花騎士とレズ団長とセクハラ六人衆   作:イッチー団長

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実はこのSSを書き始めたのは、サントリナちゃんVSハニーの戦いが書きたかったからに他なりません
というわけで、今回は書きたいことを詰め込みまくってます


激突! サントリナVSハニー

「ふっ……ふぅっ!」

 新春庭プロレスの道場にて、サントリナはプッシュアップ───腕立て伏せを行っていた。

 最初に拳で100回、指を立てて100回、この辺りでサントリナの額にじんわりと汗が滲んできた。その後、小指から順に外していき、今では親指のみで行っている。

 汗が床を濡らしても、サントリナの勢いは止まることはなかった。いや、それどころかどんどん激しい動きになっていく。彼女の表情には、どこか鬼気迫るものがあった。

 

「おいおい、試合は明日だぜ? あんまり無茶するなよ」

「カジさん……」

 

 

 

 カジの持ってきたスポーツドリンクに口を付けると、サントリナはホッとため息を吐いた。

「怖いんです、試合が」

「怖い?」

「殴ったり、関節を極めたり、時には目を潰されるかも知れません」

 明日の試合ではナックルが解禁されるが、勿論目潰しは禁止だ。他にも背骨への攻撃など、人体に与える影響が大きい技は基本的に禁止されている。

 だが、場合によっては反則技すら使いかねない怖さが、ハニーにはあった。

 

「やっぱりそうだよな……私も未だに怖い」

「え? カジさんもですか?」

「勿論だ。殴り合いが怖くないはずがない。私も新人もベテランも、勿論社長だって」

 社長とはイノキのことだ。

 

「だが私達プロは、それを観客に見せちゃいけないんだ。だから私は、試合前は精神統一して、なるべく恐怖を消すようにしている」

「そうですか……カジさんも……何だか安心してきました」

 サントリナの顔に微笑みが戻ってくる。その笑みを見て、仏頂面のカジも笑みを返した。

 

「サントリナ、お前はお前でしかない。サントリナという女の精一杯を、観客とハニーに見せつけてやれ」

「はい!」

 

 

 


 一方その頃、リリィウッドの森では。

「……」

 ハニーが胡座を組み、精神統一を行っていた。

 

(明日、サントリナお姉さんとどう闘うのね……)

 ハニーの脳裏に、血塗れになったサントリナが浮かぶ。

 

(ハニーは今まで、命の取り合いしかしたことがないのね。ヤるとなったら徹底的にヤるしかないのね……でも)

 同時にサントリナの優しい笑みが思い浮かぶ。

(……何故闘うのね。もし闘わなければ、ハニーはお姉さんと……)

 そこまで考えて、ハニーは首を横に振った。

 

(余計なことは考えるななのね。これは純粋な闘争、今はそれを甘受することだけを考えればいいのね……!)

 こうして、悶々とした思いを抱えながら、ハニーの夜は過ぎていった。

 

 

 


 翌日、リリィウッド武道館。ここでサントリナVSハニーの試合が行われようとしていた。

 新人がメーンエベンターになるなど異例中の異例だが、サントリナの花騎士としての実績と、バンゼンを倒したハニーだからこそ実現させられたのだった。

 

「……前座の試合が終わったようだ。行くぞ!」

「はい!」

 意気込むサントリナの前に、巨体がヌッと姿を現した。

「よぉサントリナ。調子良さそうじゃねぇか」

「イノキさん!」

 

「勝てよ、サントリナ。反則をしてでも、チャカを使ってでも、最後に立っている奴こそ本物のプロレスラーだ」

「チャカって……」

「ま、それは言葉の綾だがな」

 ハッハッハッと笑うイノキ。そんな彼女の背中を見つめ、サントリナは決意を新たにした。

 

 

 


『長らくお待たせ致しました。これよりメーンエベント、伝説の花騎士サントリナVS羆殺しハニーの試合を行います』

 沸き上がる会場。そして赤コーナーからサントリナが現れる。

 

『青コーナー、ハニー!』

 ハニーはいつも通り、ジトっとした目で会場を見回し、ゆっくりとロープをくぐった。

 対峙し合う二人。まだゴングは鳴っていないのに、異様な重圧感がリングに漂っている。恐らく常人がこの場に居たら、2秒と耐えられないだろう。

 

「お姉さん、よく逃げずに来たのね」

「……何度か逃げようと思いました」

「……」

 

 複雑な思いを乗せながらも、闘いの始まりを告げるゴングが遂に鳴り響いた。

 

 

 

 重心を低くして構える二人。数秒間の牽制の後、

「……だっ!」

 ハニーの中段蹴りがサントリナの腹に突き刺さった。だがサントリナは倒れず、余裕とも言える笑みを浮かべた。

 

(今の攻撃、充分避けられたはずなのね。敢えて攻撃を受けたのね……?)

「流石なのね、お姉さん」

「えへへ」

 

 サントリナは微笑むが、それも束の間、すぐに攻撃に移った。ハイキックがハニーの顔面に直撃する。

「ぐっ……!」

(何て重い……まるで丸太なのね)

 ハニーの視界がぐらりと揺れる。だが何とか踏みとどまった。

 

 攻撃を受け合う二人に、観客は惜しみ無い拍手を送る。リング際で観戦していたイノキも笑みを浮かべた。

「もう観客を虜にしたか……あの二人、プロレスラーとして天性のものがあるな」

 

 

 

「だぁっ!」

 サントリナの右ストレートをハニーがガード。その後繰り出されたハニーのパンチを、サントリナはフットワークを使って避けた。

 互いに攻めきれない、互角の闘い。一瞬でも油断すれば組伏せられてしまう緊張感が、観客にも伝わるようだった。

 

(立ち技じゃ互角……それなら寝技で勝負するのね?)

 寝技はそう簡単に身に付くものではない。寝技に持ち込めば自分が圧倒的に有利だろうと、ハニーは考えていた。

 

「……そこなのね!」

「っ!?」

 ローキックに来たサントリナの右脚を掴んだ。このまま相手のバランスを崩せば、マットに押し倒せる。しかし、

(た、倒れない……! 何て体幹なのね!)

 

 持ち直したサントリナに、ハニーは背中を見せる体勢となる。こうなると逆にハニーが不利だ。

「うっしゃぁ!」

 サントリナがハニーの右腕と右肩を掴む。ハニーの重心がぐらりと揺れ、勢いよく地面に押し倒された。

「がっ……!」

 

 馬乗りになるサントリナ。ハニーはエビの形になり、何とか逃れようとするが……

「くっ!」

 サントリナに腕を掴まれ、逃れることが出来ない。

 

(体重の掛け方、腕の位置……たった一ヶ月でここまで寝技が上手くなるなんて……!)

 もがくハニーの顔面に、サントリナの拳が振り下ろされる。所謂パウンドだ。

「ぐぁっ!」

 

 その後しばらく、グラウンドでの攻防が繰り広げられた。体重が上のサントリナにのしかかられ、ハニーは中々脱出することが出来ない。何度かパウンドを浴び、顔面は血塗れになってしまう。

 そして再びのパウンド。その瞬間、ハニーは身体を捻り、何とかロープに手を掛けた。

『ロープブレイク!』

 

「はぁ……はぁ……」

 立った状態での再開となる。息を切らしたハニーに対し、サントリナはまだ余裕がありそうだ。

 

(お姉さん……尊敬するのね)

 ここまでの立ち合いで、サントリナの努力が手に取るように分かった。生半可な鍛え方ではない。自分を極限まで追い込まなければ、ここまで強くなることは不可能だ。

 

 ハニーは不思議な気持ちを感じていた。この闘いは、これまで獣達としてきた、命の取り合いとは全く違う。一つ拳を重ねる毎に、サントリナの思いが伝わってくる。ハニーの思いが伝わっていく。

 

「……ここまでハニーと対等に戦えた生物は初めてなのね」

「ありがとうございます」

「だからこそ……ハニーは全力であなたを倒す!」

 

 

 

 ハニーは構えを解いた。そして腹筋に力を入れる。

「呼ォォォ……」

 深い呼吸により、ハニーの肺が大きく膨らんでいく。

(一体何をするつもりです……?)

 

「……だっ!」

「っ!?」

 呼吸を止めたハニーは、一気に距離を詰めてきた。ハニーの拳が、マシンガンのような速さでサントリナを襲う。

 

(は、速い! それに……重い!)

 パンチ一つ一つがまるで鉄球のようだった。ガードするサントリナの腕が血で染まっていく。

 

 生物の身体というものは、息を吐いている時の方が力を上手く伝えられる。ハニーの攻撃は、その呼吸法を利用したものだった。

(それでも……必ず攻撃が止まるはず)

 そう。それは裏返せば、息を吸っている瞬間は隙になるということだ。サントリナは攻撃を防ぎながら、攻撃の隙間を伺っていた。

 

「……ぐっ!」

(や、休まない……!)

 

「なるほど……あの小さな身体に秘密があるわけか」

 イノキがぽつりと呟く。

「人間の身体っていうのは、デカくなる程心臓への負担が大きくなる。ヘビー級の格闘家が試合終盤にスタミナ切れを起こしやすいのはそのためだ」

 

「それがあの嬢ちゃんは130cmそこそこ、加えてあの常人離れした肺活量だ。息が切れるはずがない」

 言うなれば、軽自動車に大型トラックのエンジンを積んでいるようなものだ。約5分、息を吐きながら運動を続けることが出来る。

 

「ぐっ……ぐぁ!」

 サントリナのガードが徐々に下がっていく。そして、

「ふんっ!」

 ハニーの拳が、サントリナの鳩尾に叩き込まれた。声すら出せず、その場に倒れ込むサントリナ。その様子に観客も、審判すらも唖然としてしまった。

 

「レフェリー、カウントなのね」

「……はっ! ワン、ツー」

 

(お姉さん……立つのね……)

 ハニーは心の底からそう思っていた。まだ戦いたい、まだ彼女と拳を合わせたい。まだまだ伝えたいことがある。そんな思いになったのは、これが初めてだった。

 

 

 


(……はっ! 私は……!)

 サントリナの意識が戻った。

「シックス、セブン」

 沸き上がる観客の声、レフェリーのカウント、そして自分の頬に当たるマットの感触。ここで初めて、サントリナは自分がダウンしていることに気付いた。

 

(まだだ……まだ私は彼女と……)

「……ぐっ!」

 カウントがエイトに差し掛かった時、サントリナは何とかよろよろと立ち上がった。

 

「やれるか、サントリナ!?」

「はい! まだやれます!」

 

(痛い……これまで戦ってきた中で、一番痛くて苦しい……)

 あの鉄球のような攻撃を受け、身体は既に傷だらけになっている。息は苦しく、視界はまだ揺れている。それでもサントリナは、再びハニーと相対した。戦うために、自分の全てを彼女に伝えるために。

 

「行くのね……お姉さん!」

「ぐっ……!」

 立ち上がったばかりのサントリナに、容赦のない連打が浴びせられる。ロープ際に追い詰められながらも、何とか堪えるサントリナ。しかし、

「がはっ……!!」

 ハニーの強烈な一撃を腹に受けてしまった。

 

「シックス……セブン……」

「はぁ……はぁ……!」

 身体はバラバラに砕けそうだった。既に骨が何本かイカれている。それでも立ち上がる。

 

(ハニーさん……私は……)

(お姉さん……)

 ハニーはサントリナのことが、何となく分かったような気がした。間違いなく、平和にのうのうと生きてきた人間ではない。花騎士という職業は、皆何かしらを抱えているものだが、サントリナという女はそれが特に強い。強く深い悲しみを背負っているようだ。自分と同じように……。

 

「お姉さん!」

 再びハニーの連打が始まる。

「ぐ……あぁぁ!」

 徐々に、徐々にだが、サントリナがハニーの攻撃に対応し始めた。攻撃を上手く最小限の動きでいなしている。そして遂に、ハニーが息継ぎをした。その隙をサントリナは見逃さない。

 

「だぁぁぁ!」

 サントリナのカウンターパンチがハニーの顎を強襲。ベキッと音を立て、ハニーは身体を仰け反らせながらマットに倒れ込んだ。

「つ、遂にダウンを取ったぁ!」

 会場が熱狂に包まれる中、レフェリーのカウントが始まる。

 

 

 


(……真っ暗なのね……どこなのね、ここは……)

 

『ば、化け物……!』

「違う……ハニーは化け物なんかじゃ……」

『近寄らないで! あんたなんて……』

 

(そうか……これはハニーの記憶なのね……忘れようとしても忘れられない、忌まわしい記憶……)

 

『あんたなんて生まれてこなければ良かったのに!』

(お母さん……どうしてハニーを捨てたのね……)

 

『ハニーさん!』

「お姉……さん!?」

 

 

 


「……はっ!」

 割れんばかりの歓声が聞こえる。顎が痛い。恐らく、骨が砕けている。頭の後ろには固い畳のような感触がある。

(し、しまった! ハニー、ダウンしてたのね! カウントは……)

「セブン……エイ……」

「ま、待つのね! まだやれるのね!」

 

 ハニーはロープにつかまりながら、何とか身体を起こした。しかし目の焦点が定まっていない。

「君、もう無理だ! 棄権しなさい!」

「無理じゃないのね! ハニーはまだ……まだ……!」

 

「ハニーさん……」

 鬼気迫る様子のハニーを見つめ、サントリナは拳をギュッと握った。

 

(言葉では伝えられないことがある。だからこそ、私はハニーさんと戦いたいと思った……)

 そして分かった。ハニーがいつも何かに飢え、何かに哀しんでいるのを。その小さな身体に貼り付いた孤独を。

 

(あなたの哀しみを癒すことは出来ない。だから戦いましょう。誰のためでもなく、あなた自身のために)

 

 

 

「ハニーさん! 私はここです! 分かりますか!」

「ふぅ……ふぅ……」

 息を整え、サントリナの方にゆっくりと視線を合わせるハニー。そのくりくりとした大きな瞳にサントリナが映し出される。

 

「まだ……やれますよね?」

「当然……なのね……」

 

 サントリナはあばらの骨が折れている。ハニーの顎は砕けている。双方とも、体中は傷だらけで、顔はパンパンに腫れ上がっている。

(それが何なのね……)

(このくらい、お互いの胸の傷に比べたら些細なものです)

 

「決着を付けましょう、ハニーさん」「決着を付けるのね、お姉さん」

 二人の拳は、再び交わっていく。




次回、遂に決着……!

ここまで読んで頂き、ありがとうございました
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