を承諾したと連絡がありまして」

 

複雑な顔をしている二乃とは対照的に喜びを全面に出して四葉が久里須の手を両手で握って大きく振っている

 

「わぁ~!南里さんも一緒なんですね!嬉しいです!よろしくお願いします!」

「そうですか。それならば今後も南里さんからしっかり教わる事が出来ますね。二乃?」

「う、うるさいわね!そんなのどうでもいいでしょ!?」

 

無理矢理話題をぶった切ってずんずん先に進んで行ってしまう

 

「おい二乃!待てって!パフェ食いに行くんじゃねぇのかよ!」

「そうだったんですか?タイミング、間違えてしまいましたね」

 

さっさと一行から離れようとする久里須だったが五月に呼び止められる

 

「あの、良ければ南里さんもご一緒にどうですか?」

「え?私もですか?」

 

唐突なお誘いに困惑する久里須だったが、思わぬ所から追撃が飛んで来た

 

「良いんじゃねぇか?一応知らない仲って訳じゃないんだしさ」

「う、上杉さんまで……」

「……まぁ、良いけど。その代わり…………」

 

いつの間にか戻って来ていた二乃が手を差し出してくる

 

「見せなさい」

「え、テストの結果を……ですか?」

「何が得意なのか位は把握しとかなきゃダメでしょ?だからよ」

(恐るべし友情パワー……)

 

意外とあっさり補佐に入る事を受け入れた二乃に苦笑いしながら風太郎は仕方なく鞄から答案用紙を出す久里須を眺めている

 

「どれどれ~?」

「私も気になる……」

 

二乃の後ろからどうにか覗こうとする四人。どんな結果だったのか……

 

久里須

国語…100 数学…84 理科…74

社会…60 英語…100 合計…418

 

「うわっ!結構高い!」

「ホントに国語と英語が満点……」

(社会だけ勝ってる)

「南里さんホントに勉強できるんですね!」

「こうして結果を見ると、南里さんが一緒に教えてくれる事になったのは喜ばしい事です」

「コレが公開処刑ですか…………」

「あ~まぁうん。気にすんな」

 

羞恥で顔を真っ赤にして蹲ったまま黙りこくってしまった久里須を慰める風太郎であった




これにて第一章はおしまいです

次回から本格的に家庭教師が始まります

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