花騎士とレズ団長とセクハラ六人衆   作:イッチー団長

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遂にサントリナVSハニー決着……!


『ありがとう』と言えるように

 荘厳。その表現が正しいのかは分からない。だが観客達は、リングの上の様子に美しさを感じていた。殴り合う二人の少女の姿に。

 

「はぁ……はぁ……だぁぁぁ!」

「ぐっ……あぁぁ!」

 互いの拳が互いの顔面を抉っていく。何度も、何度も。最早観客達は何も言葉を発せられなくなった。言葉など、この二人の戦いには邪魔でしかなかった。それは最も原始的で、最も純粋な行為なのだから。

 血が噴き出す音、骨が軋む音、二人の呼吸音。静まり返った会場には、そんな純粋なものだけが残っていた。

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

「げほ……げほぉ!」

 夥しい量の血が流れ、白かったマットは真っ赤に染められている。いつからか、二人はノーガードの殴り合いを始めていた。ガードなどする余裕が無い。二人とも、もうスタミナは残っていない。精神力だけで戦っていた。

 

「「だりゃぁぁぁ!」」

 拳がクロスして互いの顔面を歪ませる。身体は大きく仰け反るが、二人とも決して倒れることはない。意地と意地の戦いだった。

 

「お姉さん……ハニーは……ハニーは……!」

 ハニーがサントリナの右腕と右肩を掴み、彼女の背面へ回った。そして右手を肩の方へグイっと持ち上げる。肩の関節を極めようとしているのだ。

「ハニーは負けないのね!」

 だが、

「がっ……!?」

 サントリナの頭突きがハニーの鼻をへし折った。

 

「ご……おぉ……!」

 激痛にのたうち回るハニーへ、サントリナが追撃に出る。マウントを取ろうとしたのだ。しかし、

「くっ……!」

 サントリナの首と肩は、ハニーの両脚に挟まれていた。

 

「さ、三角絞め……!?」

「掛かったのね!」

 ギリギリと音を立てて締め上げられていくサントリナの首。

 

「ぐ……あぁ……!」

 完全に極まった関節技から抜け出すことなど不可能。しかしサントリナは何とかもがいた。

「わ、私も……」

 サントリナが脚に力を込める。するとハニーの身体がマットから浮き上がった。

 

「私も負けられません!」

「がぁぁ!」

 ハニーの身体はマットの上にガンガンと叩き付けられた。その痛みで、ハニーはサントリナの拘束を解いてしまった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 お互いどれだけ攻めても崩れない。関節も打撃も決定打にならない。ジリ貧状態だ。

「お姉さん……いい加減倒れるのね……」

「ハニーさん……こそ……」

 二人の口角がニッと持ち上がる。こんな状況で笑っているのだ。恨みも憎しみもない、単純な闘争。どこか爽やかな気持ちすら感じていた。

 

(本当は……ずっとこうしていたいのね……)

(でも……いつか終わる時が来る……)

 

 

 

 ハニーは思案していた。この状況を打破するには、まず首への絞め技は必要不可欠。そのためにはグラウンドでの攻防に持ち込むしかない。

(タックル……なのね!)

 ハニーは敢えてパンチの構えを見せる。フェイントで軸足を取り、マットへ押し倒すためだ。

 

(行くのね、お姉さん!)

「だぁっ!」

 全身全霊を掛けたタックル。だがサントリナはそれを読んでいた。ハニーの首を、上からがっちりとホールドする。

 

(し、しまっ! でもこの状態ではお姉さんにも決定打がないはず……どうするつもりなのね、お姉さん!?)

 

 刹那、静まり返っていた会場が騒然となった。ハニーの脚がマットから浮いたのだ。

「ま、まさか……」

「ブレンバスター!?」

 

 それは所謂『ショープロレス』を代表する技だった。相手の協力が無ければ成り立たない技だと思われていた。それが真剣勝負の場で繰り出されようとしていたのだ。驚かないはずがない。プロレスの第一人者、イノキただ一人を除いて。

「そうだ……これこそがプロレスだ! 決めてやれ、サントリナ!」

「ダッシャァァァ!」

 

(これが……ブレンバスター……)

 ハニーの視界は逆さまになり、やがて地面が迫ってくるのが見えた。

(見事……なのね……)

 どこか清々しさを感じながら、ハニーの意識は遠くなっていくのだった。

 

 

 


 数日後。

「あいたた……」

 街行く人々の視線は、包帯をぐるぐるに巻いた少女に釘付けになっていた。彼女が花騎士のサントリナだと、一体誰が想像しようか。

 

 サントリナはリリィウッド中心街にある大きな病院の前で足を止めた。

「ここにハニーさんが……」

 

 見舞いで何を話そうか、サントリナは全く考えていなかった。伝えたいことは試合で全て伝えた……と思っている。今更、二人の間に何の言葉が必要なのだろうか。そんなことを悶々と考えながらも、サントリナは病室の扉を開いた。

 

「……ハニーさん」

 白いカーテンが揺れていた。窓の外には、青々とした樹木が顔を覗かせている。その木漏れ日に照らされて、包帯を巻いたハニーの姿があった。首に着けたコルセットが痛々しい。

 

「お姉さん……来たのね……」

 ハニーは首を動かせないのか、上半身ごとサントリナの方を向いた。サントリナが何を言おうか迷っていると……

「ぷっ……何なのね、その顔は」

 ハニーの傷だらけの顔が子供のように笑った。

 

「折角の美人さんが台無しなのね」

「ハニーさんこそ、傷だらけじゃないですか。ふふっ……」

 釣られてサントリナも笑う。

「ハニーさんも、そんな風に子供っぽく笑うんですね」

「……初めてなのね、こんなに笑ったのは」

 

 ハニーは窓の外を眺める。

「この前は負けたのね……完敗だったのね……それでも全然悔しくなかった。不思議なのね」

「私はこの前の試合、楽しかったです。ハニーさんも同じなら、嬉しいです」

「楽しい? ……うん、楽しかったのね」

 ハニーが噛み締めるように言った。

 

「は、ハニーは……」

 ハニーの声が震え始める。

「ハニーは子供の頃、皆から『化け物』って呼ばれて、疎まれて……それでお母さんに、森に捨てられたのね」

 サントリナはハニーの言葉に優しく耳を傾ける。

 

「誰もハニーと対等に接してくれなかったのね。だからずっと寂しくて……」

 ハニーの頬に涙が伝う。その涙を、サントリナの白い指がそっと掬った。

 

「花騎士のお姉さん達に酷いことをしたのね。サントリナお姉さんにも……ハニーは許されないことをしたのね」

「そんなことありませんよ。反省する気持ちがあるなら、まだやり直せます」

「お姉さん……」

 

 

 

「ハニーさん、私と友達になってくれませんか」

 サントリナが小指を突き出す。ハニーは困惑しながらも、

「……うん!」

 小指と小指を重ね合ったのだった。

 

「お姉さん、ハニーと戦ってくれてありがとう、なのね」

 

 

 


 同時刻、ウィンターローズにて。

「やっと出番ですか……」

「団長さん?」

「いえ、何でもありません」

 騎士団長アクアと、花騎士のソヨゴがウィンターローズ中心街に繰り出していた。

 

「それにしても、あれからセクハラ六人衆さんは大人しいですね」

「嵐の前の静けさみたいで不気味ですけどね……」

 

 その二人の会話を、物陰から聞いている者がいた。

「うふふ……アクア見~つけた♡」

 紫色の長い髪と豊満なバストが揺れる。セクハラ六人衆の一人、ムラサキが口紅の付いた唇を不敵に吊り上げた。

 

「今日は彼女達への対策を話し合うんですよ。他国家の騎士団も来てくれるらしいです」

「うぅ……緊張しちゃいます……」

「あはは、心配いりませんよ。相変わらず可愛いですねぇ、ソヨゴちゃんは」

 アクアはそう言うと、ソヨゴの華奢な肩を掴み、彼女の身体を自分の方へ引き寄せた。

 

「ひゃぁっ!?」

 顔を真っ赤にするソヨゴ。アクアはそんなことお構い無しとばかりに、ソヨゴをギュッと抱き締める。

 

(あらあら、おアツいのね……こんなの見せつけられたら、邪魔したくなっちゃうじゃない♡)

 ムラサキが二人に忍び寄る。だが、

(へぇ……)

 アクアの鋭い眼光が夜の闇の中に光っていた。その光は真っ直ぐムラサキだけを見つめている。

 

「常に臨戦態勢か……流石ね、アクア。それじゃあ、楽しませて貰おうかしら!」

 ムラサキがアクアに襲い掛かろうとする。しかし、

「がはぁっ!」

 吹き飛ばされたのはムラサキの方だった。

 

 立ち上がるムラサキ。その口の端からは赤い血が流れている。

「そう言えば忘れていたわ……」

 彼女が見つめる先には、花騎士のバニラが立っていた。

 

「あたしが相手になります」

「うふ♡ そんなに私に可愛がって貰いたいのね、お嬢ちゃん♡」

 対峙する二人。二人の間の空間が歪み始める。

 

(バニラちゃん……頼みましたよ)

 新たな戦いの火蓋が、今切られようとしていた。




アクアが久しぶりに出てきましたが、話の主役はバニラちゃんに移行するという不遇っぷり……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました
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