ヒロイン兼黒幕少女の暗躍   作:PSコン

21 / 27
第21話「私と彼の逃避行」

「時巡さんの能力が『コレクター』と類似した能力だと思われているのは、岳人も知ってるね?」

 

 竜輝は言った。

『コレクター』の能力は老化を加速させる能力だとされている。彼が台頭し始めた時期に、誇示されるように使われたからだ。

 時巡の能力でもそれが可能であることは大会で分かっており、過去の警察の調査では、老化に関する能力は時巡だけだとされていた。同時に彼女には確かなアリバイがあることも。

 

「時巡さんは俺たちよりも遥かに早く、ステージ2に覚醒したのではないか、とされている」

 

 ステージ2への覚醒は、より発展した能力を齎すとされる。

 

「成長のステージ2。それは自分のクローンを産み出すことが可能なんじゃないかとね」

 

 ……確かに、それならば一応の説明はつくかもしれない。しかし

 

「あり得ない。10年前だぞ。そんなに早くから覚醒している筈がない」

 

 本来、ステージ2は達人が晩年に発現するとされる能力の極地だ。俺たちの年齢で覚醒していることすら、奇跡に近いのである。

 

「その通り、俺たちの年でも本来あり得ない」

 

 竜輝がそう前置きして続けた。

 

「俺たちには分かり辛いけど、例の大会は、大人たちが想定した以上にハイレベルなものだったらしい」

「環境なのか、遺伝的な蓄積なのか、理由は分からないけど。少なくとも既存の常識はもう通用しないと考えられないかな?」

 

 だから。

 

「時巡が10年前にステージ2に覚醒していることも、考慮すべきだと?」

「そう。だけど俺も、それを理由に時巡さんが『コレクター』だと決めつけるのはおかしいと思う」

 

 それに、と竜輝は続けた。

 

「今の榎木さんは、多分本部の人も、ちょっと冷静じゃなさそうだ。今は逃げた方が良い」

「……分かった。ありがとう」

 

 礼を言い、電話を切る。

 しかし誰を頼るべきか。

 

 信頼できて、かつアウトロー気味な人物となると。

 

「……ユリさんかあ」

 

 

 

  *

 

 

 

 何か知らないところで面白いことになってるな。

 というのが私の正直な、そう正直な感想だった。

 

『レジスタンス』が私に感づいたのは、甚だ不愉快で最悪だけど、予想の範囲内ではある。要は確かな証拠がなければ良いのだ。人々には納得できる理由が必要で、奴らにはそれが薄い。

 

 ただ想定外だったのは、様子見かっ飛ばして私を拘束しようと考えていることだろうか。しかしそれは私に不利を齎さない。

 

 私は『コレクター』でなくとも、『ミュージアム』の一員なのだ。『コレクター』が守る理由には十分だ。

 そして私は分身能力により『コレクター』として問題なく活動でき、追う『レジスタンス』を背後から強襲できる。

 ちょうどアリスを追う『真世界』を潰した時のようにだ。

 

「でも何で北海道?」

 

 事情を(ある程度伏せられていたが)説明し終えた岳人に聞いた。

 

「ユリさんに頼ろうかと……嫌だったか?」

 

 しまった。顔に出ていたか。

 

「あの人苦手」

「気持ちは分かる。でも我慢してくれ」

 

『レジスタンス』がどう出てくるか分からないため、飛行機は使わず車で行くらしい(逃避行とか超楽しそうと思っているのは秘密だ)。

 

「レジ……組織とやらは公的機関じゃないんでしょう? なら検閲とかもなさそうね」

「そうだな。だからこそ出方が分からないのもある」

 

 しかし逃避行も『レジスタンス』の本部が見つかるまでか。見つけ次第粉砕してしまうし。

 

(……岳人との関係も、これが最後か)

 

 流石に事が済めば、私が『コレクター』と関係があることは隠し通せないだろう。だから私たちの関係も、これが最後だ。

 

「時巡、不安なのは分かるが」

 

 当然私の真意など知らない岳人は見当違いなことを言う。

 

「俺は何があっても時巡を守る。だから安心してくれ」

 

 岳人の言葉に、私は「ありがとう」とだけ返した。

 

 

 

  *

 

 

 

「……判断の早い男だ」

 

 十字岳人と時巡優子が共に逃げたという報せを聞いて、榎木文太は逆に感心してしまった。

 

 こちらの行動は迅速だったはずだ。彼にも混乱があったはず。にも関わらず超えてきたのは賞賛に値する。それが敵対行動でなければ完璧だった。

 

「いやあ、連絡が来たタイミングが絶妙だったな榎木さん。間が悪いってのはこういうことを言うんだな」

「言っている場合か成田。俺たちが責任取るんだぞ」

 

 成田は能天気に笑っているが、本部の人間が何を言ってくるか。

 

 電話が鳴った。

 恐る恐る受話器を手に取る。

 

「……はい」

「やあやあ。事情は丸っと把握しているから言い訳も弁明も必要ないですよ」

 

 その声には、聞き覚えがあった。

 

「みんなご存じ最明蓮華が解決するから、座して待っていてくださいな」

 

 世界最強。この世の正義の切り札が、遂に動くと宣言した。

 

 

 

  *

 

 

 

 さてさて、本体がお楽しみ中の頃、新本部の私の方は大変な状況だったのは想像に難くないと思う。

 

「――以前の騒動により発生した離反者の排除は完了しました。こちらがリストになります」

「後で見る。もう下がっていいよ佐藤君。小野川『レジスタンス』は?」

「時巡優子を追跡中ですが、未だ足取りをつかめていないようです」

「そんな事はどうでもいい。本拠地は?」

「……もう暫しの時間を頂きたく」

 

 前回の事故は大方片付いたか?

 リストの人物を精査するのは時間が掛かる。こっそり分身に確認させるべきか。

 

(いや、しばらくは事態は停滞する筈。なら大丈夫か)

 

 電話が鳴った。

 机の上を確認するが、私のではなさそうだ。小野川に視線を向ける。

 

「出ていいよ」

「は、ありがとうございます」

 

 彼が電話している間にリストに目を通す。

 

(うげ、亜門もだったか。手土産にNo.5の首持ってかれなかったのは幸いだな)

 

 奴は『警備員』として登用したが、今度からはもっと信用を大事にすべきかもしれない。

 

(でも雑魚を登用してもな……)

「『コレクター』、『レジスタンス』についてですが……」

 

 小野川の声は、隠しきれないほど震えていた。

 

「時巡優子を捕捉したようです」

「速いね。まあ、このまま新年を迎えても困るけどさ」

「ええ、まあ、そうですね」

 

 ……ん?

 

「……」

「……」

「…………それで?」

「その、追手がですね」

 

 小野川は意を決したように言った。

 

「最明蓮華、のようでして」

「…………ん?」

 

 最明蓮華。世界最強の?

 

(飛ばしすぎだろ……様子見とかなさらないんです?)

 

 いや計画全部吹き飛んだんだけど。どうしてくれんだおい。

 

「し、しかしですね。同時にアジトのおおよその位置も把握しました!」

「先言え馬鹿! 場所は!?」

 

 それが分かれば何とかなる!

 

「そ、それが奥多摩の山中のいずれかで、正確な場所までは……!」

「必要ない!」

 

 こんな時のため、『ミュージアム』は何時でも動かせるようにしてあるのだ。

 館長へ電話を掛ける。

 

「No.2、No.3を奥多摩へ! 計画通りだ!」

 

 元より奴らの本分は広域殲滅。小細工など不要。全てを滅ぼしてしまえば良い。

 

「No.5を小野川に渡せ。予定にない貸出? 黙れ殺すぞ!」

 

 電話を切り言った。

 

「小野川聞いてたな! 何としてでも最明蓮華を足止めしろ!」

「しょ、承知しました『コレクター』!」

 

 これからは時間の勝負だ。

 

「遊んだ分、きっちり働けよ、本体!」

 

 

 

  *

 

 

 

(いやそんな事言われても)

 

 分身の無茶ぶりに私は内心で愚痴った。

 

 横目で岳人を盗み見る。

 長時間の運転で疲れているようだった。

 

 次いでバックミラーを確認する。

 以前から追跡には気を付けていたが、私は気づかなかった。

 

(まずは追跡者の炙り出しから、だね)

「岳人、運転変わるよ」

「え、ありがたいが、運転でき――ちょっ、今すぐか!?」

 

 岳人と強引に席を代わり、アクセルを思いっきり踏み抜いた。

 

「時巡!? 時巡!?」

「大丈夫大丈夫。私に任せなさい」

 

 舗装された道路を抜け、あぜ道へ突っ込む。

 後続の車が一台。同じく加速してあぜ道を進んだ。

 

「……追手か!?」

「Yesだよ! カーチェイスの時間だ!」

「テンション上がってるだろ!」

 

 畑を超え林に突っ込み時には庭を素通りし、カーチェイスは続いた。

 

「撒いたんじゃないか!?」

「ん、そだ……おお?」

 

 急に車が動かなく、というか浮いてる?

 

「おいたはそこまでにしましょう」

 

 空中から、その女は降り立った。

 オーロラのように移り変わる、極彩色の眼光と足元まで伸びる髪。()()()()()()()()()

 

「……最明蓮華。お早い到着で」

「……本物、だよなあ」

 

 相手の力量など、見ただけで判る筈がない。

 その筈なのに、最明蓮華の圧倒的な存在感が、これが世界の頂だと、確かに信じさせた。

 

 急激な浮遊感と共に、車が落下した。

 車から降り、何とかならないものかと思案する。

 

(……戦ってみるか)

「やるのか?」

「やるでしょ」

 

 案外大したことないかもしれないし。

 

 サイドミラーをへし折り、全力で投擲する。それに岳人が能力を加え、さらに加速させる。

 

「斥力操作でしたっけ? その程度なら私にもできますが」

 

 サイドミラーは静止することなく、投げた勢いのまま返ってくる。それを弾き飛ばしながら走り出す。

 

 体に異様な負荷がかかった。まるで全身に重りでも着けているようだ。

 

「動けるのですね。私を上回る、素晴らしいエネルギー量です。ですが」

「あ……」

 

 意識が薄くなる。これは……

 

「時巡!」

 

 岳人の声が、どうしようもなく遠のく。

 

「貴方の周囲から酸素を取り除きました。まだ聞こえていると、二度説明せずに済むのですが」

 

 私と貴方の実力差を。薄れゆく意識の中、彼女はそう言っているように聞こえた。

 

 

 

  *

 

 

 

 遠くの空には灰色のスモッグが轟いていた。

 

 あれはNo.5の能力だろう。足止めの務めを珍しく、真面目に果たそうとしているのだ。

 

(あと5kmぐらい? この調子だと1分で着くな)

 

 そして私たちは今、最明蓮華の能力により超高速で飛行していた。

 

「最明さん、最明さん。このままだと私たちあれにぶつかります。明らか怪しいので迂回しましょう」

「いいえ突っ切ります。貴方たちなら大丈夫ですよ」

「無茶苦茶だ……!」

「誰かー! 助けてー! 最明蓮華に殺されるー!!!」

「……ッ!!!」

 

 No.5の能力は広範囲に煙を放出する能力だ。粒子の一粒まで彼女の意思が行き届いており、妨害から探知までなんでもござれだ。

 非常に目立つことと、本人のサボり癖が欠点ではあるが、並の能力者では束になっても敵わない。

 問題は最明蓮華が並とはほど遠く、そしてあの煙は、鉄以上の硬度にできるということである。

 

 目前に迫った煙の壁に、思わず目をつむった。

 

 衝突はあまりにも静かだった。目前で停止したのではないかと思われる程に。恐る恐る目を開けると、先ほどと変わらず灰色の壁。否、四方全てが煙となっていた。周囲の空気ごと、煙中に潜り込んだのだ。

 

(最明蓮華の念動力で煙を押しのけている?)

 

 いくらエネルギー量が多くとも、操作精度は特化型が上回る筈だ。それにNo.5は私が選りすぐった能力者だぞ。

 

(……手を抜いてるわけじゃないだろうな)

 

 そう思わずに、いいや、思いたくなってしまう。これに喧嘩を売ったなど、考えるだけで震えてくる。

 

「面倒ですね」

 

 しかし、現状の評価すら――

 

 煙が晴れる。

 太陽が一瞬顔を見せた。しかし地上にはすぐに大きな影が被さってしまっていた。

 

 一塊になった煙の塊が、巨大な天蓋となって空に浮かんでいるからだ。

 

「これは……」

「……悪夢だな」

 

 味方であるはずの岳人にすら、信じがたい能力者。

 

 これを倒すには。

 

(能力そのものを無効化するか、世界を破壊する力をぶつけるより、他にない……)

 

 ならば予定通りだ。何の問題もない。

 今、最明蓮華は足を止めているのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。