ヒロイン兼黒幕少女の暗躍   作:PSコン

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第13話「闘技大会決勝戦」

 決勝戦は流石に観客も多く、私たちは恥を忍んで選手出入り口席から観戦することにした。

 

「岳人!」

 

 竜輝が大声で岳人の名を呼び、こちらに走り寄ってきた。

 

「心配してたんだよ。あの後どれだけ連絡しても出てくれないから」

「ああ、悪かったな。竜輝」

 

 岳人が素直に返事をしたのがよほど意外だったのか、竜輝は目を丸くして言葉を失っていた。

 だが再起動すると、こちらも釣られて笑いそうな笑顔で言った。

 

「良かった。元気になったみたいだね」

「ああ、ところで、こんなところで油売ってて良いのか?」

 

 何を隠そうこの竜輝こそ決勝戦出場者である。まさか勝ち進むとは私も思わなかった。賭け試合に熱中してた奴らにとっては発狂ものだろう。

 

「それが、解説の人がまだ会場に来ていないらしくてね。待機中だよ」

「解説? 誰だ」

「岳人知らないの? 今日の解説は最明(さいみょう)蓮華(れんげ)だよ」

「ああ、世界最強の」

 

 世界最強の能力者、最明蓮華。

 今日の客入りが良いのは、彼女の影響もゼロではあるまい。

 

 最明蓮華が時間にルーズだとは聞いたことがないが、まあ、そういう事もあるだろう。

 

 談笑していた私たちに、何の前触れもなく、爆炎が襲い掛かる。

 

「時……!」

「え」

 

 岳人が私を押し倒し、盾になる。

 

「く!!!」

 

 竜輝がすかさず電撃を放ち、その爆炎を齎した能力者を打ち倒す。

 

「岳人!」

 

 直撃を喰らった岳人の背中は酷い火傷だ。今すぐ治療しなくては。

 

 だが、そうも言っていられない状況のようだ。ドームから悲鳴が響き渡る。

 何があった。混乱する私と対照的に、竜輝が酷く冷静に言った。

 

「時巡さん。岳人を連れて早く逃げるんだ」

 

 そのお陰か、私も少し冷静になった。そして漸くその下手人を視界に入れる。

 

 その男は、巨大な酸素ボンベのような、銀の円柱を背負っていた。

 

(超能力発生装置……!)

 

 あれを現在実用化しているのは『真世界』だけだ。工場の襲撃でいくらかは裏に流れたかもしれないが、ドーム内の混乱を考えれば組織的な襲撃であることは間違いない。

 

(最明蓮華がいないのも、『真世界』の仕業か。そこまでのリスクを犯したのは……)

(……分からない。でもここをピンポイントで先行して攻撃したということは、この場に本来居るはずだった竜輝を狙ってのことだ。とうとう後が無くなって、報復だけでもしようという事かな)

 

 それが分かったところで、私の行動が変わることはないのだけど。

 

「気を付けてね」

「勿論。俺は強いんだ」

 

 竜輝も自分が狙われていることは分かっているだろう。それでも彼はこちらを元気づけるように言った。

 私は気絶した岳人を背負い、会場を後にしようとする。

 

 だが当然、敵は1人ではないのだ。私はすぐに接敵した。

 

 敵は2人。こちらに気付いたが、反応が鈍い。私が触れる方が速い。

 

 だが2人は、こちらが触る前に突如として倒れ伏した。床がひび割れる程の勢いで倒れた彼らは、明らかに気を失っている。

 重力操作による攻撃。岳人が目を覚ましたのだ。

 

「岳人、大丈夫?」

「……ああ、大丈夫だ。降ろしてくれ」

 

 私は少し迷ったが、彼の言う通りにした。

 

「岳人、分かってると思うけど、戦える体じゃないよ」

「……かもな」

 

 彼は言葉では肯定したが、逃げるつもりなどないらしい。

 

「……じゃあな。逃げ切れよ」

 

 私は、岳人を止めなかった。

 

 色々理由はある。

 

 残るのは危険だから。『コレクター』として状況を把握し、動きたいから。そして――

 

『それでも俺は、正しい道を模索し続ける』

 

 彼の決意を聞いた。

 

 今この瞬間こそが間違いなく『真世界』との決着の時となる。その大事な瞬間から、どんな理由であれ逃げてしまえば、彼の決意は露と消えてしまうと理解してしまったからだ。

 

 私は彼の背中から目を逸らし、会場を後にする。

 私も、私自身が決めた道を歩み続けなければならないからだ。

 

(と、カッコつけたは良いものの)

 

 会場の方はまだ混乱しているが、既に職員用の通路は制圧済みのようだ。嫌に静かで、何時接敵するか分かったものじゃない。

 

(分身を先行させる、のはリスクが高すぎるか)

 

 最も不味いのは、焦って私の分身能力が露呈することだ。

 今の私は変装していない。もし分身が見つかってしまえば、例え見失わせたとしても、あらぬ疑惑を寄せられるかもしれない。

 

 乱雑に置かれたダンボールの裏に隠れる。

 

 見通しの良い通路に、銀の筒を1つ背負った男がいた。

 

(悲鳴は許さない。能力による瞬殺がベスト)

 

 まず靴を脱ぎ、なるべく足音が出ないよう工夫する。

 

 そして男が背を向けた瞬間、慎重に、しかし速攻で駆け寄る。

 

 男は背を向けたまま、顔だけをこちらに向ける。

 

 その顔は、醜い笑顔で歪んでいて。次の瞬間、私の視界は炎で埋まった。

 

「あ」

 

(発火能力。この火力は耐えられないな。ていうか私に気づいてたな。感知系の能力か。そっか、装置があれば、2つ能力使えるもんね)

 

 炎の勢いは強く、通路を埋め尽くしてるわけで、横に避けることも、速度から後ろに逃げるのも駄目そうだった。

 

(まじか。こんなとこで死ぬの、私)

 

 心は意外にも平穏に、死を受け入れていた。

 

 炎が迫る。死が訪れる。

 

 

 

 その時。

 カチリと、私の中の何かが切り替わった。

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 私は即座に分身を作成。場所は炎の向こう側、敵の前だ。

 

 そして意識を俯瞰させる。

 

 私は本体ではなくなり、分身を本体へ変更する。

 

 分身は燃え尽き、私は敵をその手に掛ける。

 

(……今まで、どうやっても進展はなかったのに、どうして突然)

 

 分身能力のステージ2。それは分身を本体へ、本体を分身へ変える能力。

 それが死を目前にして、発現したのだろうか?

 

(まあ、便利だから良いか)

 

 とりあえず私は、本部の分身を本体へ変更する。

 同時に本部の分身が持っていた記憶が流れ込んだ。

 

(そういえば、本体が本部に来るのは初めてだな)

 

 ここってこんな匂いなんだ、と。そんなどうでも良いことを考えつつ、私はドーム内部の情報を部下に伝えることにした。

 

 

 

  *

 

 

 

 会場は酷い有様だった。

 観客席の一部は燃え、凍り、倒壊し、血塗られていた。

 

 死体の中には、観客の他に例の機械を背負っている人間も大勢いた。

 だが、既に生きている人間はいない。会場の中心、コロッセウムを除いて。

 

 戦っていたのは竜輝と、6本の円柱を背負った壮年の男だ。

 

 戦況は竜輝が押されていた。既に左手をやられているのか、動きがぎこちない。

 

 龍を象った氷の塊が竜輝を襲う。

 それを俺は、能力を以て地に伏れさせる。

 

「岳人!?」

「要らない心配はするなよ。敵の事を教えろ」

 

 竜輝はやや躊躇していたようだが、すぐに俺の意を汲んで答えた。

 

「金縛り、衝撃波、氷の操作精製、後は筋力も増強されているかも」

「不明な能力は最大4つか」

 

 筋力の増強が能力で、男自身が無能力者なら残り2つだが。

 

「相談は終えたか?」

 

 男は厳かとも言える調子で言った。

 

「随分な余裕だな」

「無論だ」

 

 男は変らぬ調子で答えた。

 

「世界は変わったのだ。能力者は使い捨ての道具に堕ちた。道具を恐れるは矮小である」

 

 男は指差し、爪の先に氷が凝縮する。

 

「真世界の幕開けを、身を以て知るが良い」

 

 弾丸が射出される。回避――

 

(体が動かない。金縛りか)

 

 だが問題はない。重力場を作成し、弾丸を無力化する。

 

「重力操作、良い能力だ。部下に使わせてやろう」

 

「だが」男は続けて言った。

 

「雷は間に合っている」

「くっ!」

 

 側面から回り込んでいた竜輝を衝撃波で吹き飛ばし、更に回り込んで、背後から襲った雷撃を氷の壁で防ぐ。

 

(背面から防いだ!? 視線は完全にこちらに向けていた。感知系の能力か)

 

 以前戦った工場長は4つの能力だが、全てが単純な能力だった。

 だがこの男はバリエーションを揃えている。感知系も備えていると考えて間違いないだろう。

 ただ1人にこれだけ希少度の高い能力を集めるとは、よほど『真世界』が信頼する――

 

(まさか)

 

 疑念がよぎる。口にしないわけにはいかなかった。

 

「お前が、『真世界』の頭領か」

 

 男は答えた。

 

「それがどうした」

 

 さも当然のように出された答えに、俺の心は不思議と凪いでいた。

 思い出すのは、昨日、時巡に解された俺の願い。

 

(ああ、そうだな。復讐はする。だが、それは俺の全てじゃない)

 

 俺はヒーローであるために、憎悪に支配され、暴力を振るう訳にはいかない。

 だから、俺は当然のようにこう返した。

 

「なら御用改めってやつだ。諸々の罪、きっちり償ってもらうぞ」

 

 男は、ここに来て初めて表情を崩した。思い通りの返事が来なかったことに、不快感を露わにするような。

 

「私の真世界に、(わたし)を裁く法などない」

 

 地面を這うように氷が伸びる。これならたしかに俺の能力では止められない。

 

 だが逆にこれは好機だ。

 俺の能力を、攻撃に使えるのだから。

 

「お前の世界なんぞ」

 

 敵の遥か上空へと飛んだ、竜輝を加速させる。

 

「来るわけないだろう!」

「来るわけがない!」

 

 稲妻を纏った強烈な蹴りが、分厚い氷のドームを粉砕する。衝撃波と氷では、今の竜輝を止めるには不十分だ。

 

 まさに雷が落ちたような衝撃音が響く。

 石畳は崩壊し、土煙となって着弾点を覆う。

 

 金縛りは、未だ解けていない。氷の侵攻が再開する。

 

「グ、オオオ!!!」

 

 金縛りを強引に振りほどき、氷から逃れる。全身の疲労が酷い。この方法での脱出は、出来てあと2回か3回だろう。

 

 土煙から飛び出してきた竜輝を受け止める。

 

「グッ!」

 

 凄まじい勢いだ。

 膂力の強化とは言っていたが、これほどの物だったのか。

 

「岳人、済まない。多分、あれが6つ目の能力だ。見誤った」

 

 土煙が晴れる。

 竜輝の言葉の意味は、すぐに分かった。

 

「変身能力!」

 

 数ある能力の中でも、最も戦闘に適した能力群だとされる能力。

 

 考慮してしかるべきだった。しかし、無意識に候補から外していた。本来の能力者ならば、戦いが始まればすぐに変身するからだ。

 

 多数の能力を持つが故に取れる戦略。それに俺達はまんまと嵌っていた。

 

「褒めてやろう」

 

 男、いや、今となっては狼男と呼ぶべきか。

 変身能力の中でも最も有名で、幾つかの物語にも現れる、戦闘能力が確約された異形。その姿へと変えた狼男が鋭い牙を剥き出し、大きく裂けた口を開いた。

 

「使う予定のなかった能力を使わせたことを」

 

 そして狼男は忌々しく言った。

 

「何せ私の美意識に反するのでな」

 

 変身能力者の決まり文句であろうか。聞き覚えのあるフレーズは、しかし殺意が乗せられると途端に身が震えるようになる。

 

「褒美だ。死ぬがよい」

 

 殺意の言葉に相応しい獰猛さで、狼男が迫る。

 

「竜輝!」

「分かってる!」

 

 俺は最も効果的であろう、座標指定の重力操作を行う。同時に竜輝が電撃を地面に這わせる。

 

 だが。

 

「何だと!?」

 

 敵は多少勢いを落としつつも、駆け続ける。

 

(コンクリートさえ自重で陥没する重力場だぞ!?)

 

 増強能力と変身の組み合わせ。圧倒的な暴力は、俺の予想を遥かに超えていた。

 

(まずい。打撃を喰らえば、タダでは済まないぞ)

 

 間もなく敵は重力圏を抜ける。

 

()()()使()()()() だが、どうやって躱す?)

 

 決断を下す前に、竜輝が前に出た。

 

「岳人! クッションよろしく!」

 

 竜輝が前に出て、右腕を盾にしようとする。その全身からは雷が漏れ出ていた。

 

(電撃により筋肉を収縮させているのか? だが、その程度では)

 

 しかし今更何を言っても遅い。

 狼男は雷に構うことなく、強烈な爪を突き出した。

 

(チッ!)

 

 俺は内心で舌打ちをして、せめてとばかりに能力を発動する。

 

 俺達は吹き飛ばされ、壁に激突する。

 

 意識は、何とか失わずに済んだ。視界が明滅するが、些細な問題だろう。

 

「岳人……」

 

 竜輝は驚きを露わにするように呟いた。

 竜輝も辛うじて死を免れた。だが右手は見るも無残な有様で、左手は俺が来た時から使えず、蹴りを放った右足も骨が突き出ていた。

 

 だが、竜輝の戦意は衰えていない。

 

「もし君が俺の想像通りなら、作戦があるんだけど」

「何だ」

 

 敵は電撃が堪えたのか、数瞬の間はありそうだ。作戦を聞く時間なら取れそうだった。

 

「あいつは、能力者じゃない。問題は、あのでっかいカプセルだと思うんだ」

 

「だから」と竜輝は言った。

 

「あの機械。君なら外せるんじゃないか?」

 

 水無月竜輝。勘のいい男だ。

 ()()()()()()()()()()()()

 

「ああ。だが、少なくともあいつに触る必要がある。もうひと働きできるか?」

「きついね。でも、やらない訳にもいかないよね」

 

 正直、俺も背骨が折れていないのが奇跡みたいな状況だ。でも竜輝が言うように、やらない訳にもいかない。

 

「小賢しい! だが、これで終わりだ!」

 

 敵が瞬く間に接近する。

 先ほどの焼き直しのように、俺は重力場を生成する。

 

 だが同じ結果には決してならない。

 竜輝は右手が使えないし、背中は壁だ。()()()()()()()、逃げることもできない。

 

 同じように右手が突き出される。まともに喰らえば、竜輝共々貫通する。先の攻撃もそうだが、本来なら絶対に吹き飛ばされたりしないのだ。

 

 必殺の一撃である。だが、それが予測できていたなら、対処も可能だ。

 

 同じ攻撃だという確証はなかった。だからこれはただの賭けで、だが俺達は勝利した。

 

 竜輝の圧縮された雷撃と、俺達の渾身の回避行動が実り、爪は空振る。伸びた腕を俺はすかさず掴んだ。能力を発動する。

 

 ボルトの軋む音。それは一瞬で破断音に変わり、敵の能力の源が遥か遠方に吹き飛ばされた。

 

「……は?」

 

 狼男は、ただの人間へと戻る。状況を把握出来ていない男に重力を浴びせる。

 

「な、なんだ、今のは?」

 

 男はまだ俺の能力を把握出来ていないようだった。

 答えてやる義理はないが、教えてやる。

 

「ステージ2。俺の能力は、引力と斥力を操る」

 

 時巡のお陰で開けた俺の新たな能力。斥力を操ることにより、本来なら貫く筈だった爪から逃れ、体に頑丈に取り付けられていた装置を吹き飛ばした。

 

「能力は再定義され、その姿を変える。無能力者には、難しい話だったか?」

 

 敵は黙り込んだ。顔が伏せられているので、その表情は伺い知れない。

 だが、これで俺達の『真世界』との戦いは――

 

「岳人!」

 

 竜輝が俺と共に倒れ込む、次の瞬間、俺達のいた場所に何者かが着地する。

 

「導師様。ここは撤退を」

 

 新手、しかも今奴は何と言った。

 

「逃がすか……!」

 

 声を振り絞るが、体がついていかない。とうに限界など越えていたのだ。

 

 新手の男は俺に一瞥すらせず、導師と呼ばれた男を抱える。

 導師と目が合った。

 

「覚えていろ、この恨み、必ず……!」

 

 そう言い残し、導師と新手の男は去った。

 

「……望むところだ」

 

 俺は、消えていく背中を睨み続けた。

 

 

 

  *

 

 

 

 湿気が籠り、刺激臭が鼻をつく。

 下水道とは、おおよそ人が居るべき環境ではないが故、逃走経路に最適だった。

 

「おのれ、おのれ、おのれ」

 

 言葉が止まらない。能力者風情に、後れを取ったという事実が口を止めさせない。

 

「十字岳人、水無月竜輝……!」

 

 あの2人には、工場を襲撃され、そして今、このような場所を移動させられる羽目になった。許せない、絶対に許さない。

 

「殺す、殺す、殺す」

 

 呪詛が止まらない。恨みは幾ら吐き出そうと、心の内から湧いて出る。

 

「砕いてやる、刻んでやる、磨り潰し「それは無理だね」

 

 呪詛の言葉が、この場ではありえない筈の、女の言葉によって遮られる。

 

 部下は足を止めていた。それは当然、目の前に邪魔者がいたからだ。

 

 その女は、その血のように紅い瞳以外は、取り立てて特徴のない女だった。だが、記憶の片隅には、その女の名前があった。

 

「……時巡優子。貴様、何者だ」

 

 大会に参加していた、十字岳人と水無月竜輝の仲間。

 この場所に居るはずなどない人間。疑問は至極あっさりと答えられた。

 

「その名前は、この場合では相応しくないね。私は一応、君のライバルだったつもりだよ。『真世界』の導師様」

「まさか」

 

 この、まだ20にも満たない女が。

 

「『コレクター』、貴様が!」

「正解。初めまして、お互い苦労させられたね」

 

 その言葉に、冷静でいることは不可能だった。

 

「苦労、だと!? 貴様、貴様のせいで! そうだ、十字岳人も水無月竜輝もどうでも良い! 貴様さえいなければ!!!」

 

 そう、敵はこいつだ。こいつさえ消せば、全てが上手くいく。

 

「殺せ、いますぐこいつを殺せぇ!!!」

「仰せのままに、導師様」

 

 部下は俺の前に繰り出し、静かに構える。

 この男は俺の側近。その実力は、最明蓮華にすら見劣りしない!

 

「見誤ったな、『コレクター』。護衛もつけずに現れるとは」

「まさか、君の実力はよぉく知ってるよ。その上で、私はここにいる」

 

 部下はその能力を発動しようとし、突如膝をつく。

 

「ば、馬鹿な……」

 

 呆然と、部下が倒れゆくのを眺める。

『コレクター』がいた。部下の目前、背後、そして、元の場所にも。

 

「ど、どういう……」

 

 2人目の『コレクター』が、笑いをこらえて言った。

 

「良い顔だ。私はね」

 

 そう言って、『コレクター』は俺の額に触れる。最早抵抗する気力も失せていた。

 

「君が欲してやまなかった超能力を、2つ持って産まれたのさ」

 

 自らが、老い衰えていくのが分かる。

『コレクター』が続ける。

 

「さようなら。超能力発生装置は、私が上手く使うから、安心していいよ」

 

 最早怨恨は心になく、あるのは後悔だけだった。

 こんな奴がいると知っていれば、あのような装置など作らなかったのに。

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