木ノ葉隠れの里の下忍、春野サクラは困惑していた。
気を失い、目が覚めたら、目の前で下忍レベルを遥かに超える戦いが繰り広げられていたからだ。
しかも、片方は自身に怪我を負わせた上に、彼女のチームメートにまで危害を加えた本人だ。
「僕の獲物に手を出すなんてやってくれるねェ」
「あら、早い者勝ちよ」
そしてもう片方は、草隠れの里の額当てをしている。会話の内容からして、
先に手を出したのは音隠れの里の額当てをした白髪の少年だが、草隠れの里の下忍が横槍を入れたことで戦いに発展したのだろうと、春野サクラは結論付けることにした。
「う…」
「え…?
(サ、サスケくん!?しかもナルトまで!?
そ、それに、サスケくんの
ただ、冷静さを取り戻し始めた彼女は、そこでようやく異変に気付くのである。
チームメートのうちはサスケとうずまきナルトが、傷だらけの姿で気絶していることに、春野サクラは驚愕する。それと同時に、うちはサスケの首筋になかったはずの痣があることに気付き、事態は自身の手に負える状況ではないことを悟ってしまったようだ。
「ど、どうしよう…わ、私…どうすれば…」
目にも止まらぬ速さで剣術の応酬が繰り広げられるなか、春野サクラは絶望的なこの状況に打ち震えるのみ。
しかし、音隠れの里の白髪の少年と草隠れの里の下忍は、最悪の師弟──水月と大蛇丸だ。彼らはいったい何をやっているのだろうか…。
水月がうちはサスケを襲撃したのも、うちはサスケに写輪眼を開眼させるという大蛇丸からの無理難題を遂行する為だった。
そして、水月は大蛇丸の
だというのに、水月と大蛇丸は下忍どころか中忍ですら容易に立ち入れない程の戦闘を繰り広げている。理解に苦しむ状況だ。
「ねェ、ピンク色の髪の君」
「え?」
すると、大蛇丸から距離を取った水月が春野サクラの前に立ち、彼女へと声をかけた。
「君達がここで殺されようと僕にはまったく関係ないことだけど、それはそれで気分が悪いし…とりあえずは守ってあげるから大人しくしててね」
━━ 鬼灯水竜陣
声をかけ、返事を待たずして水月が五指に水遁チャクラを込め、大木の枝の上に叩き付けると、激しい水竜巻が春野サクラ達を守るように覆う。
「その結界内に入れば一先ず安全だから」
これは、触れた対象を水竜巻に呑み込み溺死させ、あらゆる忍術を水竜巻の激しい勢いで跳ね返す強力な水遁結界術だ。
その言葉に、春野サクラは面食らった様子を見せているが、それは無理もないことだろう。何せ、水月は己達に襲いかかってきた存在だ。彼女も怪我を負わされている。そんな危険な人物が自身達を守る為に戦うなど…。
しかし、春野サクラは今……その言葉を信じる他ないのかもしれない。
何故なら、大蛇丸はあまりにも強く、春野サクラではどう足掻いても勝つことはできないのだ。
それならば、今は水月の言葉を信じるしかない。
名刀『草薙の剣』を手に、大蛇丸は唯一の弟子──水月と壮絶な斬り合いを展開していた。
「──ッ!
(まったく…
驚くべきことに、S級犯罪者として世界に名を届かせる大蛇丸ですら水月に手を焼かされている。それどころか、大蛇丸も本気になりつつあるのではないだろうか…。
水月と大蛇丸は、自身等の間に繋がりは一切ないと周囲に思い込ませる為に、わざと壮絶な斬り合いを展開している。水月の結界術で表向き守られている春野サクラも、これだけ壮絶な殺し合いを見せられては信じてしまうだろう。もちろん、春野サクラを欺く為だけではない。水月と大蛇丸がいる場所に、試験官や木ノ葉の暗部の部隊が急ぎ向かっているからでもある。大蛇丸が中忍試験に潜り込んでいたことに気付いたのだろう。
そして、水月と大蛇丸は試験官や暗部に、斬り合いを展開している光景を見せることで、己達が敵同士なのだと欺くつもりでいる。
もちろん、大蛇丸の目的であるうちはサスケに関しては、気絶する前にそう思い込むように演技していた為に、そこから水月と大蛇丸の関係性が発覚することはないだろう。
うずまきナルトに関しては、騙されやすい性格な為にどうとでもなるはず……というのが水月と大蛇丸の見解だ。
「大した剣術の腕前ね。
(この子、水遁と同じくらい雷遁の扱いに長けてるから厄介なのよね)」
「師匠のご指導の賜物かな」
ただ、大蛇丸にとって想定外だったのは、水月がここに来て悪癖が出しつつあることだ。水月は冷静沈着にみられがちだが、相手が強ければ強いほど戦闘にのめり込み、戦闘狂の一面を見せ始めてしまったのだ。
今も、大蛇丸を相手に雷遁チャクラを迸らせながら『雷刀・牙』の一振りを振るっており、水月は大蛇丸が冷や汗を流す程の戦闘力を見せている。
「くッ!」
水月は目にも止まらぬ速さの剣術に体術も織り交ぜ大蛇丸を翻弄している。
水月が刀に纏わせた雷遁チャクラは、刀だけではなく水月自身も纏っており、身体を活性化することで身体能力を飛躍的に向上させているのだ。
だが、大蛇丸もただ防戦一方なわけではない。放たれた蹴りを難なく躱し、水月のもう片方の足を狙い草薙の剣を振るう。
「ヤッベ…楽しくなってきた!」
しかも、大蛇丸が応戦することで水月は更に
「──ッ!
(速い!
もしかしたら…何れ
辛うじて背後に振り返り、水月の刺突を受け流した大蛇丸だが、防戦一方となり追いやられていく。
そして、水月の猛攻に圧されてしまった大蛇丸は、肩付近に突き技を受けてしまう。
「ぐッ!
(このッ──バカ弟子!あとで覚えてらっしゃい!)」
しかも、水月の追い討ちはそれだけで終わることはなく、刀を握る右手ではなく、左手の人差し指を大蛇丸の額に向けると、指先から鋭い光線のような水の塊を放つ。
━━ 波動水鉄砲
印を結ぶこともなく、指先から放たれた光線のような水鉄砲は、並の忍……いや、上忍だろうと殺されかねない威力だ。
日頃の鬱憤を吐き出すかのように、殺意ある一撃を大蛇丸へと放った水月は実に良い笑顔である。
「あなた…私に殺されたいのかしら?
(ムカつくけど…また一段と強くなったわね。しかもこの子の場合、忍戦術が戦闘に特化し過ぎてるのよね。
普通の忍戦術は体術、幻術、そして忍術からなる。けど、水月の場合は『剣体瞬忍』ってところかしら…)」
教え子からの殺意ある一撃をどうにか躱していた大蛇丸。だが、その表情には余裕さが一切ない。
「気持ち悪い…」
「本当に殺すわよ」
ろくろ首のように首を伸ばすことで、大蛇丸は殺傷力が高すぎる水月の忍術を躱していたが、その光景はおぞましく、水月はつい本音を漏らしてしまう。もっとも、大蛇丸も本気で躱していたようで、強い危機感を感じていたようだ。
水月の忍戦術は剣術、体術、瞬身、忍術を駆使し、効率的に相手を殺す。雷遁は忍刀の斬れ味向上と、肉体活性による身体強化によって体術と瞬身の術の威力と速さを向上させており、印を結ぶ必要もない殺傷力が高すぎる忍術を扱うなど、戦闘狂でありながらも堅実で賢いものだ。
故に、大蛇丸は水月が何れは忍界最高峰の万能型になれるとまで評価し、水月の戦術を剣体瞬忍と呼ぶ。
大蛇丸にとって、水月はこれまで鍛え上げた弟子達の中でも傑作と呼ぶに相応しい存在だろう。
だからといって、弟子を甘やかすつもりなど一切ない。
「…!
どうやらここまでのようね。
(これ以上戦うと、水月の戦闘欲が更に増して危険だから
「大蛇丸!!」
すると、水月にとっては残念なことであり、大蛇丸にとっては計画通り、水月と大蛇丸が戦っていた場所に1人の忍が姿を現した。しかも何の因果か…。その
「試験官さん?どうしたの?
僕…今からコイツと続き…戦うとこなんですけど」
大蛇丸の計画では、音隠れの里の下忍が如何に強いのかを示す為に、それを試験官──みたらしアンコに見せつけることが目的の一つ。
「下忍が戦って勝てる相手じゃないわ!
あなたは引っ込んでなさい!!」
「いやいや…寧ろ試験官さん如きじゃあ瞬殺だよ?
僕より弱いでしょ…邪魔だから下がってて」
幸いにも、その計画は水月の戦闘狂な一面のおかげで簡単に達成することができるだろう。
「久しぶりね、アンコ。
ただ残念だけど、私達に感動の再会はないわ。この子が言った通り、あなたじゃあ相手にならないわ」
「ッ!?
(な、何て殺気なの!?し、しかも…音隠れの下忍の殺気も凄まじい!本当に下忍なの!?)」
再び、忍刀で斬り合いを始める
何が真実で、何が偽りなのか…。周囲は欺かれる。
斬拳走鬼ならぬ剣体瞬忍。剣術、体術、瞬身、忍術である。水月の戦闘スタイルは、万能型の中でも超攻撃特化の万能型。
━━ 鬼灯水竜陣
うちは火炎陣みたいなもので、水遁チャクラを五指に込め、叩き付けることで水竜巻の結界を張る。
━━ 波動水鉄砲
螺旋水鉄砲よりも威力は上。こちらも印なし。