ヒロイン兼黒幕少女の暗躍   作:PSコン

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第10話「2回戦」

 テロは未然に防げたので、大会は予定通り進行されることになった。

 私たちは重要参考人として、警察に努めて協力的な態度を取り、夕方には宿泊施設に帰ることができた。

 

 岳人は警察関係者なのでもう少し長引きそうだった。

 華と零次、そしてアリスは自宅へと帰った。

 

 なので私たちは今三人だ。談話室で私はあることに気がつく。

 

「……私の試合朝一じゃん」

「はは、災難だね」

 

 竜輝が笑いながら言った。だいぶ心を開いたように思えるが、今となってはどうでも良かった。

 

 私はアリスを使わないことに決めたのだ。

 極力関わらない。問題になった時はできうる限り避けるし、どうしても排除が必要になれば、十分情報が集まったと判断してから行う。

 

 だから彼とはそこまで親密になる必要はない。勿論関係を悪化させる理由もないので、それなりに愛想よく振舞う。

 

「いやでも、今日は濃い一日だったな。今日はぐっすり眠れそうだぜ」

「晴路は何にもしてないじゃないか」

「濃すぎて君の存在忘れてたよ。誰だっけ」

「晴路! 村田晴路だよ、竜輝の同級生の! 頼むよ優子ちゃあん」

「ちゃん付けは要らないって言わなかったっけ?」

「覚えてるじゃあん!」

 

 一回戦はかなり苦戦した。一応、次の相手について調べておいた方が良いだろうか。

 

「次の優子の対戦相手だけど」

 

 竜輝が遠慮がちに言った。

 

「知ってるの、竜輝?」

「うん、同じ学校だしね」

「剣崎だっけ。名は体を表すって奴だよなあ」

「は? ええ、と。ああ、思い出した。確か剣を使ってたね」

 

 一応一回戦は全て見ている。特に興味を引かない相手だったので、思い出すのに時間が掛かった。

 

「そう、剣を生成する能力だよ。2本は手に取って、もう2本は宙に浮かせて操作しているね」

「4本作れるわけだ。でもこの大会向きじゃなさそうだね」

「うん、()()()()()()()()()。一回戦も相手の降参待ちだったからね」

 

 思い出した。確かに攻めあぐねていたように思える。ルールが違えば、戦い方もガラリと変わりそうな相手だ。

 

(勧誘相手の査定も案外難しいな)

 

「確か防具は、許可が下りれば使えたよな。優子は登録したか?」

「してあるよ。使う気はなかったから、一応だけどね」

「準備が良いね、流石だよ」

 

 硬質樹脂製で、手の甲まで覆う分厚いアームプロテクターだ。華の爪にも(ちゃんと受け流せば)耐えられるので、並大抵の攻撃では破損しないだろう。

 

「……一応、手入れしてくる」

「そうだね、いざという時壊れたら大変だ」

「えー、優子行っちゃうかあ。ま、仕方ないかあ」

 

 何処かに移動しようと相談している2人から離れ、私は自室に戻ることにした。

 

 

 

 *

 

 

 

 そして大会当日。

 

 目前には剣崎(けんざき)亜美(あみ)。鋼のような癖の強い銀髪は、櫛すら通さないように思えるほど硬質だ。

 

 私はプロテクターの調子を再度確認し、合図に備える。

 

 審判が手を上げた。

 

「……」

「……」

 

 互いに言葉はない。私は足に力を込め、速攻を狙う。

 

 手が降りた。次の瞬間、4本の剣が宙を舞い襲い掛かる。

 

「ッ!」

 

 私は一度大きく距離を取る。剣の追撃はない。

 

 前情報と違う。相手は距離を置き、剣の操作のみで戦う算段のようだ。

 

(……そっか。前の試合で老化を見せたから、近づいて欲しくないか)

 

 考えてみれば当然だ。触ったら終わる相手に、近づく道理もない。

 それに攻めにも随分と勢いがあった。この大会での回復能力者の力量を把握し、即死でなければ問題ないと判断したか。

 

 剣を受けたプロテクターを見る。貫通こそしていないが、大きな傷がついている。防具なしでは骨まで届くだろう。無視して突っ込むのは現実的とは言えない。

 

「と言っても、近づかないことにはどうしようもないか」

 

 敢えて言葉にし、奮い立たせる。歩きながら間合いを詰める。

 

 相手は剣を、自身を中心に回転させている。

 

 そして、射程範囲に私は足を踏み入れる。およそ5m。

 まず2本の剣が襲い掛かるが、私は力強く弾き剣を明後日の方向へと飛ばす。

 

 私は距離を詰めるが、相手は後方に飛ぶ。だが私の方が速く、届くのは時間の問題だ。

 相手は飛んだ剣を無視し、再生成した剣2本と展開していた2本。4本で同時に襲い掛かる。消去と生成のラグは驚くほど少ない。随分と鍛え上げているようだ。

 

 左右上下から横なぎに剣が振るわれる。

 姿勢を下げ上2本を回避、下2本はプロテクターで受ける。前進は止めず、剣を滑らせる。プロテクターが摩擦を受け、樹脂が焼け溶けていく。

 避けた上2本の剣が私の前に躍り出る。思わず足を止めた。プロテクターで受けた剣が独りでに滑り、背後に回る。

 側転し、包囲網から抜ける。剣同士がぶつかり合う音が右から響く。

 駆けようとし、前方に剣崎がいない事にようやく気がつく。右に移動している。攻めるにはまた剣戟を凌がなければならない。

 

(でも、今ならまだ!)

 

 移動はまだ完了していない。私たちの直線上に剣が重なるまで、僅かな間がある。

 右前方から4本の剣が回転しながら襲い掛かる。左回転が3本。右回転が1本だ。左手を盾にし3本を受け、右回転の1本を右手で弾く。

 左手に衝撃が走る。骨身が軋む。受けきれず、刃が頭、頬、首に触れる。だが足は止めない。

 剣を置き去りにし、遂に私の射程圏に到達した。右手を伸ばす。

 だが、剣崎の手にはもう剣が握られていた。

 

(再生成!? 速過ぎる!)

 

 想定外、しかしもう後には引けない。右手で振り払い、痛む左手を無理やり伸ばす。熱を持った痛みが左手を襲う。

 

「ア”ア”!!!」

 

 叫び、痛みを燃料にし進む。左手、中指が、剣崎の右手に僅かに触れる。

 

 それが限界だった。

 背後から襲う4()()の剣を躱し、射程外まで避難する。

 

 少し時間を稼ぐ。

 左手の調子が整うまで、成長により自然治癒を促進させる必要がある。私は口を開いた。

 

「……あくまで、精密操作の限界が4本なだけで、生成はもっといけるみたいだね」

 

 剣崎の手に1本。そして旋回する4本の剣が何よりの証拠だった。

 

「……当たり。貴方の能力は、恐ろしいね」

 

 剣崎はここにきて初めて言葉を発する。彼女は自身の、骨と皮だけになった右腕を興味深く眺めていた。

 

 あの一瞬では、右腕を奪うのが限界だった。

 だが、次は確実に勝てるという確信がある。

 

「……この戦い方じゃ、わたしは勝てない」

 

 私の言葉なき意思は、戦意を通して伝わったのだろう。彼女は言った。

 

「だから、こうする」

 

 彼女の上空に、20本の剣が浮かび上がる。その剣先は、全て私に向いていた。

 

「それが私を襲うわけだ」

「そう。20の刃が、貴方を切り刻む」

 

 時間稼ぎは十分。これ以上時を稼げば、剣崎の右手が使用可能なまでに戻りかねない。私の能力は、元に戻るスピードはコントロール出来ないのだ。

 

「フッ!」

 

 息を整え、足に力を込める。

 開幕と同様、一気に距離を詰める。やはり5m、剣が私に到達する。

 

(実際に対処すべきは20本ではない。8本は私に当たらず、残り12本のうち4本が精密操作に切り替わる)

 

 極度の集中状態に入る。意識が引き延ばされ、全てがスロー状態になった。

 身じろぎ、僅かな動きで直撃を避ける。3本がそのまま通過し、足元の1本が回転する。私は靴裏で受ける。鉄板入りの安全靴だ。そして、右手、左手の剣各1本が回転する。それらはプロテクターで受ける。残る操作は1本。脇腹を狙ったそれを、プロテクターの貼っていない右腕の内で受ける。腕に剣が喰い込み、骨がストッパーになる。脇腹は守られた。

 右腕に刺さった剣が、肉に喰いこんだまま、私の動きを妨害しようと操作される。

 ぶちぶちと肉を引きちぎり、私は前進する。右腕はもう動かず、そして無防備な私に5本の剣が直進し、その内の1本が右足に刺さった。

 この足では、大きくは移動できない。どんなに気合を入れても、剣崎には後1m手が届かない。

 

 チェックメイトだ。()()()()()()()()()

 

 私は左脇を通り過ぎ去ぎた剣を掴む。この直進した剣は、今この瞬間、彼女の操作を受けていない。

 

 これで、私の射程範囲に剣崎が届いた。

 

 剣を横なぎに振るう。その一閃は、剣崎の背骨を断ち切った。

 次の瞬間、私の背後から4本の剣が突き刺さる。血を盛大に噴き出し、私の意識はそこで落ちた。

 

 

 

 *

 

 

 

 大会は一時中断となった。

 いくら闘技大会というものを知識で知っていようと、現代人は血みどろの闘争とは無縁なのだ。混乱を収めるには暫しの時間が必要だった。

 

(時巡はともかく、あの対戦相手もイカレているな)

 

 最後、あれは回避が間に合わないことを悟り相打ちを狙ったのだ。

 2人は回復能力者の実力から、死には至らない攻撃を選んだのであろうが、流石にやり過ぎだ。

 

 対戦結果も審議中となっている。引き分けでなければ、先に致命傷を与えた、時巡の勝ちになるだろう。

 

 当の2人は入院中だ。怪我は問題ないとのことだが、まだ意識は戻っていない。

 

 ノックをした後、引き戸を開ける。

 

「遅いぞぉ、岳人」

 

 僅かに真剣さの残った声で、緩やかに小鳥遊が言った。

 

 病室に居るのは彼女と、ベッドで眠る時巡だけだ。

 

「狭いからね。他のみんなはとっとと帰しちゃったぜ」

「そうか。なら俺もすぐに出よう」

 

 そう言ったのだが、小鳥遊は「ダメ」と言い俺を無理やり椅子に座らせた。

 そうして彼女は出口に陣取った。どうあっても返す気はないのだろう。

 

 仕方がないので時巡の様子を見る。

 

 見たところ、きめ細やかな白い肌には、怪我1つない。眠っている故か、僅かに乱れた黒髪が、うっすら赤らむ頬に差さっている。

 豊かな胸は規則正しく上下を繰り返しており、呼吸にも問題ないことが伺える。

 

 そこまで考えて、目を閉じた。

 

(何をやっているんだ、俺は)

 

 彼女が健康体であることは、医師が証明している。ことさら俺が見る必要もないはずだ。

 

「ん……」

 

 艶めかしい声に、思わず心拍が乱れる。

 

 時巡は緩やかに瞼を起こし、ルビーのような紅い瞳をこちらに向けた。

 

「……岳人、何で?」

「ここは病院だ。対戦後お前が倒れたから、緊急入院だな」

 

 時巡は徐々に思い出し始めたのか。「あー」と唸り体を起こした。

 

「勝てたかな」

「審議中だ、寝てろよ」

「そうそう、負けず嫌いも今は引っ込めた方が良いって」

 

 小鳥遊も追撃する。

 

 時巡は「分かったよ」と言いつつ横になる気はないようで、そのままベッドに背を預けた。

 

「お見舞いは華と岳人だけ?」

「いんや、クラス代表で零次、あとは竜輝君と晴路、アリスちゃん、荒木先輩と、あぁ……ゴーレムの人、後ユリって人が来てたね」

 

 ユリさん来ていたのか。それは奇妙だったが、それ以上に、見舞客にあるべき人物がいないことに疑問を感じた。

 

「ご両親はまだ来てないのか」

 

 なら俺は早めに退場しておくべきか。

 そう考えていたが、空気が妙に冷たくなったのに気がついた。

 

「ああ~……」

 

 時巡は面倒くさげに唸った。

 冷気の元は、彼女ではない。

 

「……」

 

 小鳥遊が俺の背中を無言でつねる。歪みそうになる顔を必死に抑えた。

 だが、時巡には何が起きているか分かっていたのだろう。ため息をついて言った。

 

「華、私は気にしてないんだからさ、やめなよ。岳人も悪気があった訳じゃないんでしょ」

 

 小鳥遊の指が離れる。背中はまだヒリヒリしていた。

 

「いや、俺が無神経だった」

 

 改めて、時巡のことを何も知らないなと痛感した。

 俺が知っていたのは10年前の調査記録だ。

 

 10年。それだけあれば、人は変わるというのに、全く失念していた。

 

「聞かないの?」

 

 時巡はいじわる気に笑った。

 

「聞けるわけないだろう」

 

 彼女は俺の苦々しい顔が面白かったらしく、けたけたと笑い、軽い調子で言った。

 

「私は()()()()()()()()()、お父さんは年頃の娘にどう接して良いか分からないらしくてね、顔を合わせようとしないんだ」

 

 俺の観察眼では、彼女が嘘を付いているとも、強がっているようにも見えなかった。ただ、そこには軽蔑のような、暗い感情が込められている。だが表面上は、ただただ面白い事実を共有しているような素振りを示していた。

 

「もう! 笑い事じゃないでしょ優子! ちゃんと話し合えってずっと言ってるじゃん」

「えー、だって逃げるんだもん。情けなくって情けなくって、追うのも忘れて笑っちゃうよー」

 

 軽快に、笑い事のように彼女は言った。

 小鳥遊の言葉から察するに、昨日今日の問題ではない。もっと、もっと根深い何かが埋まっているのだと感じた。

 

(俺に、彼女の家庭に踏み込む資格はあるだろうか)

 

 無論、ない。

 

 だから、この話は、もう俺には関係のないことだ。

 

 今は、時巡が無事で良かった。それだけで、良い筈だ。

 

 

 

 *

 

 

 

 十字岳人は、かつて友情が邪魔になると理解し、捨てる覚悟を決めた。

 

 だが彼は気がつかない。それが再び彼の懐に転がり込んでいる事実に。

 

 そして――

 

 かつて捨てた覚悟が牙をむくことに。

 

 十字岳人は、気がつかない。

 

 時巡優子は、知る由もない。

 

 

 

『真世界』工場の襲撃日へと、時は進む。

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