ヒロイン兼黒幕少女の暗躍   作:PSコン

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第7話「『真世界』に迫る」

 私だけしか知らない情報網というのも重要だ。

 誰も知らない情報網を私が持っていると知らしめれば、裏切りも躊躇させられるだろう。

 

 そういった時はやはり分身能力が役に立つ。

 

 以前水無月家に青木心を送りこんだ『真世界』の男。

 そいつは家と会社を往復しているような男であり、家に仕掛けた盗聴器からは収穫0。つまりその会社に『真世界』に関する情報がある可能性が高かった。

 

 部下が潜入に難航しているのは報告に聞いている。

 なので、サクッと私1人で情報を入手し、私への畏怖の感情を高めてやろうということだ。

 

『真世界』の男の名は倉間洋一。

 ビル一棟をまるまる本社に所有する大手通信会社、その総務部に務めている。

 

 時刻は23時。

 チラホラと明かりがついていたが、これ以上は待てないだろう。

 

 私の現在の恰好は、28歳程度まで成長し、スーツに身を包み大きめのバッグを肩に掛けた状態だ。顔には伊達眼鏡と付け黒子。メイクも普段と変えている。

 私は路線用の地下連絡通路の壁にもたれかかって、周囲に人影がないことを確認する。

 

 ビルに潜入するには、当然厳重なセキュリティを潜り抜ける必要がある。

 だが、私は半径60m以内ならどこにでも分身を作成できる。コンクリート越しだろうと問答無用でだ。ここからならば、ギリギリビルに届く。

 

(瞬間移動と同じように扱える。同様の対策が取られかねないけど)

 

 能力者による侵入を感知するには、同じく能力者以外にない。そしてそれは感知系の能力者でなければならない。侵入側としては、感知の種類によって対策の対策も異なる。

 

(このビルの警備は熱源探知。3階より上が射程内)

 

 勿論その能力者が探知範囲を変更していたり、警備員が変わっていればその限りではない。

 だからこそリスクを踏まえ、潜入に難航している訳だが、私ならば大丈夫。

 

(分身は消せば何の痕跡も残さない。駄目元ならノーリスクというわけだ)

 

 作成した分身は予定通り、バッグから合成樹脂のマスクを取り出し被り、断熱スーツへと着替えた。

 分身を計10人作成し、用意が出来たところで各々が相談し役割を決めだした。

 

 もう本体がやるべきことはない。

 家に戻り、体が戻り次第待機中の分身と入れ替わるだけだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 倉間洋一は職場のPCから『真世界』とやり取りを行っていたのだ。残念ながら、その会社自体は『真世界』と関わりが薄いようである。

 

 セキュリティが緩い時代故の行いだろう。

 私も悪用しているし、おかげで発見できたので感謝しかない。

 

 情報の精査は部下に丸投げしたが、彼らなら夏休みが終わる頃には整理できるだろう。

 

 そして現在8月30日になります。

 

「それで、何か分かった」

「ええ。『真世界』の奴ら、川崎に工場を持っているようです」

「へぇ! 良いね、襲撃しよう」

「お、お待ちください『コレクター』!」

 

 小野川が慌てて制止した。

 私は浮かせた腰を下ろし、彼の意見を聞く。

 

「現在『真世界』への監視が厳しいこともあり、工場は休止中です。正直旨味がありません」

「じゃあ放置するの? それは勿体なくないかい?」

「再開の予定はあるようですので、それを待ってから行うのがよろしいかと」

「工場が稼働中に襲うんだね。良いじゃないか」

 

 派手で楽しい祭りになりそうだと私は納得し、続けて言った。

 

「いつ襲撃するんだい?」

「10月の初旬。学生闘技大会の、開催中を予定しております」

「それは、うん。警備もそっちに集中するし、良い時期だね」

 

 どうせ分身が対応するので問題はないが、本体が気を取られたりしないだろうか。

 歯切れが悪かったのを気にしたのか、小野川がやや表情を硬くして言った。

 

「……気掛かりな点があれば、時期の変更を致しますが」

「いいや、変更は必要ないよ。闘技大会との、人員の配分を考えていただけさ」

 

 そう言うと、小野川は明らかにホッとしたようだった。

 

「ああ、確かに。我々にとっても重要なイベントでしたね。配慮が足りず申し訳ありません。計画自体は我がチームの人員のみで行う予定でしたので、『コレクター』の手を煩わせは致しません。お気になさらず、闘技大会にご集中ください」

 

 小野川が率いる『真世界』対策チームにも私が居るのは彼も知らない。

 だから見当違いではあるが、私は鷹揚に頷いた。

 

「それは頼もしいね。じゃあ、任せるよ」

「ええ、良い成果をお約束しましょう」

 

 

 

 *

 

 

 

 聞くところによると、岳人はより一層鍛錬に力を入れていたらしい。

 

 その一端であろうか。夏休み明け、登校していた岳人はハンドグリップを握っていた。

 その様子を見て小声で華が言った。

 

「……いや、やばくない? あれ何なの知ってる零次?」

「分からないな。夏休みはプール以降付き合い悪かったから。時巡は?」

「さあ、筋トレの秋とか?」

「秋というには早いかな……」

 

 しかし岳人の付き合いが悪くなったのは想定外だった。

 結局夏休みもプール以降は一緒に遊べてないし、これは何か対策を講じるべきか。

 

 私が悩んでいる間にも、話が進んでいたようだ。

 

「――やっぱり聞いても意味ないよね。尾行してみようか」

「良いじゃん、ちょっと楽しそうだし」

「え、尾けるの? 本気で?」

 

 本人に聞いても意味はないのはそうだろうけど、絶対まかれるだろう。

 

(なら良いか)

「そだね、双眼鏡は北村が持ち歩いてたから借りるとして、遠距離からの監視組と、予想ルートから先行しつつの近距離組にしよう」

「いいね、じゃあ私は久しぶりに飛ぼうかな」

「ああ、ドラゴンだし飛べるんだ。改めて凄いね。じゃあ俺は先行しておくよ」

 

 そして放課後。

 私は学校の屋上から双眼鏡を覗いていた。ターゲットは尾行には気付いていない模様。

 

「今のところは帰宅ルートか。職場には行かないのかな?」

 

 独り言。

 その筈であった言葉に返事が帰って来る。

 

「最近岳人は職場に来てないよ。というか来させないよ。自宅待機だからね」

「素直なんだね、じゃあ家で能力でも鍛えてるかな。重力操作のトレーニングって何だろう」

「お手玉が良いらしいよ。結構見てて面白いから、今度見せて貰いなよ」

「うーん。気になるけど、岳人は私の前でそういうのは見せないからなあ」

 

「ところで」と私は続けて振り返る。

 

 そこに居たのは度を越えて長い緑髪をポニーテールにした、伊達眼鏡の女学生。

 岳人の同僚であり、()()()()の能力者であるユリだ。

 

「初めまして、ユリさん。私には接触しないんじゃなかったかな」

「初めまして、優子ちゃん。破って良いルールと悪いルールがあるんだよ。先輩からのアドバイスね」

 

 どの時代から生きているのか、それすら記録にない女だが、倫理観のアップデートは済ませていないようだった。

 今接触してきたのは、遂にしびれを切らしたからか?

 

「それで、何か用事でも?」

「優子ちゃんの正体についてだね。何者?」

 

 ちゃん呼びが不快だけど、こいつは言っても辞めないだろうなと思う。

 

 それはそれとして、正体か。

 私は書類上では公安に所属していることになっているが、こいつはどこまで知っているだろうか。

 

(嘘も真実も教えてやる義理はないか)

「高校一年生で、学生闘技大会出場者だね」

「既知の情報ありがとう。これで私たちは友達だね」

「違うね、私はお前のこと嫌いだし」

「正直だね。私は優子ちゃんのこと好きだよ、優子ちゃん」

「……」

 

 こいつ、何が目的だ?

 私が取り付く島もないのは見せたが、だからって苛つかせても意味がないだろうに。

 

(そもそも接触禁止なのだから、情報を出す気がないことは事前に理解していた筈。……嫌がらせか? 流石にそれはないか)

 

 情報じゃない。排除はこの状況では難しい。

 

(……状況。まさか足止めか?)

 

 私は双眼鏡で改めて岳人を探す。

 案の定、既に彼の姿は見当たらなかった。

 

「……子供の遊びに対して随分な――」

 

 振り返った時にはもう奴はいなかった。

 

 私は唇を噛み、震える手で電話を掛ける。相手は華だ。

 

「……うん、見失った。華も? どの建物? ああ、あのビルね。……いや、もう良いでしょ、解散しよ。零次には私から電話しとく。……うん、じゃあまた明日。ばいばい」

 

 私は零次に電話を掛けたが、繋がった瞬間すぐに切られた。再度掛け直す。

 

「もしもし、こっちは見失ったけど、そっちは? やっぱり? うん、華もだよ。残念だけど、今日は解散ね。……また明日」

 

 零次も見失ったらしい。

 まあ、元から彼には期待していない。

 

「……」

 

 ユリが出張ってきたのだ。何か私の知らない密命を岳人は帯びており、そして零次もまた見失った。

 

(『コレクター』として、部下を動かす? いや、このタイミングでは私と『コレクター』の繋がりを示唆しているようなものか?)

 

 知らず知らず握っていた携帯に皹が入っているのに気がついた。

 多分、私は今冷静な判断が出来ていない。

 

(そもそもユリは本当に帰ったのか? 私が誰かと連絡して、その通話を傍受するつもりかも)

 

 疑えばキリがない。とはいえ、一度疑心暗鬼に取りつかれてしまえば、持ち直すには時間が必要だ。

 

 私は大人しく帰宅することにした。

 それで今日の出来事はお終いだ。

 

 

 

 *

 

 

 

「こっちも見失っちゃったよ、ごめん。小鳥遊も? ……分かった、それじゃあまた明日学校で」

 

 零次は電話を切りこちらを向いた。

 

「これで良かったのかよ岳人」

「ああ、問題ない」

 

 ビルに入った俺は、尾けてきていた零次に言った。

 時巡も本気で俺の後を追っていたわけではあるまい。今日のところはこれで良い。

 

「で、だ。友人としては、やっぱ気になるんだよね」

「……関係ないだろう、帰れ」

 

 目的地へと向かおうとする俺の肩を零次が掴んだ。

 

「……離せ」

「お前が話せよ、岳人」

 

 掴まれた肩に冷気が走る。

 これは意思表示だ。絶対に引く気はないのだと云う。

 

「……チ」

 

 舌打ちする。

 これが敵ならば楽に対処出来たものを。

 

 やはり人と関わるべきではなかったのだ。

 敵でも味方でもない。友人と名乗る者達は、俺にとって最も重篤な障害に成りうるのだとようやく理解した。

 

「……良いだろう、話してやるよ」

 

 ならば、俺は捨てる。

 最早この男などどうでも良い。そう自分に言い聞かせる。

 

「『真世界』と名乗るテロ組織について。そして奴らのアジトをな」

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