使っているPCはエイリア〇・ウェアのノート
第九話:教師と生徒とカモミール
「今日からだっけ、家庭教師補佐官の仕事?」
休日の朝、開口一番ユーリが放つ一言。この女は遠慮という言葉を余り考慮せずズケズケと発言する。そういう所は二乃に通ずる部分がある
「そうですよ。色々準備はしましたけど……上手く教えられるかどうか不安ですね」
「大丈夫大丈夫!クリスなら大丈夫よ。友達にも勉強教えてるんでしょ?」
大笑いしながら久里須の髪をわしゃわしゃ撫でる
「あ、そうだ。これ持ってって」
ユーリが差し出したのは小さな包みだった
「なんですかコレ?」
「カモミールのハーブ。贈り物には丁度良いかな~と思ってさ」
「成る程……ありがとうございますユーリさん」
礼を言われてなんのなんの。とヒラヒラを手を振って久里須を見送った後、自分も自分の仕事の為に出発した
―――――――――――
(確か昨日の上杉さんからのメールではPENTAGONというタワーマンション前で落ち合おう。という内容でしたが……
くだらない事を思いながら自転車を漕いで待ち合わせ場所へ向かう。スマホの音声案内を使っているし、目的地はタワマン。一度捕捉すれば嫌でも迷わないだろう
しばらく走らせているとそれらしき建物が見えてきた。遠目からだが近場の建物と比べると流石に凄まじい存在感を放っている
(流石に六本木ヒ○ズよりは低いでしょうがね)
ーーPENTAGONーー
「よお、時間ピッタリだな」
「おはようございます、上杉さん」
正面玄関前にいた風太郎と合流し、挨拶もそこそこに駐輪場に自転車を停めて足早にエレベーターに乗り込んだ
「皆さんは何階に住んでいらっしゃるんです?」
「最上階だな。俺も初めは驚いたもんさ」
「最上階……確かに相応の財力はあるみたいですね。親御さんは」
この数日間で風太郎の彼女に対しての印象は四葉同様かなりのお人好し。である
しかし彼女には彼女なりの信念があり、その影響は間違いなく彼女の養父から来ている事も察していた
「……聞きましたか?私が養子として迎えられた事を」
「あぁ。子供が出来なかったからって聞いた」
「そうですか」
養父の相変わらずの言い訳。それも基本的に一期一会であるからこそ使えるワードだ
「なぁ、南里」
「はい?」
「予想はついてるが敢えて聞く。なんで引き受けたんだ?」
「理由……ですか。そうですね、強いて言えば…………」
腕を組みながら目を閉じて悩む様な仕草をした後、更に続けた
「退屈しなさそうだと思ったので」
「(ガクッ……まぁ確かにアイツらを見てるとそうだろうな」
コントのように前のめりにつまづくフリをしながらも何処か納得気味の風太郎。それで良いのか?
そんなやり取りをしているうちに最上階である30階にエレベーターが到着すると、風太郎が先導して五つ子達の家へ案内してインターホンを押す
\ピンポーン/
「は~い!」
元気な声が聞こえて来た。二人揃ってこの声は四葉のモノだと悟った
「こんにちは四葉さん」
「よぉ」
二人を招き入れた四葉が居間に入ると三玖がキッチンに立って何かを作っていた
その時に作っていたのは
「何これ?」
「コロッケ」
「石じゃなくて?」
(え、コレが?)
三玖が作ったコロッケらしき物を見て疑問符を浮かべている四葉と久里須
「味は自信がある。食べてみて」
「……じゃあ食べるよ」
「おはぎ作ったのか?いただき」
「では私も……」
いつの間にか四葉の後ろに来ていた風太郎も同時に食べる
「普通に美味い!」
「あんまり美味しくない!」
(どっち……?)
両極端な感想を告げる風太郎と四葉。最後の一人はやけに長く咀嚼している
「クリス?」
「以前罰ゲームで食べたものよりはマシですね……」
(((何を食べされられたんだろう……)))
渋い顔をしたままの彼女の呟きが気になった三人
「えっと……これなんですが」
ポケットから取り出したのは白と黒のツートンカラーで構成された箱の中に赤い帯が引かれ、その中にデカデカと
『SALMIAKKI』と書かれていた
「なんだそりゃ?菓子か?」
「一応は……」
歯切れの悪い物言いをするがそんな事は気にせず風太郎はサルミアッキを口に入れる
他の二人もそれにつられたのか興味もあったのか風太郎に続く
「う~ん、食えん事は無いが妙な味だな。ゴムっぽい感じがする」
「「…………」」
風太郎の微妙な感想に対して二人は撃沈していた
「おいしくなぁ~い!」
「いろんな味が混ざってて不味い……」
「ですよねー……」
思った通りの反応で苦笑いをする久里須
「まぁいいか。とにかく準備するぞ」
「ハーイ!」
「頑張る」
風太郎の切り替えに腕を上げて元気に返事をする四葉と控えめな返事の三玖
久里須も持参した教材やらノートを取り出してテキパキと準備を進める
「そ、ソイツはもしや、ノートパソコンって奴か!?初めて見た……!」
久里須がバッグから取り出した物に大袈裟に風太郎が反応する
「は、初めて……そうですか……」
「気合の入れ方が凄い……」
「上杉さん中間試験の結果ってどんな感じでした?」
「あぁ一花は……」
ササっと表計算のソフトを開いて予め作成しておいた表に風太郎が口頭で点数を伝え、ソレをブラインドタッチで入力していく
「へぇ~そんな物まで持ち込むなんて、どんだけ気合入ってんの?」
「こんにちは南里さん」
「どうも」
前方から聞き慣れたいつもの声。そのさらに後ろから五月が挨拶をしてくる
仕事モードの久里須は短く返事をしてすぐさまPCに視線を戻す
「まっ、どうでもいいけど。行くわよ五月。ランチ終わっちゃう」
「え、えぇ」
「なっ、オイ!」
次の試験まで1日も無駄にしたくない風太郎は二人を引き留めようとする。もちろん、ソレが聞き捨てならないのは久里須も同様である訳で
PCを閉じてわざとらしい口調で口を開く
「そうですか~せっかくハーブティーの茶葉を持って来たのですが、お昼を食べに行くのでしたらお二人には要らないですね~」
「「!」」
その発言に食いついた二人は足を止める。五月に至ってはアホ毛がピンッと立つレベルの食いつきっぷりだ
「そ、そういう事は早く言いなさいよ!」
「ハーブティーですか……?」
「えぇ。贈り物には丁度良いと思って~っと
「しょうがないわね……何があったっけ……?」
「悪い、助かった」
そそくさとキッチンに方向転換する二乃を見て風太郎が耳打ちで久里須に礼を言うと、ニヤリと笑ってこう言った
「『相棒』ですからね」
「相棒か……違いない」
二乃と彼女を手伝った久里須が作った料理が出来上がり、久里須が用意したカモミールのハーブティーがテーブルに並び、皆でそれを囲んでいる
「ん〜!美味しいです♪」
「カモミールとはまた粋な物選ぶじゃない。アンタのお母さん」
「上杉さんもどうぞ」
「あぁ」
勧められるままに口に含む風太郎。リンゴに例えられる甘い香りとすっきりとした優しい味わいで。純粋に
「美味いな。飲んだ事ねぇけど、なんか好きな味だ」
「分かる。優しい甘さがする」
そういう感想を抱いたのだった。風太郎の感想に三玖も同感らしい
まぁ、ソレもその時だけで……
「五月もう食べ終わってるし!」
「すみません。お茶も美味しくてつい……」
「五月さんってもしかして食べるのが好きなんです?」
唐突に始まったガールズトークに若干居心地の悪さを感じ始めるのだった
「一花さんの姿が見えませんね?」
「あ~アイツは確か撮影だって言ってたな。代役の」
「代役…………えっ!? 一花さんって女優志望だったんですぅぅぅ!?」
「久里須、アンタ勘が鋭い割にたま~に妙に抜けてる所あるわね……」
ガビーンという効果音が付きそうなレベルで驚愕する久里須に苦笑いする一同
「あっ!ちょっとコレを見て下さい。カモミールの花言葉を調べていたんですが……」
「えっと、何々?逆境に負けない強さ、逆境で生まれる力、仲直り、親交……」
「え、そんな意味が……?」
恐らくは『これから7人で力を合わせて頑張って』『家の子と仲良くしてあげてね』という養母からの五つ子と風太郎へのメッセージだったのだろう
「優しいね……クリスのお母さんもお父さんも」
三玖の呟きに皆同意する
経緯は違えど五つ子と風太郎は母を亡くしている。そのため、こういった見えない所から解る気遣いというのも有り難く感じてしまう
「そうですね……本当に優しい人達です(でなければ、私は……)」
「よし、腹ごしらえもすんだし片づけ終わったら始めるぞ~」
「しょーがないわね……いっとくけどアンタのためじゃないから!」
「二乃さんは相変わらず上杉さんに風当たりが強いですね……風太郎だけに、風当たり。なーんて♪」
「しょーもなっ!」
賑やかな雰囲気の中、ようやく今日の勉強会が始まるのだった