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眷族契約とステータス更新を無事に終え、今後のファミリアの方針が決まった俺・アリーゼ・アストレア様は冒険者ギルドに訪れた。
ざっくりと立てた、アストレアファミリアの方針は下記の3つである。
1つ目は、ギルドでの諸々の手続き
2つ目は、装備品の購入
3つ目は、ダンジョン探索
そして今回、俺らがギルドを訪れた目的は【ファミリア結成の申請】と【オラリオ全体の概要説明】だ。そのため、アリーゼの他に、女神アストレアも同伴しているというわけである。
「シンドバッド、アストレア様、ちょーと待っててね!ええーっと‥」
ギルドに入って早々に、アリーゼはあたりを見渡し、だれかを探し始める。
「あっ、居た!…ネーゼ!」
アリーゼがネーゼと呼ぶ先には、ギルドの制服に身を包んだ灰色髪の女獣人がいた。
「ん…どなたか呼ばれましたか?
…アリーゼですか!アストレア様を無事見つけることはできましたか?」
「うん!無事見つけて、眷族になることができたの!その節は大変お世話になりました。…本当にありがとう!」
「それは良かったです。それで、本日はどうされましたか?」
「今日は、新生アストレアファミリアの全員でファミリア申請とオラリオ全体の説明を聞きにきたの!」
「かしこまりました。そうしましたら、会議室にご案内致しますので、こちらにどうぞ」
アリーゼがネーゼと呼ぶ獣人族の受付嬢は、俺とアストレア様に目を向け会釈をした後、会議室の一室に案内してくれた。その後、会議室にてネーゼさんにファミリアの登録をしてもらい、オラリオ全体・冒険者システム等の説明を受けた。
◆◇◆◇◆
「――――――以上をもちまして、説明自体は終わりになります。オラリオには、冒険や食など素晴らしい文化もありますが、一方で闇派閥・闇市・奴隷売買等の黒い文化も根強く存在します。くれぐれも!これらの団体には気を付けて過ごして下さい。特にアリーゼさんは素直で正直者ですので細心の注意を払ってくださいね!」
「はい!私にまかせてください!もう私がいれば安心です!」
ネーゼさんは、最後に真剣な眼差しで俺たちに忠告をしてくれたが、アリーゼは聞いているのか、聞いていないのか、不安しかない返答をしていた。
(あ、アストレア様苦笑いしてる。それに、ネーゼさんも少し頭抱えてる。)
「……はぁ、私からは以上です。伝えたいことやお得な情報などは簡易的にはなりますが言い切りましたので、何も言うことはありません。アリーゼさんはともかく、アストレア様・シンドバッドさんは何かご質問等はありますか?」
ネーゼさんは、説明をしてくれた1時間で心労が溜まっているようにも見える。
「ネーゼさんの説明が完璧でしたから、私からは特にないわ。シンドバッドは何かあるかしら?」
「もちろんですとも。最初から聞きたいことがありました。……ネーゼさん、
今夜、ご夕食でもいかがですか?
もしよければ、朝までオラリオとネーゼさんについて語り明かしましょう。いっそのこと、アストレアファミリアに加入しませんか?俺、ネーゼさんと初めてお会いした時から、運命を感じていて「ふんっ!」」
運命の受付嬢ネーゼさんを口説いていたが、後ろからアリーゼの鉄拳が飛んできた。この女の前だと麗しき女性を口説くこともできない。ほら見ろ、ネーゼさんも驚いて苦笑いしてるぞ。
「シンドバッド…あんた、今夜の宿代すら無い無一文でしょ。どうやって“お食事”するのよ。言っとくけど、その“お食事“代は貸さないわよ。それにネーゼさんはギルドの人!まったく・・」
「もちろん、今から富と名声が集まる迷宮(ダンジョン)で稼ぐ!というか、そういう場所だろう!このオラリオは!」
「…シンドバッド、武器すら無い状態で何言ってんのよ。さっさと装備買いに行くわよ。日が暮れる前には、ダンジョンに潜って1・2階層で様子見したいんだから。
ああー!早くダンジョンに行ってみたい!すごくワクワクしてきちゃった!」
「ふふふっ。ようこそ、冒険者の道へ。このネーゼ、ギルドの一員として、アストレアファミリアと眷族様方の繫栄と栄光を切に願っております。」
「ネーゼさん、必ずやアストレアファミリアの名を、このシンドバッドの名を轟かせてみせましょう。その時は、是非お食事をともに」
「ふふっ、わかりました。その際は、ぜひお食事のお誘いお待ちしております。また、日々ここで、みなさまをお待ちしておりますので、元気なお顔を見せてください。…もちろん、アリーゼさまもアストレアさまもですよ!ふふふっ。」
「はい!ネーゼさん!この馬鹿シンドバッドも一緒にまた来ます。」
「ありがとう、かわいい受付嬢さん。この子達のことお願いね。それと、ダンジョンに入る前に装備を揃える予定なのだけれど、初心者用に丁度いい装備を売ってる場所知らないかしら?」
「そうですね‥ギルドの一受付嬢としては、初心者用の装備をギルド支給品としてお貸しする事を提案しますが、、、、私個人としては、バベルにて取引されているヘファイストス・ファミリアの新人作品を強くお勧めします。稀に掘り出し物もあると聞いております。」
「どうもありがとう、かわいい受付嬢さん。装備を使うのはこの子達だから、どちらを選ぶのかはこの子達に任せるわ」
「ネーゼ、貴重な情報ありがとう!自分の命を任せる装備だから、自分で選択して購入するわ!なので…さっそくバベルに向かいましょう2人とも!早く迷宮(ダンジョン)で冒険したい!」
アリーゼはダンジョンに早く潜って、モンスターと戦闘したいのだろう。ワクワクが止まらず、催促してくる。まあ、俺も自分のステイタスを確かめたいし、自分の力がどれくらいオラリオに通用するのかは気になる。‥‥それに説明を聞いているうちに、俺も冒険心がくすぐられ、高揚感が高まっている。
そんなこんなで、獣耳が可愛く綺麗な受付嬢ネーゼさんによる素晴らしい説明とギルド登録、装備の情報を手に入れた俺たちは、来訪対応専用のギルド会議室を出て、バベルに向かった。
◆◇◆◇◆
俺たちはネーゼさんに提案してもらったバベル三階にある【ヘファイストス・ファミリア】の売店に来ていた。
売店のショーケースには、一目で高価とわかる装備・業物が陳列されている。中には、直剣、曲剣、ショートナイフ、二槍、戦斧、全身鎧や片手盾等も数多く存在していた。これらの装備の全てに、主神ヘファイストスの名が刻まれている。これらは名を刻むに相応しい武器であった。全てが一千万ヴァリスを超えており、中には億に届きうる装備もある。新生ファミリアには手が出ない装備ばかりだ。
「ちょっとちょっと!たかすぎでしょ!」
「アリーゼ、そっちじゃない。さては、ネーゼさんの話聞いてなかったろ。俺らが見に来たのはこっち。」
武器の品質は最低限、一階層から五階層まで通用するが、六階層からは厳しくなっていく。すぐに折れてしまう物に命をかけたくはない。使い手の技量もあるけれど、しっかりとした装備は欲しい。
そう考えるとギルド支給の物はちょっと危ない。安価で手に入りやすいけれど、それだけだ。胸のプレートとナイフ、剣もある。オラリオ外での冒険ならまだしも、ダンジョンでの冒険に最低限の品質はちょっと怖いというのが本音だ。
「シンドバッド、予算は30000ヴァリスまで。それ以上は出さないわよ」
「えっ?アリーゼ、そんなに貸してくれるのか?‥ってきり、そこらへんの安物になるんだと…」
「ギルドで言ったでしょ。装備は自分の命を預けるものって‥‥それに安物を買って、すぐ壊れるぐらいなら良い装備、もしくは自分で納得する装備を決めたほうが良いでしょ。まあ、金欠だから予算制限はあるけどね」
「アリーゼ、本当にありがとう。本来であれば、主神である私が出資すべきなのでしょうけど…」
「アストレア様、大丈夫ですよ!常日頃、孤児院の子供達やスラムの少年少女の為に炊き出しをされているのは知っていますし、そういうところが大好きなんです!‥それに!すぐにでも私とシンドバッドがダンジョンで荒稼ぎしてきますので、どかーんと待っていて下さい!」
「ア、アリーゼ…」
「そうですよ。アストレア様はどかーんと待っていてください。すぐにでも、俺とアリーゼが一攫千金のお宝を見つけ出して、楽な暮らしをさせてみせますから。アリーゼも…すぐにこの借りとお金は返す。
そして、ついたみたいだぜ。愛しのネーゼ嬢、お勧めのヘファイストスファミリアの新人鍛冶師の売店に!」
ギルド内と移動するための昇降機が上がり、ガシャンと開く音が聞こえ、目的の【ヘファイストス・ファミリア】の新人製作者の作品階層に辿り着く。
その階に広がるのは剥き出しの石レンガ造りのフロア。先程の明るい階層よりかは、若干薄暗い。しかし、冒険者だろうか、下の階層より活発な人の声が響いている。
◆◇◆◇◆
「え…うそ」
「や、やすい…」
「シンドバッド、アリーゼ。こ、これは、大丈夫なのかしら?値段が控えめということもあって、逆に心配になってくるわ」
俺らが眺める先には、【ヘファイストス・ファミリア】の新人の作品が入った木箱。
その木箱の上の値札には【長直剣 各4000ヴァリス】と書かれ、10本ほどの剣が無造作に入っていた。
「アストレア様…おそらく大丈夫ですよ!ネーゼが言うには、自分の新顧客の伝手を増やすためにも安価にしているそうですし、ちゃんと…ほら!剣に製作者の名が銘記されてますし!」
アリーゼが手に取ったのは、短剣。やや小さめでありながらも丁寧に造られている。そして、刀身の一部に新人であろう名が銘記されているが‥‥
結局、俺らは30分以上、数多くの装備の中から納得のいく武器を探していた。
「シンドバッド…一体どれがいいんだろうね。なにかピンと来たりする作品ある?」
「今のところはないかな。それに、こうも多く無造作に置かれていると…見つけ出すのだけでも一苦労だ」
アリーゼから借りれる予算は、30000ヴァリス。全身装備は値段的に厳しいだろう。
それなら、狙いどころの装備は何だ?現在、アリーゼは直剣を装備している。ここで、俺が片手楯を購入し、タンクの役目を担うこともできる。
自分の装備について考えていると、ふと愛しのネーゼ嬢の言葉を思い出す。
(そこは鍛治士の中でも駆け出しだったり、【へファイストス・ファミリア】で鍛治の発展アビリティがない人が創り上げた装備が多いらしいの。主神の名を刻めない製作者達が創り上げた装備が此処に売り出されてるということを聞くわ…)
――――ピッピッピッピッピ
ん?今、すぐ近くで1羽の鳥のような光る何かが。通り過ぎたような。
こんな薄暗い建物内で、光る鳥なんて…錯覚か?
光る小鳥?をもう一度探すためにあたりを見渡すと……いた!
誘われてか、導かれてなのか、光る小鳥はどんどん奥に進んでいく。俺もそれを追いかけて、床に無造作に置かれている木箱を避けながら奥に進んでいく。
そして、ようやく光る小鳥は一つの木箱の所に止まり、俺も追いつくことができた。
「ようやく追いついた!これは‥やっぱり、光輝く小鳥か?それにしては小さすぎるような…
おーい!アリーゼ!あの戸棚の最上段に陳列されている木箱の側に、光る何かがいないか?」
入口手前側で、装備を探していたアリーゼを呼ぶ。
そして、アリーゼは木箱を避けながら、こちらに向かってきた。
「はぁ?シンドバッド、あんた何言ってるの?なにもいないわよ。そ!れ!よ!り!も!ちゃ~んと真剣に装備を選んでくれないかしら!」
「ちゃんと探してるって!ほら!あそこ見てみろよ!
あ、あれ?いなくなってる…」
アリーゼに遅れて、アストレア様もこっちにきた。
「アリーゼ、シンドバッドどうしたのかしら?ピンとくる装備でも見つかった?」
「アストレア様もこいつに注意してください!こいつ、いきなり『光る何かが』とかよくわからないこと言ってて、自分の装備を碌に探しもしてなかったんですよ!」
アリーゼがアストレア様に文句を言っている間に、俺は光る小鳥が止まった最上段に陳列されている木箱に手を伸ばす。
「ん……?これは、」
手に取った木箱は埃被っていて、中には1本の剣が入っていた。
柄は、青色でシンプルな無駄のないデザイン。刀身は、細身の半曲刃。
重量は比較的軽めで、片手剣として扱うことが可能だ。
「あらシンドバッド、それシャムシールじゃない。別名“湾曲刀”ね。
値段は‥‥27000ヴァリス!これを買ったら、身を護る防具が買えないわね‥」
「アリーゼ、俺これにするよ。名前は『コルブランド』?製作者は‥‥椿・コルブランド。
あ、刀身に【我が最初の剣を汝に託す】って書いてある。…俺もお前に命を託すぜ!よろしくな、相棒!」
「え!身を護る防具はどうするのよ!迷宮で死ぬ気?」
「攻撃は躱すなり、どうにかするさ。それに“ピン”と来たんだ。この剣が俺を呼んでいた。そんな気がする。」
最初アリーゼは難色を示していたが、俺の頑固で真剣な目をみて諦めたようだ。
「わかったわよ。基本、私が盾役をするわ。スキが生まれた時の攻撃は任せたわよ」
アリーゼの承諾も取れたことだし、再度刀身をじっくり見る。
この剣、めちゃくちゃいい装備だ。剣の重心がわかりやすくて、正直者ってイメージを抱く。製作者は余程の正直者か素直な人なんだろうな。
アリーゼと相談した結果、残りの3000ヴァリスで予備用の数本のナイフを購入した。
アリーゼには感謝しかない…必ずこの恩は何倍にしてでも返そう。
◆◇◆◇◆
そして俺らは、【ヘファイストス・ファミリア】の売店を後にし、迷宮の入口前の広場に来ていた。
今日最後の目標である。迷宮探索だ。階層は1階層。危険な行為は一切行わない。自分たちの技術が迷宮にどれくらい通用するのかの小手調べだ。あとは、アリーゼと俺のコンビネーション合わせでもある。
もちろん、女神であるアストレア様はここでお別れだ。
「アリーゼ、シンドバッド。はい、これ」
アストレア様の両手には、銀製で中央に魔石が埋め込まれた腕輪が3つ、魔石を入れる革袋があった。
「……?これ……腕輪ですか?」
「そう、これは主神である私からのプレゼント。お手軽だったし、せっかくの機会だから買ったのよ。みんなでお揃いよ☆」
「えっ?いや、悪いですよそんな…」
「違うのよアリーゼ、これは自己満足、願掛けね。
私は自分の家族であるあなた達が無事に帰ってきてほしいのよ。そんな願いを込めたアクセサリー。」
そういうアストレア様は、どこか寂しげな表情を浮かべていた。
もしかしたら、友人の神とそのファミリアの話でも聞いてしまったのかもしれない。
「それにシンドバッド。あなたには、追加でこれを渡すわ!」
アストレア様は腰に隠したものを取りだす。
「アストレア様、これは籠手ですか?」
「ふふふ、そうよ!盾は値が張っちゃったから、より安価で簡易的な造りだけど籠手。何かあったら、これで少しでも身を護って。」
「ありがとうございます。そして、必ず無事に帰ってきます!一攫千金の財宝でも手に入れて、今夜はみんなで祝勝宴でもしましょう!」
「そうね、シンドバッド!こうなったら、一攫千金なら一攫万金よ!
アストレア様にワイン付きのフルコースを堪能してもらうわよ!」
「ありがとう2人とも、本当に無事に帰ってきてね。」
「「はい!」」
アストレア様の言葉に元気よく返事した後に、周囲からクスリと笑い声が聞こえた。
そりゃ、こんな大広場でこんなことをすれば、笑われもするか。
笑いたいやつは笑わせておけ…俺らは必ず、無事にアストレア様の下に帰ってきて…そして、宴をする。それだけだ。
不完全ではあるが装備も整った。
運命を感じた武器もある。
今から俺たちの冒険が始まる。
そう考えると、自然と胸が高鳴っていた。
「「いこう((いくわよ))!アリーゼ((シンドバッド))!」」